乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-1 雷音と龍獅鳳は双子みたいにそっくり
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第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター
ナイアの行方は、依然として掴めなかった。
雷音たちは手分けして捜索を続けていたが、街の雑踏に紛れたその気配は、まるで煙のように消えていた。
そんな折、雷音はふいに声をかけられる。
「そこのあなた。――私と、お茶しませんか?」
立ち止まった雷音の目に映ったのは、背に黒い翼を携えた、紫の衣を纏う妖艶な女性だった。
「……誰ですか?」
警戒を隠さずに問いかけると、女は微笑みながら答えた。
「私はエメ。神子リーン様からこの街の統治を任されている、領主よ」
その顔――その姿――
まるでナイアの鏡写しだった。
(ナイア……!?)
喉元まで名前が出かけるも、雷音は必死にこらえる。
やがてエメは、ナイアと自分の因縁を語り始めた。かつて紫の魔法少女の力をナイアに奪われたこと、姿も模倣されたこと――彼女は、ナイアに仇なす者だった。
(なるほど……それであんなにそっくりなのか)
エメは微笑みながら、雷音を屋敷に招き入れると、紅茶とクッキーを振る舞い、静かに語りかけた。
「あの街は私の大切な土地です。ドアダのようなならず者には、決して好き勝手させません」
彼女は懐から一枚の紙を取り出した。
「これ、雷音君に見てもらいたくて」
それは――指名手配書だった。
『青の魔女』
・我が家の家宝を盗んだ青の魔女を捕まえてください。生死は問いません。
依頼主:ミリル・アシュレイ
そして、添えられた似顔絵には――どう見ても、絵里洲の顔が描かれていた。
「お、おわぁああ!?絵里洲〜〜!?ちょ、生死は問いませんって……オイオイ、ミリルぅ!?……あ、あ〜そうか!」
雷音は手配書を握りしめながら叫んだ。
「ミリルのヤツ、絵里洲の姿がナイアと勘違いしてるんだ……! エメさん、この手配書、撤回してもらえません!?」
エメは困ったように笑いながら肩をすくめる。
「ええ、まあいいわ。似顔絵なんてナイア相手じゃ意味がないしね。手配書は取り下げましょう」
そして、ふと思い出したように続けた。
「それよりね。絵里洲って子を探してる人が、もう二人いるの。名前はたしか……狗鬼漢児と、龍獅鳳?」
「狗鬼漢児と……獅鳳……?」
雷音の脳裏に、神羅の言葉が浮かぶ。地球で世話になった“あの人たち”かもしれない――。
「その二人、今どこに……」
雷音が聞き終えるより早く、背後から――
「おう、お前が妹を探してるってやつか?」
肩を軽く叩かれ、振り向いた雷音は絶叫した。
「ぎゃあああああああッ!!?」
同時に叫ぶもう一人。
「ど、ドッペルゲンガー!!?」
そこには、サングラスをかけた長身の男と――雷音と瓜二つの少年が立っていた。
雷音と獅鳳は、顔を見合わせた。
「手を挙げて!」
狗鬼の掛け声で雷音が右手を上げ、獅鳳が左手を上げる。
「反対あげて!」
今度は逆にする。二人とも両手を挙げたポーズになる。
「片方下げて、入れ替えて……あ、それワンツー! ワンツー!」
リズムに乗って、同じ顔の二人が鏡合わせのように踊る。
「「なんだ鏡か」」
ピタリと動きを止め、同時に同じ台詞が飛び出した。
「うおお、息ぴったりじゃねぇか! お前ら、双子だったりする?」
「「いやいや、ちげーよ!」」
またしてもぴったり重なる否定。
服装と髪型を除けば、どこから見ても同じ顔――見分けがつかないほどだ。
獅鳳が照れくさそうに頭をかいた。
「ユキルちゃんから聞いてたけど、ホントに俺と同じ顔なんだな。あ、俺、龍獅鳳っていいます。翠の勇者……らしいです」
「おっと紹介が遅れたな。俺は狗鬼漢児、蒼の勇者ってことになってる!」
「俺は乂雷音、赤の勇者だ!よろしくな!……ていうか、ユキルって神羅のことだよな?知ってんの?」
「知ってるも何も、ユキルちゃんはオレのビジネスパートナーだ!!お前らと違って“大人の付き合い”してんだぞ!」
そう言いながら漢児はスマホを取り出し、満面の笑みで動画と画像を見せてくる。
映っていたのは――特撮ヒーロー・アーレスタロスとして、狗鬼漢児が悪の秘密結社ドアダと戦う姿。
「うおー!!なにこれ!?なにこれ!?なにこれーーッ!?超カッケーッ!!!これ兄ちゃんなの!?スッゲーイカす!!」
目を輝かせて動画を食い入るように見る雷音。
確かに彼も勇者として戦っているが、演出や構成、魅せ方において練り込まれた“特撮番組”のクオリティは、やはり別格だった。
――この動画、編集したのは神羅。
弟・雷音が好きそうな要素を詰め込んで仕上げたものだ。
当然、雷音は一発で狗鬼漢児のファンになった。
「俺も、こうなりたいって……マジで思った……」
興奮しながらスマホを覗き込み続ける雷音。所詮11歳の少年、心を奪われるのに時間はかからない。
それを見てエメが感心したように頷く。
「ふふっ、面白い映像ね。それ、あなたが撮ったの?それともその機械で?」
エメに訊かれ、漢児は得意げに胸を張った。
「これは“スマホ”ってやつだ。地球で手に入れた高性能道具さ。型落ちだけど、撮影用には上等なもんだぜ!」
「……なるほど。確かに興味深いわね」
秘書のアヤシキも、食い入るように画面を覗き込む。
「あのぉ……この仮面の人って、あなたですよね?『対決!タコデビル!』ってやつ……」
「おお、それは神羅ちゃん特製の編集版だ!」
そんな彼らのやりとりを見守っていた獅鳳が、ふと神妙な表情で口を開いた。
「……あの、ユキルちゃんは今、ご無事なんですか?」
「もちろん。無事だよ。まあ、説明するより実際に会ってもらったほうが早いかな」
もうすっかり漢児に懐いた雷音が、はしゃぎながら言う。
「アニキの仲間たち、全部見せてくれよ!」
「……ふふ。なら、私の屋敷を使ってちょうだい」
エメが微笑みながらそう言うと、アヤシキが一礼し、すぐに招集の準備に取りかかった。
(――第一段階完了。さて、あとはどうやって全員集めるか……)
──
それから一時間後。
エメの屋敷には、多くの仲間たちが集まっていた。
神羅、雷音の妹・雷華。
神羅の婚約者・オームと姉のエドナ。
アシュレイ族の姫・ミリルと護衛の鵺、白水晶。
館の主エメと秘書アヤシキ。
そして雷音・狗鬼漢児・龍獅鳳の三勇者。
エメが場を整え、丁寧に頭を下げた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。どうぞ、お座りください。私がこの館の主、エメです」
簡単な自己紹介が済み、部屋の空気が引き締まる。
「では――作戦会議を始めましょう」
漢児の一声で、アヤシキが魔法パネルを起動した。
映し出されたのは、氷雪に閉ざされた山脈の映像。
「この山は“狂気山脈”と呼ばれ、地球の南極と繋がるゲートがあるという噂があります。
リーン・アシュレイ様の情報によれば、皆様がお探しの絵里洲様は、この山脈の地下洞窟に囚われているとのことです」
「ただし――この洞窟、普通の人間では入れません」
エメが言葉を継いだ。
「勇者、魔法少女、神、もしくは神に準ずる力を持つ者のみが進入可能。
それ以外の者は、山に巣くう魔物たちの餌になるだけ……。
だからこそ、ここに集まった皆様の中から、選抜する必要があります」
神羅が言った。
「じゃあ、全員で救出に向かえばいいんじゃ……?」
だがエドナがぴしゃりと遮る。
「アカンで、神羅ちゃん。ナイアはあんたを誘き寄せるために絵里洲ちゃんを連れ去ったんや。敵の策略に乗るなんて自殺行為や」
ミリルも続けた。
「そうなのだ。しかも今、乂家とアシュレイ家の同盟は非常に危うい状態にあるのだ。最低でも神羅、雷音、雷華の誰かはアシュレイ領に滞在しないとまずいのだ!」
「なんでや?説明頼むわ」
雷華が問いかける。
「偽羅刹のテロを兄リーンが止めてくれたけど、アシュレイ家は一枚岩じゃないのだ。反対派は同盟を解消したがってる。
今回の騒動で過激派が勢いづいていて、このままでは内乱も起こりかねないのだ!」
「……つまり、私がここに残って、友好の意思を王に示す必要があるということだね?」
神羅が納得し、雷華が頷いた。
「じゃあ、神羅姉様はアシュレイ領に残ってもらおう!戦力的には、私と雷音がいれば十分だ!」
その時、白水晶が静かに告げる。
「注意喚起……マスターより伝言。ミリル姫は、今回の作戦には参加不可です」
「ええっ!?なんでなのだっ!?」
「そんなの、危ないからに決まってるだろ……。いい子で留守番しとけ」
雷音がやや困ったように微笑む。
「うー……」
口を尖らせるミリルをよそに、オームとエドナが立ち上がった。
「ウチらも参加させてもらうで!勇魔共鳴、まだまだ現役や!」
「そもそも、絵里洲ちゃんがこの世界に来てしもたのは、ウチらの責任や。だから……」
二人は漢児と獅鳳の前で深く頭を下げた。
「不手際、誠に申し訳ない。この身をもって償います!」
だが、漢児はその二人に、やさしく声をかけた。
「顔を上げろよ。過去のことより、今が大事だ。あんたらが妹に良くしてくれたことも聞いてる。
だったら、もう仲間として一緒に戦おうぜ。な、ユキルちゃん。雷音」
「おう、当然だ!俺たち、勇者の力ってやつを、見せてやろうぜ!」
雷音の言葉に、全員がうなずいた。
鵺が立ち上がり、役割を宣言する。
「私と白水晶は、ユキルとミリルの護衛と作戦支援を行う。必要があれば、逐一報告も入れるわ」
「助かるわ、鵺」
こうして、選ばれし六人の救出部隊が編成された。
狗鬼漢児
龍獅鳳
乂雷音
雷華
オーム
エドナ
「よし、まずは準備だ!それぞれの武器と防寒具を手配しよう!」
「武器屋アマゾネスに相談しなきゃ!」
「テント!食料!地図も忘れずに!」
「俺とアニキは登山経験あるけど、他のメンバーは平気か?」
「ウチら阿烈師匠に山も海も地獄も鍛えられたから、大体の冒険はへっちゃらや!ただ今回は未知の場所やから、準備は抜かりなくな!」
熱気を帯びたまま、勇者と仲間たちは一晩かけて作戦の最終準備を整えた――
目的はただ一つ。
絵里洲を救い出すため、狂気山脈へと向かうことだった――!
https://www.facebook.com/reel/951230193540900/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
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