乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-5 そして姿を現す嫉妬の魔王
背後から物音がした。思わず振り返る。
──そこに立っていたのは、つい先ほど私たちが叩きのめしたはずの“老人”だった。
ズタ袋のように殴りつけ、地に伏させたはずだ。骨も砕き、肉も裂けていたはずだ。
……だというのに。
「にこぉ……」
その男ルキフグスは、何一つ傷を負っていない。
むしろ嬉しそうに、満面の笑みをこちらに向けている。
ぞくり、と背筋を何かが這い上がった。
もう遅い。
ルキフグスがそっと片手を上げると、その合図だけで──
黒装束の神官たちが、戦闘用ロボットを伴って退路を塞いでいた。
つまり完全に追い詰められてしまったというわけである…………もはや逃げ場はないということです!!
「ささ、ラ・ピュセル、それでは早速参りましょうか?」
だが、そんなルキフグスとルシルの間に雷音が立ち塞がる。
「おいアキンド!まだ眠りこけてる絵里洲を早く起こしてくれ!あいつの回復、魔法ならルシルの呪いを解くことができる!神羅と雷華は俺と一緒に雑魚退治だ!ルシルの呪いが解けるまで、俺たちで、あいつらをやっつけるぞ!!」
それを聞いた仲間たちはすぐに行動を開始する。
「はい!」
「わかったわ」
「了解した」
3人はそれぞれ返事をすると同時に駆け出した。
「うぉらー!絵里洲お前いつまで寝てんだ!?さっさと起きろ!!てゆうかお願い起きて!今大ピンチなの!お前の解呪の魔法がいるの!!」
アキンドがガクガクと絵里洲の肩を揺さぶるが絵里洲はいびきをかいて爆睡し、なかなか起きない!
(こうなったら実力行使しかねえ!……)
そう考えたアキンドは意を決して思いっきり絵里洲の頭に拳骨を落としたのである!
ゴチーンッという鈍い音が響き渡り、その瞬間に絵里洲の頭が激しく揺れ動いたことでようやく目を覚ますことに成功したようだ。
「痛ってぇぇぇええええっ!!何すんのよコラァッ!?」
目を覚ました途端にいきなり怒鳴り散らしてくる絵里洲に対し、アキンドは悪びれもせずに答える。
「いつまでも寝てるお前がいけないんでしょうが!いいからさっさと起きてルシルの呪いを解くんだ!!」
「え!?わ、わかったわ!!」
目を覚ましたる絵里洲はアキンドに促され解呪の魔法を唱える。
ルシルの銀の腕輪がはずれ、彼女の本来の力が取り戻る。
そんな二人のやり取りをよそにルキフグスは余裕の笑みを浮かべながらこう告げたのだった。
「……さあ始めましょう? あぁでも、困ったなぁ。乂家の子供たちを殺してしまったら、乂阿烈を敵に回してしまう……そうだ!!」
その瞬間、彼の笑みが裂ける。
「殺した後、悪魔を憑依させて、操り人形にしてしまえばいいじゃないですかぁあああっ!! そうすれば……誰も悲しまなくてすむんですよッ!? ねッ!? ねッ!? ほらッ!! これって、慈悲だと思いませんかああッ!?」
「ふざけないで!!」
ルシルが怒声を放つ。
「おお……! おおお!! ルシファー様のなんと尊き友情ッ!! このルキフグス、感涙ッ!! よろしいでしょう!! お友達に憑かせる悪魔はッ!“そっくり”に振る舞うよう厳命いたしますからァアア!!」
そして彼は狂った聖者のように両腕を広げ、笑いながら叫ぶ。
「さあ、ルシファー様の御学友たち!! 今から脳みそを取り替えますからッ!! 頭蓋骨を開いて! 脳みそを差し出してぇえええッ!! 早くッ!! 早くしなさい〜〜!? そんなこともできないのォですぅううかぁあああ〜〜あッ??、失望ですよぉオ〜〜〜〜!!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがキレたような気がした。
そして気づけば私は怒りに任せて叫んでいたのである!
「いい加減にしろおおおお!!!」
怒声が響くと、ルキフグスはうっとりと目を細め、にやりと笑った。
「……やはり、やっぱり、間違いない。仲間のために猛り、剣を抜くその姿……フフ……フフフフ……ああ、ルシファー様……あなたこそ私の、ご主人様だああああああああああ!!!」
「「ひいいい!何?あいつ?狂王以上に頭いっちゃってるんですけど〜〜〜〜!?」」
アキンドと絵里洲は顔面蒼白で身震いしていた。
不敵な笑みを浮かべるルキフグスに向かってルシルは駆け出す。
もう我慢できなかった。
これ以上こいつらに好き勝手されるくらいならいっそこの場で私が殺してやると思ったからだ。
するとルキフグスを守るように周囲にいた黒装束の従者たちが一斉に襲いかかってきたので、私もすかさず応戦することにする。
まず手近にいた一人に斬りかかると、そいつは持っていた槍で防ごうとしたのだが、そのまま槍ごと真っ二つに切り裂かれ消滅してしまった。
神官達は人間では無いようだ。
霊体の下級悪魔が人型の衣服に取り憑いているような存在のようだ。
敵をもう一体を斬ろうとしたところ突然横から戦闘用ロボットが現れて私に剣を振り下ろしてくる。
間一髪で避けたものの頬に鋭い痛みが走るのを感じた。
どうやら少し斬られたらしいが幸い傷は浅いようで出血も少ない。
しかし私はそんなことは関係ないとばかりに次々と攻撃を仕掛け奴らを倒していく。
だが敵の数は一向に減る様子が無い。
(このままじゃ埒があかない……!)
そう思った。
その時共に戦っていた雷華さんが魔法を使うことにしたのである。
まずは敵の位置を確認するために探知魔法で周囲を探り敵の配置を把握すると、すぐさま呪文を唱える!
「《火炎弾》!!」
……その時だった。雷華の《火炎弾》が炸裂し、辺りが炎と煙に包まれた。
視界は奪われたが、それでも私は油断せず身構え続けた。
やがて、煙の向こうから……影が、現れる。
(誰か……? 味方……?)
違う。
あの体格。
あの、歩み。
あの、圧。
……まさか……違う……そんなはずは──
だが、目の前に現れたその顔を見た瞬間、私は凍りついた。
言葉にならない悲鳴が、喉の奥で詰まる。
「……嘘、でしょ……」
それは、かつて──
私の両親を、殺した男だった。
「カッカッカッカッカ! 話にゃ聞いてたが、今代の赤の勇者にラ・ピュセル……どいつもこいつもガキのクセに、笑わせてくれるじゃねェか。だが──オイタがすぎたなァ?」
声が低く唸る。
「お仕置きの時間だぜェ? 覚悟しな、餓鬼ども」
そこにいたのは、六芒星の中でも最強と謳われる──
嫉妬の魔王、スタンピート・レヴァイアタンだった。
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↑イメージリール動画




