乂阿戦記4 第六章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅-1 まさかの大金星!
第6章 強欲の魔王アモンの娘 乂聖羅
※これは達人同士の戦いが、泥と塗料にまみれるまでの壮絶なる──いや、壮絶でもなんでもないバカバトルである。
6月11日 13時45分ごろ 異世界人特区某所・闘技場施設にて──
ドガアアアアン!!!!
ズウウン……!!
という轟音とともに、巨大な大木がなぎ倒される!
続いて大地を揺らすほどの地響きが起こり、土煙が立ち昇る!
その中から飛び出してきたのは二人の男──
ドアーダ魔法学園の最後の武仙級戦力HERO、アーレスタロスと、
アカデミア学園の“王将”教師、織音主水だった!
(くそぉおおおおっ!!!!)
悔しそうに歯噛みするアーレスタロス。
一方、余裕の笑みで歩み寄ってくる織音主水はまるで風の如く軽やかだ。
「フフフ……どうしたぁ? もう終わりなのか、小僧ぅううぅ!!」
そう叫びながら振り下ろされる剣!
ドォン!と地面に深い亀裂が走る!
(くっそぉぉおおおっっ!!!)
心の中で絶叫しながら、必死に回避を続けるアーレスタロス。
だが相手の一撃は重く鋭い。ほんの一瞬でも油断すれば、粉砕されることは明白だった。
彼も全力で立ち向かっている──が、全然歯が立たない。
このままでは、いずれ力尽きる……!
──その時!
ピキーン☆と脳裏に閃くイメージ!
それは、幼い頃に観た特撮ヒーロー番組のワンシーンだった!
(そうだっ!! これだぁっ!!!)
アーレスタロスは叫ぶ!
「超流星アーレスキィィック!!」
目にも止まらぬ速さで放たれたその蹴りが、織音の剣を吹き飛ばす!
「えっ!?」「うそだろ!?」観客たちは言葉を失う。
その中でただ一人、不敵な笑みを浮かべるのは──もちろん、織音主水だ。
「なるほど考えたな。打撃による人体攻撃は禁止だが……手持ちの武器ならOKってわけか。
HEROの必殺技で武器を奪うとは、やるじゃねぇか」
「ま、そういうこと! 手ぶらになったところ悪いが、決めさせてもらうぜ!」
アーレスタロスはマーキング光線剣を構え、一気に切りかかる!
「なめんな! こっちも同じことをするまでだ! 喰らえ! モンちゃんキィーーック!!」
織音主水も剣を蹴り飛ばす!
──必然、両者は無手。
ルール上、勝利にはマーキングアイテムによる得点が必要。
つまり、今この場で一番強いのは──落ちた剣だ。
「よし、拾ったほうが勝ちだな!」
「させるか!」
両者、武器に向かって走り出す!
わずかに先んじるアーレスタロス……だが!
「それっ!」
織音主水の足払い!
「うわっ!?」
アーレスタロス転倒!
「やりぃ! もーらい!」
織音が剣に手を伸ばす!
「セコイぞ主水先生!!」
コケたままのアーレスタロス、足首を引っつかむ!
「おぶぅっ!?」
主水先生、顔面から地面にダイブし、鼻血噴出!
「おいくらHERO! 教師の足首つかんでコケさすって、どんな戦い方してんの!?」
「ウッセー! 先生こそ『モンちゃんキック』って何だよ!? もっとカッコいい技名叫べよ!!」
「先生はもう中二病卒業したの! 技名叫ぶの恥ずかしいの!!」
「はあ!? “魂が腐る”とか言ってなかった!? あれ何だったんだよ!!?」
「ウハハハー♪ 実は先生、この試合勝つとウィウィヴァのじいさんから特別ボーナスがもらえるんだよね〜〜金じゃー!金のためじゃー!!!」
※公立教師のくせにガチで守銭奴である
「オワー! この駄目人間! お前が一番魂腐ってるわーー!!」
観客席に漂う微妙な空気。
──誰かがつぶやいた。
「……これ、闘技場使う必要あった?」
「税金で立てた施設だぞ!?」
「いや誰だよ主水先生を“王将”に選んだの……」
その後も二人はゴロゴロ取っ組み合いながら泥だらけで小競り合いを続ける。
もう完全に小学生のケンカ。
もはや高度な達人戦ではない。
もしくは、非常に品のないプロレスである。
──そして戦いは、意外な形で最終局面を迎える。
その頃、浪花明人ことアキンドは通信機でタット先生と連絡を取っていた。
「もしもしタット先生、そちらの戦況はどうですか? えっ!! 羅漢さん負けちゃったの!? じゃ、じゃあ先生もやられちゃったんすか?……え、違う? うん、うん、ああ、鳳天さんもダメージがデカくて試合を棄権したんだ……じゃあアカデミア学園の残りは主水先生だけか……先生なんかこっちの戦いグダグダになってきたし、例の作戦実行していいっすか?……ええ…ええ……ウッス、わかりました〜」
通信を切るアキンド
彼はアカデミア学園陣営からアポート能力で奪い取ったあるアイテムを装着していた。
そして、タイミングを図りながら、その装備『自爆塗料ダイナマイト巻きつけスーツ君』の自爆のスイッチを入れる。
自爆発動まであと3秒
アーレスタロスと主水先生は取っ組み合いながら、落ちてる剣を拾おうと手を伸ばす。
自爆発動まであと2秒
「えーい離せ!この厨二病ヒーロー!この勝負には俺の特別ボーナスがかかってるんだー!」
「離せと言われて誰が離すか! さっさと俺にやられてしまえ! このチャランポランダメ教師!!」
自爆発動まであと1秒
「……アポート〜〜!」
もうすぐ自爆するアキンドはアーレスタロスごと織音主水を自分のすぐそばにアポートした。
「「え?」」
そして0!
ドッカーーン!!!
赤い塗料が爆発し、三人は真っ赤な泥まみれ。
──そしてそのまま、試合終了のアナウンスが響く。
誰も立っていない。
誰も勝者を名乗らない。
ただ、塗料と泥にまみれた三人が、地べたに転がっているだけだった。
勝敗も、名誉も、尊厳も……どこかへ吹き飛んだ。
──まさに、達人同士の戦いが泥と塗料にまみれるまでの、壮絶でもなんでもないバカバトルであった
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