乂阿戦記4 第五章 聖王に挑むケルビムべロスの虎-5 織音先生の説教
「え?これは一体?」
呆然となる神羅に織音が説明する。
「わりーな嬢ちゃん達、実は俺囮なんだわ。王将の俺を狙ってホイホイ出てきた相手をウチの最強が仕留めていく作戦なんだわwww」
神羅が織音が指差した方角を見ると、野球ボール大の塗料の球を持ち、遠投体勢の構えをとっている鳳天の姿がみえた。
「オラァ!!」
鳳天の投げた豪速球が今度はエドナにブチ当たった。
「な、なんや、今の攻撃!?めちゃくちゃ早すぎてまるで反応でけへん!! そんでもって肉体的ダメージは全くあらへん!? あの鳳天さんなんちゅうパワーと技量を持ってはるんや!!?」
瞬く間に魔法学園サイドの残り、人数は6人になってしまった!
そう、織音の作戦とは単純に自分狙いでやって来た敵を近接で織音が、遠距離射撃で鳳天が返り討ちにしていく作戦だったのだ。
2人の目的に気がついた時には既に遅かったというわけである……。
3人があっという間に倒されてしまったことに焦りを感じたアキンドはついに技を使うことにした。
彼は両手を前に突き出し鳳天の足元にある塗料玉を奪い取ろうとアポートを発動し始めた。
「あ、あれ?アポートできない!?」
焦るアキンド
だったがすぐに原因に気づいたようだ。
どうやらここから見える鳳天は錬丹術の札で作った幻覚映像らしい。
頭の切れる鳳天はアキンドのアポート能力に対する対策も抜かりなかった。
予め自分の分身映像を映し出す札をたくさん作っておいて、それをばらまいて配置しておいたのだ……!
そのことにようやく気づいたアキンドは慌てて隠れようとするがもう遅い!
「オラァ!!」
アキンドに向かって投げ出される赤き玉
「危ない!」
慌ててルシルがアキンドのガードに入る。
アキンドに当たるはずだった玉は見事にルシルの一刀に叩き落される。
だがその玉の影に隠れるように投げられていた玉が刀を振り下ろしたルシルの胸に命中していた。
「しまった……!」
あっけなく攻撃を食らってしまったルシルはそのまま膝をついて倒れてしまう……。
顔は真っ青だ。
ランキング一位鳳天は恐らくルシルの行動を読み切り、二連続の投擲を放っていたのだ。
まんまと鳳天の筋書き通りに敗れたルシルは、自分の不甲斐なさが情け無くて仕方なかった。
HEROランキング一位と二位の実力差になんと隔たりがある事か……
そんなドン底に落ちているルシルの様子を見て、いたたまれなくなった織音は、型落ちのスマホを取り出して鳳天に連絡を入れる。
「あ、あの鳳天君さあ……もう少しこう何というか 手心というか…自信を無くさないよう手加減してあげてもいいんじゃないかな……?……」
と小さな声で連絡を入れていた。
この言葉に対して電話先の鳳天は
「織音先生…」
静かにしかしハッキリと
「痛い目にあわなければ覚えませぬ」
と返している。
つまり鳳天としては無闇に後輩を虐めていたのではなく、相手の為を思って厳しく指導しているという認識だったようだ。
「そんなわけあるかーーいッ!!!」
織音はたまらず大声でツッコミを入れていた。
「ねえ!鳳天君、先生前々から言いたかったんだけどね!君がやってることは優しさじゃないんだよ!?もうちょっと女の子に対して気配り覚えよ? 俺ルシルちゃんが小学部の頃副担任だったんだけどね、彼女フィジカルはチートでもメンタルはかよわい女子だから! その上傷つきやすく、素直過ぎて物事を受け流せないタチだから!!」
怒りに任せてまくし立てる織音に動じることなく冷静に返答をする鳳天であった。
「……いや心配はいらねえ……ルシルは強く賢い。今は落ち込んでも這い上がれという俺の意図を組んで、自らの足で再起する。あの子はいずれ俺にとってかわりヒーローランキング一位になる女……だから大丈夫だ」
「ああああああ!! 何が大丈夫なんだー!! ちっとも伝わってないよコレーーー!! ねえ、他人の目から見ればわかると思い込む癖やめよ? 君が思うほどそういうの全然伝わらないから!! 君、他者からは冷淡で反抗的で無関心って誤解を受けてる人だって自覚持って! 君その性格で何かとトラブルも起こしてるから! 今はなまじ家族や仲間がかなり察しのいい人達ばかりだからいいけど、君その欠点絶対改善した方がいいから!!」
織音はヒートアップしながら鳳天に説教を続けてる。
もうそろそろ血管切れそうな勢いである。
「……なるほど…………あの人ダメ人間に見えてやはり先生として生徒をよく見てるんだな…………ちょっと見直した…………」
神羅達はヒソヒソと織音に対する評価を改め始めていた。
「えーと、でも男の人特有のデリカシーがちょっと足りないかも……織音先生の会話を横で聞いてるルシルちゃんがより一層落ち込んじゃってる……」
そうなのだ。
今現在、鳳天と舌戦を繰り広げる織音を余所に、当の本人はと言うと体育座りをして塞ぎ込んでいる様子だ。
……まあ無理もないだろう。
強敵ホドリコにも勝ち、自信満々だったところにまさか一方的敗北を喫してしまったのだからショックなのは当然だ。
さらに織音先生から自分のメンタルの弱い部分を看破されていて、より一層凹んでいる。
そんな彼女の様子を心配そうに見つめる神羅達であった。
そんな中、今度は別の人物が鳳天と織音の会話に割り込んできた。
「オイ鳳天! 織音センセーの指摘まじドンピシャで当たってっから! お前その性格でイサカちゃんの事泣かせまくった過去マジ懲りてねーのな! マジで女に対しデリカシー覚えろよ! この冷血漢がよぉ!?」
姿を現したのは生徒会長、露木サウロンだった?
彼は眉間にしわを寄せ、珍しく本気の怒りを隠さない様子だった。
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