乂阿戦記4 第五章 聖王に挑むケルビムべロスの虎-3 死んだ魚の目をした教師
さて、場面は戻りここはドアーダ魔法学園試合場
整備が終わり試合が再開される。
試合はいよいよ終盤戦に突入
アカデミア学園の残り選手はわずか2名
王将役の教師織音と鳳天である。
対するドアーダ魔法学園は9名残っている。
神羅、アキンド、オーム、ルシル、エドナ、羅漢、漢児、露木、タットの9名だ。
現在リードしているドアーダ学園だが、まだまだ油断はできない状況だ。
試合前、神羅達は円陣を組み作戦会議をする。
するとここで意外な人物が口を開く……。
その人物とは今まで一言も発さなかった王将役の教師、プロフェッサータットだった。
彼はこの重要な局面でも全く表情を変えることなく淡々と話し出した。
「いいかい君達……よく聞くんだ、今から僕が言うことをよく聞いてほしい……」
「……?なに?」
「うん、どうしたんです急に?」
神羅とオームは訝しげな表情をしながら言った。
「君たちはこの勝負をどう見る?僕はこのまま行けば我々の勝利だと思っている……しかし万が一という事もある……そこでだ、もし僕の予想に反して何らかのアクシデントが起こった場合に備えて、予め手を打っておく必要があると思うんだよ……わかるかい?」
「……つまりあれか?俺達に何か隠し球を用意しておけってことか?」
「そうだ、その通り……でそこでだ明人くん!」
そういってタットはアキンドを手招きして呼び寄せ耳打ちする。
(いいかい君……君の力を見せてもらう時が来たぞ!この戦いにおいて君がどれほどの力を持っているのか見極めさせてもらう)
(ああ任せろ、俺も自分の力がどこまで通じるのか試してみたかったところだしな!存分に見せてやるぜ!?)
「というわけだみんな頼むよ……!」
そう言って再び話し始めるプロフェッサータッドだったがその顔はどこか楽しげでもあった。
きっと皆の試合への熱に当てられたのだろう。
一方その頃────────コロシアムの外では何やら怪しげな動きがあった……。
スタンピートから指示を受けたネッソスが部下達に指示を送る。
「いいか作戦実行は試合が終わった後だ。試合が終わってあいつらが気が緩んだ隙に強襲をかける!いいな?くれぐれもバレないようにしろ!!」
そういうと部下たちは一斉に散っていった。
そんな中、唯一残った一人の道化男が不気味な笑みを浮かべながらつぶやくように言った。
「へっへへへ〜、楽しみだぜぇ……!これから起こる惨劇を思うとポクチンゾクゾクしてくるってもんだぜぇえええ!!お強い姫騎士様をさらって"くっ殺!!!"させるとか最高やん!! いやーん夢が広がるなぁ❤︎ 淫獣と触手をたっくさん用意しなくっちゃ!!!」
ラストエンザの意気込みに馬悪魔ネッソスもウンウンと頷く。
「よしお前ら全員準備は整ったようだな……それじゃあ行くぞ」
そんなネッソスの号令と共に彼らも動き出したのである……!!
そして、試合場
試合開始の合図と同時に駆け出す両陣営。
先手を取ったのはやはりというかなんというか神羅であった。
彼女は一直線に敵大将めがけて突進していく。
その動きはまるで弾丸のように素早く鋭いものであった。
あっという間に間合いを詰めるとそのまま一気に斬りかかるべく剣を振りかぶる。
「もらったぁあああ!!!!」
そう叫びながら渾身の一撃を見舞う彼女であったが、次の瞬間思わぬ光景を目にすることになる。
なんと敵の総大将である織音主水は彼女の剣をスマホの電子ペンで受け止めていたのだ!
「……!?」
驚きのあまり目を見開く彼女に彼は言った。
「あー、ちょっと待って。 いま競馬の予想立て込んでるから……ったくジャムガのアニキも何が銀行レースだよ……その言葉信じて賭けたら大負けこいて先月の給料全部吹っ飛んだじゃねーか……闇金から借りた金で掛け直して昨日の負け分を取り戻す! オラァいくぞおらぁあ!!!」
バキィイ!! そう言いながら織音は神羅の剣を鉛筆で打ち砕いたのだ!
さらにそこから流れるようにスマホ画面の競馬シートにチェックを入れていく。
「そらよっとぉおお!!!!」
シュパァァアアアンンッッ!!!
彼は渾身の気力を注ぎ、スマホの競馬シートにチェックを入れていた。
「え?なにこのダメ人間?何でこんな人が教師なの??」
あまりのことに唖然とする神羅をよそに織音主水は勝利を確信していた。
(勝ったぜ!これで借金返せるわw)
しかし───────
『あーっと、ゴール目前でクソウマライデン転倒!まさかの逆転だああああ!ゴミとなった万馬券が中に舞うううう!!』
ラジオのアナウンサーの声とともに流れる競馬場の惨状を聞き愕然とな主水。
いつかFXで有金溶かして転げ回った絵里洲と同じ顔で悲鳴をあげていた。
「ギャアアアアアアアア!!また負けたあああ!!!俺の1ヶ月分の給料がぁあああああ!!!」
もはや教師の威厳なぞ欠片もない姿であった…………。
神羅は織音のペンで自分の剣を防いだ技量よりも、ギャンブルで身を持ち崩しているダメ人間ぶりに度肝を抜かしていた。
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