乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-9 邪神オード・ジ・ラキシス
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
今話は、狂戦士“乂阿烈”vs邪神ナイアルラトホテップの超次元バトル! 雷音の覚醒、羅漢の変身、兄弟喧嘩の行方は――!?
→ ブックマーク&評価、大歓迎です!
封獣を呼び出したい。だが、雷音も雷華も羅漢との死闘で力を使い果たし、今はガス欠同然だった。
ましてや、仮に召喚できたとしても、この邪神の巨体に抗えるかどうか――それすら定かではなかった。
(俺の未熟のせいで、みんなが……!)
唇をかみしめ、絶望に沈む雷音。その背を、誰かがそっと叩いた。
振り向けば、そこには神羅の姿。
「大丈夫? 無茶しすぎないようにね。それにしても懐かしいな……昔、阿烈お兄ちゃんたちに連れられてさ、三十メートル級のモンスター相手に狩りしてたでしょ? 雷音、雷華――久々に“一狩り”行こっか? 年上抜きのフルパーティーで!」
その明るい一言が、沈んでいた空気を一気に吹き飛ばす。
雷音も雷華も、ぐっと拳を握り直した。
「へへっ、相変わらず無茶言いやがる……でも、それが神羅らしいぜ!」
「うむ、やるぞ神羅姉様!」
三人は再び立ち上がった。
その背後では、すでに白水晶と鵺が作戦を組み始めていた。
「白の勇者として進言。我が機神を招来する。女神ユキルの転生体に封獣解放の許可を求む」
「つまり、白水晶ちゃんが白の封獣を呼んで巨大ロボで戦うってことね? 私も賛成!」
白水晶は静かに頷き、神羅へと向き直った。
そして、何の迷いもなく――その唇に口づけを落とす。
「……!?!?」
場が凍りついた。
剣を構えていた鵺は、あまりの衝撃に手を滑らせる。
神羅は真っ赤な顔で固まり、何も言えずにいる。
唇を離すと同時に、白水晶は詠唱を始めた。
「……封獣の結界を解き放ち、我が元へ現れよ。神鼠の鎧、白神の槍、我と共に在れ――
顕現せよ、機械仕掛けの神《白面神槍ナインテイル》!」
『オォォォォン!!』
空間が砕け、銀世界のように舞い散るガラス片の向こうに、九本の尾と白銀の翼を携えた巨神が降臨する。
ナインテイルは白き槍を高く掲げ、天を裂く咆哮と共に、邪神へ突撃していった。
(す……すげぇ……)
雷音たちは呆然と、その姿を見送った――その直後、神羅の脳内に声が響く。
「ちょ、ちょっと白水晶ちゃん!? いきなりキスってズルいじゃん! 頬っぺたのキスでも機神招来できるのに!」
「……回答。頬への接吻では効果が不十分。敵の強度と戦闘の長期化を予測……結論。唇同士での封印解除が戦闘上もっとも有効」
「そ、そういう意味じゃなあぁ〜〜いっ!」
リンク感応により、神羅の動揺が雷音たちにも伝わっていた。
その最中――邪神は静かに変貌していた。
オード・ジ・ラキシス。その巨体から、無数の卵状の腫瘍が排出される。
それらは地に落ちるや否や孵化し、異形の怪物へと転じていく。
だが、それすらも奴にとっては“餌”にすぎなかった。
無数の触手が伸び、孵化した怪物たちを捕え、ねじり潰し、貪り喰らう。
捕食のたびに、邪神の肉体は脈動し、異様に膨張していく――進化の兆しだ。
「うええ〜〜〜! めちゃくちゃ気色悪いのだ〜〜っ!」
「ミリル! 召喚獣で奴の“食事”を阻止して! 私は回復呪文でサポートする!
雷音と雷華は、魔剣クトゥグァの機神招来の準備を! 一人じゃ制御しきれない、あなたたちの力が必要なの!」
鵺の指揮のもと、即座に作戦が始動した。
ミリルは両手を掲げ、空間に魔方陣を刻む。
「いっくよ〜! メギルシリーズ、全機召喚!!」
空間の裂け目から、五体のメガルヨムルガント、二十体の重火器搭載メガルスケルトンが次々と現れる。
地響きを立てて突撃し、火炎弾と弾幕で孵化を阻止する召喚獣たち。
その合間をぬって、ナインテイルが天を駆け、槍で邪神の巨体を斬り裂いていく。
同時に鵺が、雷音と雷華の背後に立ち、呪文を紡いだ。
「おんぐ だくた りんか……ねぶろっど づぃん、よぐ=そとーす……やーる むてん……」
それは、時間を操る魔法――
二人の“疲労回復の時間”を圧縮し、強制的に活性化させる秘術だった。
「おい、雷華……!」
「うん! 力が戻ってきた……今ならいける!」
「よし、いくぞ!」
二人は立ち上がり、触手を斬り払う。
その間にも、ナインテイルの九尾がビームを放ち、召喚獣が火力の嵐で卵の孵化を阻止していく。
支援に徹する神羅と鵺。戦線を指揮するミリル。そして、全員の力がひとつに束ねられていく。
だがそれでも、邪神はなおも健在だった。
否、凶悪さを増し、空をも蝕もうとしていた。
「きゃああああ!!」
ミリルの悲鳴。
天から降る光の矢がメガル部隊を貫いた――だが倒れない。彼らには痛覚がない。
反撃の矢を放つ邪神の触手を、ナインテイルが槍で切り裂く。
「雷音! もう機神招来できるぞ!」
雷華が、魔剣クトゥグァを手渡す。
雷音はそれを掲げ、叫んだ。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと……いあ! くとぅぐあ!!」
空間が歪む。
魔剣が赤く輝き出し、雷音の身体を飲み込み、炎と共に変貌する――
顕現、機神。
赤き鎧の如き肉体。爪、尾、角、炎の翼。
まるで龍の如く、鳳凰の如く、天に舞うその姿は神話の獣そのものだった。
「いくぞオード・ジ・ラキシス! 封獣クトゥグァの力を、見せてやるッ!!」
『ほほう……小童どもが我に挑むか……!』
邪神の声が空間を震わせる。
「喰らえ! クトゥグァ・バードチェェェェンジ!!」
クトゥグァが高速旋回し、鳳凰形態に変形。
炎の弾幕を浴びせかけ、邪神を翻弄する。
光の矢による反撃も空を切る。その隙に、ナインテイルが跳躍――白き槍を、邪神の胸部へ突き立てた!
黒き触手がのたうち、血のような瘴気が天に舞う。
ナインテイルは槍を突き刺したまま、巨体を持ち上げ、大地へと叩きつけた。
轟音。空が割れ、大地が悲鳴を上げる。
裂けた胸部から露わになったのは――
人間の死体だった。
邪神の“核”――それは、雷音たちをかつて陰から守り続けた、護衛兵ラキシスの成れの果て。
ナイアの術によりゾンビとされ、利用されていたのだ。
雷華は即座にクトゥグァを人型形態に戻す。
「今だ!やれ雷音!今、必殺の……って、あれ?」
雷音の様子が違っていた。
目を赤く充血させ、涙を流していたのだ。
ラキシス。
阿烈に命じられ、姿を消しながらも彼らを守ってきた忠実なる男。
その存在を、雷音だけは忘れていなかった。
「──ラキシス……!」
その姿を見た瞬間、雷音の中で何かが崩れた。
祈るように、目を閉じる。
(すまない……ずっと、見守ってくれてたのに……気づけなかった……)
強く、両手を組む。
震える掌から、血が滲むほどに。
(死んだお前を、こうして斬らなきゃならないなんて……くそっ、なんでだよ……)
頬を伝うのは、怒りでもなく、痛みでもない。
ただただ、純粋な――悲しみだった。
「……ふんぐるい むぐるうなふ……くとぅぐあ……いあ……」
その詠唱に応じ、魔剣クトゥグァが赤く輝く。
炎が刃を包み、焔の竜を思わせる剣が生まれる。
それは、雷音の魂そのもの。祈りと宿命を焼き付けた焔の神罰だった。
「いくぞ……ラキシス……!」
その声には、哀しみと、怒りと、優しさがあった。
「──俺たちの未来を……守るために!!」
炎の剣が天を裂く。雷音の叫びと共に振り下ろされた斬撃は、邪神の核へと届き――
ラキシスの遺体を抱えたままのオード・ジ・ラキシスを、無音の焔で包み、塵と化した。
爆裂する邪神の躯体。
残されたのは、ただの灰。
炎は消え、空は晴れ、静寂が訪れた。
すべてが終わった。
雷音は膝をつき、拳を握り締めていた。
その目にはまだ涙が残っていた。
だが、その背には――新たな決意の光が、確かに宿っていた。
戦いは終わった。
だが、本当の意味での戦いは、これから始まるのだ。
そう――ナイアに化けた姉と、操られた兄・羅漢を止めるために。
感傷に浸る暇などなかった。
雷音たちは、次なる戦場へと、ナイアの後を追った。




