乂阿戦記4 第五章 聖王に挑むケルビムべロスの虎-2 嫉妬の魔王スタンピート・レヴァイアタン
しばらくの間沈黙が続き、最初に口を開いたのはカイトーの方からだった。
「……どうだった連中の会議の様子は?何か収穫はあったか?」と問う彼に対して少し考える素振りを見せた後こう答えるレヴェナ。
「そうね、特に怪しい点は無かったと思うわ。ただ気になることが一つだけあるんだけど聞いてもらえるかしら?」
「ほう、言ってみろよ」
興味津々といった表情で身を乗り出してくるカイトーに苦笑しながら話を続けるレヴェナ。
「まず一つ目なんだけど、どうやら連中のボスであるジキルハイド、あのじいさんは、本当に頭がイカレてるわ。完全に人違いなのに、ルシルちゃんを“伝説の魔王ヴァールシファー”だと信じ込んでる。しかも戦闘ジャンキーのプレラーティに、常時精神崩壊してるラスト・エンザ……。あれ、ここって“狂人養成所”だったかしら? あ、ネッソスはイカれてはいないけど、あまり賢くない小悪党よ。ただ毒使いとしては凄く優秀……でもスタンピートは違う。彼は一見戦争狂のチンピラに見えるけど思慮深いわ。オリジナルの真狂王ジ・エンドと同じで痴れ者の仮面を被りつつ、誰よりも冷静沈着な判断を下すことが出来るタイプよ。正直一番厄介だわ……六芒星を事実上コントロールしているのはあのスタンピートよ!ある意味彼こそが真の第五席よ」
と真剣な表情で語る彼女に思わず苦笑してしまうカイトー。
「なるほどな、確かにその通りだ!アイツは他の奴らと比べて遥かに手強いだろうさ……!だが逆に考えればそれだけ気をつければ付け入る隙もあるってことだ」
そう言って不敵に笑う彼につられて笑みを浮かべるレヴェナ。
「ふふ、それもそうね……ところでカイトー、ドアーダ魔法学園とアカデミア学園の試合はどうなったの?」
「ああ、あれか、また延期になっちまったよ。武仙級同士の戦いが続いてさ。試合場がめちゃくちゃになっちゃったんだよ。整備し終えるまで1日ほど間を開けることになった。アカデミア学園残りのメンツは織音先生、フェニックスヘブン鳳天の2名
ドアーダ魔法学園で残っているメンバーは神羅、アキンド、オーム、ルシル、エドナ、羅漢、漢児、生徒会長の露木、タット先生の9名だ。……ドアーダ学園側が圧倒的に不利だな。織音と鳳天になんとか対抗できるのは乂羅漢くらいだろう……乂羅刹抜きでフェニックスヘブンに対抗するのは難しいなぁ」
「あらあらそれは大変ね……じゃあまだしばらく時間があるということなのね」と他人事のように話すレヴェナだったが次の瞬間その表情が一変する!
カイトーによって押し倒されたからだ!
「きゃっ!?ちょ、カイトー!?今はそんな冗談……って、え、なにこれ、真顔!?」
と悲鳴を上げるもすぐに手で口を塞がれてしまう!
そして耳元で囁かれる言葉……
「ヤベー、レヴェナ!スナイパーに狙われてるぞ? さっきスナイパーポインターがお前の頭に当たっていた。お前がスパイだってこと連中に感づかれたみたいだぜ。お前なら回避できるかもだろーけどさ」
その言葉に驚きながらもコクリと頷く彼女だったが内心はかなり焦っていたのだった……
(そんな馬鹿な……?私がスパイだとバレたっていうの……?一体どこからバレてしまったというの?!……!)
と焦りまくるレヴェナであった。
……その頃、屋上では二人の人物が言葉を交わしていた。一人は赤髪で精悍な顔つきをしたスタンピート。
もう一人は水色の笑い仮面を被った怪人、元九闘龍No.6アルカームだった。
「きひひひひ〜。スタンピードの旦那〜、モタモタしてるから連中に気づかれちまったぜ〜、いつでもあの女ぶっ殺せたのによー、なんで狙撃命令を出さなかった〜?」
狙撃手アルカームが観測手スタンピートに話しかける。
双眼鏡を持ったスタンピードは答える。
「いいんだよあれで、とりあえずカイトーに警告を出すのが目的なんだからよ。俺らの計画の邪魔をされたくないだけだ。攻撃したら、あいつらを本格的に敵に回しちまう。今の段階でそれはちょっとめんどくさい。」
「ところで、ジキルハイド会長がご熱心なルシルってお嬢ちゃん、本当に伝説の魔王ヴァールシファーなのかい?まぁ一度手を合わせしたが、確かに魔王として納得の強さではある……」
「いや、あの子はヴァールシファーの姐さんじゃない。だが、無関係ってわけでもない。何せヴァールシファー姉御が持っていたルシフェルハートとラ・ピュセルを継承したジュエルウィッチだからな……」
「けど銀河連邦のナンバー2ヒーローだぜ?ルキフグス派の大魔王に迎え入れるのは無理があるんじゃないか?」
「ルキフグスのイカレじじいの意図なんか知ったこっちゃねーよ。俺の目的は──魔界宇宙に封じられた、かつての悪魔軍団の復活だ。巨人族の封印が解かれ、巨竜王アングは戦力を拡張しつつある。つまりアザトースら邪神派は、着々とラグナロクに備え始めたってことだ。ならばこっちも、“ベルゼバブに対抗する俺たちの地獄軍”を起こすしかねぇ。 そしてその悪魔を復活させる鍵がルシルが継承したルシフェルハートとルシルが引き継いだ大魔王の血統と言うわけだ……」
「なるほどねぇ〜、でもあの娘がそう簡単に力を貸してくれるのかぁ?それにそもそも俺たちに協力してくれる保証なんてあるのかい?正直言ってあの子は力ずくで従わせるにはちょっと強すぎるぜ〜」
「……協力してもらう必要などないさ。ルシルの身柄をちょいと押さえて、スキャンしてデータを取れればそれでいい。まったくサンジェルマンの技術力さまさまだぜ! ま、世の中結局は俺の意図通りに動くことになるのさ……なんせこの世は俺のオモチャなんだからな」
そう言ってニヤリと笑うスタンピードだった……。
一方その頃──────
カイトーは相変わらず狙撃手からの攻撃を警戒しつつ、敵の位置を探ろうとしていたのだが肝心の相手の居場所が全く掴めないでいた。
(くっそー、さっきから全然居場所がわかんねーじゃねーか!こいつかなりの腕利きだな……)
そう心の中で悪態をつくカイトーであったが、その時ふと自分たちのいる部屋に迫ってくる複数の人間の足音に気づいた。
「レ〜ヴェナちゃ〜ん、どうも俺たちのこと連中にバレちゃったみたいだぜ? ここは退散するか〜?」
「えー、せっかくジキルハイドに取り入って六芒星に上り詰めたのに〜、なんで私たちのことがバレたのかしら……?」
部屋の荷物をまとめ、夜逃げする準備をしながらレヴェナはカイトーに尋ねた。
「多分だが、スタンピートは最初からお前のこと気づいてたんだろうぜ? で、わかった上で泳がしていたってところだろう。だが連中が本格的な作戦行動に移ることになったこの段階、もうスパイを捨て置くわけにはいかなくなったってところだろう……」
「あーらやだ最悪ね……仕方ないわ、一旦退却しましょう」
そう言うと二人は手早く荷物を纏めると部屋から逃げ出したのだった。
そんな彼らを追いかけようと数人の男たちが動き出したその瞬間─────── ボォォォォォン!!!
という轟音と共に強烈な衝撃波と爆煙が追手達を襲い、彼らは一瞬にして戦闘不能に陥ったのだ!
そんな彼らの頭上から声が聞こえた……!
「あーばよ六芒星!」
カイトーとレヴェナはハジキが操縦するヘリに乗り、颯爽とジキルハイド邸から去っていった。
そしてそんな彼らを見送る人影が一つあった……。
それは全身黒ずくめの女であった。
黒いフードを被り、顔は見えないが体格からしておそらく女であろうと思われた。
彼女は懐から取り出した何かを確かめるような仕草をするとその場を後にした。
取り出した何かは紙に包まれたメモリーチップのようで、紙にはメッセージが添え付けてあった。
ただ一言『レヴェナからテバクへ』とだけ───────
黒いフードの女性、レヴェナ・テバクはニコリと笑い、ジキルハイド軍がカイトーに気を取られてる隙に邸宅から逃走する。
その後しばらくの間、ジキルハイド軍のカイトーへの追跡が続いたもののついには見失ってしまったらしい……。
どうやら向こうは深追いして損害を出すよりはと追撃を諦めたようだ……。
こうして一連の騒動はひとまず収束したのである……。
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