乂阿戦記4 第四章 漆黒の魔王クロウ・アシュタロス-13 ヒーロー激突!アーレスタロスvsナイトアーサー
学園のサバイバルフィールドに火花が散る。
銃剣と銃剣がぶつかり、バイク同士が擦れ合い、疾走とともに生まれる殺意とスピード。
「おらぁああッ!!」
「ふっ……!」
怒声と冷笑が交錯する。
互いにバイクに騎乗したまま、銃剣を振るい、跳ね上がるペイント弾の光。
攻防はほぼ互角。いや、まさに伯仲──
だがその均衡が、ついに破られる!
「おりゃあああっ!!」
アーレスタロスがバイクの上から渾身の銃剣を振り下ろす!
――ガキィィインッ!!!
金属が悲鳴を上げ、ナイトアーサーの銃剣が宙を舞った!
「しまった……!」
武器を弾き飛ばされたナイトアーサー。
その刃は回転しながら壁に突き刺さり、鮮やかに震えていた──はずだった。
だがその瞬間、空気が震える音がした。
弾き飛ばされたはずの銃剣が、軌道を描くように旋回し、キィィン……と甲高い金属音を響かせながらナイトアーサーの手元に吸い寄せられる。
まるで“見えない手”が刃を運んでいるかのようだった。
「……なッ!? なぜ!?」
不可解な現象──まるで幽霊が刃を届けたかのように。
さらにその刹那、アーレスタロスの身体に異変が起きる。
背後から──見えざる何かに引っ張られた!
しかも蛇のように絡みつく感覚。振りほどこうとしても、まるで全身を這う鎖のように離れない!
「な……なんだこれは……!?」
混乱の中、突如、耳元に囁く声が響いた。
『ナイトアーサーは、磁力を操る』
「だ、誰だ……!?」
振り向くも、そこには誰もいない。
『口の聞き方がなってないぜ、甥っ子。俺は──お前の叔父貴、狗鬼マルス。先代のアーレスタロスだ』
「……お、叔父貴っ!?」
『前のハクア・プロジェクトの一件で娘が世話になったからな……今回はアドバイザーとして闘いのコーチしてやろうって寸法だ』
「う、ウッス!恐縮です!!」
「なに一人でブツブツ言ってるんすか!?なんか怖いっすよ!」
ナイトアーサーがペイントガンを乱射しながらバイクで突撃してくる。
「うおおおおっ!?」
アーレスタロスは慌ててハンドルを切り、回避。
一気に距離を取ろうとエンジンを吹かした。
「逃がさないっすよ!」
ナイトアーサーが執拗に追いすがる。
その間も、アーレスタロスは内なる声と会話を続けていた。
『いいか漢児。念じれば俺と会話できる。今のお前は俺の神機とシンクロ通信が出来る。つまり、同調した兄弟機同士のテレパシー通信ってやつだ。ナイトアーサーに盗聴される心配はない』
「……すげえ……未来感ぱねぇっす」
『今は感心してる場合じゃねぇ。よく聞け。お前の封獣機の本来の能力は“鉄を操る”能力だ。だがナイトアーサーは“磁力”を操る。つまり……相性は最悪ってわけだ』
「えっ……!」
『奴は磁石化させた金属を自在に操る。さっき見えない力で引き寄せられたのも、お前のスーツが鉄製だったからだ。これから先、奴は決定打の場面でその磁力を使ってくる。だからこそ──お前は、気づいてないフリをしろ』
「……なるほど」
『そして、鉄を操るということは──“鉄を使わない”という選択もあるってことだ』
「それはつまり……」
アーレスタロスの目がギラリと光る。
「……磁力が“引き寄せ”、鉄が“従う”なら……俺は、従わない鉄になるだけだ!」
『ククッ、いいセンスだ。やってみな』
敵意を隠し、焦りも演出。
一瞬の“隙”を装いながら、アーレスタロスは――地面を蹴った!!
バイクごと跳躍!!
「なっ……!?」
ナイトアーサーが驚愕する間に、アーレスタロスは空中で飛び降り、すれ違いざまに跳び蹴りを放った!!
ズドォンッ!!
直撃!!
ナイトアーサーの身体が吹き飛び、壁へと叩きつけられた!
「ぐえっ……!!」
「よっしゃあああ!!」
勝利を確信し、思わずガッツポーズを決めたアーレスタロス。
だが――
(……あれ? なんで……身体が、動かねぇ?)
異変に気づいた時には遅かった。
バイクから降りたはずのアーレスタロスの背後から──放棄された“自分のバイク”が突如として唸りを上げながら突進してきたのだ!!
「なっ……!? 嘘だろ……!?」
――ドガアァァアアンッ!!
磁力によって呼び寄せられたバイクが、壁ごとアーレスタロスを押し潰すように激突!!
「くっ……そ……が……」
身動きが取れず、呻くアーレスタロス。
そこへ、銃口をペイントナイフ付きの拳銃へと変えたナイトアーサーがゆっくりと近づいてくる。
「ふふっ……どうやら、勝ったのは僕っすね」
「くっ……これは一体……?」
「ふふ、秘密です」
ナイトアーサーは人差し指を唇に当て、ウィンクひとつ。
「さようならっす……」
引き金に指をかけた、その時──
「そっちこそ──バイバイっす〜⭐︎」
ナイトアーサーの後頭部に、戯けた口調で銃口が突きつけられた。
「な……!?」
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは──
先程、自分が確かに倒したはずの男。アーレスタロス。
──だが、じゃあ壁に潰された“アーレスタロス”は?
「あっちはただの“鉄人形”さ。最初から磁力使いにぶつけさせるための囮だよ。おかげで綺麗に引っかかってくれたな……ま、計算通りってやつさ」
そう、鉄を操る能力を逆手に取った“影武者トリック”。
磁力使いを欺くには──鉄こそ、最も皮肉な最適解だった。
ナイトアーサーの目がわずかに揺れる。
彼は、言葉を失ったまま拳銃を下ろした。
「ヒーローってのは……死んだと思われてからが本番なんだよ。
俺みたいな“従わない鉄”が一番、ヒーローに向いてるんだよ…?」
――だが、戦いはまだ──終わっていなかった。




