乂阿戦記4 第四章 漆黒の魔王クロウ・アシュタロス-7 指輪王発動
ナイトアーサーの姿を目の当たりにした瞬間、誰もが言葉を失った。
――あれが、ラブチン……?
先ほどまで、汗まみれのアニメTシャツに、眼鏡を曇らせた彼が──
今、王の剣を掲げ、銀装の鎧を纏い、神託をその身に宿して立っていた。
誰が想像しただろう。この冴えない青年が、《銀河の正義》そのものであると。
その気配、その静けさ、そしてーーー
肩に翻るマントは高潔の証、銀装甲には神託の光が宿り、静かに佇む姿に、ルシルですら息を呑む。
そう、これこそが“銀河連邦の正統HERO”──
【騎士王ナイトアーサー】。
その姿は噂通り、“気品”そのものだった。
見る者すべてが、無言で理解したに違いない。
あれこそが、ナイトアーサー。
だが狗鬼漢児は違った。
彼は闘志を燃やして負けじとHEROの口上を述べる。
「無茶無理無謀と言われようと意地を通すが漢道!!無茶でも壁があったら殴って壊す!無謀でも道がなければこの手で切り開く!無理をとおして道理を蹴っ飛ばす!無茶無理無謀、そんなものは殴って壊せと俺の拳が唸るのさ!いくぜ、変!神!アーレスタロス!!」
蒼い閃光に包まれ漢児がアーレスタロスに変身する。
試合場に蒼と水色のHEROが降臨したのだった!
だが、その熱狂とは別の場所で──もうひとつの死闘が動き出していた。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」
それは禍々しいオーラを放つ怪物たちの大群を引き連れながら走る一人の男とその彼が召喚したゴブリン、コボルトによる召喚獣達の一団だった。
彼等はその数を生かして攻め立てる作戦に出ているようだったが………………残念ながら無駄な足搔きに過ぎなかったようだ─────── そう、何故ならこの場には彼ら以上に厄介な存在がいたからだ……
それを知っていたからこそ彼らは先手必勝とばかりに攻撃を開始したのだが結果は見ての通り惨敗を喫してしまったのである……
(まあ仕方ないと言えばそうなんだけどさ~)
その男露木サウロンは自分のレッサーゴブリン、レッサーコボルトで編成された召喚獣部隊を一方的に全滅させた、クレオラ率いる人形兵士部隊を睨みつけつつ思うのだった……
ゴブリンや、ゴボルトたちはクレオラ人形部隊の火攻めに会い、あっさり白旗を上げて、元の世界へ帰還していった。
(やっぱ下級魔物のアイツらに、クレオラの人形兵の相手をするのは厳しいものがあるよね~)
何しろ彼女の操る人形たちは意思を持ち、生きているような動きをしてくるだけでなく、戦闘能力に至っては並大抵の兵士では相手にならないほどの強さを持っているのだ……
煙が、蠢いた。
黒煙の中から現れるのは、まるで地獄の仮面舞踏会。
クレオラが操る黒き人形たちは、輪郭も曖昧な“影の群れ”として顕現し、不気味な嗤いを浮かべながら迫る。
『フフフ……』『ヒヒヒ……』『ケタケタ……』
幼児の笑い声とも、死者の呻き声ともとれぬそれは、まるで悪夢のような音だった。
「うわっ、ヤバいってコレぇええぇ!!!」
焦った露木は影へと跳び込み、咄嗟に分身を生み出す。
**影遁変身**──己の影から“変わり身”を創り出す禁術だ。
人形たちはその分身に群がる。裂き、裂き、裂く。
……笑い声は止まらない。
それでも、露木の本体は逃げ延びていた。だが、煙は止まらない。
黒煙の中、彼はこう確信する──
(……ヤバイ。これ、俺一人じゃ無理だ)
ロキはため息をつき覚悟を決める。
幸いクレオラの火攻めの計で自分の周りの景色は見えない。
つまり外から自分の動きがばれる事は無い。
(仕方がない。変身するか。学校の連中に、僕の正体がバレないといいけどねえ)
もう正体を隠している余裕もないと判断した彼は躊躇なく変身を始めた!
火煙に紛れ、露木は静かに呟く。
(……変わる時だ。仮面を脱ぐ……っていうか付ける!)
指に嵌めた指輪が、紫電を孕んで震える。
「我、汝に乞う──我が身に纏え。我が武具、我が鎧、我が翼。」
「指輪王・改獣、解放──変ッ!神ッ!!《ロード・オブ・ザ・リング》!!!!」
紫の稲光が爆ぜ、天地を貫く咆哮が空気を震わせる。
次の瞬間、そこに立っていたのは──
雷鳴とともに紫の光が炸裂する。
煙を割って現れたその姿。
頭上に舞うは金色の巨竜、灼熱の咆哮を吐き出す炎の王。
その背に立つは、黒きマントに包まれ、瞳に魔を宿す《指輪王》。
──英雄ではない。
舞台の主役たる魔王が、今、降り立ったのだ。
────────………………
黒煙の中、クレオラとティンク・ヴェルはターゲットである露木を探していた。
ティンクの清浄な風を纏う魔法で保護されている彼女たちは、煙の中でも自由に活動できる。
彼女が露木を見つけたとき、彼女たちは目を見開いて驚いた。
そこにいたのは15メートル級の黄金竜にまたがる魔王だった。
魔王はクレオラが作った人形兵を軒並み倒し終えた後だった。
《指輪王》の足元に、操り糸を断たれた人形たちが崩れ落ちていく。
まるで、舞台を締めくくる緞帳のように。
魔王が指す先、クレオラの人形兵たちは、ただひれ伏すしかなかったのである。
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↑イメージリール




