乂阿戦記4 第四章 漆黒の魔王クロウ・アシュタロス-5 七罪の魔女ヴァールシファー
アカデミア学園残りのメンツは殺悪隊のゼットと海月、ブリューナクのブリュンヒルテ、スモモ、セイラ、ザ・メフィストのクレオラ、ティンク、ホドリコ、あとはバットーイアイ、ラブチン、織音先生、でもって最大の難関フェニックスヘブン鳳天の12名
ドアーダ魔法学園で残っているメンバーは神羅、アキンド、獅鳳、雷華、オーム、フレア、アクア、ルシル、エドナ姉、羅漢兄貴、漢児兄貴、生徒会長の露木さん、タット先生の13名
以上となった。***
***
雷音と鵺
控え室に戻ってきた2人はお互いに顔を見合わせていた。
今までずっと隠してきた秘密を知る人物が現れたのだ、動揺しない方がおかしいというものだ。
特に雷音は衝撃が大きいようで頭を抱えている。
鵺も平静を装っているものの、明らかに様子がおかしかった。
二人はそれぞれに考え事をしているようなので、まずは話し合いをすることにする。
まず最初に口を開いたのは意外にも鵺の方だった。
『ねえ雷音君……』
その声にハッとしたように雷音が反応する。
鵺はまるで悪いことをしていた子供のようにバツの悪い顔をしていたのだが、そんな鵺に対して雷音はニカっと微笑みかけてきた。
その表情を見て安心すると同時に申し訳なさが込み上げてくる。
改めてイドゥグなる人物に知っていることを話すべきかと迷うが、今度は困ったように笑われてしまった。
「いや、あの真っ黒野朗に関しては、俺から追求するような事ないよ。必要な時が来たら鵺ちゃんから話してくれたらいい……鵺ちゃんが、ウチのおてんば姉貴を気にかけてくれてるのはよく知ってるし、俺も感謝してるからさ。だから、必要な時が来たら俺に助力を求めてくれ。」
そう言うと彼はポンポンと肩を優しく叩いてくれたのだった。
(やっぱり彼には敵わないわね……)
結局自分は彼のこういうところを信頼してるのだろう。
雷音、彼は一見無頼漢に見えて、女性に対し気配りが効くフェミニストだ。
だがそれはそれとして気になることも多々あるわけで……。
『それにしてもクロウは本当にあのイドゥグなの?だとすればドアダの最終兵器今代のエクリプス・カンキルをゆり動かす手札に使える……。ジャムガに連絡を入れクロウなる人物を調査しなければ……』
などとブツブツ独り言を口にしながら思考を巡らせていた鵺であったが、不意に声をかけられたので我に帰ることになる。
声の主はなんとミリル嬢からのものだった。
彼女はどうやら何かを伝えたいらしいのだがまだ言葉がうまく喋れない様子だったので通訳として呼ばれたのであろう白水晶が同席することになったようだ……
「進捗……我が主ミリル様が鵺様は雷音に気があるのか非常に気にしている模様……要約……『私の婚約者に手を出さないで、この泥棒猫!』と言いたいみたいです」
「は?」
鵺がミリルの方を見ると彼女は涙目になって、ちょっと恨みがましげに自分を見ていた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!私は別にそんな事思ってないわ!」
「しらなーい!うるちゃーい!泥棒猫ーっ!」
慌てて弁明する彼女を他所に二人は勝手に会話を続けていた。
「分析……確かに雷音殿はモテるようです……。あの方はお調子者ですが表向き女性人気がないようで、裏では意外と女性人気が高いです。粗暴にみえて本質は紳士でフェミニストです。私も彼と一緒に冒険をした時に大変お世話になりました……」
と白水晶が言うのに対し、ミリルは頰を膨らませて抗議しているようだ。
「嫌なのだイヤなのだ!雷音はミリルだけの雷音なの〜〜!!」
鵺はその様子を見て思わず吹き出してしまうと、すかさず睨まれたので咳払いをして誤魔化しつつ謝罪をする事にした。
「わ、悪かったわ……ほら、機嫌直して頂戴……?あなたの婚約者を取ったりしないってちゃんと約束するから」
そう言って頭を撫でると安心したように目を細める彼女を見ているとなんだかこちらも癒されてしまうのだった。
その間に雷音はこそっとと部屋を出て行こうとする。
そんな雷音の服の裾をミリルは逃さず捕まえる。
「どこに行くのだ雷音?どこへ行くのか教えて欲しいのだ〜♡」
そう言いながら彼に抱きつくミリルの姿はまるで親から離れまいとする幼い子供のように見えるのだった……。
(この子本当に雷音にメロメロなのね……)
鵺は微笑ましげに2人を見るのだった。
***
***
一方その頃、クロウはと言うと……
「あんな子供等にあなたが遅れを取るなんてね。クロウ……いいえ魔王アシュタロス」
クロウに声をかけたのは緑の瞳の金髪の美女だった。
その女はドアーダ魔法学院の音楽教師ヴァルシアだった。
「お前も観戦していたのかヴァールシファー?そういえば、お前の姪のルシルも試合に出ていたんだったな……」
そう、ヴァルシア・エンジェル
彼女の本当の名はヴァールシファー・デヴィルと言い、彼女もまた伝説の七罪の魔女の一人である。
そして同時に魔界で失われたとされるカリスマ的大魔王の系譜でもあった。
そんな彼女から告げられた言葉に怒りを覚えるわけでもなく、アシュタロスはただ淡々と答えるだけだった……。
「……フッ……女神ユキルと黒の魔女ルキユ、そして今代の赤の勇者、奴らはまだ未熟ではあるが、決して弱いわけじゃない。普通に完敗だ。だが次はこうはいかんさ……」
彼の言葉を聞いたヴァールシファーは呆れたような表情を浮かべると溜息混じりに言った……。
「……アシュ君、負け惜しみくらい言ってくれなきゃ可愛げがないよ……。」
すると今度はニヤリと笑いながらこう続けたのである…………。
「…………まあ良いさ、どうせあんなのはただのお遊びなんだから………」
と…………。
そしてアシュタロスの腕に自らの腕を絡め、恋人のようにその場を後にする。
2人は腕を組んだまま共に闘技場から去るのであった……。
「ねえ、ユキルにルキユ……君たちは、この世界のクソッタレな運命を本気で変えられると思う? 変えられると言うなら変えてみせてごらんよ?……」
……その時、彼女の瞳に宿った憎悪にも似たドス黒い感情を垣間見た者はいないだろう……。
「ふふ、ほんと……女神も勇者も、ロールプレイに夢中で可愛いわ。まるで昔の私たちみたい」
クロウこと魔王アシュタロスをのぞいて……。
「でしょアシュくん? 世界ってのは、遊びじゃない。変えようとした瞬間に、“壊れる”んだよ?」




