乂阿戦記4 第四章 漆黒の魔王クロウ・アシュタロス-3 赤の勇者乂雷音vs漆黒の魔王クロウ・アシュタロス
漆黒の魔王クロウは沈黙を貫いたまま、ただ立っていた。
その身に纏うのは、虚無そのもの。
重力ではなく、運命そのものが彼に引き寄せられているかのような――絶対的な静寂。
雷音、鵺、オーム。
三人の間に落ちた沈黙は、あまりにも重かった。
やがて、鵺が一歩を踏み出す。
その瞳に宿っていたのは、夜の底で凍えずに燃える星の光だった。
「お願い……私と一緒に戦って」
「この試合にはルールがある。勝者は、敗者に“真実”を一つだけ求める権利を得る。私はクロウを倒して……ユキルのことを、知りたいの」
その言葉が場を静かに震わせた、次の瞬間――
「なになに鵺ちゃん!? うちの馬鹿弟と組むの!? それはダメ!絶ッ対ダメッ!!」
突如、空気を裂いて現れたのは神羅。
いや、正確にはその本質、《女神ユキル》だった。
「うちの弟、どうせ『ご褒美ちゅー』とか言い出すに決まってるからさ! ね、私と組もう? 勇魔共鳴、できるでしょ? 勝ちたいんでしょ?」
「ちょっ、お前今空気読めよ! 話が飛躍しすぎてんだろ神羅ァァ!」
雷音のツッコミが飛ぶが、神羅はジト目で睨みつける。
「……私のことで戦うってのに、私抜きで進めてるって、どーなのよ?」
その声は軽口の裏で、ほんの少しだけ――孤独だった。
雷音が言い返せず俯いた瞬間、“それ”は来た。
「…………の……すけて…………」
背後から微かに聞こえた声。
耳ではなく、魂に届くような。
誰かが、泣いている気配。
振り返れば、そこにいたのは――
「雷音の浮気者~~~っ!! エッチ!! バカっっ!!!」
赤く染まった頬、震える瞳。
その感情の塊――ミリル。
「他の女とペアなんて絶対ダメなのだぁああああ!!」
嵐のような拳が、雷音に(非ダメージで)炸裂する。
「いや!誤解だミリル! つーかお前試合失格してんだよ!!」
「しらなーい!! うるちゃーい!!」
……その後、雷音は平手連打の刑に甘んじるしかなかった。
そして結局、鵺は神羅とコンビを組むことになる。
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そして、戦場が幕を開ける。
空が紅く染まる中、神羅と鵺が並び立つ。
その先にいるのは、《黒の預言者》――
3対1。それは戦術上の数ではなく、質の戦いだった。
神羅がふと呟く。
「おかしいね……遊びのはずなのに、ここ、命のやりとりの匂いがする」
その言葉と同時に、地が唸る。
クロウが一歩を踏む。
それはただの動作ではない。
地脈に干渉し、因果律を狂わせる呪脚。
《奥義・爆散震脚》
バチィン!
観客席が悲鳴で満ちる。
揺れる視界。砕ける足場。
それは地震ではない――呪いだ。
“殺し”を知っている者だけが持つ動き。
そしてその一撃、虚空を裂いて光が生まれる。
“光の斬馬刀”──マーキング大剣が、女神を断つ。
「──受けきってみせるっ!」
雷音が竜の翼を生やし、地震から逃れる。
そして宙を滑空し、盾を構える。
しかし模造の剣とは思えぬ衝撃が、その全身を襲った。
「ぐっ……がああっ!!」
膝が折れる。視界が揺れる。
だが――風が吹いた。
「倍速魔法・展開!」
鵺の詠唱が響く。
青白い風が雷音の足元を巻き、動きを最適化させる。
だが、それでも足りない。
クロウの剣は“詠唱”すら必要としない。
ただ、“死”を具現化するだけの、合理的な暴力。
そしてついに、雷音の盾が砕けた。
肉体が吹き飛ぶ。
“このままでは、殺られる”
そう思った瞬間だった。
神羅が叫ぶ。
「らいおんっっ!!」
その声が、風を変える。
鵺が手を伸ばす。
神羅が応じる。
その瞬間、空間が崩壊し、世界が回り出す。
――これは、神話の再演である。
“かつて、未来を変えた二人”の、再臨である。
「コード認証──《天泣・時葬》」
「《光翼解放──救世の女神》」
闘技場の天井が砕ける。
降り注ぐ羽根と星屑。
二つの力が世界に干渉を始めた。
クロウが、初めて目を見開く。
「……“ユキルとルキユ”が揃ったか」
「だが、悲劇の構図は変わらない。世界は、変革ではなく犠牲で回るのだ」
彼の言葉は、終わらなかった。
なぜなら、紅い咆哮が響いたからだ。
爆煙の中から、立ち上がる者がいた。
雷音。
(俺はもう、立てねえと思ってた。)
(でも──違う。神羅と鵺ちゃん、二人が笑ってられる世界を、見てえんだよ)
灰に沈んだ足元から、赤き意志が燃え上がる。
雷音は、立ち上がる。
その背には、赤き刻印。
《真炎の魔剣クトゥグァ》。
封獣たる神の火が、彼の血に応じた。
「……試合って建前だったのになぁ……だがもう黙っちゃいられねぇよ、“黒の預言者”」
彼の声が変わる。
その瞳が、灼熱の金に染まる。
「神羅は、誰にも殺させねぇ」
「鵺は、俺の戦友だ」
「そしてお前は――ここで、“決着”をつける!」
紅蓮の刃が閃く。
その名は、《封獣剣・クトゥグァブレイズ》――
クロウが応じる。
「ならば、“絶対死因”を授けよう」
「──《終焉剣・黒葬》」
その一閃が、空間を裂いた。
紅と黒の運命が、交錯する。
ここはもはや、サバゲーではない。
それは、世界の未来を奪い合う、黙示の戦場。
ラグナロクの鼓動が、今、確かに鳴っていた――
それは、選ばれなかった未来への挑戦か。
あるいは、誰かの祈りが形を変えた終焉なのか。
https://www.facebook.com/reel/1052566899626190/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール




