乂阿戦記4 第三章 桜の魔法少女神羅と天下の大泥棒-25 狂王復活!狂王復活!
「うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ! 面白い! 面白すぎるぞ、貴様らァ!!」
それは、勝負が決まったかと思われた刹那だった。
空間を突き破るように、血まみれの道外服の男が突如として現れた。
その姿を目にした瞬間、一同が凍りつく。
「バ、バカな……! なぜお前がここに!?」
「あり得ない……あいつは、確かに死んだはず……!」
「こ、こんな場所にいていい存在じゃないッ!」
魔法少女たちは明らかに動揺していた。だが、男はただ不気味に笑うばかり。
「何者だ……?」
ゼットが低く問うと、男はゆっくりとフードを外し、その素顔を晒した。
現れたのは白髪混じりの中年男。無精髭に、不気味なピエロの化粧を施した顔――
「ぱんぱかぱ〜ん☆ はっあーい! みなたまお久しぶりぶり〜♪ ポクちんだお☆ スーパー☆カリスマ☆王☆エンザちゃん、爆☆誕☆なのら〜!」
その男――狂王エンザ。
かつてアシュレイ族の神子リーンによって葬られたはずの存在だった。
ローブの袖を広げ、芝居じみた仕草で挨拶をする彼を前に、鵺はすぐさま察した。
(まずい……本物だ……!)
「……死んだはずじゃなかったの?」
鵺が警戒を強めると、聖羅と羅刹も頷く。
確かに、彼は死んだはずなのだ。
「あれれ〜? もしかして、君たちボクちんのこと心配してたの? うれちぃのお〜♪」
エンザはニタニタと笑いながら続ける。
「実はね? 666体あるクローンのうち、一体だけクトゥルフ戦争に参加せずお留守番してたのら〜。けーどー、あの後からなぜか分身が増やせなくなっちゃって〜? でも平気♪ 代わりに影法師つくる魔法がめっちゃ得意になってたんだお☆」
冷静に分析したのは鵺だった。
「なるほど……クローン・エンザ。あなたはリーンとの戦闘を生き延びたことで、戦闘存在として“武仙”の域に達した。だからもう“物理法則内”のクローン技術が使えない。あなたは、“理の外側”に達してしまった存在なのよ。……つまり、最後のクローン・エンザ……!」
「ええ〜!? 最後のエンザ!? やっべー、なにそれ超かっこいい☆」
狂王は目を輝かせ、跳ねるように言った。
「決めた! 今日からポクちんは“ラスト・エンザ”って名乗るぅ〜♡ ……あ、正妻はイサカたそって決めてるから、それ以外の君たちは側室ねっ♪」
その瞬間、三人の魔法少女の顔色が一変した。
「キショ!! ふざけんな!!」
「誰が貴様の側室などになるかッ!」
「お前たち、今度は何を企んでいるの!?」
怒りに満ちた三人とは対照的に、狂王の笑みはさらに深まっていく。
「うひゃひゃひゃひゃひゃ☆ ひどぉ〜い言われよう! でもでも大丈夫! みんなまとめて、ボクちんのオセッセ奴隷にしてあげるから安心していいお〜♪」
パチンッ――
エンザが指を鳴らすと、彼の背後に影が広がった。
湧き出すのは、数百体におよぶ魔法少女の影法師たち。
だが、その姿は“模倣”などという生易しいものではなかった。
ある者は四肢を失い、胴だけで蠢いていた。
またある者は、首から上がなく、彷徨う肉の塊と化している。
中には半身が溶け落ち、声なき呻き声をあげるものもいた。
それらすべてが、一斉に襲いかかってきた。
――まず狙われたのは鵺だった。
不意を突かれ、背後を取られた彼女は身動きが取れなくなる。
瞬く間に、影法師の波に呑み込まれた。
続いて、聖羅も同様に襲われる。
無数の黒い手が彼女の身体を掴み、引きずり込もうとする。
だが、彼女たちは屈しなかった。
押し潰される寸前まで抵抗を続けた。
それでもなお、数に勝る影法師の群れに追い詰められていく。
(――だがその時だった)
突如、爆風のような音が響き渡った。
次の瞬間、影法師の群れの中央が吹き飛ぶ。
その中に立っていたのは、一人の漆黒の戦士だった。
「……我は黒……我は処刑人……我は許されざる反英雄……」
「我は外道を屠る“悪鬼絶殺”。蹂躙された無辜の民の嘆きを今晴らさん……」
「外道、滅殺――《改獣マルコキアス黒影》、展開」
闇を纏いしその男の名は、アン・テイル。
世界最強の暗殺拳士。
その名を知る者は、皆こう呼ぶ。
――“悪魔の化身”と。
その身に纏う漆黒の鎧は、あらゆる攻撃を退け、あらゆる敵を粉砕する。
「ほおあちゃあっ!!」
叫びとともに振るわれた拳が、十数メートルの巨大影法師を木っ端微塵に砕く。
バキイッ!! 轟音。爆風。地鳴り。
衝撃で地面が陥没し、地下から大量の水が噴き出す。
「ファッ!?」
狂王エンザが目を丸くしていた。
その隙に、アン・テイルは影法師たちの群れへと突入する。
目にも留まらぬ速さで駆け抜け、次々に黒き影を蹴散らしていく。
その背には、絶対の自信と――
“悪を殺す”という、ただ一つの意志が宿っていた。
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