乂阿戦記4 第三章 桜の魔法少女神羅と天下の大泥棒-19 白阿魔王の根回し
サンジェルマン──かつてはノーデンスと共に〈ジュエルウィッチプロジェクト〉に関わっていた優秀な研究者の一人。
だが今は違う。永遠の命を得るため、“肉体を神域に変質させる”禁呪を使い、自ら人としての理を捨てた。
その代償に、不老不死の吸血鬼として生まれ変わった男である。
現在、彼は古代遺跡《三聖の塔》の掌握を目論む《人類管理十一人委員会》の第七席に座し、禁術と科学の狭間を漂いながら各地で暗躍している。
噂によれば、彼らが持つという《禁忌聖典》には“この世の真実”が記されており、それを解き明かした者は、神すらも超える力に至るとさえ言われている。
さらに──《時渡りの秘術》。
委員会の者たちはその術式を用いて、過去や未来に干渉し、歴史すらも塗り替えるのだという。
……確証はない。だがそれでも、十一人委員会という存在が“無視できないほど危険”であることだけは、疑いようがなかった。
それを聞いていたリリスは思わず頭を抱えたくなってしまうほどの衝撃を受けていた。
(まさか私を拘束したあいつがそこまでヤバイ奴だったとは思わなかったわ……ただの誘拐犯だとばかり思ってたけど、11人委員会の第七席だったなんて!)
心の中でそう呟いていると今度はゼロの方から質問を投げかけられたのでそれに答えることにする。
すると彼女は真剣な表情になって言った。
「嬢ちゃんは確かに魔法少女として高い素養がある。だが戦いに挑むときはなるべく相手の実力を見極めてクレバーに挑むんだな。
……それ以前に、戦いってのはどん詰まりになったとき最後の最後に取るやむなき手段なんだってこと、よく覚えとけ」
そう言われ、リリスは少し俯いた。
(……今までの私、ずっと力任せだったかもしれない)
高レベルの魔法少女として、リリスはこれまで幾度も“大魔法の一発ブッパ”と力づくの交渉で問題を乗り切ってきた。
それを教え込んだのは父、吸血王ブラド・ツェペシュ公──だが、それに甘えていた自分にも責任はある。
(……なんだか、恥ずかしいな)
ほんの少しだけ、リリスの胸に“戦い方”ではなく“在り方”を考える芽が芽生えた瞬間だった。
「まあこれからちょいと厄介な仕事があってだな。お前さんにちと手伝ってもらえると助かるんだが……」
そう言われた瞬間に少女は目を輝かせて身を乗り出してきた。
そんな彼女の反応を見た上で、男は話を続けるのだった─────。
委員会の中で不気味な動きを見せている第五席ジキルハイド・ジルドレェについてである。
彼についての情報は少ないものの、彼が非常に優秀な科学者をかかえており、人体実験や兵器開発に長けているということは分かっているらしい。
そして何より彼の目的は未だに不明なのだそうだ。
それ故に警戒を強める必要があるとのことだった。
そのため、今回はその調査も兼ねてとある場所へ赴くことになったのである。
その場所というのが、なんと魔界であったのだ。
なんでもここ最近、悪魔の動きが活発化しており何やら良からぬ企みをしているという噂があるのだという。
それを聞いて思わず身構えてしまった少女だったが、そんな彼女に対してゼロは言った。
「安心しろって、別に戦争を仕掛けるつもりはねえからよ。ただちょっとばかし探りを入れたいだけだ。ズバリいうとだな、嬢ちゃんのお父君吸血王ドラクル・ブラド・ツェペシュ公に協力を依頼したいんだ」
そんな予想外の申し出を受けてキョトンとしてしまった少女の反応に苦笑しながらも言葉を続けるゼロ。
「まぁ驚くのも無理はないか……そうだな、例えばだ──」
そう言って一枚の紙切れを取り出すとそこにサラサラっと文字を書いていく男。
そしてその紙を折り畳むと封筒に入れて封をする。
それから宛名を書くとその封筒を手渡してくるので受け取ってしまう少女であったが、一体これは何なのだろうかと思っているとゼロが言った。
「そいつをアンタの親父さんに届けてくれりゃあ良いだけの話なんだ。なにぶんウチの組織、ブラド公とは昔ゴタゴタがあってあんまり仲が良くなくてなぁ……」
困ったように頭を搔きながらそう言阿門に首を傾げるリリス
「わかりました。この手紙確かに預かりました。父には私からよろしく伝えておきます」
だが、それでも了承の意を示すことにして、手紙を受け取るとその場を後にした。
その様子を見送った後、阿門は溜息を一つ吐いた後に独り言を漏らす零。
(やれやれ……これでブラド公爵に借りを作る事になったな。こりゃ参ったもんだ)
1人でそう呟きながら煙草を取り出して口に咥えて火を点けると煙を吐くのだがその表情はどこか楽しげであり口元には笑みすら浮かんでいた……。
そして乂阿門ことゼロ・カリオンは部屋に残った乂聖羅、今宵鵺、鳳博を見渡してから口を開くと言った。
「──さて、ヨグソトースのカケラの保持者諸君、今ので交渉で事態はうまくいったのか話を聞かせてもらおうか? お前たちの未来視の様子はどうだい?」
その言葉に3人は顔を見合わせると頷き合うと順番に話し始めた──────────。
まず最初に口を開いたのは黒髪の美小女である今宵鵺だった。
彼女は妖艶な雰囲気を漂わせながらも落ち着いた口調で語り始めた。
その内容はとても信じられないものだった。
「今の手紙で最悪の未来の一つは回避されたわ。本来委員会達が手引きする悪魔達の襲撃を受け半数のジュエルウィッチが惨殺される未来……その最悪パターンだけは防ぐことができた。ただししばらくの間の時間稼ぎに過ぎないけどね……」
それを聴き阿門は鳳博と愛娘聖羅にそうなのかと尋ねる。
「うん、間違いないよパパ……アテの未来視から嫌な影が1つ消えてるもの……」
聖羅の声は、どこか泣き笑いのようだった。
最悪の未来──委員会が手引きする悪魔の襲撃によって、ジュエルウィッチの半数が惨殺されるという未来。
それだけは、今、この一手で確かに回避されたのだ。
……ただの時間稼ぎかもしれない。けれど、それでも――。
希望は、確かに灯った。
満足そうに頷く阿門だったが、そこで思い出したかのように言った。
「そういえば……鳳博さん。あんたが“ゼロゼギルトへの温情が俺たちの未来を左右する”って言ってたよな?」
阿門がふと思い出したように、瓶底眼鏡の青年へと視線を向ける。
「ヨグソトースのカケラを持つ者として、別に疑ってるわけじゃねえ。だが、なんでそんなことが言えるのか……その根拠をまだ聞いてなかったな」
鳳博は観念したようにため息をついた。
そして静かに、眼鏡を外す。
彼もまた、“時間の外殻に触れた”特別な観測者であった。
この世界には、かつて“時の神”ヨグソトースが六つに引き裂かれたという神話がある。
その本体は、あらゆる時間を司る観測者《クロノス=ヨグソトース》。
その力を奪い、封じた存在が雷帝。
……そして、その“分裂した観測のカケラ”を継いだ者たちは、今なお世界に点在している。
◆今宵鵺──「暗躍と変転」の観測者。未来を歪める者の動きを見通す。
◆乂聖羅──「希望と滅び」の観測者。人類の終焉と救済の岐路を知る。
◆クレオラ・フェレス──「過去と因果」の観測者。歴史改変の波を嗅ぎ取る。
◆鳳博──「沈黙と記録」の観測者。交差した未来の“無言の証言者”。
◆《ウムル・アト=タウィル》──これは“本体の影”にして封印された疑似人格。
◆そして──最後の一人は、未だその正体すら明かされていない。
鳳博は、幾多の未来を観測し、誰よりも静かに世界を見つめていた。
「あー……ヨグソトースの観測じゃなく、ちょっと“個人的なルート”で仕入れた情報なんだけどな」
彼は静かに語る。
「第四席、ゼロゼギルト。俺はあいつの“ある重大な秘密”を知っている。
……だから、俺はあいつの未来に、“希望”があるって信じてるんだ」
その言葉に、室内の空気が一瞬張りつめる。
鳳博が語ろうとしている“真実”――
それは、十一人委員会という存在を根底から揺るがす、衝撃の事実であった。
https://www.facebook.com/reel/1158642572060869/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール




