乂阿戦記1 第一章- 赤の勇者雷音と炎の魔剣クトゥグァ-2 赤の勇者と偽りの少女――邪神ナイアルラトホテップ復活
※異世界バトルが好きな方におすすめ!
邪神ナイアルラトホテップ、そして“神を拳で殴る男”の登場。
ここから《乂阿戦記》の物語は本格的に動き出します。
どうぞお楽しみください!
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十五年前。
七罪の魔女により“世界が終わる”とされた滅びの時代。
それでも、剣と魔法を手に立ち向かった者たちがいた。
炎の戦巫女ホエル。
風の姫プリズナ。
蒼拳の戦乙女ユノ。
狼女神アタラ。
そして、奇跡の女神ユキル。
人々は彼女たちを**《救世の五柱》**と呼び、世界の敵――七罪の魔女と対峙することになる。
白の魔女。七罪の魔女の頭目。
灰の魔女《戦狂》ラスヴェード。世界最強の魔女。
緑の魔女《暁の明星》ヴァールシファー。魔王の魔女。
黄緑の魔女《黒山羊》シュブニア。邪神の魔女。
黄の魔女《魔巣》エキドナ。魔獣を孕む母なる災厄。
黒の魔女《時の魔女》ルキユ。全てが謎に包まれた存在。
そして最後に現れたのは、“魔女ですらない”存在――外なる神ナイアルラトホテップ。
奸智と淫欲をまとい、人の心を欺く邪神。
ユキルは命を賭してその邪神を封じた。
戦場は**《クトゥグァ火山》**と呼ばれ、語り継がれることになる。
◇ ◇ ◇
⸻
十五年後。
灼熱の大地に、ふたりの影が差す。乂雷音と、乂神羅。
「……空気、重すぎ。嫌な予感しかしないよ」神羅は顔に浮かんだ汗を拭い、重たい空気を吸い込むたびに息が詰まるのを感じた。
「だけど行くしかねぇだろ、神羅。兄貴たちが来たんなら、俺たちも!」
そのときだった。
岩壁に刻まれた古の祠の前――黒い触手が、紫のローブを纏った少女の身体を絡め取り、宙へと吊り上げていた。
「くっ……や、やめて……っ!」
ヌメる触手が肌を這うたび、少女の顔が恐怖と羞恥に歪む。
それでも必死に、伏せた瞳の奥から声を絞り出した。
「だ、だれか!」
「雷音! あれ!」
「――ああ、行くぞッ!!」
雷音の拳が紅蓮に燃え、神羅の魔法が聖光を帯びる。
ふたりの連携攻撃が触手を焼き尽くし、異形の核は灰となって崩れ落ちた。
少女は震える膝を抱え、しばらく沈黙していたが……やがて、顔を上げた。
「わ、私は……旅の魔導士見習い、ナイアと申します……。どうか、お話を聞いてください……!」
⸻
「……いいぜ、話してみろ」
「……あなたは、“赤の勇者”の力を持っているはず。お願い、魔女を倒して!」
「赤の……勇者?」
きょとんとした雷音。だがすぐに拳を握り、満面の笑みを浮かべる。
「……最高じゃねぇか、それ。燃えるぜ!」
「ちょっと!? 信じるの早すぎでしょ!?」神羅がぐいっと詰め寄る。
「というかチョロすぎるよ!? あんた、もうちょっと警戒心持ちなよ!」
「正義と勇気があるやつだけが、世界を救える。それが勇者ってもんだ!」
「もう知らない! 兄さんたち探して帰るからね!」
「ちょっと待て神羅……あそこ、誰か来るぞ!」
洞窟の奥から、ふたりの男が姿を現した。
同時に一瞬にして張り詰めた。
ドン……ドン……と、大地そのものを踏み割るような足音。
現れたのは――獣のごとき闘気を纏う男。
白銀と黒の虎縞を思わせる短髪。猛虎の如き双眸。
その存在感は、勇者でも魔女でもなく、“覇”そのものだった。
角刈りの白髪に虎模様が混じる屈強な巨漢、
乂阿烈。
そして、黒髪の長髪に鋭い眼差しを持つ美丈夫。
乂羅漢。
「兄さんたち!」雷音と神羅は駆け寄る。
「雷音、神羅……心配かけたな」
「気づいたらこの火山に転移してた。こっちも色々あった」
羅漢がナイアに視線を向ける。
「その子は?」
「私はナイアと申します。魔剣を探していて、魔物に襲われ……」
「なぜ一人で?」
「……わかりません。目を覚ました時には、記憶が……」
「記憶喪失!? じゃあ余計に放っとけねぇな!」
ナイアはうつむき、微笑む。「ありがとうございます……雷音様」
……その笑みに、雷音の胸が微かにざわめく。
(……ナイア、なんか……?)
阿烈の双眸が鋭く細められる。
「……ふん。ナイアルラトホテップ、復活していたか」
「な、何言ってんだ兄貴!?」
「お前が魔剣を抜いたことで、封印が解けたんだ。なぁ、羅漢」
「ああ……感じていた、この気配」
ナイアの身体が震える。
――その瞬間、世界が一段、沈んだ。
空気が濁り、洞窟の奥から這い出すのは黒い“呪気”。
骨が軋み、肉が泡立ち、皮膚が内側から裂けていく。
伸びた黒髪は蛇のように蠢き、肌は青黒く艶めいた異質な光を放つ。
背中から、まるで“花弁”のように蝙蝠の翼が咲いた。
「ふふ……やっぱり、“騙す”って行為は楽しいわね。人間ってほんと……ちょろいのよ」
「な……なんで……助けたのに……! こういうのって助けたヒロインとフラグが立ったりして、ハーレム展開になる。お約束じゃないのかよ!?」
雷音の拳が震える。
信じた心を踏みにじられる痛みが、胸を締めつけた。
神羅は(バカ弟め!)と頭を抱えている。
構わずナイアは続ける。
「名乗ってあげるわ」
「奸智と淫欲の化身。“七罪の魔女”の一柱」
「そして――“外なる神”、ナイアルラトホテップよ」
⸻
雷音が一歩、後退する。
神羅がその腕を掴み、震える声をあげる。
「雷音、下がって……! これはマジでヤバいやつだよ!」
「ありがとう、“赤の勇者”。あなたが魔剣クトゥグァを抜いたおかげで、封印は完全に解けたわ」
雷音は歯を食いしばる。
だがその時――重たい足音が洞窟に響いた。
大地を砕くような踏み込み。空気が熱を帯び、灼熱の気が空間を染めていく。
獣のように闘気を纏った男が、ゆっくりと前へ。
乂阿烈。白銀と黒の虎縞を思わせる髪。燃えるような紅蓮の双眸。
「……グルァッア”ッア”ッア”。やはり、現れたか」
阿烈の双眸が紅蓮に燃える。
「十五年前。女神ユキルが命を賭して封じた災厄――ナイアルラトホテップ。よくぞ現れた」
拳に集まる灼熱の気。地が軋み、岩が砕ける。
「貴様のような“神”で――」
「一度、神殺しを味わってみたかったのよ」
一歩、踏み出す。黒翼が広がり、紅蓮が唸る。
光と闇が交錯する。神と人、過去と現在がぶつかり合う“運命の焦点”にて――
――そして、ここからが本当の地獄だ。
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