乂阿戦記1 第一章- 赤の勇者雷音と炎の魔剣クトゥグァ-2 赤の勇者と偽りの少女――紫の魔女、ナイアルラトホテップ復活
※異世界バトル物好きな方におすすめ
偽物の少女、復活する邪神、そして拳で神を殺す兄の登場。
ここから《乂阿戦記》の核心が始まります。
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――十五年前。
“世界が終わる”とされた滅びの時代。
それでも、剣と魔法を手に立ち向かった者たちがいた。
赤――火を纏う《魔法少女ホエル》。
水色――風の舞姫・プリズナ。
青――蒼き鉄拳の戦乙女・ユノ。
橙――命と大地を司る賢者・アタラ。
桜――歌で世界を癒した空の歌姫・ユキル。
人々は彼女たちを《救世の五柱》と呼び、
やがて彼女たちは、“七罪の魔女”と呼ばれる世界の敵と対峙することになる。
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白の魔女――《エクリプス》。世界を支配する絶対女帝。
灰の魔女――《戦狂》ラスヴェード。死と快楽を交える最強の魔女。
緑の魔女――《暁の明星》ヴァールシファー。未来を簒奪する予言の魔王。
黄緑の魔女――《黒山羊》シュブニア。星の囁きを操る呪詛の巫女。
黄の魔女――《魔巣》エキドナ。魔獣を孕む、母なる災厄。
黒の魔女――《時の魔女》ルキユ。永劫を沈黙で刻む異端の記録者。
そして最後に現れたのが、
“魔女ですらない”存在――紫の魔女、ナイアルラトホテップ。
もとは“紫の魔女”だったエメサキュバの力を簒奪し、姿と記憶を奪い取った、“外宇宙”の邪神。
奸智、淫欲、異界の知性。
それは《欺瞞》の名を持ち、信頼と絆を巧妙に破壊する存在だった。
だが、ホエルは屈しなかった。
魔剣クトゥグァをその身に宿し、命を賭して紫の邪神を封印したのだ。
空の歌姫ユキルは、その戦いで命を落とした。
そしてその火山は、《クトゥグァ火山》と呼ばれるようになった。
──そして、十五年の時が流れた。
⸻
灼熱の大地。
吹き上がる魔力の潮流と、焼けただれた岩肌の中。
《クトゥグァ火山》の奥底に、ふたつの影が差し込んでいた。
乂雷音と、乂神羅。
兄たちの消息を追い、この禁忌の地に足を踏み入れたのだ。
「……空気、重すぎ。ヤな予感しかしないよ」
「だけど行くしかねぇだろ、神羅。兄貴たちが来たんなら、俺たちも!」
そのときだった。
岩壁に刻まれた古の祠の前――
黒い触手が、紫のローブを纏った少女の身体を絡め取り、宙へと吊り上げていた。
「くっ……や、やめて……っ!」
少女の顔が恐怖と羞恥に歪む。
目を伏せながらも、必死に叫んだ。
「雷音! あれ!」
「――ああ、行くぞッ!!」
雷音の拳が紅蓮に燃え、神羅の魔法が聖光を帯びる。
ふたりの連携攻撃が触手を焼き尽くし、異形の核は灰となって崩れ落ちた。
少女は震える膝を抱え、しばらく沈黙していたが……やがて、顔を上げた。
「わ、私は……旅の魔導士見習い、ナイアと申します……。どうか、お話を聞いてください……!」
⸻
「……いいぜ、話してみろ」
「……あなたは、“赤の勇者”の力を持っているはず。お願い、魔女を倒して!」
「赤の……勇者?」
きょとんとした雷音。だがすぐに拳を握り、満面の笑みを浮かべる。
「……最高じゃねぇか、それ。燃えるぜ!」
「ちょっと!? 信じるの早すぎでしょ!?」
神羅がぐいっと詰め寄る。
「 というかチョロすぎるよ!?」
「怪しい旅人が“あなたこそ勇者です”って言ってくるとか、テンプレにもほどがあるでしょ!? あんた、もうちょっと警戒心持ちなよ!」
「正義と勇気があるやつだけが、世界を救える。それが勇者ってもんだ!」
「もう知らない! 兄さんたち探して帰るからね!」
「……あそこ、誰か来る!」
洞窟の奥から、ふたりの男が姿を現した。
角刈りの白髪に虎模様が混じる屈強な巨漢。
そして、黒髪の長髪に鋭い眼差しを持つ美丈夫。
「兄さんたち!」
雷音と神羅は駆け寄る。
「雷音、神羅……心配かけたな」
「気づいたらこの火山に転移してた。こっちも色々あった」
羅漢がナイアに視線を向ける。
「その子は?」
「私はナイアと申します。魔剣を探していて、魔物に襲われ……」
「なぜ一人で?」
「……わかりません。目を覚ました時には、記憶が……」
「記憶喪失!? じゃあ余計に放っとけねぇな!」
ナイアはうつむき、微笑む。
「ありがとうございます……雷音様」
そのとき、阿烈の双眸が鋭く細められる。
「……ふん。ナイアルラトホテップ、復活していたか」
「な、何言ってんだ兄貴!?」
「お前が魔剣を抜いたことで、封印が解けたんだ。なぁ、羅漢」
「……ああ。感じていた、この気配」
ナイアの身体が震える。
――その瞬間。
世界が、一段、沈んだ。
空気が濁り、洞窟の奥から這い出すのは光ではなく、黒い“呪気”。
ナイアの身体が、崩れ始めた。
⸻
骨が軋み、肉が泡立ち、皮膚が内側から裂けていく。
伸びた黒髪は蛇のように蠢き、肌は青黒く変色して艶めいた異質な光を放つ。
そして背中から、まるで“花弁”のように、蝙蝠の翼が咲いた――不気味な静寂とともに。
理性を拒絶する構造。
“見ること”そのものが、恐怖となる――不協和音の存在。
「ふふ……やっぱり、“騙す”って行為は楽しいわね。
人間ってほんと……ちょろいのよ」
声も、目も、笑顔も、もう“ナイア”ではなかった。
「名乗ってあげるわ」
「奸智と淫欲の化身。“七罪の魔女”の一柱」
「そして――“外なる神”、ナイアルラトホテップよ」
⸻
雷音が一歩、後退する。
神羅がその腕を掴み、震える声をあげる。
「雷音、下がって……! これはマジでヤバいやつだよ!」
「ありがとう、“赤の勇者”。あなたが魔剣クトゥグァを抜いたおかげで、封印は完全に解けたわ」
雷音は、歯を食いしばる。
だがその時――
重たい足音が、洞窟に響いた。
大地を砕くような踏み込み。
空気が熱を帯び、灼熱の気が空間を染めていく。
獣のように闘気を纏った男が、ゆっくりと前へ。
乂阿烈。
白銀と黒の虎縞を思わせる髪。
燃えるような紅蓮の双眸。
「……グルァッア”ッア”ッア”。ああ、やはりな。
本当に、ウヌが蘇るとは思わなんだわ」
「貴様の相手は、この俺――乂阿烈だ」
その声音は、怒りではない。
“待ち望んでいた者”の声だった。
「十五年前。女神ユキルが命を賭して封じた災厄――
ナイアルラトホテップ。よくぞ現れたな」
拳に集まる灼熱の気。
地が軋み、岩が砕ける。
「貴様のような“神”で――」
「一度、神殺しを味わってみたかったのよ」
一歩、踏み出す。
黒翼が広がり、紅蓮が唸る。
光と闇が交錯する。
神と人、過去と現在がぶつかり合う“運命の焦点”にて――
――戦いの幕が、いま、上がる。
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