乂阿戦記4 第三章 桜の魔法少女神羅と天下の大泥棒-14 羅刹の過保護
第四試合は中盤に差し掛かっていた。
今回の種目は“サバゲー形式”――光学銃と模擬刀を使った擬似戦争である。
蛮童喜水ことキースは、遮蔽物の多い戦場を走り抜けながら対戦相手を探していた。
(チッ、どこもかしこも物陰だらけでうじゃうじゃしやがる……まあ、サバゲーだし仕方ねーか)
そう舌打ちしていたその時――
「おい、そこのお前!」
突然、背後から声をかけられる。
振り向くと、そこに立っていたのは――どう見ても小学生くらいの少年!?
(な、なんだコイツ……ただのガキか? いや、油断は禁物だ)
警戒を強めるキースに、少年は言った。
「……なあ、アンタ。俺のこと覚えてるか? 前のクトゥルフ戦争で、素手で戦った時のこと」
キースは目を丸くして、そして破顔した。
「おう! お前、殺悪隊の浜田車虎じゃねーか! 久しぶりだなあ〜元気そうでなによりだぜぇ〜!」
にっこり笑って握手を求めるキース。
だが、車虎の顔は浮かない。
「……俺は、あの時の敗北が……どうしても忘れられねぇ。このルールでもいい、もう一度……俺と勝負してくれ!」
(びっくりだよ全くよぉ〜)
キースは内心で苦笑した。
――これ、少し前に自分が獅鳳に言った台詞とまったく同じじゃねーか。
え?その後どうなったかって? 戦ったに決まってんだろーが!
面白そうな奴を、見逃すわけがねぇって!
それでしばらく戦ってたらあいつがいきなりこんなこと言ってきたんだよなぁ〜www
『アンタ前よりも強くなったんだな……』ってさぁ〜!
いやあ嬉しかったぜマジでさあ!
相変わらず変な足捌きでキースを翻弄する車虎。
対するキースも、拳に見立てたガンカタスタイルで応える。
やがて両者、相打ち――
「ぐはっ……!」
「いやぁ、素手のどつきあいとサバゲーじゃ勝手が違うなぁ〜!」
失格になったキースは、頭をぽりぽりと掻きながら観客席を見上げる。
みんな応援ありがとよっ!!
すると一斉に歓声が上がった。
一方その頃闘技場の別の場所では2人の少女が何やら話していた……それはまさに因縁浅からぬ対決だった……!
「ス、スフィー……あ、あなた妊活中なのにサバゲーの試合に出るって一体何考えてるの!?」
乂羅刹は信じられないと言った唖然とした顔で、スフィンクスをたしなめた。
それに対して彼女は涼しい顔で答える……。
「いや別に大したことじゃないでしょ?
おもちゃの銃でマーキングをつけるだけの試合だし。
それに、私だっていつまでも体を動かさないままだと、なまっちゃうでしょ?
だからこうして参加してるだけ。そんなに問題あるかしら?
適度な運動はこなさないと逆に胎教に悪いと思うけどな?」
それを聞いた羅刹はハァーと深いため息をつく。
「……………はぁ…………わかったわよっ……!好きにしなさいっっ!!!」
内心ハラハラしながら羅刹とスフィンクスを見守っていた、羅漢とキラグンターは『どうやら取っ組み合いの喧嘩にはならなさそうだ……』とほっと胸を撫で下ろした。
が、次の瞬間だった――
羅刹の口から衝撃的な言葉が飛び出したのは!!
「…………こうなったら実力行使よ。私がこの銃であなたを倒して、これ以上危ない運動をさせる前に試合から退場させるわ!!」
とライフルタイプのペインティング銃を構えた。
「へん、上等だ。返り討ちにしてやんよ……かかってきなっ!」
2人は互いに睨み合いながら間合いを取りつつ対峙した……。
「ちょ、スフィー!?」
「お、おい羅刹!?」
羅漢とキラが慌てて2人を止めようとするがもう遅い。
「……いくぞぉおおおおっ!!!!」
両者同時に叫び声をあげて銃を撃つ体勢に入る!
果たしてどちらが勝つのだろうか―――?!
…………パァンッ!!!!
乾いた銃声が鳴り響いたその瞬間!!!先に撃ったのはスフィ-だったのだ!
放たれた光弾は一直線に飛んでくるのだが、間一髪躱されてしまったようだ……。
(ちっ……!外したか……)舌打ちをするスフィ-だったがすぐさま第二射を放つ準備に取り掛かる。
一方の羅刹も負けじと撃ち返すもののまたしても避けられてしまったようだ……。
このままでは埒が明かないと判断した両者は一旦休戦することにしたらしい……お互いに距離をおき相手の様子を伺っている様子だ……。
「ふぅ……」
スフィアは呼吸を整えると改めて銃を構え直した!
それを見た羅刹もまた同じように身構えて迎撃態勢を取ることにしたようである……!
そんな緊迫した空気の中ついに決着がつく時が来た……!!
1発目の銃弾が命中したのは羅刹の方であった!!
「ぐはぁっ……!」
腹部に命中した一撃により苦悶の表情を見せるスフィンクス
……だがこの勝負、真剣に見えて実はおままごとレベルの“演技合戦”でもあった。
なぜなら、ペインティング光線中は、赤い印をつけるだけのおもちゃの銃だから……。
今、彼女はノリでやられたふりをして楽しんでいる。
まるで、小学生が西部劇ごっこに入り込んでるときのような感覚だ。
撃たれたスフィンクスは、それでもなお諦めず――立ち上がる!
しかしそんな彼女に対して容赦なく追撃を加える羅刹!
びちゃびちゃと赤いマーキングがスフィンクスの服を汚す。
「ヤーラーレーター!」
もう完全に調子に乗っているようだ。
そして羅刹は遂にトドメをさすべく引き金を引いた。
バタっとノリノリで死んだふりをするスフィンクス
倒れたスフィンクスに軽くデコピンをお見舞いする羅刹……その顔は手のかかる娘に苦労する母親の顔だ。
「満足した?さ、とりあえず念のため医務室に行きましょう。旦那さんと一緒にテイル先生に見てもらいなさい」
スフィンクスが、起き上がるのに手を貸す羅刹
「じゃあ僕は試合を棄権してスフィーと一緒に医務室に行きます」
キラグンターが妻スフィンクスに寄り添う。
「もう2人とも大袈裟だって!私は妊活中であって病人じゃないんだからな!まったく……」
そういいつつもまんざらでもなさそうな表情のスフィンクスを見て安堵する一同なのだった……。
「やれやれ、過保護だな……」
羅漢は、大げさにスフィーを心配する羅刹に苦笑した。
そんな中、遠くで次の銃声が響き――試合は、まだまだ続いていた。
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