乂阿戦記4 第三章 桜の魔法少女神羅と天下の大泥棒-4 第五席ジキルバイト・ルキフグス
サバゲー試合が行われる会場で観客席にいる者たちの反応は様々だったが特に目立った反応を見せている者がいた。
不気味なトカゲ顔の男だ。
その者とはVIPとして招待されたガリア公国のジルドレイ財閥会長であるジキルハイト氏だった。
彼が何故そこまで取り乱しているのかと言うと………
「おお!おおおおお!!ルシファー様!ヴァールシファー様アアアアアアアア!!叶った!!我が願いは叶った!!三聖塔の門を開くまでもなく我が麗しの大魔王様は復活なされたあああああ!!!ルシル・エンジェル!彼女こそは、我が麗しの大魔王ヴァールシファー様の生まれ変わりに相違ない!!!」
……なんと彼は発狂していた。
それもそのはず、彼の目には死んだはずのかつての主君の姿が映っていたからである。
彼はジュエルイーター共を成敗していくルシルをみて、誰と勘違いしたのか、いきなり跪いて涙を流し始めたのだ。
そんな光景を見て周りの者たちは引いていたのだが当の本人は気にしていないようだった。
むしろ周りなど眼中にないように恍惚とした表情で叫び続けている始末だ……。
……ちなみにその様子をルシル本人は全く気にすることもなく、いつも通りの優しい笑顔で観客に手を振っていた。
それが逆に、ジキルハイトの妄想をさらに加速させていた。
「……あのーすみません、この人どうしちゃったんです?」
周囲の人達があまりにもジキルハイドが不気味だったので、彼の隣に座っているゼロゼギルトに声をかけた。
レスナス・ゼロゼギルトは慌てて釈明する。
「い、いや、お気になさらず!ちょ、ちょっと連れがヒーロー"ラ・ピュセル"の活躍に興奮してしまったようですので!」
11人委員会第四席ゼロゼギルトは苦笑しながら答えた。
するともう一人の老人男性が声をかける。
「おい、お前さんたち、あまり関わらない方がいいぞ?あの男、絶対薬か何か決めてるぞ?」
「ひい、怖い!」
「け、警察を呼んだほうがいいかしら!?」
それを聞いた瞬間、ゼロゼギルトは信じられないといった表情をして絶句した。
「ひええ、やばい!目立ってる!お、おい! ジキルバイド殿! 早く会場から出てくぞッ!! お、お前らジキルハイド氏を連れて行くのをお手伝え!!」
ゼロゼギルトの手勢に担ぎ出されたジキルハイド氏は、そのまま自分達のアジトに連行されて行ったのだった─────。
さらに1時間後──────────…………………………『それではこれよりサバゲー試合の開始となります!』実況の声が響き渡った直後、観客たちのボルテージはさらに上がったように見えた。
観客席では大勢の生徒たちや保護者たちが盛り上がっており、その中にはもちろん我ら生徒会メンバーの姿もあったのだが中でも一際テンションが高かったのは無夜副会長であったと言えるだろう──────────
試合開始の合図とともに選手たちが飛び出した。
まずは雷音がプラズマ・ゼットと雌雄を決するべく飛び出し2丁拳銃でお互い近距離で打ち合う。
続いて狗鬼漢児とレッドがコンビを組んでケンジューハジキとバットーイアイのコンビに立ち向かっていった。
「へっ、ガキどもめ熱いじゃねーか!」
ケンジューハジキがニヤリと笑いリボルバーのペイント光線銃を抜く。
「受けてたとう!!」
バットーイアイが居合の構えで向かってくる若獅子二人を見据える。
「あーらら、二人とも子供の熱に当てられちゃってまあ、やれやれ、年甲斐もなく燃えちゃってるよ〜」
カイトーランマは苦笑する。
(これはジュエルウィッチハートのハントは俺1人でやらなきゃだめかな?)
そう思いチラッと横を見ると、いつの間にか隣にいたレヴェナがニッコリと笑ってウインクをした。
(やれやれ……)
カイトーは小さくため息をつくと覚悟を決めて前を向く。
そして勢いよく地面を蹴って駆け出した!
「いくぜっ!!」
今ドアーダ学園生で体内にジュエルウィッチハートを保持しているのは4人
ルシル、ネロ、雷華、白水晶の4名である。
まずは試合に見せかけ、彼女たちの体内にあるジュエルウィッチハートを抜き取る。
彼はこの試合に備え、体にいっさいの傷をつけず宝石だけを抜き取る奥義を習得していた。
そのため今回の試合では無傷で勝利することができるはずだと考えていたのだ──だがしかし最初に立ちたかった相手が悪かった。
ルシル・エンジェル
彼女は曲がりなりにも世界トップクラスのHEROだということを思い知らされることになるのだった……。
カイトーは意識を集中し盗取態勢に入る!
するとその瞬間にルシルの姿が視界いっぱいに広がったかと思うと一瞬で間合いを詰めてきたのがわかったので慌てて回避行動をとるが間に合わず右頬に一発くらってしまったようだ。
うっすらと赤いペイントマークが付いている。
驚いたが気を取り直し、すぐに体勢を立て直すことに成功し、反撃に出ることにする。
相手の動きに注意しつつ慎重に距離を詰めていきタイミングを見計らい一気に飛びかかるようにして攻撃を仕掛けることに成功するかと思われたその時、
「アポート!!」
突如落とし穴の真下にテレポートされ、早く赤い塗料のプールに音されそうになるところだった。
「うおああ!あ、あっぶねー!!」
カイトーは両足を大きく広げ、落とし穴に落ちるのかろうじで防いでいた。
「ちいー!絶対うまくいくと思ったのに、トラップに引っかからなかったぞ!」
アキンドが悔しそうに地団駄を踏んでいる。
「ちょっとちょっとあの猿顔の人、ルシルのおっぱいに手を伸ばしていたわよ?やらしい!痴漢だわ!試合にかこつけて、胸を揉もうとしたんだわ!風紀委員に突き出しましょう!!」
……見た目と違って、中身は全力で風紀モンスターな少女・絵里洲。
言葉の破壊力は、もはや銃撃並みだった。
「ば、馬鹿野郎!人聞きの悪い!冤罪やめろい!」
……実際は、偶然バランスを崩して手が胸元に近づいただけだった。だが周りにとっては、それだけで大騒動の種となった。
だが絵里洲はアキンドの背に隠れながら「エロ猿!エロ猿!」とカイトーを糾弾し続けている。
その様子を見ていた神羅は呆れ顔でため息をついたあと、小声でつぶやいた。
「まったく男ってみんないやらしいのね……」
それを聞いたリリスも苦笑いを浮かべつつ同意するように言う。
「同感だわ」
二人の呟きを聞いていたのか、それともたまたま聞こえただけなのかはわからないが、その言葉に反応したかのようにルシルが言った。
「痴漢は犯罪行為ですよ?」
「チガワイ!!誰がお前らガキの貧相な胸に興味なんかあるか〜〜!!」
思わず怒鳴るカイトーだったが、その直後、貧乳発言に怒った女生徒達からペイント手榴弾を投げつけられ、慌てて飛び退き距離を取ることに成功した。
……が!
「すーべすべすべ、滑り草!!」
間髪入れずイポスが摩擦力0の魔法を唱え、カイトーの足を滑らす。
その際にバランスを崩し転倒してしまい身動きが取れなくなってしまっていたところに、すかさずリリスとセレスティアの銃撃を仕掛けられることになったため万事休すといったところであった。
「ちょっと子供相手に何やってるのよカイトー!?」
しかし間一髪というところでバイクに乗ったレヴェナに引っ張りあげられ、どうにか事なきを得た。
「いやいや、レヴェナちゃ〜ん!このガキンチョ達を子供扱いしないほうがいいって!こいつら噂どおりすごい天才児集団だ!!」
カイトーはヒューと口笛を吹いた。
「……チッ、いいねぇ!この学園の子供は、戦場の化け物ばっかかよ! ワクワクすんじゃねぇか。怪盗冥利に尽きるぜ……!」
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