乂阿戦記4 第二章 紫の絶対無敵アイドル ブリュンヒルデの恋バナ相談-7 妄想が暴走するブリュンヒルデ
その時だった。
先ほどまでの空気をぶち破るように――。
「なになに〜!? 恋バナ? 恋バナ〜〜!?」
やたらハイテンションな声が響き渡った。
「お姉さんも相談に乗ってあげるわよ〜❤︎ やーん、こういう甘酸っぱい話、大好き〜!!」
「えっ!?」
全員が振り返る。
そこにいたのは――。
今世紀最大の《絶対無敵アイドル》。
ブリュンヒルデ、その人だった。
「ブ、ブリュンヒルデ!?」
「は〜い♡ みんなのブリュンヒルデちゃんで〜す♡」
満面のアイドルスマイル。
そして、その後ろからもう一人。
迦楼羅スモモが静かに歩いてくる。
「ドアーダ魔法学園の皆様」
スモモは至って真面目な表情で告げた。
「恋バナという非常に重要な話し合いをいたしますので――一時停戦ということでよろしくて?」
「…………」
何を言っているのだろう、この人は。
だが――。
よく見ると。
キラキラキラキラ……。
スモモの目が、ものすごく輝いている。
どうやら彼女も恋バナには目がないらしい。
「賛成〜♡」
「私も!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?」
雷華の制止も虚しく――。
こうして。
学園対抗戦の真っ最中だというのに。
両校の女生徒たちによる――。
《緊急恋愛会議》
が開催されることとなった。
◇
そして当然。
今回の議題は――。
「それで?」
ブリュンヒルデがニヤニヤしながら雷華を見る。
「雷華ちゃんは獅鳳君と、どうなりたいのかな〜?」
「なっ!?」
雷華の顔が真っ赤になる。
「べ、別に私はそういう相談をしたいわけじゃ……!」
「またまた〜♡」
「違うったら違う!」
そんな中。
「――進捗!!」
「!?」
突然、白水晶が声を上げた。
全員の視線が集まる。
白水晶は腕を組み、恐ろしく真剣な表情を浮かべていた。
まるで――。
これから戦場へ赴く軍師のような顔である。
「雷華さん!」
「は、はい!?」
「好きな殿方ができたのであれば――積極的にアタックするべきと思われる!!」
「好きな殿方って……!」
「積極的なアプローチこそ肝要!!」
ズバッ!!
白水晶が雷華を指差した。
「ソースは我が主の妹君――ミリル様!!!」
「ミリル!?」
「然り!」
白水晶が力強く頷く。
「ミリル様は雷音様へ猛烈なスキスキアタックを開始して以降、確実に雷音様から異性として意識されるようになった!」
「スキスキアタックって……」
神羅が苦笑する。
だが白水晶は大真面目だった。
「今や雷音様の陥落は時間の問題! あと一押しと思われる!!」
「勝手に兄様を陥落させないでよ!」
「故に!」
白水晶は雷華へビシッと親指を立てた。
「雷華さんもミリル様を参考にすればよろしいかと!!」
「…………」
一同は考え込んだ。
最初に口を開いたのは絵里洲だった。
「……意外と正論じゃない?」
「えっ!?」
「待ってるだけじゃ何も始まらないってことでしょ?」
神羅も頷く。
「確かにミリルちゃん、雷音に対してものすごく積極的だものね」
「…………」
雷華が考え込む。
確かに――。
一理ある。
問題があるとすれば。
「でも獅鳳君って……」
神羅が苦笑した。
「雷音以上に、そういうことに鈍感そうなのよねぇ」
「そこなのよ!」
絵里洲も頷く。
龍獅鳳。
正義感が強く、真っ直ぐで、実直。
――そして。
恋愛方面については、恐ろしく鈍い。
生半可なアプローチでは気づいてすらもらえない可能性がある。
「う〜ん……」
雷華が頭を抱える。
すると――。
「任せなさい!」
バンッ!
ブリュンヒルデが自分の胸を叩いた。
「こういう時こそ、このブリュンヒルデお姉さんの出番よ!」
「ほ、本当!?」
「もちろん♡」
絶対無敵アイドルは得意げに人差し指を立てた。
「まず一つ!」
「う、うん!」
「笑顔!」
「笑顔?」
「そう! 好きな人と一緒にいる時は、やっぱり楽しそうに笑うこと! これは大事よ〜♡」
「なるほど……!」
雷華が真剣に頷く。
「二つ目! 手作り料理!」
「料理……」
「胃袋を掴むっていうでしょ? 上手い下手より、一生懸命作ってくれたってことが嬉しいのよ♪」
「おお……」
なかなか真っ当なアドバイスである。
「そして三つ目!」
ブリュンヒルデが雷華の肩を掴む。
「デート!!」
「デ、デート!?」
「そうよ♡ 二人でいろんなところへ行って、いっぱい思い出を作るの!」
「ふ、二人で……」
「最初は遊園地とか水族館でもいいわね〜。それで帰りは夜景の綺麗な場所に行って……」
「夜景!?」
ブリュンヒルデの瞳が徐々に夢見る乙女のものへ変わっていく。
「そこで二人きりになって……」
「う、うん……」
「そっと手を繋いで……」
「…………!」
雷華の顔が赤くなる。
「それから――」
ブリュンヒルデは自分の身体を抱き締めた。
「後ろから、ぎゅ〜〜って抱き締められて……♡」
「えっ!?」
「耳元で優しく囁かれるの……」
その顔が完全に夢見る乙女になった。
「『ずっとお前のことが好きだった』――って♡」
「〜〜〜〜ッ!!」
雷華の顔が真っ赤になる。
スモモまで頬を赤らめた。
「ブ、ブリュンヒルデ様……」
しかし――。
ブリュンヒルデは止まらない。
「それで私が『レッド……私もよ♡』って答えたら――」
「…………」
全員が固まった。
「そのままレッドが私の顎をクイッて持ち上げて……」
「…………」
「顔がどんどん近づいてきて……♡」
「…………」
「そして――」
ブリュンヒルデの鼻から。
ツ――。
赤いものが流れた。
「んふぅぅぅ〜〜〜〜♡♡♡」
「…………」
雷華が恐る恐る尋ねる。
「……あの」
「ん〜?♡」
「今……レッドって言わなかった?」
「…………え?」
ブリュンヒルデが固まった。
「…………」
周囲を見回す。
全員が無言で彼女を見ている。
「…………あ」
ようやく気づいた。
「これ……」
ブリュンヒルデの顔が真っ赤になった。
「私の妄想だぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
ブシュッ!!
鼻血が噴き出した。
「おい」
そこへ。
呆れ果てた声が飛んできた。
「そろそろ戻ってこい、ブリュンヒルデ」
「フ、フレアちゃん!?」
ブリュンヒルデの目の前に立っていたのは――。
フレア。
そして彼女は現在。
ブリュンヒルデと同じ男――レッドに想いを寄せる、恋のライバルでもある。
フレアはジト目でブリュンヒルデを見た。
「それ、雷華へのアドバイスじゃねぇだろ」
「ち、違うの! これはあくまで一般的な恋愛の話で……!」
「どこがだよ」
フレアが即答する。
「途中から完全にお前がレッドの兄貴にしてもらいたいことになってたじゃねぇか」
「うっ!」
図星。
「それにアンタ、そういう恋愛の本とか読みすぎなんじゃねぇの?」
「そ、そんなことないもん!」
「じゃあ何でそんなに具体的なんだよ」
「そ、それは……!」
「へぇ〜?」
フレアの眉が僅かに動いた。
「ずいぶん楽しそうに、レッドの兄貴との妄想してたじゃねぇか」
「フ、フレアちゃん?」
「何だよ」
「……なんでちょっと怒ってるの?」
「怒ってねぇよ!!」
即答だった。
「いや、怒ってるでしょ」
絵里洲が冷静にツッコむ。
「怒ってねぇって言ってんだろ!!」
「ほら怒ってる」
「うるせぇ!!」
「…………」
ブリュンヒルデは一瞬ポカンとした後――。
何かに気づいた。
「もしかして……」
ニヤッ。
「フレアちゃん、妬いてる?」
「はあああああ!?」
今度はフレアの顔が真っ赤になった。
「誰が妬くかぁぁぁぁ!!」
「え〜♡ 怪しいなぁ〜♡」
「テメェ! 鼻血止めてから言いやがれ!!」
「きゃ〜♡」
「逃げんな!!」
「……あの二人も大概ね」
絵里洲がため息をつく。
神羅も苦笑する。
「まあ……仲が良いということで」
「どこをどう見たらそうなるのよ」
一方。
雷華は――。
「…………」
顔を真っ赤にしたまま、完全に固まっていた。
頭の中では。
(獅鳳とデート……)
(手を繋ぐ……)
(抱き締められる……)
そこまで想像して――。
「〜〜〜〜ッ!!」
ブンブンブン!!
激しく頭を振った。
「無理無理無理無理!!」
「雷華?」
神羅が心配そうに顔を覗き込む。
「顔真っ赤だけど、大丈夫?」
「だ、大丈夫!」
そこへネロも心配そうに近づいてきた。
「おい、本当に大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「だ、大丈夫だと言っている!」
雷華は大きく深呼吸する。
「すぅ〜〜……はぁ〜〜……」
そして。
ようやく落ち着いたところで、皆を見る。
「あのね……」
先ほどまでとは違う。
少し真剣な声だった。
「勘違いしてほしくないんだけど……」
雷華は自分のペインティング光線銃を、ぎゅっと握った。
「私は別に、今すぐ獅鳳と付き合いたいとか……そういうことを相談したかったわけじゃないんだ」
「雷華ちゃん……?」
「ただ……」
少しだけ俯く。
「獅鳳の前だと、どうしてもぎこちなくなっちゃうから……」
いつもなら言いたいことをハッキリ言える。
喧嘩だってできる。
怒鳴ることだってできる。
なのに――。
獅鳳を意識した途端。
どうしていいのか分からなくなる。
「だから神羅姉様や絵里洲みたいに……男子と自然に仲良くできるコツを聞きたかっただけなんだ」
「…………」
先ほどまで騒いでいた少女たちが、静かになった。
雷華は恥ずかしそうに笑う。
「……とにかく私は、もっと自然に接したいんだ」
そして――。
小さな声で続けた。
「変に気取らずに……」
その脳裏に。
獅鳳の笑顔が浮かんだ。
雷華の表情も、自然と柔らかくなる。
「獅鳳と――普通に笑い合えるように」
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