乂阿戦記4 第一章 蒼の魔法少女狗鬼絵里洲の子守騒動-7 ジュエルウィッチイーター
4人は近くの公園のベンチに腰かけ、自然と話を始めた。
最初はどこかぎこちなかったが、次第に緊張もほぐれ、会話は和やかに弾みはじめる。
やがて、スフィンクスとシルフィスが無邪気にボール遊びを始め、残されたキラグンターと羅刹は、自然と一対一の会話となった。
「あと半年ほどで、スフィーにお子が生まれますね」
「はい」
羅刹が問い、キラグンターが静かにうなずく。
そして、少し言いにくそうに、羅刹は口を開いた。
「不躾ですが、学校はどうするおつもりですか?」
「ボクは学園を辞めて働きます。でも、彼女には……スフィーには、ちゃんと卒業してもらいたい。クレオラたち友人と笑って過ごして、立派に学園を終えてもらいたいと思っています」
「どんなお仕事を?」
「研究職です。研究の過程で取得した特許がいくつかあって、それで生活費はなんとか……あとは投資で、多少運用しています」
「……そうですか」
羅刹はその言葉を聞くと、しばらく考え込むような沈黙を置いた。
そして顔を上げると、ふと口を開いた。
「実は、あなたにお願いがあります。もしよろしければ、私の願いを受けていただけますか?」
唐突な申し出にキラグンターは目を丸くする。
だが、そのまなざしが真剣なものであると察し、静かに応じた。
「……願い、とは?」
「簡単なことです。あなたの妻を、守り通してほしいのです」
「……守る、とは?」
「そのままの意味です。彼女が安心して暮らせるよう、どうか……守ってあげてください」
それだけを言い残し、羅刹は再び沈黙した。
その横顔には、言葉では説明できない寂しさが宿っていた。
やがて彼女は、ぽつりと語り出す。
「……あの子の父、アング・アルテマレーザーは巨人族の王で、武闘派の至上主義者でした。かつて、王にはラスヴェードという娘がいました。彼女は王女として育てられ……いや、育てられたというより、“鍛えられた”のです。愛情ではなく、使命を押し付けられて」
――最強の魔女。
「でも、彼女が人として、女として幸せだったのかと問われたら……おそらく、答えは『いいえ』でしょう」
続く言葉の端々に、ただの回想ではない何かが滲んでいた。
キラグンターは、黙って耳を傾けていた。
「後にアング王は、私の叔母である乂華音――ラスヴェード唯一の親友と再婚し、スフィーが生まれました。華音は戦傷を負っていたため、ラスヴェードに育児を頼んでいて……スフィーは、彼女を本当の母だと思って育ちました」
「ですが、彼女は……エクリプス大戦で、女神ユキルとの一騎打ちの末に亡くなりました。スフィーはまだ三歳。彼女のことは覚えていないでしょう。でも、きっと……ラスヴェードは最後まで、あの子の未来を案じていたと思うんです」
長く重い沈黙のあと、キラグンターは一言だけ、たずねた。
「……貴女が、“そのラスヴェードの生まれ変わり”というのは……事実なのですか?」
彼女は、答えなかった。
ただ、静かに視線を逸らすだけで――だが、その沈黙こそが何よりも雄弁だった。
そして羅刹は、再び口を開いた。
「……もし今後、あなたに万一のことがあったらと思うと、私はとても不安です。どうか、味方を増やしてください。スフィーは私の父、乂舜烈の姪。有事には乂族を頼ってください。我が母ホエルも、スフィーをわが子のように大切に思っています」
そして、声を絞り出すように続けた。
「ご実家のドラゴニア家と和解し、防衛協力を……。スフィーの父アング王は、決して油断ならぬ人物です。強い後ろ盾を持って、備えてください」
それだけ言い終えると、羅刹は小さくうつむいた。
「……差し出がましい発言、どうかお許しください」
キラグンターは静かに、そして確かに、うなずいた。
(スフィーのことを……この人なりに、ずっと考えてくれてたんだ)
――その思いが、確かに伝わったからだ。
こうしてふたりは、静かに約束を交わし、別れを告げた。
立ち去るキラグンターとスフィーの背に向けて、羅刹はひとり、深く頭を垂れた。
「スフィー……いい旦那さんを見つけたな。どうか、幸せになっておくれ……」
******
***
その頃、とある場所で……。
絶対無敵アイドル・ブリュンヒルデとメフィストギルド副首領クレオラはアカデミア学園代表として子守競争に参加していた。
子守の対象は魔法学園小学部1年峰場アテナである。
クレオラは黒髪黒ドレスの18歳少女であり、ブリュンヒルデはまだ幼さを残す顔立ちをした黒紫髪の少女だった。
峰場アテナは金髪碧眼の6歳の女の子だ。
そんな彼女たちは今、なにをしているかというと――逃げていたのだ!!
「ねえクレオラさん、私達つけられてるみたいよ……」
「そうみたいねブリュンヒルデ。尾行してきてるのはアナタの危ないファン? それともワタシを狙う反巨人族勢力のテロリスト?」
クレオラが肩をすくめながら冗談めかす。だがその言葉の裏には、本物の警戒心があった。
だがその時、彼女たちの前に黒い車が急停車し――状況は、一変する。
「やあお二人さんこんにちは~!今から僕の家まで来てくれませんかねぇ~!!」
男はそう言いながらナイフを取り出し襲いかかってきたので3人は慌てて逃げ出したのだった……!!
彼女達は並のゴロツキなど軽々と返り討ちに出来る手練れだ。
だがどうも自分達を付け狙う男達には、ただならぬ気配を感じる。
だから戦士の勘に従いその場は逃げた。
だが男が追っかけてくるため仕方なく人気のない路地に逃げ込んだのだがそこには更に銃器をもった数人の男たちが待ち構えていたのだ……!
誘い込まれたのだ!
しかも彼らの持つ武器は全て本物であり、それどころか強力な魔力付与が施されてることが一目で分かる。
敵は威圧感があり、まさに絶体絶命の状況だった……!
もうダメかと思ったその時、どこからか声が聞こえてきたではないか!?
「待ちな、ジュエルウィッチイーター共……」
「なんだ貴様は!?」
声の主の正体は誰だかわからなかったが今はそんなことどうでも良かった。
とにかく助けが来たことに安堵しつつ藁にもすがる思いで助けを求めたのである。
「おおおおお、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオララララララアアアアア!!」
するとそれに応えるようにその男は剛拳の連打で人攫いの男達を次々と薙ぎ払っていき、あっという間に全員倒してしまった。
助かったと思い、礼を言おうとした瞬間には――
彼の姿はもう、夕暮れの路地の彼方へと消えかけていた。
ただひとこと、背を向けたまま残したのは。
「やれやれだぜ。ジュエルウィッチイーター共が動いてやがる」と…………
それだけ言うと銀河連邦ヒーローランキング一位の男フェニックスヘブンは足早にその場から去って行ってしまったのである。
https://www.facebook.com/reel/796308499297928/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール




