乂阿戦記3 終章 最強でQ極のZ対無敵アイドルs‼︎-9 フレアの和解
無事合流を果たした一行はこれからどうするか話し合いを始めることにした。
「まずは今後についてだけど……」
まず最初に話を切りだしたタット先生の言葉に一同耳を傾ける。
そんな中、漢児はふと気づいたように口を開いた。
「そういやさ、みんなどうやってここに来たんだ?」
彼らはそれぞれ別の場所にいたはずだ。
全員バラバラだったはずなのに、いつの間にかここに集まっている。
そのことに驚く彼らに、ボマー将軍は答えた。
「吾輩が呼んだのである」
「えっ!?」
その言葉を聞いた瞬間、全員が驚いた様子を見せた。
そして次に疑問に答えたのはルシルであった。
彼女はおずおずと回答を口にする。
「あの……ボマー将軍は魔法学園の体育教師も兼ねまして、同僚のタット先生に連絡を取って私達クラスの皆を集めてもらうよう頼んだそうなんです」
その言葉に続けて、タット先生が説明を加える。
「ちなみに君たちの居場所を特定するには私のダウジング能力が役に立ったんだよ?それで君達の位置を特定し、あとはまあ色々あって合流したというわけだね」
……なるほど、確かにそれなら納得できる話だと皆が思った。
その声は、誰もいないはずの背後から――まるで闇そのものが囁いたように響いた。
空気が凍りつく。甘く毒を含んだ、黒薔薇の香りのような気配が満ちていく。
振り返った一同の視線の先――そこに立っていたのは、漆黒のゴスロリドレスに身を包み、深紅の瞳を煌めかせる蠱惑の乙女。
“あの”クレオラ・フェレスが、優雅に微笑んでいた。
その微笑みは、毒にも薬にもなる。
味方にすれば百人力、だが敵に回せば世界が終わる。
そう思わせる何かが、確かに彼女にはあった。
「クスクス、ハクア・プロジェクトで活躍した皆さんに、ぜひ協力を仰ぎたいと、ドアダやオリンポスの方々に交渉を持ちかけましたの」
振り返るとそこに居たのは意外な顔ぶれだった。
彼女を見たフレアが息を飲んでその名を口にした。
「……クレオラ」
その名を聞いた途端、場の皆が一気に緊張感に包まれる。
それもそのはず、今目の前にいる少女こそ自分達が対立している巨人族の組織、メフィストギルドの副頭目だからだ。
そんな彼女達の様子に気づいたのか、当の本人は苦笑い気味にこう言った。
「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。あなた達とは敵対するつもりはありませんから、今は安心してくださいな」
「……その言葉を鵜呑みにすることは出来ないぞ」
ボマー将軍が厳しい口調で言うと、少女は困った顔を浮かべる。
「……まあ、信用されないのも無理はありませんわね。私たちがやってきたことを考えれば当然ですもの。でも――今は、それよりも優先すべきことがあるんです。敵味方に関係なく、世界が壊れようとしている。その現実だけは、皆さんも否定できないでしょう?」
するとそこへ別の人物が割り込んできた。
その人物を見て、誰もが驚愕の表情を見せる。
なんとブリューナクのリーダーである、ゼロ・セイラではないか!
「あっれー? なんか大勢集まってんねー? クレちゃんの事なら心配ないよ。 彼女悪党だけど筋を通す悪党だから。彼女巨人族の同胞を解放する為に無茶するけど、それと同じくらい巨人族が地球でちゃんと生活できるよう考えて行動を起こしているからね〜。まぁきちんと話が通じる相手ってことさ」
そう言ってケラケラ笑うゼロ・セイラに対し、クレオラはやれやれとため息をつくのだった。
その後しばらく話し合っていると突然ドォン、と大地を殴りつけるような轟音。
次の瞬間、世界そのものが軋むかのように揺れ始めた。
「な、何だ!?」
誰かの叫びに呼応するように、天が裂ける。
見上げた空に、狂風を巻き上げて飛翔する巨影。
全翼を広げ、禍々しき咆哮を轟かせる――ケイオステュポーンだった。
その咆哮に共鳴するように、大地が割れ、そこから――“巨人”たちが、次々と、湧き上がってくる。
おそらくアレが地震の原因だろうと思われる。
その様子を見ていた漢児は険しい顔で呟いた。
「どうやらアイツを止めない限り、この世界を救うことは出来なさそうだぜ」
それを聞いて、その場にいる全員が頷いた。
ゼロ・セイラが皆を煽る。
「そのためにもユミルの楽譜をまた起動しないとねー☆ クトゥルフ戦争の時みたく12人の魔法少女を揃えてスペシャルなライブをかましてやろうじゃないか! 今回はアテらブリューナクに加えてザ・メフィストも参戦だあ!!」
それを聞いた仲間達の表情がパッと明るくなった。
「お?ってことはまた戦艦アルゴー号を起動するのか?」
『やったーー!!』
喜びのあまりはしゃぐ仲間達であったが、ここでフレアが待ったをかける。
「ちょっと待て、アルゴー号は地球防衛軍の船だろ? そんなホイホイ勝手に使えたりするもんなのか?……そもそも民間人のあたしらはどうやってあの船の入船許可を貰えばいいんだ??」
そう言われると確かにそうだと皆思ったようで、どうしたものかと考え込んだ。しかしそこでまた新たな助っ人が現れたのである。
それは何とハクア・プロジェクトCEOゼロ・カリオンであった。
「心配すんな。今、アルゴー号は俺の個人的所有物だ」
「え!?」×一同
驚くのも無理はない。
「……軍の戦艦が!?」
「百年前の試作艦さ。今じゃ廃艦扱い、名義は俺の会社。つまり……俺のオモチャってわけだ」
ぽかんと口を開ける一同。
「戦争を変えるのは、意志と――道楽だ」
ゼロ・カリオン(乂阿門)はタバコに火をつけながら説明する。
「道楽者の金持ちが軍の戦艦を購入することは、必ずしも珍しいことじゃねえぜ。戦艦は巨大で強力な兵器であり、道楽者の金持ちにとっては、富と権力の象徴となるもんだ。つまり軍の関係者は今は誰も使ってねえって事だな! なのにインビジブルオーガめ、軍による威圧をかけたって難癖をつけてきやがって……」
そう言ってゼロ・カリオンはクレオラの方を見る。
クレオラはそっぽを向いて知らんぷりをする。
ともあれ、言われてみればその通りだと思ったらしい。
全員納得したようだ。
そんな彼等を尻目に、いつの間にか近くにやって来ていたスフィンクスが、ゼロ・カリオンに向かってこう告げる。
「お、おい阿門、お前アング父さんにアポ取って色々話し合ったって本当か?」
「ああ、本当だ。反乱でタイラント族長の首が変わった後も、アルテマレーザー家とは太いパイプが残ってるんでな。クレオラを仲介役に取り引きをした。とりあえずこの星の危機について説明した上で、タルタロスの巨人達の難民申請を認可する代わりに、ケイオステュポーン本体の活動休止に協力して欲しいと言ってみたら承諾してくれたよ。」
「そ、そうか……」
ホッと安堵の息を漏らすスフィンクスだったが、そんな彼に対してゼロ・カリオンはある提案をする事にした。
「ところでスフィンクス、親戚のよしみでお前も協力してくれないか? お前の持っている巨人王の血と歌の力があれば今回の難局、何かと役に立つと思うんだが……どうかな? 橙色の魔法少女として歌を歌ってみる気は無いか?」
「えっ!? いやアタシは別にそんな大した事はできねーよ!そ、それにもう18だし、妊娠してるし、魔法少女ってガラじゃねーよ!」
慌てて断ろうとするスフィンクスに、乂阿門は優しく笑いかけながら言う。
「謙遜するな、お前は充分チャーミングな魔法少女だ。俺が保証してやるよ。なあ?旦那さんもそう思うだろう?」
そう言って乂阿門はスフィンクスの夫キラグンターに声をかけた。
すると彼は照れくさそうに頭をかきつつ言った。
「いやあ、ははは、そう言われると悪い気はしないけどなぁ~。うん、そうだね。可愛いです、ボクの嫁さんは」
そう言われてますます顔を赤くするスフィンクスだった。
そして他の皆もまた、その微笑ましい様子をみて思わず微笑んでしまうのだった。
フレアは、おずおずと二人の前に進み出た。
その目は、どこか決意を帯びている。
見守る母・クリームヒルトと義兄・レッドは、思わず固唾を呑んだ。
この瞬間、彼女が何を語るのか――誰もが息を止めていた。
「……あのな、スフィー、キラ……」
フレアは絞り出すように、口を開いた。
「あたしは……あんたたちが、父さんを殺した張本人だと思ってた。……いや、今でも……全部、許せたわけじゃない」
その一言に、場の空気が凍りつく。
張り詰めた沈黙が、全員の胸を刺す。
だが次の瞬間、フレアの声音が変わった。
震え、滲む涙をこらえながら、それでも確かに、言葉を紡いだ。
「……だけど、それでも――どうしても、あんたたちのこと、憎めないんだよ。家族みんなでキャンプに行って夜、焚き火を囲んで笑い合ったこと。
あたしの記憶にある、あの笑顔を、どうしても消せなかった。」
彼女の瞳が潤む。
「だって……あんたたちは、あたしにとって《家族》なんだから」
その言葉に、誰もが息を呑んだ。
クリームヒルトが手を口元に当て、レッドが目を見開く。
アクアですら、じっとフレアの後ろ姿を見つめていた。
やがて、空気がやわらぐ。
あたたかな風が、そこに吹いたかのように。
「……まったく、お前らしいっていうかさ。……よく踏ん切りつけたな」
アクアが、そっとフレアの頭に手を乗せる。
「……家族ってのはな、簡単には壊れねえ。だから、お前のその想いも、きっと伝わるさ」
アクアが、そっとフレアの頭に手を乗せる。
くしゃっと髪をかき回されながら、フレアは照れくさそうに笑った。
そして――彼女は、改めてキラグンターとスフィンクスに向き直る。
「正直言うと……まだ心のどっかに、モヤモヤしたもんはある。けどさ……あの日、私たちが襲撃された時、あんたたちはまだ十二歳の子供だった。ロキも言ってた。全部、メフィストおじいちゃんに利用されてたんだって」
彼女の言葉に、キラグンターとスフィンクスは小さく目を伏せる。
フレアは、そっと続けた。
「アルテマレーザー家に戻るつもりはないんだろ? だったら――これからは、あたしたちと一緒に暮らしてくれ」
そして――
「今度、生まれてくるその子を、アタシにも抱っこさせてよ。あんたたちが《家族》だって、証にさせてほしい」
その瞬間だった。
スフィンクスの瞳から、堰を切ったように涙がこぼれた。
キラグンターもまた、ぎゅっと妻の肩を抱きしめる。
「……うん、ありがとう……フレアちゃん……ありがとう……!」
二人は泣きながら、深く頭を下げた。
フレアもまた、目を赤くしながら微笑む。
周囲にいた仲間たちも、思わずもらい泣きしてしまう。
家族の名のもとに結ばれた、小さな再生の奇跡――
その場にいた誰もが、言葉ではなく、心で理解していた。
(……本当に、あの子は強くなったな)
クリームヒルトがそっと目を伏せながら、静かに涙を拭った。
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↑イメージリール動画




