乂阿戦記3 第六章 水色の初代魔法女神イサカ・アルビナスとクリームヒルト・ドラゴニア-5 デキちゃった婚
神出鬼没の変身ヒーロー――ロート・ジークフリード。
銀河連邦No.1HEROとして、彼は犯罪組織の陰謀を幾度となく阻止してきた。
だがある日、その正体がついにメフィストギルド総帥・Dr.メフィスト・フェレスに知られてしまう。
仮面の下にいたのは、彼の実の息子――シグルド・スカーレットだったのだ。
偶然シグルドの正体を知ってしまったキラグンターとスフィンクスが、メフィストにロート・ジークフリードの正体をウッカリ漏らしてしまった。
シグルドは父から実家に呼び出されていた。
(ちぃっ!子供に正体がばれるとは迂闊だった……)
シグルドが歯噛みする中、背後から忍び寄ってきていたメフィストフェレスが嘲笑うように話しかけてきた。
「ふふふ、久しぶりだな我が息子、いや違うな……今やお前は立派な我々巨人族の裏切り者だ」
「……父さん……」
「どうした?随分と暗い顔をしているじゃないか。無理もないか、今までずっとボクを騙していたんだからな」
「……」
「なぜだ?なぜボクを裏切った?そんなにも家族をないがしろにし、巨人族解放運動にのめり込むボクが憎いのか!?」
「…………違うよ父さん。父親の間違いは息子である俺が正さないといけない。そう思ったから俺はロート・ジークフリードになったんだ………」
「ふざけるな!!ラグナロクの時代を生きていないお前に巨人族の悲劇の何がわかる!? 人間や神々に邪神を倒す兵器として散々利用され、あいつらの勢力争いに巻き込まれ戦争の道具として使い潰され、最後には危険だからとタルタロスの奥底に多くの仲間が封印されてしまった!! それでもボクは諦めなかった! いつか必ずこの苦しみに満ちた種族を悲劇から解放してやると心に誓ったのだ!!」
「……父さん、この際だからはっきり言う。父さんがやってるのは巨人解放運動なんかじゃない。ただのテロ行為だ。あなたはただ自分のエゴを満たしたいだけなんだよ」
「黙れぇぇぇっ!!!!」
シグルドの言葉に激昂したメフィストフェレスが拳を振り上げ襲い掛かってきた。
だが拳は振り下ろさない。
父は息子を殴れなかった。
二人はそのまま睨み合いになっていた。
いや、正確にはメフィストフェレスだけが一方的に睨んでいただけなのだ。。
その目は怒りに満ち満ちていて、まさに鬼の形相であった。
まるで全身の血が沸騰しそうなほどに熱い憎悪と殺意が込められているようであった。
「……確かにボクは君の言う通りテロ行為を犯したのかもしれない……でもそれが何か問題でもあるのかい? だって考えてもごらんよ? 最初はテロと罵られようが最後に勝てば、官軍なのは世の常じゃないか! それだけの戦力が巨人族にはあるんだ!! 巨竜王様が復活し、巨人族の真の力が解放されれば、人間は滅び去り神々も滅ぶ! それこそ僕たちの望む最高の結末ではないか! なあシグルド! 君もそう思うだろう!? 君は巨人族の誇り高き戦士として、人類の支配者になるべきなんだ! そうすれば、君にも理解できるはずだ! 本当の意味での平和がいかに尊いものなのかを!」
そう言って、恍惚とした表情で天を仰ぐメフィストフェレス。
その姿からは、かつての父の威厳など微塵も感じられなかった。
それどころか、どこか禍々しさすら感じられるほどであった。
(だめだ……父さんの説得は難しい……)
シグルドは落胆した。
かつて、自分に対して優しかった父の面影はもうどこにもない。
もう何を言っても無駄であろう。
自分はこの人を止めることはできないかもしれない。
そんな思いが脳裏を過った。
その時だった。
「いい加減にしろぉおおおおおおおおおっ!!!!」
突然響き渡る怒号とともに、誰かが飛び込んできた。
それは一人の少女だった。
歳は10代半ばくらいだろうか?
少女はメフィストフェレスに飛び蹴りを見舞ったかと思うと、即座に体勢を整え着地するなり叫んだ。
「お前が人類を支配するなんて許さないぞ!悪の総帥メフィストフェレス!お前はアタシが倒す!!」
ビジッとヒーローポーズを取るその少女は、シグルドの後の妻クリームヒルトだった。
「うわー、父さん!父さんしっかりしてえええ!!」
泡を吹いて倒れているメフィストをシグルドが介抱しているのを見て、クリームヒルトが目をぱちくりとした。
「あれ?お父さん?メフィストギルドの総帥がシグ君のお父さん?え??どゆこと??」
混乱するクリームヒルトを尻目に、メフィストは怒りの形相を浮かべ立ち上がり、攻撃魔法を放とうとした。
「ストップ!ストーップ! 父さん! クリームは父さんの親友のファウスト博士の娘さんだよ!!今銀河連邦警察で一緒に働いてるんだ!」
慌てて止めに入るシグルドだったが、時すでに遅し、メフィストは完全にキレてしまっていた。
「おのれぇええ小娘えええっ!!!許さん許さんぞおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
突如発狂したように暴れ出すメフィストフェレス。
その姿はもはや正気とは思えなかった。
彼の全身からはドス黒い瘴気のようなものが溢れ出していた。
そしてその手にはいつの間にか一本の魔法剣が握られていた。
それを見たシグルド達は驚愕すると同時に確信したのだった。
これはまずい、このままでは確実に殺し合いになると。
そして事態はさらに混沌としていくことになるのである。
横から現れた男がメフィストの魔法剣を握り潰し、メフィストをジロリと睨み脅しつけてきたからだ。
その男は、メフィスト配下のボディーガードたちを、軽々と全員ぶちのめしたあとだった。
「ファ、ファ、ファ、ファウスト〜!? お前がなんでこんなところに!?」
何を隠そうその男こそはクリームヒルトの父Dr.ファウストだった。
「フン、シグルドがお前の息子だったとはな……久しぶりだな」
「ど、どうしてここに?」
「………娘が妊娠している。………ことと次第によっては、娘を孕ませた男をブチ殺してやろうとここに来た。………だが、まさか相手がお前の息子だったとは
な」
ファウストの眼光は鋭かった。
「いや、ま、待ってくださいお義父さん! 僕は彼女を逃げるつもりなんて一切ありません! クリームを傷つけたわけじゃない。ただ、僕の避妊が……甘かっただけで……責任は全部、僕にあります!」
アタフタと必死に弁明をするシグルドに対し、ファウストは冷ややかな目で見つめ返すだけだった。
「……そうか、ならば、お前の覚悟を見せてみろ。この俺に本気を示してみせろ。そうでなければ俺はお前を息子と認めない」
ファウストはそう言いながら、持っていた結婚同意書の紙を差し出した。
「そ、そんな……」
「………やはり死ぬか?」
「うああああ!結婚します。結婚します!」
シグルドが絶望し、クリームヒルトが感激にひたっていると、今度は別の男の声が響き渡った。
「おいゴラァああシグルドおおお!てめえこの馬鹿弟子〜〜っ! 私の義娘に手を出したのはテメェかあああ!?」
怒鳴り込んできたのはシグルドの師匠にしてクリームヒルトの育ての親パピリオだ。
「げっ、お師匠!? ち、違いますって! 俺はなにも……なにもして……いや、ちょっとは……セ……しましたけど、でも悪気は……なかったんですっ!!」
「……ほう、とぼけるのか? 赤子を認知しない気か? いい度胸だな?」
ファウストの目がギラリと光った。
パピリオも鬼神剣と狂王刀を抜刀している。
「ひいいっ!?ちょ、ちょっと待ってぇ……!」
クリームヒルトがシグルドをかばうように前に出る。
「もうお父さんにパピィー!私のお腹の中にはシグ君の赤ちゃんがいるんだからね! お腹の子からお父さんを奪っちゃだめよ!」
「はっ、そういえばそうだったわね。オホホ、悪い悪い」
そう言って剣を納めるとパピリオはシグルドを見た。
「シグルドちゃん❤︎ちゃんと婚姻届にサインを押すわよね?……すぐ押せ!はよ押せ!!さっさと押せいっ!!!!」
師匠に凄まれてはシグルドはサインを押すしかなかった。
「……すまなかった、シグルド。どうやらお前を誤解していたようだ。許してくれ」
婚姻届にサインを押したことに満足したファウストは、シグルドに頭を下げた。
「い、いえ、いいんです。わかってくれればそれで……」
シグルドは、心の中で一筋の涙を流し、気楽な独身生活に別れを告げた。
メフィストはそんな怒涛の展開を、アングリと口を開けたまま唖然とした顔で見つめていた。
そんなメフィストの後から鈴のような声が聞こえた。
「ふふん、お兄様もなかなかやるじゃない。見直したわ」
そういって現れたのは、黒いドレスを着た美しい6歳位の少女だった。
彼女は黒髪をなびかせながらシグルドに近づくと、そのままうれしそうに抱きついた。
「ク、クレオラ?なぜここにいる?」
メフィストの問いにクレオラが答える。
「クリームヒルトお姉様がご懐妊なさったと聞いて、お姉さまのご両親を我が家にお招きしたの。だって孕ませたのお兄様だし、さっきまで私が皆さんをおもてなししてたのよ♪」
その言葉に一同は戦慄した。
(((この子、兄と父が殺し合いにならないよう私たち全員を謀って動かしたな……)))
しかし誰もそれを指摘することはなかった。
そんな雰囲気を打ち破るように、ファウスト博士が咳払いをする。
「ゴホン!あーなんだそのー、みなそろそろ本題に入ってもいいかね?」
一同が注目する中、ファウストは語り始めた。
「メフィスト、クリームヒルトのお腹にはお前の孫がいる。その孫から父親を奪うような真似はするな。言ってる意味はわかるな? そしてシグルド君。君は今日限りメフィストギルドには関わるな。宇宙刑事も変身HEROロート・ジークフリードも引退するんだ。この場はそれで手打ちにしないか? ちなみにメフィストが断ればワシはメフィストギルドを潰す。シグルドが断れば銀河連邦を潰す。どうする?」
この言葉に2人は狼狽したが、やがて意を決したようにファウストに向き合った。
「「わかった、それでいい」」
2人の答えを聞いて満足そうに頷くと、ファウスト博士は宣言した。
「では決まりだ。これより我々は親戚同士だ。よろしくな」
ファウストの一言により、宇宙を巻き込んだ因縁はひとまず幕を下ろした。
……だがそれは、“静けさの序章”にすぎなかった。
そして――6年の歳月が流れる。
銀河の運命を再び揺るがす嵐が、いま静かに迫っていた――。
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