乂阿戦記3 第五章 巨竜王ケイオステュポーン復活計画-12 スペシャル対バン発生 vsザ・メフィスト
「とまあ、そんな感じで交渉成立したのよ。お父様」
「そうか〜、それは大変だったねえ」
にこやかなクレオラに対し、メフィストは頭を抱えていた。
(まったく、どいつもこいつも勝手ばっかりしやがって……頭いてぇ……)
――その時、扉が静かに開いた。
「あら〜、みんなお揃いなのね〜」
現れたのは、手のひらサイズの妖精。
黄緑の髪を揺らしながら、にっこりと微笑むその姿は、年齢にして見た目10歳前後。
小柄で可憐な身体つき……だが、纏う魔力は圧倒的で、場の空気が一変した。
「……ティンク。早かったわね」
クレオラの声に応じ、妖精はくるりと空中で一回転。
**ポン!**という音とともに人間サイズへと変身し、クレオラに抱きついた。
「クレちゃーん、スフィー元気だったー?もう立ち直った?落ち込んでる〜?」
フルーツの香水がふわりと漂う。
その無邪気な距離感と甘えた声――一見すればただの“可愛い女の子”だが、
その裏にある“見てはいけない何か”の気配に、他の面々はそっと目を逸らす。
本能が告げる。――近づくとヤバい。
「……紹介しとくか。ティンク・ヴェル。ザ・メフィストのベース担当だ。まあ、見ての通り中身は……いろいろだ」
メフィストが疲れたように紹介すると、ティンクはくるくる回って手を振った。
「それから……こっちはドラムのホドリコだ」
すると、女戦士ホドリコは無言で一歩前に出て、突然ムキムキのボディビルポーズを決めた。
(な、なんか怖い……)
無言で一歩引くメンバーたち。
「クレオラ、ティンク、ホドリコの他にスフィンクス姫とキラグンター君がいればザ・メフィストのメンバーは揃うんだけどねー」
その言葉を聞いた瞬間、クレオラの表情が険しくなる。
「それってどういう事? まさか私達だけじゃ足りないって言うの? スフィーは妊活中なのよ? 巻き込まないでくれない?……」
それに対してメフィストが慌てて説明する。
「いやいや女神メティムの治療に歌を歌うだけだから、テロ作戦に参加させるわけじゃないよ。それに『ユミルの楽譜』は激しい音楽じゃないから胎教の邪魔にはならないよ……クレオラ、今回だけお前からスフィンクス姫に頼んで一緒にメティム復活の演奏をしてもらえないか?頼むよ……」
懇願するような眼差しを向けるメフィストに対し、クレオラは少し考え込んだ後、仕方ないといった表情で頷いた。
「……はぁ、わかったわ。その代わりミネルヴァ達も同行させてもらいたいわ。メティムを蘇らせるには、どうしても、もう一押し女神ユキルの力とメティムの娘アテナの力が欲しい……出来るかしら?」
それを聞いたメフィストの顔がパッと明るくなり、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!恩に着るよ」
(やれやれ、相変わらず都合の良い時だけ娘扱いして頼み事をするんだから……)
と思いつつも、悪い気はしないクレオラであった。
こうして遂にメンバー全員が揃ったのである。
乂阿門に案内され、神羅達ミネルヴァメンバーと、ザ・メフィストのメンバーはステージにやってきた。
そのステージは本来ならミネルヴァとブリュンヒルデがハクア・プロジェクト優勝をかけて対バンするはずだった場所だ。
つまり宇宙戦艦アルゴー号の甲板に設けられた特別ステージである。
準備のため、各メンバーがステージに姿を現し始める。
中央には、眠ったままの女神メティムがベッドごと搬送されてきていた。
「ママ……」
アテナがそっと、その手に触れる。
切なげな瞳に、誰もが黙って見守るしかなかった。
やがて、それぞれの楽器が配置され、演奏の準備が始まる。
ザ・メフィスト、ミネルヴァ――両チームが順に演奏を担当する形だ。
クレオラはちらりとスフィンクスに視線を向け、そっと声をかけた。
「……妊活中なのに悪いわね、スフィー。キラグンターさんも一緒に付き合わせちゃって……」
その言葉に、スフィンクス姫とキラグンターは同時に笑った。
「いいよクレちゃん。ちょうど家庭でゴタついてたから、音楽で気晴らしできて助かるよ」
「それにさ、これ――ユミルの楽譜? めちゃくちゃ“胎教に良さそう”じゃん。静かだし、神聖だし。なんか、子どももスヤスヤ眠りそうな気がするよ」
「うふふ、そう。なら安心してお願いするわね」
クレオラもわずかに表情をやわらげ、微笑んだ。
ティンクがくるりとベースを回した。
その瞬間、ふわりと光が舞い上がる。
妖精だった彼女の姿が、人間の歌姫へと変わっていく。
黄金の粉をまとったような髪がなびき、宙に舞う彼女のシルエットは、まるで伝説のティンカーベルそのものだった。
その姿に、神羅が思わず息を呑む。
「すご……綺麗……!」
手を胸元にあて、小さく囁くその瞳は、まるで祈りのようだった。
一方、ステージ中央――
眠る女神メティムの周囲に、柔らかな光が差し始めていた。
まるで“彼女を包むための舞台”が、いま神々の手によって整えられていくようだった。
マイクの前に立つスフィンクス姫は、試すように息を吹き込み、ゆっくりと旋律を口にする。
「ア〜アア〜……♪」
その瞬間、空気が一変した。
まるで時が止まったかのように、観客も演者も息を呑んだ。
彼女の声は、力強くも優しく、そしてどこまでも荘厳だった。
その隣で、クレオラが静かに電子ピアノを弾き始める。
その音色は、スフィンクスの歌声に寄り添うように響き、次第にステージ全体を包み込んでいった。
――神々の眠る舞台に、今、祈りが注がれる。
演奏が終わった瞬間、会場はしばし静寂に包まれた。
そして――爆発するような拍手喝采が起こる。
だが、演奏者たちはどこか静かだった。
それはただの勝負でも、演奏会でもない。
今の一曲は、“命”を呼び戻すための、神への祈りだったのだから。
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↑イメージリール動画




