乂阿戦記3 第五章 巨竜王ケイオステュポーン復活計画-9 漆黒の闘い、今宵鵺vsクレオラ・フェレス
囚われていた魔法少女一同は、銀河連邦HEROランキング二位・ルシル・エンジェルの駆けつけにより、形成は完全に逆転したかに見えた──
だが、その時である!!
部屋の外からどっと足音が響いたかと思えば、扉が勢いよく開かれ、武装した男たちがなだれ込んできた!
それを見たルシルはすぐさま叫ぶ。
「みなさん急いで逃げてください!!」
その声と同時に、一同は一斉に駆け出した。
最後尾にいた鵺も逃げようとした、が──
何者かがその行く手を阻んだ。
現れたのはクレオラ。
どうやら、先回りされていたらしい。
彼女はニヤリと笑い、冷ややかな声音で囁いた。
「ふふ……逃がさないわよ? 私と同じ、ヨグソトースのカケラを持つ時間魔法の落し子。せっかくこうして出逢えたんですもの――」
「っ……ヨグソトースのカケラ? じゃあ、あなたも……!」
鵺の表情が険しくなる。
クレオラは甘く微笑み、手にした杖を鵺へと向けた。
次の瞬間、杖の先が赤く光り──光弾が、閃光とともに放たれる!
それは警告ではなかった。“狩人の合図”だった。
直感が叫ぶ。
鵺は地を蹴って身を翻した。耳元をかすめた光が背後の壁を爆ぜ飛ばす。
(……危なかった。あと一秒遅れていたら……)
冷や汗が頬を伝う。だが安堵も束の間──
「っ……!」
今度は真横から、光弾。避けきれず、肩に命中する。
鋭い痛み──ではない。
ビリ、と。神経に直接、冷たい針が突き刺さるような感覚。体が震え、痺れて、動かない。
「ふふっ、どう? 動けないでしょ? これはね、神経系に直接“ふわっと”効くのよ〜。お薬みたいに❤︎……副作用は“ちょっと壊れちゃう”かもだけど♪」
ダメージは浅いはずなのに……体が動かない。まるで全身の神経が凍ったかのように。
その様子に、クレオラは満足げに笑みを浮かべた。
「うふふ、可愛い顔してるわ。安心して、しばらくすれば治るから……その前に、行きましょうか?」
そう言ってクレオラは近づき──突然、鵺を抱きしめてきた。
「捕まえたわよ……さあ、一緒に行きましょう?」
だがその瞬間。
鵺は己の意思を奮い起こし、痺れる身体に鞭打って立ち上がる!
「っっ!」
ごちんっ!!
頭突き──クレオラの額と激突し、鈍い音が響く。
その激痛に顔を歪める暇もなく、続けて腹に蹴りを叩き込むと、その体を吹き飛ばした!
壁に激突し、蹲るクレオラ。
「……はぁ。往生際の悪い子は嫌われるわよ? 大人しくしてれば、痛い目に遭わずに済んだのに」
クレオラはため息まじりにそう呟くと、再び手を伸ばしてきた。
鵺はそれをかわし、素早く起き上がると背後に回り込み──チョークスリーパー!
「っ……!」
動きを封じ、首を締め上げる!
だが、相手は冷静だった。
「黒翼よ!!」
クレオラの背中から黒い翼が変形し、刃と化して襲いかかる!
鵺は拘束を解いてすぐさま距離を取った。
(くっ……流石ね……!)
心の中で舌打ちしながら、次の手を思考する。
(時を操る力……私と同じタイプ……動きが読まれている……厄介すぎる)
その時、新たな敵影が現れる。
クレオラが操る三機の人形兵士だ!
武器を構え、じりじりと包囲する。
(やるしかない!)
懐から2丁の拳銃を抜き放ち──
まずは一番近い敵へ走り寄り、至近距離から鉛玉を叩き込む!
次に背後から迫る機体を蹴り上げ、最後の一機には回し蹴りを叩き込んだ!
撃破──かと思いきや、背後に気配。
振り向いた瞬間、槍が飛び出してくる!
咄嗟に回避──が、バランスを崩し転倒しかけた。
だが鵺は倒れ込みながらその体勢のまま──
「はああっ!!」
滑るように滑り込みながら2丁拳銃を連射!
1発は外れるが、2発目が命中。敵の装甲を破壊して撃破に成功した!
だが、安心する暇もない。即座に立ち上がり、建物の陰へと身を隠す。
冷え切った廊下を駆ける。
だが鵺はは、どこからともなく聞こえる不穏な足音に、警戒心を高めていた。
時間停止の能力を持つ彼女の直感が、この空間の因果律に異物を感じ取っていた。
廊下の角から、クレオラが現れる。
ゴシックドレスに身を包んだ彼女の右目には、時計盤が浮かび上がっている。
「あら、見つけたわ。鵺さん」
クレオラはにこやかに、しかし捕食者のような冷たい視線を鵺に向ける。
「あなた…やはり私の時間停止の中でも動けるのね」
鵺は盾から武器を取り出し、クレオラに問う。
「さあ、どうかしら。貴女の能力、試させてもらうわ」
クレオラが巨大な古式銃、刻ノ魔法銃を構える。
長針の銃口から放たれた弾丸が、鵺に目掛けて飛んでいく。
鵺は即座に時間を止める。
世界は静止し、弾丸もその場で動きを止めた。
しかし、クレオラの時の瞳がチクリと動き、弾丸の軌道をわずかに変えた。
鵺は、クレオラの『時間』への干渉能力を再び目の当たりにし、警戒を強める。
鵺は時間を停止させたまま、周囲の空間を把握する。
建物内は、複雑な構造になっており、彼女の封獣によるワープ能力と、時限爆弾による陽動が有効だと判断した。
時間を解除すると同時に、鵺は手にしたショットガンを連射する。
だが、クレオラは人形兵たちを呼び出し、弾丸を相殺する。
その隙に、鵺は廊下の曲がり角に時限爆弾を設置し、ワープで別の階へと移動した。
クレオラは、鵺の残した爆弾に気づき、不敵な笑みを浮かべる。
「面白いことをしてくれるじゃない」
クレオラは廊下の端で、新たな人形兵を呼び出す。
その兵は、瞬時に爆弾へと向かい、爆発の直前に別の時空間へと飛ばした。
「さあ、次はどこに隠れたのかしら?」
クレオラは、鵺の気配を追って建物内を探索し始める。
一方鵺は、別の階の病室に身を潜め、状況を分析していた。
(このままでは分が悪い…彼女は私の『時間』の能力を無効化できる。正面から戦っても勝てない)
鵺は、自分の能力と、クレオラの能力を冷静に比較し、逃走に専念することに決めた。
彼女は再び時間を停止させ、建物内の全ての時限爆弾の爆発時間を調整し、クレオラが予測不可能なタイミングで爆発するように設定した。
そして、鵺はワープ能力と時間停止を巧みに使い分け、クレオラの追跡から逃れる。
クレオラは、あちこちで発生する爆発に惑わされ、鵺を見失ってしまう。
「くっ、逃げられた…」
クレオラは、怒りとも悔しさとも取れる表情を浮かべ、鵺の残した微かな因果の残滓を追う。
しかし、鵺はすでに、闇の中へと姿を消していた。
(…厄介な相手だった。でも、このままでは終わらない)
鵺は、遠ざかるクレオラの気配を感じながら、次の戦いのための準備を心の中で進めていた。
そのとき──背後から声がした。
「鵺ちゃん……! ウチや、エドナや! 無事で、よかった……!」
驚いて振り向けば、そこには金髪をなびかせた褐色の女戦士──魔王オームの姉、エドナの姿があった。
その褐色の腕が、迷いなく鵺を抱きしめる。
その温もりに、一瞬、鵺の中で張り詰めていたものが音を立てて崩れそうになる。
――誰にも手を伸ばせなかった、あの時の私が。いま、こうして抱きしめられている。
(……私は、まだ……一人じゃなかった)
その思いに、涙がこぼれそうになる。
それを押しとどめるように、鵺は唇を強く噛みしめた。
「……状況を、なるべく詳しく教えてください」
小さく、しかし確かな声で。
それは、傷だらけでも立ち上がる、ひとりの少女の決意だった。
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↑イメージリール動画




