乂阿戦記3 第五章 巨竜王ケイオステュポーン復活計画-6 リーン・アシュレイの不満
準決勝対バン、紅刀牙とブリューナクたちは歌い続けついにラストの曲となった。
ブリューナク最後の曲名は『ゴッドブレスユー』、直訳で神の御加護をといったところだろうか……?
しかし歌詞の意味するところは少し違うようだ。
それはまさに神に愛されし者たちを讃えるような内容であった。
「神は言いました、汝らには神のご加護があり、その愛は常に汝らと共にある、故に恐れることはない、迷わず進むがよい、さすれば道は開かれん」といった具合の内容の歌詞になっている。
曲は進み、いよいよサビの部分に差し掛かる――その瞬間、ブリュンヒルデたちの体がふわりと輝き始めた。
光は徐々に強くなり、やがて会場全体を包み込むほどの眩さに変わっていった!
それを見た人々は皆口々に叫んだのだ!!
「おおっ!?」「これはまさか!?」「綺麗……!」「まぶしいっ!」「あついぃ~!」と様々だ。
しかしその光が収まったとき、人々が目にしたのは今までとは全く違う光景だった。
何とそこに立っていたのは純白のウェディングドレスに身を包んだブリュンヒルデたち四人の姿だったのである!!! 先程までの衣装とは違い白一色の清純なデザインであり、所々に施された金糸の刺繍が煌びやかに輝いていた。
その姿はまるで天使のような出で立ちで見るものを魅了するものだった。
それを見て観客達は大いに喜んだ。
何せ神話の女神を彷彿とさせる姿だったからだ!
だがこれは、宗教的な神を讃える信仰の歌ではない。
ラグナロク時代の御伽噺で恋物語の歌なのだ
この歌は、神話の時代――邪神アザトースと戦い、共に愛し合いながらも世界を救った“ある魔法女神”の恋物語だという。
誰がその女神だったのかは定かでないが、伝承では初代ユキルが最有力とされている。
愛によって破壊神を乗り越えた、永遠に語り継がれる御伽噺――それがこの《ゴッドブレスユー》なのだ。
歌が終わり観客達は拍手喝采を贈る。
紅闘牙は大いに健闘したが、此度の対バンはブリューナクの完勝であった。
しかしこの結果を見て納得しない者がいた。
いや、ただしくは歌の内容について真実とは違うと訂正を入れたかった者がいた。
(………恋人達が愛の力に目覚め邪神を倒した……フ、宇宙を12に引き裂いたあの闘いはそんなメルヘンな闘いじゃ決してなかったのだがね……)
リーン・アシュレイは思わず失笑が漏れ、口の端が吊り上っていた。
リーン・アシュレイは父王トグリルと妹のミリル姫と一緒に特別VIP席で演奏を聴いていたのだ。
「お兄ちゃん、今の演奏とっても凄かったのだ!!」
「ふふ、楽しんだようだねミリル……」
「うん!すっごく楽しかった!!それに凄いお客さんの数だったのだ~!初日だけだったけど、あんなにたくさんの人の前で歌ったのは初めてなのだ~!!」
「そうだね……私もこういう催しを観るのは初めてだったけどとても楽しめたよ」
2人は今日のライブの事を振り返りながら感想を述べ合っていた。
ミリルの様子はとても楽しそうで幸せそうだった。
「……さて、そろそろ帰ろうか?」
「えー?折角来たのにもっと遊びたいよ~!」
そう言って駄々をこねるミリルの頭を優しく撫でながら宥めていると背後から声をかけられた。
振り向くとそこには屈強なボディーガードを伴った白髪交じりの老紳士が立っており、優しそうな目でこちらを見ていた。
その男は話しかけてきた。
「失礼、君たちはリーン・アシュレイ殿と妹のミリル姫だね?」
突然声をかけられて戸惑うミリルに老人は自己紹介をする。
「私は永遠田グループの会長永遠田加富。君達のいるスラルではガープ・ドアーダと名乗っている。よろしくの」
その男の正体は、秘密結社……いや大帝国ドアダの王である永遠田加富だった。
彼はこの地球に移住してから様々な事を学び、実践し、成功させてきた。
その結果今では多くの企業を抱える大企業の会長となったのである。
そんな彼が何故ここに来たかというと、それはミリルにある物を渡す為である。
「こんにちはドアダのおじいちゃん!いつぞやの南極基地以来なのだ!」
「久しぶりじゃのうミリル姫。今日は君達にプレゼントがあるんじゃ」
そう言うと懐から取り出した箱をミリルに渡す。
受け取ったミリルは目を輝かせると箱を開ける。
すると中から可愛らしいペンダントが出てきた。
「わあー!素敵な首飾りなのだー♪」
「フォッフォッフォッ、良い贈り物をいただいたようだ。ありがたい。よろしいのですかな永遠田会長?」
ミリルの父トグリル王がドアダの王
ガープに礼を言う。
「なに、構いませぬ。ところで御子息にも何か贈り物を差し上げたいのですが、差し支えございませんかな? あくまで、アシュレイ族と我がドアダ帝国との友好を示すささやかな印として、でございます」
そう言われたリーンは微笑みながら快諾する。
その後お互いに別れの言葉を告げ、帰っていったのだった。
ガープが去った後、その様子を見ていた人物が一人、部屋に戻ったリーンに向かい呟いた。
リーン・アシュレイの盟友ロキ・ローゲである。
「おいおいリーン、たぶんだけどガープのじいさんお前に探りを入れにきてたぜ? 前のイハ=ントレイの記憶が消えずに残ってるみたいだ。 あれはお前とアザトースの接点を疑ってる……」
リーンは嬉しそうに笑みを浮かべ冷蔵庫から飲み物を出す。
そして、部屋にいる客人ロキにドリンクを差し出した。
「ふふ、流石はドアダ首領ガープだ。アカシックレコードを用いた記憶改竄を行ってなお、私との戦いの記憶を残しているとは……彼はウィーデル・ソウルが免許皆伝を認めた武仙の1人だ……おそらく私と同じくアカシックレコードに干渉できた破壊神ウィーデルの加護があると見える……」
リーンの言葉にロキも苦笑する。
「やれやれ、相変わらず食えない奴だぜお前は。だがまあ、これで奴等が俺達の事を嗅ぎ回っているって事がハッキリわかったわけだ」
「そうだね、今後はより一層慎重に行動し気をつけなければな」
「ああ、そうだな」
ロキはニヤリと笑うとリーンに向かってこう言った。
「それじゃあ、今後の為に打ち合わせでもするか。インビシブルオーガの部隊は明日作戦を決行するそうだ……」
2人が話している最中、部屋ではもう1人、女が恭しく膝をつき控えていた。
創造神アザトースの側近、邪神ナイアルラトホテップである。
彼女は先ほどから2人の話を盗み聞いていたのだ。
(うふふ、どうやらリーン様は本格的に動くようですね。それにしてもユキルめ、まさかこんなに早く目覚めるとは思ってなかったわね)
そう思いながら彼女の傍らに置いてあるケースを見る。
そこには厳重に鎖で縛られた巨大な本があった。
(これが“巨人の進撃歌”……この書でギガス・オブ・ガイアを制御できるというのなら……世界はまた一つ、面白くなるわね)
そう考えながらチラリと魔本を見やる。
その時ふとある考えが脳裏によぎったのでナイアルラトホテップはその考えを実行に移す事にした。
(ふふふ、これなら上手くいきそうね。さて……この本を使えば、あの方のご意思に近づけるかもしれないわね)
楽しそうに笑いながら立ち上がり悪巧みを開始するのだった。




