乂阿戦記3 第五章 巨竜王ケイオステュポーン復活計画-4 秘密の双子の姉
準決勝第1試合終了後の事である。
神羅達ミネルヴァは、対バンで“強敵”カオスカオスを下し、ついに決勝進出を決めていた。
舞台裏ではその興奮も冷めやらぬまま、ちょっとした騒動が巻き起こっていた――。
「おーほほほ!! カオスカオスなんて所詮カマセのカよ!! カマセのカ!!!」
「なんちゅう性格の悪い発言をしとるんじゃ? お前仮にも魔法女神候補だろ絵里洲? もっと自重しろ!!」
「うるさいアキンド! 1回戦で敗退した猿ドラマーは黙ってなさい!!」
「なんだとおー!? ちょっと可愛い顔してるからって!! ウキーーッ!!」
「あんたたち、アテナちゃんの情操教育に悪いから、お口にチャックをしなさい!!」
「痛タタタ!! ママほっぺを引っ張らないで〜〜!!」
「うぷぷ、ざまあwwww」
「キーー!悔しいーー!」
「「「………2人とも仲いいね」」」
神羅や漢児達は生暖かい目で絵里洲とアキンドの漫才トークを眺めていた。
と、こんな感じでミネルヴァは決勝進出を果たしたのだった。
次の対バンはブリューナクVS紅闘牙だ。
第2試合に出番待ちをしている雷音に、ある人物が話しかけてきたのだ。
……そして、そのすぐ後ろに見覚えのない“妙に雰囲気のある少女”がひとり、無言で佇んでいた。
その人物とは何と――ブリュンヒルデであった。
(マジかよ……)と思いながらも平静を装って応対する事にした。
「こんにちは、雷音さん。準決勝戦進出おめでとうございます」とにこやかに話しかける彼女の姿に不覚にもドキッとした。
いや別に恋愛的な意味ではなく(笑)あくまでも人間として、女として魅力的な人物だなと思っただけだ。
少なくとも自分の知る女性陣の中では一番と言っていいだろう。
何しろ自分の周りの女達ときたら全員揃って凶暴で嫉妬深くて我儘で自分勝手で自己中心的でしかもすぐ手が出る暴力女ばかりだし、おまけに人格破綻者ばかりだからだ。
それに比べて目の前の女性は清楚で礼儀正しく気遣いも出来て性格もいい。
さすが絶対無敵のアイドル!という感じの人だ。
そんな彼女に見惚れながらもなんとか冷静さを保ちつつ返事をすることにした。「ど、どうも……」
するとそこへ割って入るように現れたのはブリューナクのメンバーのリーダー、ゼロ・セイラである。
彼女はサングラスをかけた背の小さな長い白髪の少女だった。
彼女は雷音の肩に手を置きながらこう言った。
「やあやあ、大きくなったなあ雷音ちゃん! 阿門父さんから聞いたけど、相変わらず神羅のパンティ盗もうとしてるんだって? 流石にパンツ泥棒は小学で卒業しなよ?」
などとからかうような口調で話しかけてくる彼女に雷音はギョッとする。
咄嗟にブリュンヒルデはスカートを抑え後ろにあとずさる。
「ちょっと!? お姉さんだれ?変な事言わないで下さいよ!?」
「あはは、ごめんごめん冗談だよ」
と笑いながら言う彼女に対し、雷音の方はと言うと
(あ、あれ?このお姉さんなんか誰かに似てるぞ?)
そして、ふと思いついたかのように雷音が口を開いた。
「……あ、あれ? もしかしてお前雷華か?」
(顔立ちも仕草も声のトーンも――これ、絶対に雷華だろ……!)
それを聞いた瞬間、彼女がニッと笑うのが分かった。
やはりそうだ、間違いない。髪の色が違うだけで顔の輪郭がそのまま雷華だ。
「さーて、なんのことだか?」
どうやら彼女は正体を隠すつもりらしい。
あの生真面目な雷華がこんな手の込んだいたずらをするとは珍しい……
なにか面白そうなので雷音はあえて気づかないフリをして話を続けることにする。
「あー勘違いしたみたいです!うちのヘチャムクレの妹がお姉さんみたいな美人なはずないですから♪」
しかし、それに対して返ってきた返事はまったく意外な方向からだった。
「なんだと! 兄よ、誰がヘチャムクレだ!誰が!」
慌てて後ろを見ると、なんとそこには雷華がいた。
髪は自分と同じ赤毛でいつものようにポニーテールでくくっている。
「え?あれ?雷華が二人!?」
驚く雷音、雷華はプンプンと怒り、セイラはクスクスと笑っている。
そんな様子を見て乂家の家族達は羅漢も阿乱も羅刹も呆然としていた。
(そりゃそうでしょうね……)
そんな中で唯一冷静な反応を示した者がいた、それは意外にも皆の母ホエルであった。
そう、彼女だけはゼロ・セイラ、いや乂聖羅がだれで自分達とどう言う間柄なのか詳しく知っているのだ。
(あらあら聖羅ちゃんたら……あなたの未来予知によれば、あなたの正体を明かすのはまだ先のはずなのに……本当にいたずらっ子なんだから……まあ、久しぶりに家族と再会できてハメがハズレちゃったのね……)
ホエルは困った風にため息をついた。
だがその顔にはどこか嬉しそうな表情が浮かんでいるようにも見える。
「あはははは!雷華ちゃん!お久しぶりでござるな!!」
いきなり雷華が後ろから抱え上げられ、高い高いと持ち上げられた。
「あ、あれ?紅先生!?」
雷華を持ち上げた相手は紅茜
雷華の剣の師匠だった。
昔冒険に出かけた頃、彼女の経営する武器屋アマゾネスで武器を仕入れたりもしていた。
「ううっ~先生恥ずかしい!下ろして下して~」とジタバタ暴れる雷華だったが、体格差があるためビクともしない。
その様子を見ていたセイラは思わず吹き出してしまうほどだった。
一方、その様子を少し離れたところから見ていたホエルは頭を抱えていた。
(はあ……雷華ちゃん、実はその人があなたの本当のお母さんで、私の孫=乂阿門の奥さんなの……でもって、聖羅ちゃんはあなたの双子の姉なのよ……)とため息をつく。
実を言うとホエルも今朝までブリューナクのメンバーに紅茜と乂聖羅がいることを事前に知らされていなかったのである。
だから今この状況に一番困惑しているのは彼女だったのだ……
ふと、目をやるとステージの端で、自分より2歳ほど年上の孫である阿門が「ばあちゃん、ばあちゃん!」と手招きしていた。
どうやら内密に話をしたいみたいだ。
それを見たホエルは少しため息をつき諦めた表情を浮かべつつ彼の方に向かったのだった。
「どうしたの?阿門ちゃん?ひょっとして内緒にしている家庭事情をみんなに話すことにしたの?別に隠す必要はないと思うけど……」
すると彼は首を横に振り「いやいや、そうじゃない、その話じゃないんだ」と答えた後、こう続けた。
「ばあちゃんに聞いてほしいことがあるんだ……」
2歳年下の祖母にこそこそと耳打ちしながら阿門は話し始めた。
「………どうも巨竜王の陣営がきな臭い。準決勝が終わったら、勝とうが負けようが子供たちを連れ、タオルミーナから引き払って欲しい。特に決勝は絶対に見に行くな!危険すぎる!……MAXに溜まった歌エネルギーを巡り一悶着起きる。ゴーム王はそう言っていた。下手をすれば――決勝戦は音楽じゃなく、“戦場”になる」
決勝戦は戦艦アルゴー号の特設甲板ステージで行われる予定だ。
もし万が一そこに居合わせてしまったら一体どんな目にあうかわからない……そんな恐ろしい事態が起こりうる可能性について示唆したのであろう。
「わかったわ……準決勝が終わり次第、すぐにみんなに伝えましょう!」
その言葉に頷くと、阿門はすぐさまその場から走り去った。
「……だけど、何はともあれ今は音楽の演奏が優先ね。みんな一生懸命に練習してきたんだもの。お客さんたちもみんなを待ってるわ。さあ行きましょう!」
そう言って、彼女は子供達とともに舞台裏へと消えていった。
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