乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-7 魔王オームvs邪神ナイア
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――顕現せよ、黄衣の王よ。
その言葉とともに、空気が揺れた。
オームは静かに足を踏み出す。全身から滲み出す魔力は、すでに常軌を逸していた。
「……よくも神羅を。あの子を――我が婚約者を、よくも……」
怒りというにはあまりに静謐で、あまりに冷徹な声。
その瞳には、ただ一つの情念だけが宿っていた。
エドナが目を見開き、制止の声を上げる。
「お、おいオーム……まさか……あの力を使う気か!?」
その問いは、すでに遅かった。
オームの口元から、異言が零れる。
「いあ……いあ……はすたあ……くふあやく……ぶるぐとむ……ぶぐとらぐるん……」
血を連想させる呪文が連なり、空間がひび割れはじめる。
「わああー!? やばいやばい!! この阿呆! 本気でやりよった!」
エドナが慌てて駆け寄ろうとするも、すでにその身は異なる次元へと触れていた。
オームは懐より仮面を取り出す。牛の角を備えた禍々しきそれを、ためらいなく顔に押し当て――
「――魔王の力よ!」
その瞬間、世界が音を立てて裏返った。
空間が軋み、次元の膜が裂ける。
吹き荒れるは金色の風、立ち昇るは“王”の咆哮。
《我が名に応じ、姿を現せ……黄衣の覇王ハスターよ!!》
仮面を顔に押し当てると同時に、オームの身体が眩い光に包まれる。
牛の角。黄衣の外套。触手の如き魔力が全身を走り、彼を“魔王”へと変える。
それは、神をも喰らう存在。
英雄でも、勇者でもない。
彼は今、復讐の名のもとに“神”へと牙を剥く魔王と化したのだ。
ズズ……という音がした。
影が蠢き、地を這い、足元から幾千の触手が立ち上がる。それはまるで地獄の門が開かれたかの如き光景だった。
「ナイアルラトホテップ――この“カス”が。我が婚約者に手を出した報いを、存分に味わうがいい」
触手が一斉に伸び、ナイアの残滓を絡め取る。
「う、うぎゃあああ!? な、なぜだ!? なぜハスターの力がここに……ッ!」
ナイアの絶叫がこだまする。神性すらも歪める、絶対的な“悪意”がこの場に満ちる。
エドナが必死に叫ぶ。
「やめろ、オーム!! そいつはただの残滓や! そんな力を使ったら、戦争になる!!」
だが、オームの返答は静かだった。
「姉上……ドアダの背後にいる“真の敵”をご存じでしょう? タイラント族の陰に蠢く黒い影。彼らはすでに我らに宣戦布告をしている。ならば……これは宣戦布告の返礼です」
その瞳は、狂気と正義が入り混じっていた。
「神羅に手を出したことを、後悔させてやる。ドアダも、その背後に潜む神すらも……!」
そして――
「黄衣の魔王よ。我が血を以て契約を成せ――」
一瞬にして、空間が反転する。
黄金の風が吹き荒れ、空間に異常な圧力が満ちる。光が裂け、オームの身体が変貌を遂げていく。
仮面。角。禍々しき黄衣。
その姿は、もはや「英雄」ではない。
それは――「魔王」だった。
「調子に乗るな小僧〜〜っ!!」
ナイアルラトホテップの残滓が触手を引きちぎりオームに鉤爪を振るう。
だが鉤爪が身体に触れるより早くオームは準備を済ましていた。
「封獣ベリアルハスターよ、盟約に従い我が力と成せ! 魔王の仮面よ! 我に黄衣の魔王の力を!!変! 神ッ!!」
オームの身体を金色の光が包む。
黄色い禍々しい魔力の風が彼の体から吹き出す。
風圧に耐えきれずナイアルラトホテップが後ろに吹き飛ぶ。
オームの身体は黄衣を纏った姿に変化していた。
頭は牛の角を持つ封獣の仮面をつけている。
その姿は変身ヒーローと言うよりは魔王と言ったほうがしっくりくる。
オームがトドメの呪文詠唱を唱える。
「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!」
狙いは目の前の邪神の末端ではなくドアダ本拠地にいるであろう本体のナイアルラトホテップ。
「う、嘘やん……」
ああ、これはもうタタリ族とタイラント族、いやドアダ帝国と『覇星の使徒』との激突は避けられない。
エドナはふと疑問を抱く。
師匠がみすみす邪神に神羅を奪われたのは、実は秘密結社ドアダと我ら『覇星の使徒』との戦争誘発を狙ったからじゃないだろうか?
禍々しい黄色い風がナイアルラトホテップを切り刻んでいく。
一気に殺さずジワジワと痛ぶるかの様に少しずつ少しずつ…
ナイアルラトホテップの残滓は絶叫を上げ消滅した。
「ヌウゥゥウ?、がああああ!!」
ドアダ帝国幹部会の席、邪神ナイアルラトホテップは自らの右眼を引きちぎり絶叫した。
ナイアの手の中で眼球がグツグツと煮えたぎり弾け飛ぶ。
「ナイア!どうしたのだ!?」
「一体何があった?」
「大丈夫ですかナイア様」
「ううぅうううう」
「おお、なんとナイア様の目が治っていく」
幹部会にはユキル以外の全幹部が揃っていた。
盲目の剣闘王スパルタクス、狂乱道化ヨクラートル、戦闘アンドロイド-イブ・バーストエラー、蛇王ナイトホテップ、サイボーグレスラー-キャプテン・ダイナマイトボマー、邪神ナイアルラトホテップ、そしてドアダ首領ガープ
『覇星の使徒』に連れ去られたユキルをいかに奪還するか作戦を練るため滅多に揃わないメンバーがこの席に揃っていた。
肩で息をしながら少女の姿をしたナイアルラトホテップが報告をあげる。
「…首領閣下、たった今ユキルお嬢様の記憶の封印が解けました。私の洗脳魔法が解除されましてございます。」
「な、なんだとう!」
「そんなバカな……」
「信じられん」
「おのれ覇星の使徒めぇ!」
ナイアが苦々しく説明を続ける。
「洗脳魔法を解除したのは阿烈です。どうやら奴はあらかじめ私の洗脳魔法を打ちやぶる準備をしてたようです…」
「阿烈だとぉうううううう」
「……私に覇星の使徒の王が宣戦布告してきました。……侮ってました。乂阿烈は武術一辺倒の武芸者などではありません。奴は女神ユキルの生まれ変わりと言うコマを十全に活用し、我らドアダと『覇星の使徒』の対立を計った戦略家です。考えればあの男は神羅が女神ユキルの生まれ変わりだと言う事も、覇星の使徒の若き王が神羅を深く愛している事も全て承知している。奴は最初からドアダと覇星の使徒を潰し合わせる事を計画していた!!」
ナイアの説明に幹部全員が凍りつく。
ただ一人を除いて
「クックック、やってくれるじゃねーか!乂阿烈!!……」
愉快そうに嗤うその男はドアダ7将軍筆頭ナイトホテップだった。
ドアダ首領ガープの実子にして年老いた父に代わりドアダを実質的に指導している影の支配者
「ナイア!おまえは覇星の王と直接対峙したことはあるのか?」
「いえ、ありません」
「ならいい機会だ。覇星の王をおまえが直接見てこい!そしてその力を見極めて来い。覇星の王の実力次第では俺自ら出陣する。」
「はっ!了解しました」
ナイアは即座に姿を消した。
「さて、これからどうなるかな?面白くなりそうだぜ。なあ銀仮面?」
「御意!」
蛇王ナイトホテップは自分の後ろに控える銀の仮面を被った男をみた。
男の胸元には封獣ケルベムべロスの首飾りがある。
そう、銀仮面と呼ばれた男こそは銀の勇者羅漢。
だが今の彼は洗脳手術による処理を受け羅漢としての記憶はない。
今の彼は蛇王最強の懐刀『銀仮面』である。
銀仮面は静かに頭を下げた。
「まあいい、これで少しはこの退屈な戦争にも変化が出るだろう」
蛇王は楽しげに笑った。
*****
***
ドアダ帝宮、執務室。
老帝は、重たげな扉が閉じられるや否や、その場に崩れ落ちた。
「……う、うぅ……」
玉座に似た黒檀の椅子にもたれるその姿は、かつて“戦争機械”と呼ばれた面影をわずかに残すのみ。年老いた瞳に宿るのは、哀しみと、悔恨と、恐怖だった。
「祖父さん!? しっかりしてくれ!」
駆け寄るのは、若き将軍――〈赤紫の勇者〉ヨドゥグ。
その強靭な体躯が、まるで幼子のように弱り切ったガープの肩を支えた。
「……ヨドゥグ……」
老帝の声は、風前の灯のようにか細い。
「ついに……最も恐れていたことが、起きてしまった……。
ユキルの……いや、“神羅”の記憶が――戻ったのじゃ……!」
その一言に、室内の空気が一変する。
「……!」
ガープの肩が震える。かつて無敵と謳われた大帝が、今は一人の“祖父”として慟哭していた。
「ワシは……もうあの子に、何もしてやれん……。
十五年前、全てを犠牲にしてでも守るべきだったあの少女を……
ワシはまた……失ってしまうのか……」
その姿を前に、ヨドゥグの目が鋭く細められる。言葉は静かだが、確かな熱が宿っていた。
「……馬鹿を言うなよ、じいさん」
「……?」
「神羅があんたを憎む? ドアダを捨てる? ――そんなこと、あるわけないだろ!」
ヨドゥグは拳を握る。刹那、魔力の火花がその指先に迸った。
「たとえ前世で何があったとしても――ユキルは“今”を生きてるんだ!
あの子はオレたちの家族だ。……それ以上でも、それ以下でもねえ!」
ガープの目に、僅かな光が戻る。
「……ヨドゥグ……」
「それに、ナイアの報告が事実なら、乂阿烈は妹を“戦争の道具”として使った最低の野郎だ。
だったらオレたちは、その妹――いや、“ユキル”を、絶対に奪い返す!」
その言葉に、ガープはゆっくりと顔を上げた。
「……おまえ……」
「オレが行く。スラルに。
あの子を、ユキルを、俺たちの元に取り戻す。必ず、だ」
「……!」
静寂の中で、老帝の拳が震える。だが今度は、恐れではなかった。
それは――希望だった。
「……頼む……ヨドゥグよ。
ワシはもう、待つことしかできぬ……。
だが、おまえなら……おまえならば、きっと……!」
「任せてくれ、祖父さん」
ヨドゥグは静かに拳を胸に当て、誓いを立てた。
「神羅を、必ず――連れ戻す。
彼女を、“戦場の女神”ではなく、“俺たちの家族”として、迎えに行く」
そして――
ドアダ七将軍・狂乱道化ヨクラートルが、スラルへの出撃を命じられたのは、まさにこの誓いの直後である。
物語は、加速する。
すべての運命が、神羅という名の“渦”へと、収束していく。
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