乂阿戦記3 第四章 黄緑の勇者キラグンター・ドラゴニア-13 ブリューナクの戦乙女達
ギオリック・へファイトスがかまえるオリンポス研究所――そこは今、襲撃を受けていた。
無数のガードロボが侵入者に牙を剥いた。
特殊合金の鋼鉄兵士たちは、無機質な瞳で命令を遂行し、容赦なく銃火を浴びせる。
死を知らぬ鉄の衛兵――その使命はただ一つ、「侵入者を抹殺すること」。
そして、彼らを統べるはこの研究所の主、ギオリック。
「フッハッハ! 僕のガードロボは無敵だぞ!」
高笑いと共に、彼は誇らしげにレーザー砲を構えるのだった。
彼らの銃火は、もはや“兵器”の域を超えていた。
地球人の常識を逸脱したオリンポステクノロジーは、光弾のひとつにすら超常の破壊力を宿していた。
これはオリンポスのテクノロジーを駆使し作られたものであり、それは地球人の理解を超える力を秘めていた。
光弾は容赦なく侵入者らしき人影たちを粉砕していくが、それでも次から次へと新手がやってくるためキリがない状態だ。
しかし、それでもなお防衛の為の攻めを緩めることはない。
何故ならこの施設そのものが彼にとっての研究の成果だからだ。
だから決して負けるわけにはいかなかったのである。
「さあこい侵入者どもめ……!僕が作った最高傑作の実験台になるがいいさ!!」
その様子を、4人の美しき乙女が見下ろしていた。
彼女たちは天翔ける巨大な猫の背に跨がり、まるで神話の天馬のごとく空を駆けていた。
「うーん、迦楼羅殿の召喚獣軍団は苦戦しているでござるな……」
「ふむ……ギオちゃんも中々やるねえ。これは私たち4人が出張らなきゃだめかな?」
リーダー乂聖羅の一言に仲間3人の視線が強くなる。
「……ですが、よろしくて? 私達の正体がバレますわよ? ね、紅茜さん?」
「心配いらんでござる。セオスアポロ殿には前もって主殿が話を通してあるでござるよ。迦楼羅殿」
「まあしょうがないですわね。では覚悟を決めるといたしますか。いいかしらブリュンヒルデさん?」
「オッケー! それじゃあ突撃かましましょう!!」
4人の乙女は、空を裂く流星のごとく戦場へと舞い降りた。
巨大な猫の背を滑空し、光と音をまとって――その姿は、誰の目にも幻想そのものだった。
4人の少女達は各自武器を構えると次々と敵ロボ達を薙ぎ払っていった。
彼女達の攻撃は凄まじく、たった数秒の間に数十体もの敵を破壊したのだ。
それを見たギオリック博士は驚きのあまり口を開けたまま呆然としてしまったほどだ。
「なっ……!か、彼女達は一体何なんだ……!?」
「あらあら? あなたが著名なギオリック博士ですか? お初にお目に掛かりますわ。わたくしの名前は迦楼羅スモモと申しますの」
「アテはゼロ・セイラ。乂聖羅でもいいよ。よろピー☆……」
「同じく初めましてだね♪私はブリュンヒルデだよー♪」
「…………(ぺこり)」
3人が次々と自己紹介をする中、紅茜だけは無言で頭を下げるだけだったが、その無言の迫力の前に思わず怯むギオリックであった。
「だ、誰か知らないけどメティム義姉さんは渡さないぞ! マルス兄さんが迎えに来るまで、僕が義姉さんを守るって誓ったんだ!!」
ギオリックは手元の端末を操作し、新たな兵器を呼び出す。
「来い!最終防衛兵器・ドローンズ・リバース!」
瞬時に現れたのは、銃器とブレードを搭載した多脚型ドローン部隊だった。
こうして始まった戦いだが戦況はほぼ互角と言ってよかった。
いやむしろ若干不利と言った方が良いのかもしれない。
わずか四人のブリューナクに対し何しろ敵の数が多すぎるからだ。
その時すでに、少女たちの衣装には小さな焦げ跡が刻まれ始めていた。まさに持久戦、そして数の暴力。
「――クッ、数が多すぎる……!」
その時、白い閃光が空を切り裂いた――!
白い巨大な機体が突如飛来してきたのである。
そしてあっという間に全ての敵を殲滅すると再び空中に消えていったのだった。
「いやー、思ったよりドローン軍団が強いから思わずアモン・サーガを使っちゃったよ^^;」
そう言って頭を掻いているのはブリューナクのリーダー、乂聖羅である。
そう、彼女――乂聖羅は、白阿魔王・乂阿門と並ぶもう一人の〈改獣〉所持者。
彼女の内に宿るは、かつて神をも欺いた異端の魔王――《アモン・サーガ》。
白き外殻に封じられし禁断の力が、刹那、戦場を白く染め上げた。
「助太刀に感謝しますわ」
「いえいえ〜どういたしまして〜」
にこやかに微笑む迦楼羅とは対照的に少し照れ臭そうな様子のセイラである。
手勢をすべて失ったギオリックは、恐怖に震えながらも、大きなハンマーを持ち、少女たちに立ち向かおうと構えている。
そんな彼の姿を見た紅茜は静かに歩み寄り話しかける。
「……戦はもう終わりです。投降していただけませぬか……」
「くっ……メティム義姉さんに近寄るんじゃない!」
ギオリックは武器を振り回すも、少女はそれを軽々とかわしてみせる。
だがその反動で彼はバランスを崩した。
「……っ!」
倒れかけたその瞬間、紅茜が手を伸ばし、咄嗟に彼の体を支えた。
「…………もうこれ以上、自らを傷つける必要はござらん」
彼女の声は、あくまで静かに、だが真剣に響いた。
「我らに、あなたの大切な家族を害する意図はありません……。此度の作戦は、マルス殿の意志を受けたもの」
「えっ……兄上が?」
紅茜は頷いた。
「はい。ですから……どうか、安心なさってください」
そう言われるとなんだか安心してしまい力が抜けてきたようだ。
そんな様子を見届けてから紅茜は再び問いかけた。
「さあどうします?まだ続けますか……?」
「…………負けを認めます。ただし、義姉を連れていくなら私も同行させてください。まだ完全にあなた方を信じたわけではありませんし……何より、私は彼女をずっと観察してきた。
医師ではありませんが、最後まで責任を果たすつもりです」
真っ直ぐこちらを見据える青年を見て、さすがはオリンポス十二神が1人と感心したようにうなずくと、彼女は静かに言った。
「……わかりました。是非もない。貴公を我らがアジトまでご案内いたしましょう」
こうして一行は無事、メティムを救出する事に成功したのだった……。
ロキ達が到着したときには、エトナ火山オリンポス研究所はもぬけの殻となっていた。
ロキは歯噛みし、唇を噛みしめた。
「クソッ……間に合わなかったか……! 奴ら、ただ者じゃねぇな!」
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