乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-6 蘇る神羅の記憶
茶会なのに、政略結婚にライバル女子、さらには師匠が覚醒して邪神をフルボッコ!?
ギャグとバトルと熱血が交錯する、神羅覚醒のエピソードです!
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もう一人の少女が人懐っこく笑って名乗る。
「ウチはエドナや。タタリ族の女神エキドナの娘にして、巫女でもあるで?
それと、ここにおるオームはウチの弟や。つまり姉弟っちゅうこっちゃ。よろしく頼むわな」
――神の血を引く者たち。
――理屈の外に生きる、異世界の“現実”。
目の前の光景に、ユキルと絵里洲の運命は、確かに――変わり始めていた。
思わず口を開いたのは絵里洲だった。
「ま、まさかの関西弁!?」
「ひっさしぶりやなァ、神羅ちゃん! 阿烈兄さんと羅漢兄さん、羅刹姉さんは元気しとるか? 雷音のアホタレは相変わらず馬鹿なことばっかやっとるんちゃうか? 雷華ちゃんに阿乱ちゃん、紅阿ちゃんはもうどれくらい大きゅうなったんや?」
エドナと呼ばれた少女の快活な関西弁が、空間の緊張をいとも容易く打ち砕く。
だが、その馴れ馴れしさとは裏腹に、ユキルの表情は混乱に塗り潰されていた。
神羅……そう、たしか――昔、誰かが、自分をそう呼んでいたような気がする……。
「え……え? 神羅? 私が?」
彼女の狼狽を見て、シュリが一歩前に出る。そして静かに口を開いた。
「……こ、混乱も無理ありません……神羅ちゃん…やっぱり、あなたがナイアルラトホテップに洗脳されたという情報は……事実みたい……です」
「ナ、ナイアル……らと、ホテップ? え、誰それ……?」
内心の疑念が声になる前に、シュリは言葉を継ぐ。
「あなたはナイアルラトホテップによって記憶を改竄され、自らが何者であるかを忘れている。ですが、安心してください。私たちは――あなたの“味方”です」
シュリは初対面絵里洲とはオドオドとコミュ症気味に話すが、顔見知りらしい神羅とはハッキリしたコミュニケーションを取れるようだ。
シュリの言葉が耳に届いたとき、ようやくユキルの意識は現実へと引き戻された。
「ちょっと待って! さっきから……話が飛躍しすぎてて全然意味がわからない!」
怒鳴るでもなく、叫ぶでもなく。だがその声は、確かに現実の地を踏みしめた。
次の瞬間、オームのパチンと指を鳴らす音が響いた。
景色が、塗り替わる。
周囲は、花々に包まれた楽園のような空間。遠くには重厚な建物群。白亜の大理石で構成されたテーブルには、ケーキや茶菓子が所狭しと並べられていた。
「神羅ちゃん、まずは腰を下ろして、ゆっくり話そうや。焦っても、仕方あらへん」
そう言って、エドナは椅子を指さし、自らもそこに腰掛ける。絵里洲とオーム、そしてシュリも、それに続いた。
ただ一人、立ち尽くす者がいた。
ユキル――否、神羅。
「神羅ちゃん。さあ、座ってください」
シュリに促されるまま、ぎこちなく椅子に座る彼女。けれど、視線は常に宙をさまよい、不安の色を隠せない。
「……昔なァ、ようここでお茶会開いとったんや。神羅ちゃん、ホンマに……何も思い出されへんの?」
エドナが寂しげに笑う。
「ま、とにかく座ろ、ユッキー。敵地じゃなさそうなんだから」
絵里洲の明るさが、どこか救いの光のように感じられた。
やがて、五人の静かな茶会が始まった。
「オームもしんどいなぁ。やっと神羅ちゃんに再会できた思たら、記憶喪失やなんて……。でもあんまり気落ちしたらアカンで?」
「……よして下さい、姉上。今は……そういう話をする時ではない」
「え? え? オーム君とユッキーって、どういう関係だったの?」
絵里洲が目を輝かせながら問う。
「――結婚を約束した婚約者やで」
「ぶはっ!?」
二人同時に茶を吹き出した。その勢いは、テーブルの菓子を軽く吹き飛ばすほどだった。
「ケホッ! ゲホッ! ……え゛ほっ……な、何言ってんの!?」
オームが少し慌てた様子で補足する。
「正確には……親同士が決めた政略結婚です! 私の父、ゴームと、神羅の――育ての父、乂舜烈はそれぞれタタリ族、乂族の長でした。両部族は争っており、その休戦のため、私たちには結婚が命じられたのです!」
「戦国スラルにありがちな政略結婚ですね」
シュリが冷静に補足するが、エドナはその言葉を吹き飛ばす勢いで叫んだ。
「何言うてんねんオーム! あんた神羅ちゃんにガチ惚れやん! 行方不明になった後、族長権限フル活用してスラル中探し回ったやろ! 反族長派の重鎮4人をサクッと粛正したときなんか、ウチ引いたわ!」
「姉上ええええええっ!!」
オームは再び茶を盛大に吹き出し、呼吸困難に陥った。
「エドナちゃん……異世界転生トラックを使って神羅ちゃん、を召喚したのは、色恋話をするためじゃ無いよ?……」
「はあ? 実の叔父にガチ恋してるシュリさんにそんなこと言われたくないわァ? ウチ、ここ数日シュリの恋バナ聞かされて寝不足やねんで?」
「え、エドナあああああ!? あばばばばばばば!! ち、違います! 神羅さん、私、別に叔父様に恋なんか……はわわわわ!!」
「まあまあまあまあ、皆さん落ち着いてくださいな! シュリさんの恋バナも気になりますが、それよりオームさんとの馴れ初めを詳しく聞かせてください!」
恋バナスイッチの入った絵里洲がキラキラした目で迫る。
「神羅ちゃんにはな、雷音っていう血の繋がらん弟がおるんやけど……その子も神羅ちゃんにベタ惚れで、ウチの弟としょっちゅう喧嘩しとったんや! 戦績は、オームが30勝25敗45引き分け!」
「はあああああ!? 最高! 三角関係ってやつ!? モテる女はつらいねぇ、ユッキー!!」
「エリリン! 落ち着いて!!」
「落ち着けるわけないでしょ! このネタは最高なのよォ!!」
「さらにやな、その雷音にはな、二つ歳下の婚約者がおってな。ミリル・アシュレイ言うんやけど、その子は婚約関係抜きで雷音に惚れとって、神羅ちゃんをガチライバル視しとるんや!」
「キャアアアア!? なにそれ!? 四角関係!? 乙女ゲー!? うっわ最高!!」
「ウエエエ!? 私が弟を意識!? そ、そんなラブコメ的展開あるわけ……」
「うっるさい! 黙りなさあい! 妄想の邪魔すんじゃないのおおお!!」
「は、はいぃい!! すいませんでした!」
「ふむ……でもウチとしてはな、雷音より弟のオームと神羅ちゃんが結ばれてほしいんよなぁ。アイツ、気取り屋やけど神羅ちゃん相手にだけはマジやったし……あ、そうそう、記憶取り戻す手がかりになりそうなアルバム持ってきたんやけど見る?」
「ぜひ!! あとでオーム様のことも教えてください!」
「任せとき! これがウチら4人でアシュレイ迷宮に挑んだときの写真や!」
「前衛のエドナさん、盗賊スキル持ちの雷音、後衛魔法のオーム、回復役の私……うん……なんか、なんか少しだけ覚えがあるような……?」
「やろ!? 神羅ちゃんの記憶が戻る第一歩や!」
だが――
ページをめくっていたエドナの指が止まる。
「……おかしいな?」
「え? どうしたんですか?」
「このアルバムの中な、他のダンジョンの写真もあるんやけど……どれにも“お師匠様”が写ってへん」
「お師匠様……?」
「そや。ウチらにはもう一人、師匠がおってな。乂族出身の武術家で、元はタタリ族の敵やった。でも度を越した人材育成狂でな、ワシらの才能見抜いて修行つけてくれたんや」
エドナは一枚の写真を差し出した。
「この人や! 雷音と神羅ちゃんの兄貴分――乂阿烈や!」
「うわ……なんか、すごい貫禄……戦国覇王みたい……!」
阿烈の姿を見た途端。
ユキルは、頭を抱えて――呻き出した。
「う、ああっ……! 頭が……割れる……!!」
「え? ユッキー!?」
「か、神羅!? どうした!!」
突如として身を震わせ、呻き声を上げるユキルに、エドナとオームは一斉に駆け寄った。
「あ、ああぁっ……う、うぅっ、うううううう……!」
ユキルの頭部から、紫色の魔力が噴き出す――それは禍々しさの塊。意志を持つ毒蛇の如く脳髄を這い回り、彼女の自我を喰らわんと蠢く。
だが――それを覆い隠すように、より一層濁りし闘気が空間を制圧する。
灰色の闘気。
理をねじ曲げ、宿命すら強引に捻じ伏せる、修羅の色。
ユキルの頭上に形作られる像――それはかつて、スラルの戦場を一人で焼き払った男。
「乂阿烈……兄様……!」
紫の魔力で編まれたナイアルラトホテップの像を、灰色の闘気で象られた阿烈の像が、首根っこを掴み――問答無用に、外へと引きずり出す!
脳内から引き剥がされた紫の魔力が悲鳴を上げ、空間に叩き落とされる。
ユキルの身体が崩れ落ちる寸前、オームがその細い肩を支え、抱き留めた。
全員が――この現実離れした情景を、目を逸らさずに見ていた。
魔法少女も、戦士も、果てはほとんど一般人と変わらぬ絵里洲でさえも。
「ギエェェエエッ!? ば、ばかな……!? ユキルが名前と顔を思い出しかけただけで、乂阿烈の力が起動した!? ただの記憶の断片が、我が洗脳魔法にここまで干渉するだとォォォ!?」
ナイアルラトホテップの像が絶叫する。
だが、それに応えるように――灰色の闘気が咆哮する。
「グルゥア”ッア”ッア”ッア”ッア”ッ!! 邪神よ……そろそろ、ワシの家族を返してもらおうか? たあっぷり“ノシ”をつけてなああああああッ!!」
「がああああああ!! こ、この化け物があああああ!!」
紫の魔力はユキルの頭部から完全に引き剥がされ、床に叩きつけられる。
その衝撃は爆弾さながら。空間が軋み、天井の花弁装飾すら粉砕される。
だが、阿烈の灰の闘気は、すでに戦意を見せてはいなかった。
灰の像は、オームとエドナに視線を向ける。
「……我が愛弟子達よ。お前たちの成長の程を、そろそろ確かめさせてもらおうか。久方ぶりの――“試験”だ」
言葉と共に、阿烈の像は風のように掻き消える。
まるで、その一撃こそが、自らの役割のすべてであるかのように。
一方その頃、地に伏した紫の魔力の塊――ナイアルラトホテップの残滓は、死に際のもがきのように、己を実体化させ始めていた。
触手が、羽が、眼が、口が、異形の四肢が、互いに拒絶しながら統合され、悪夢のごとき“カタチ”を成す。
巨大な化け物が、そこに顕現した。
「イヤイヤイヤ! お師匠様!? やっぱり無茶ぶりが過ぎますって!」
目をぐるぐる回しながら叫ぶエドナ。
その声には諦念と尊敬と困惑が同時に詰め込まれている。
ユキルは完全に気を失っていた。
絵里洲とシュリは、現実味のない光景に口をパクパクさせるばかり。
オームは、そっとユキルを床に寝かせ、その額に一瞬、手を添えた。
そして――振り返る。
その瞳には、怒りがあった。
守れなかった自分への、怒り。
そして、目の前の忌まわしき邪神の残滓への、純粋な、怒り。
「……貴様だけは。絶対に――許さない」
次の瞬間、彼の背に、風が舞う。
タタリの修羅、乂阿烈の技を受け継ぐ者が、その一歩を踏み出す。
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