乂阿戦記3 第四章 黄緑の勇者キラグンター・ドラゴニア-6 ベスト8出揃う
ハクア・プロジェクト2日目の朝、阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
昨夜の一次試合勝ち上がりを祝した大宴会で盛り上がりすぎた反動か、二日酔いに悩まされて苦悶する者が続出したのである。
中でも一番悲惨な目にあったのは間違いなくキャプテン・ダイナマイトボマーだろう。
彼は酒豪である一方、下戸でもあるのだ。
そのため今回の大宴会では終始青い顔をしていたのだが、宴が進むにつれテンションが上がったせいか、どんどん飲みまくってしまい、最後には吐瀉物を撒き散らしながら潰れてしまったのだ。
そんなダイナマイトボマーの横で、同じく潰されてしまったセオスアポロが唸っている。
こちらも同様に頭を抱え、うずくまって呻いていた。
「お、おのれぇ……! 我としたことが何たる醜態!いかん、恥を知れぃ……!」
2人とも相当深酒をしたようで、まともに動けない状態だった。
そこに現れたのは一回戦を突破したミネルヴァのヴォーカル役の一人狗鬼ユノだった。
その手には桶に入った水があり、それをセオスアポロにかける。
「ほら、バカ兄貴しっかりしろ!飲め!」
ユノがかけた水を頭から被り、少しづつ頭を上げる。
「うう……ユノ……?どうしてここに……?」
「お主らが酷い有様だったので見にきたのじゃ!全く情けない!それでもオリンポスの筆頭代行かや!?」
もう一人の妹アタラはコップに水を入れキャプテン・ダイナマイトボマーに飲ましている。
「ミネルヴァもドアダ戦歌隊も無事1回戦突破できたから、つい盛り上がってしまったんですヨネ?」
そしてそんな彼らの背中を優しく撫でてあげているのはドアダ七将軍が一人イブ・バーストエラーであった。
そんな彼らの様子を横目で見ていた狗鬼漢児が呆れたように呟く。
「やれやれ、いい大人が情けないな……」
するとその言葉に反応するように隣にいたガープが言う。
「ほっほ、若いのう」
それからしばらくすると、ようやく動けるようになったのか、フラフラとした足取りで彼らは会場へと戻っていった。
〜その頃、観客席にて〜 1人の少女が信じられない光景を見ていた。
それは目の前で繰り広げられる演奏の凄まじさだ。
彼女は思わず呟いた。
「……凄い……!これが絶対無敵のアイドルブリュンヒルデの歌……!」
少女の名はアテナ。
一回戦を突破したミネルヴァのメインボーカリストだ。
そんな彼女は今自分の目で見ている光景が信じられなかった。
(これがあの噂に名高い、伝説的アイドルグループのコンサートなの……)と。
彼女の目の前にはステージの上で歌う4人の女神達の姿があった。
4人はそれぞれ違う色とデザインの衣装を着ており、まるで虹のような輝きを放っているように見える。
彼女達のライブは本当に素晴らしいものだった。
まず最初に驚いたのは圧倒的な歌唱力だ。
特にセンターを務める黒紫髪の美少女ブリュンヒルデは圧倒的で、まさに圧巻と言う言葉が相応しい。
その透き通るように美しい歌声はまるで天使のようだ。
次に驚かされたのはダンスだ。
激しく、それでいてしなやかなその動きはまるで本物の蝶のように優雅である。
そしてその美しさとは裏腹に、踊りながら放つオーラは神々しかった。
そんな彼女達に負けじと他の3人も躍動する。
3人はそれぞれ個性的で、一人一人が輝いていた。
中でも一番輝いているのは黒髪ポニーテールの紅い衣装の美女だった。
彼女もまた輝くような笑顔を振りまきながらも、しっかりと歌い踊っている。
しかし、その三人を押しのけ一際輝いて見えるのはやはりブリュンヒルデだ。
彼女だけが違う次元にいるかのように存在感がある。
いや、実際に違うのだろう。
なぜなら彼女が歌った瞬間から世界が変わり始めたからだ。
先程まであった熱気は一気に収まり、代わりに感動と希望に満ちた空気に変わる。
……いつの間にか、頬を涙が伝っていた。
なぜ泣いているのか、自分でもわからない。
ただ、あの歌が――あの輝きが、心の奥の奥にまで届いた気がして。
気づけば、もう涙は止まらなかった。
〜ホテルの一室にて〜
「それにしても今朝のブリューナクのライブはすごかったわねぇ」
「ええ、本当にね」
「あれぞまさしく女神の名にふさわしい」
「いやホント、さすがはブリュンヒルデだよ〜」
「うむ、流石は今世界で1番話題になっているスーパーアイドルじゃ!」
ミネルヴァのメンバーは今日行われたライブについて話をしていた。
「ところで、みんなはこのあとどうする予定なの?」と絵里洲が聞くと、
「ん〜、まずは一回戦を勝ち上がったチームをチェックしようか?」
「2日目に残っているチームは8チームじゃったのう……」
獅鳳が2回戦に残ったユニットを確認する。
「1、特別参戦のブリュンヒルデさん率いるブリューナク
2、私達ミネルヴァ
3、雷音達の紅刀牙
4、イブさん達ドアダ戦歌隊
5、セレスティア達のアフロディーテ
6、カオスカオス
7、マジェスティ
8、センチュリー
げげ!?俺たちのクラスのユニット4組しか残ってない!?」
「ちょっと待ってよ!?なんで6.7.8のチームが残ってるの!? 並び見て、“ザ・かませ犬ズ”って思ったの私だけ? まさかクラスのみんな、そいつらに負けたの……?」
とんでもない暴言を吐く絵里洲を父の余徳がたしなめる。
「いやいやいや絵里洲ちゃん! カマセ達に失礼だろ! その3チーム普通に音楽のプロだから! むしろクラスのみなは素人に毛が生えた程度のレベルだから! いろいろ工作とかがあったとは言え、よくハクア・プロジェクトに参加できたなぁってレベルのチームだから! 特に十五位のユニット名:魔法学園小学部軽音部とか全メンバーが小学低学年の子供だったんだから! ハクア・プロジェクト予選突破出来たのが奇跡だったんだから! ……だからまぁカマセ達が残ったこの結果は必然なんだわな……カマセはプロなんだ……」
「そうね。カマセ達をカマセだなんて馬鹿にして、言ってはいけないこと言ったわ。心の中でカマセたちに謝っておくね。ごめんなさいね。カマセたち……」
「あれ? 絵里洲も親父も結局カマセたちのことディスってね?カマセ達可哀想じゃね?」
狗鬼漢児が突っ込む。
「兄貴兄貴! 兄貴もカマセをカマセ呼びしてるから!」
獅鳳が突っ込む。
でも、彼もカマセ呼びしてる。
「ナイア達ナイトメアは違法行為があり失格じゃそうだな?……」
「なんでも取り巻きのファンが薬物を持ち込んで暴動を起こしただとか……」
獅鳳が今朝の新聞を広げながらアタラに説明する。
「プークスクスク!ナイアのヤツざまあ!ブヒャヒャヒャヒャ!」
絵里洲が美少女がやってはいけない笑い方で笑う。
「ザ・メフィストはメインボーカルの子が体調不良があって棄権だとかなんだとか……あのオレンジ髪のヴォーカルすごい迫力があったのに残念だなぁ」
狗鬼ユノはちょっと残念そうだった。
「ユッキー何か知ってる?」
絵里洲の質問にいろいろ事情を知っている神羅は、
「………えーと、ヴォーカルのスフィンクスさんの妊娠が発覚したの。妊娠3ヶ月でこの時期は流産しやすいから大事を取りなさいってお医者様に言われたらしいわ。相手は同じバンドメンバーのキラグンターさんだって。それで大事をとって棄権したらしいよ」
『……』
「……え……マジ……?」
「……うん、マジ……」
「そ、それからどうなったの?」
神羅はおそるおそる尋ねる絵里洲にさらに応える。
「なんでもスフィーさんの父親が娘の妊娠に怒ってキラグンターさんを銃で撃ち殺そうとしたんだって。ところがそのスフィーさん実は私達の叔母だった乂華音さんの忘形見で、阿烈兄さんが私兵を引き連れ助けに向かったらしいの。で、ホテルでスフィーさんの父親の兵隊と阿烈兄さんの兵隊とで激しい銃撃戦があったとか……」
「「……」」
「あ、ちなみに今スフィーさんはホエルお母さんが保護してるんだって。ホエル母さん華音叔母さんからの遺言でスフィーさんのことよろしく頼まれていたらしいの……」
神羅の突然のとんでもないカミングアウトに狗鬼一家は絶句して固まってしまう。
(((何この気まずい雰囲気……)))
しばし沈黙が流れる……
が、それを破ったのは意外にも絵里洲だった。
「そ、そんなことより今日の朝食どうするか決めましょー!!」
こうしてなんとかその場を取り繕いつつ、次の試合に向けての作戦会議が始まったのだった。
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