乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-16 メティムの悲劇
少し時は遡りメティム達……
ケイオステュポーンが自爆する直前、彼女たちは、とある災難に見舞われていた。
それは突然のことだった。
「きゃああああ!!!」
突如轟音と共に地面が大きく揺れ動き始めたのだ。
メティムはバランスを崩し倒れそうになるが、すかさずマルスが彼女を支える。
「大丈夫かメティム? くっ、これは……!」
「うう、一体何が起きているのー!?」
するとそこに一人の男がやって来た。
「む、あれは……?」
「あいつは確か巨竜王の側近ドクターメフィスト!…」
「久しぶりだねえー、諸君」男は不敵な笑みを浮かべて言った。
その男こそ、かの有名なマッドサイエンティストこと、Dr.メフィストである。
「ふふふ、私が何故ここに来れたのか知りたいかね?冥土の土産に教えてあげようじゃないか。実は私は前々からある研究計画を立てていてね、それがようやく実現出来そうなんだよ。」
「研究計画だと?」
「そうさ、私が開発した新兵器を使い、ギガス・オブ・ガイアの中でも特に意思の強い精鋭兵を復活させるのさ!」
「な、何ですって!?そんなことが可能なの?」
驚くメティムに、しかしDr.メフィストはまるで意に介さぬ様子で答える。
「ふふふ、何を隠そう私には優秀な科学者たちがついていてね、彼らの協力でついに完成したのさ! ギガス・オブ・ガイア達の眠りを呼び覚ます"巨竜血の槍"がね!これさえあれば巨竜王様が本体を取り戻さずとも、私やファウストと同格の上位ギガスを復活させることが出来るんだだよーん!」
「まさか……!本当にそんなことが……」
「ふ、ふざけないで!そんなの絶対許さないんだから〜!」
そう言って激昂したのはメティムであった。
「ほう、威勢がいいお嬢さんだ。だが残念ながら君たちに選択肢はないんだよん」
そう言うとDr.メフィストは指をパチンと鳴らした。
するとどこからともなく科学兵器で武装男達が現れ彼女達を取り囲んだのである。
「こいつらは……!?」
「ふふふ、驚いたかい?我らメフィストギルド精鋭部隊の面々だ!さあ行けい、巨竜王様の命令権の邪魔になる女神メティムを捕まえろおおおお!!!」
「「はっ!!」」
だがマルスとギルトンは動じない。
「ふん、こんな奴らに負ける俺達じゃないぜ。いくぞギルトン、合わせろよ」
「おう!もちろんだ!」
「ふっ、馬鹿どもめ。やれえ!」
「「了解!!」」
「うおおおおおお!!!!」
マルスの剣技とギルトンの拳と蹴りが次々と敵を蹴散らしていく。
その姿はまさに無双と呼ぶにふさわしいものであった。
「な、なんだと!?」
「ば、馬鹿な!たかが人間ごときに我々が圧倒されるなどとおおお!!」
そんな様子を見て、Dr.メフィストは狼狽した。
「こ、このままではまずい! ゴ、ゴドー! ゴドー・ハーケン! あいつらを殺せえええ!!」
「承知……」
するとそこへタダならぬ気配の男が現れた。
その男は、まるで“死”そのものが具現化したかのようだった。
名をゴドー・ハーケン――かつて十四天士隊を率い、神殺しすら達成した“最強の死神”。
その男を見てマルスとギルトンが驚きの声を上げる。
「ば、馬鹿な貴様ゴドー!! エクリプス直轄十四天士隊隊長ゴドー・ハーケン!!」
「ひゃあ、オメー生きてたのかあ! エクリプスの軍団が無くなったあとメフィストギルドに再就職しただか?」
「そ、そんな……あの怪物が生きてたなんて……」
絶望するプリズナにDr.メフィストが勝ち誇ったように叫ぶ。
「どうだみたか!これが私の開発した究極の決戦兵器 "巨竜血の槍"のちからだああ! かつてエクリプス大戦で死にかけたゴドーを私はこの槍の力で活力を与え甦らせたのだあああ!!」
「10年……いや9年ぶりか我が主エクリプスを倒せし勇者と魔法女神達よ……」
ゴドー・ハーケンがギルトン、マルス、プリズナに目をやる。
「……まあな」
「……あんた相変わらず戦場を渡り歩いてんだな……」
「……」
ゴドー、ギルトン、マルス――
三人の視線が交錯した刹那、空気が一変した。
周囲の空間ごと切り裂かれるかのような殺気が交差し、その場にいた誰もが思わず息を呑む。
「さあゴドーよ……まずは巨竜王様の肉体の掌握に邪魔なそこの小娘から始末しようか」
メフィストがそういうやいなやゴドーの姿が消え、次の瞬間にはメティムの後ろに現れて首筋にナイフを突きつけていた。
そしてそのままゆっくりとマルスたちの方を向く。
「……くっ……」
(速いっ!?)
マルスが歯ぎしりする。
マルスは過去に一度だけゴドーと戦ったことがあった。
その時は全く歯が立たなかった。
だが……
「ふふふ、はははははっ、貴様らはもう終わりだあああ!! あーっはっはっはー!!」
高笑いするDr.メフィスト。
すると突然マルスは不敵に笑みを浮かべゴドーを挑発する。
「フン、ゴドーよ。柄だけのナイフで一体何をしようってんだ?」
言われてナイフを見やるとメティムの首筋に当てられていたナイフはポッキリと折れたあとだった。
ゴドーとすれ違った刹那マルスがナイフを一瞬で切り落としたのだ。
ゴドーが用をなさないナイフを投げ捨て嗤う。
「ふ……あれから随分と鍛えなおしたと見える……」
ゴドーの賛辞にニヤリと笑うマルス。
しかしその表情はすぐに真剣なものに変わる。
「いつまで人の女房に張り付いてやがる!この変態野郎がぁ!!」
そう言うとマルスはものすごい速さで駆けだし、瞬時に間合いを詰めたかと思うと目にも止まらぬスピードで連続攻撃を繰り出した。
「はぁあああ!!!」
「ひゅるううぅううぅぅうううぅ!!!」
マルスの斬撃を刃に変化させた両腕で激しく撃ち合うゴドー
だが蹴りの一撃をくらい吹き飛ばされ、メティムとの距離が空いた。
「す、すごい……」
その光景に感嘆の声をあげるプリズナ。
一方、ギルトンは無言でマルスの戦いぶりを見ていた。
「……」
「ほう、貴様なかなかやるようになったな……」
マルスの猛攻を受けつつも平然と立ち上がるゴドー。
その顔は無表情だが内心ではマルスの成長ぶりに感心しているようだった。
「ふん、いつまでも昔の俺と思うなよ!」
そんなやりとりをしている2人にまわりが気を取られている隙に、メティムはメフィストが持つ"巨竜血の槍"を奪い取ろうとギルトンとプリズナに合図を送った。
「いい、私が合図したらギル君が飛び出して! 私とプリズナさんは目眩しの魔法で援護するわ!」
そう言ってメティムは魔力を高め始める。
「ま、待て女神メティム!?一体何をするつもりだ!?」
メティムの動向に気づき慌てて制止しようとするメフィストだったが、メティム達はそれを無視し詠唱を始めた。
『地の底に眠りしドライアドの眷属よ、今こそ目覚めの時、我に従いその力を示せ……』
するとメティムとプリズナの周りに魔法陣が出現し、そこから巨大な蔦が現れた。
それは次々と現れ数十本に及ぶ手の様な蔦が召喚された。
「な、なんだこれはああああぁぁぁ!!」
驚愕のあまり絶叫をあげるメフィスト。
メティムはその無数の手を操り、プリズナと共にメフィストの持つ持つ"巨竜血の槍"に収束させていく。
隙を突かれメフィストはまんまとメティムに"巨竜血の槍"を奪われてしまう。
そしてそれと同時ギルトンも飛び出した。
「なっ!いつの間に!?」
動揺するメフィストを尻目に一気に距離を詰めて渾身の力で拳を振り抜く。
パンチを叩き込まれたメフィストはそのまま壁に激突し崩れ落ちた。
「ぐはぁぁああぁあぁっっ!!!!」
全身を強打し血を吐いて倒れたまま動けなくなる。
それを見たメフィストの部下達は慌てて逃げ出そうとするが、プリズナ達が操るドライアドの蔓にすぐに捕まりボスのメフィスト共々雁字搦めに拘束された。
「くそぉおおぉっっっ!!!!離せぇぇぇええっ!!!!!」
喚き散らすメフィストを無視して、残る雑兵と交戦するギルトンの下へプリズナと巨竜血の槍を持ったメティムが歩み寄る。
「やったねギルくん♪」
「おっとメティム、まだ敵は残ってるから油断しちゃーなんねーだぞ!」
嬉しそうに声をかけるメティムに対し、意外と慎重に立ち回るギルトン。
ギルトンらの会話を聞きながらゴドーはマルスとの戦闘続行を解除した。
「……どうやらここまでのようだ…」
そう言うとゴドーは拘束されているメフィストを救い出し何処かへと消えていった。
「えっ!?ちょ、ちょっとゴドちゃん何処行くのよーーっ!!」
ゴドーの行動に驚くメフィストだったが、その時メフィストの脳裏に彼の主アング・アルテマレーザーからの念波が聞こえてきた。
「エッ……アング様自爆ですか!?……はい!はい!………まあいい今回はこれで引き上げよう」
そう呟くとメフィストの姿は一瞬で消え去った。
「あれ?あいつどこいったんだ?」
不思議そうに辺りを見回すギルトンであったが、突然地面が激しく揺れ始めた。
「……うわっぷ!?今度は何だぁ!?」
突然の事態に慌てる一同、すると地震と同時に地中から巨大な影が姿を現した。
「こ、こいつは……ドラゴンなのか……?」
唖然とするギルトンの前に現れたのは全長20メートルはあるであろう大きな黒い鱗と黄色い紋様に覆われたドラゴンであった。
「グオオオォォォォッッン!!!!」
全長20メートル
それはギガス・オブ・ガイアの巨人と比べれば別段デカいという大きさではなかった。
問題は殺気、そして強者の圧である。
ギルトンはドラゴンが放つ濃厚な気の強さに覚えがあった。
「この……殺気の強さ……ゴドーと同じ……まさかあのドラゴンは!!」
次の瞬間、龍の口から炎のブレスが放たれた。
火炎放射のような凄まじい炎がギルトン達に襲いかかる。
(やばいぞこれっ!?)
咄嗟に回避行動を取るギルトンだったが、避けきれず左腕を焼かれてしまった。
激痛が走る中なんとか体勢を立て直すことが出来たものの、このままではジリ貧だと判断したギルトンは意を決して懐に飛び込むことにした。
「くっそおおおおぉぉぉぉっっ!!!!」
雄叫びをあげながら突撃するギルトンに対し龍は再び炎を吐き出そうとしたが……突如その巨体がぐらついたかと思うとそのまま地面に倒れ伏してしまった。
「……へっ?」
ドラゴンの足元を見れば地面から数体の巨人が湧き出てドラゴンの足を掴み押し倒そうとしてる。
どの巨人もドラゴンよりずっと大きい。しかし、そんな巨人をものともせず黄色い紋様のドラゴンは自分より何倍も大きい巨人達を次々と引きずり倒し踏み殺していく。
その様はまさに圧巻だった。
「おぉーーいっ!マルスー、ギルくーんこっちだよおーーっ!!」
聞き慣れた声に振り向くとそこには巨人に肩車され手を振っている少女の姿があった。
メティムだ。
手には巨竜血の槍が握られている。
どうやら奪った神具をもう使いこなしてる様だ。。
彼女は巨人の肩に乗り手を振る余裕すらあった。
「お、おめー……すげーな……」
あまりの光景に呆然と立ち尽くすギルトンに対し、巨人の肩に乗ったメティムはにっこりと微笑んだ。
「えへへ♪私こう見えても巨人族の姫だからね」
得意げな表情で話す彼女を見てギルトンとマルスは思わず笑みをこぼしてしまうのだった。
だがここで悲劇が起きた。
丁度巨竜王アングが霜の巨人の力を解放させ本体を凍結自爆させたタイミングだった。
メティムは巨竜王の血から作られた巨竜血の槍を持ったままだった。
「え?」
気付いた時にはすでに遅し。
彼女の体は強烈な冷気によって氷漬けになってしまったのだ。
――彼女の表情は、最後まで笑っていた。
愛する仲間に背を預けたまま、その笑顔のまま、時の檻に封じられていた。
……まるで、仲間たちの勝利を信じているかのように。
そんな彼らを嘲笑うかのように上空から声が響く。
『クククッ……こうなったか……』
見上げると空中に浮遊するドラゴンの頭の上に人型のシルエットが見える。
あれは紛れもなく先ほど逃げたはずのメフィストだ。
彼は既に勝利を確信しているかのような口ぶりで言った。
『小娘の持つ巨人族の血槍は我が主が作り出した特殊な物……我が主の自爆に巻き込まれた女神メティムはもうどんな魔法でも凍結封印から解除される事はない……我が主アング・アルテマレーザー様以外にはね……マルス君〜僕と取引しない〜?』
「なっ……なんだと!?」
突然の提案に驚愕するマルス。そんな彼に対しメフィストは更に言葉を続けた。
『君が大人しく僕等に協力してくれるなら奥さんを解放してもらえるよう僕が、アング様に頼んであげるよ?』
「……ふざけるな!誰が貴様などに屈するか!」
怒りを露にするマルスを尻目にメフィストはさらに続ける。
『まあそう言うと思ったけどさあ、ちょっと落ち着いてじっくり考えるんだねー、生まれたばかりのお子さんがいるんだろう? その子にはママが必要なんじゃない?』
「なに!?」
マルスに対してメフィストはニヤリと笑った。
その笑みはまるで悪魔のようだった。
マルスは絶句した。
まるで心臓を握り潰されたような感覚に陥る。
そんな彼の動揺を見透かしたようにメフィストは言った。
『僕の言うことを聞いてくれたら、僕は君と君の家族の命を保証するよ……どうだい?悪くない提案だろう?』
「……」
マルスは何も答えることが出来なかった。ただ黙って俯くことしかできないでいた。
そんな彼にメフィストがトドメとばかりに囁くように言う。
『ねぇ……奥さんを助けたいでしょう……? 生まれたばかりの赤ちゃんだって早くお母さんに会いたいでしょう?……君もそう思うはずだよね』と。
「…………」
「まあオリンポス王子たる君にも立場ってモノがあるのはわかるよ。だから時間を置こう。数日後に使者を送るよ。そこで交渉のテーブルを設けようじゃないか」
そう言い残してメフィストは黒い竜と共に飛び立っていった。
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