乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-5 魔王オーム
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薄暗い天井。冷たい石の感触。
ユキルは、荒く息を吐き、ゆっくりと瞼を開いた。
――目覚めたのは、“見知らぬ異世界”だった。
(……ここは……?)
覚醒と同時に、脳裏にフラッシュバックが走る。
学校近くの空き地、暴走するトラック、絵里洲の叫び、そして――衝撃。
「……あの時、私たち……」
隣で呻く声。絵里洲だ。彼女も目を覚ましたようだった。
だが、状況把握はすぐに混乱に塗り潰された。
床一面に刻まれた魔法陣。環状にそびえる石柱。その中心には、黒い祭壇。
まるで――異世界ファンタジーの“儀式場”。
「ここ……まさか、天国ってわけでもなさそうね……」
絵里洲が震える声で呟いた。その場に似つかわしくない、現実逃避にも似た冗談。
だが、現実は容赦なく牙を剥く。
二人の視線が、一つの影で重なった。
祭壇の傍ら。土埃をまとい、意識を失ったまま倒れている――一人の少年。
「ちょっと……君、大丈夫!?」
絵里洲が駆け寄る。ユキルも続いた。
目を開く――金色の髪が光を弾き、褐色の肌が異国を想起させる。
整いすぎた顔立ちに、二人は思わず言葉を失った。
その瞳の奥に宿るものは、ただ一つの“意志”。
「……ああ、よかった。召喚は……成功したようだ」
(召喚……? 今、なんて……?)
誰かが何かを言った――その瞬間、世界の色がほんの僅か、歪んで見えた。
少年は、静かに立ち上がる。
声は、年齢に似合わぬほど落ち着き――威厳を湛えていた。
「僕の名はオーム。タタリ族の族長を務めている。そして君たちは――救いに応じてくれた者たちだ」
その言葉が、現実を肯定する。
絵里洲の反応は早かった。
「は!? なにその中二ワード!? “召喚”って、え、今なんて言ったの!?」
「……すまない。だが事実だ。君たちは、僕たちの世界に召喚された」
その場の空気が、変わる。
ユキルと絵里洲の表情から、一気に血の気が引いていく。
「……これ、誘拐じゃないですか……?」
「まさか、私たち……殺される……?」
ユキルも絵里洲も、半ば泣きそうな表情で言葉を紡いだ。
だがオームは、そんな二人の不安を和らげるように、優しく微笑んだ。
「心配はいりません。命を奪うような真似は決してしません」
その笑顔には、確かに偽りの気配はなかった。
けれど、それだけでは納得できないほど、状況が異常すぎる。
「それで……あなた、一体誰なんですか……? そしてここはどこなんですか?」
ユキルの問いに、オームは頷くと懐から一枚の布を取り出した。
広げられたそれは、絵巻物のような様式の精密な地図だった。
中央に赤く輝く星型の陸地――その異形に、絵里洲が思わず息を呑む。
「なにこれ……星の形……?」
オームは微笑を絶やさず答えた。
「ここはスラル。君たちがいた球体の惑星とは異なる、“平面世界”なのです」
「平面!? そんなの、ありえない!」
叫んだのは絵里洲だった。明らかに納得がいかない様子で、言葉を畳みかける。
「なにそれ……あんな形の大陸なんて聞いたことないし!
赤道は? 北極は? 天候や重力だって、おかしいじゃない!」
彼女の理屈はごもっともだった。
地球の常識からすれば、すべてが矛盾に満ちている。だが――
「“目に見えるものすべてが真実”だと思わないことです」
オームの返答は、静かで、それでいて何より重かった。
「あなたは魔法少女になる前まで、魔法の存在を信じていましたか?
――物理法則は絶対ではありません。宇宙が違えば、理も違う。
ここスラルは、“理不尽を理とする世界”です」
その言葉に、ユキルも絵里洲も、ただ唖然とすることしかできなかった。
理屈が通らない。だが、その場の空気が、それを否応なく現実として突きつけてくる。
オームは満足そうに頷いた。
「さて、そろそろ本題に入りましょう。僕は君たちに、ある“お願い”をするために君たちを呼びました」
その瞬間、絵里洲が突如として感情を爆発させた。
怒りとも、恐怖とも、混乱ともつかない感情を吐き出すように――
「お願い!? いきなりこんな所に呼び出して、何をさせようって言うのよ!!」
彼女の叫びにも、オームは動じなかった。むしろ、それを当然の反応と受け止めたように――
「落ち着いてください。まずは、僕たちが信仰する女神の巫女たちを紹介させてください」
オームが指を鳴らすと、空間に魔力の波紋が走り、祭壇の奥から二つの影が姿を現す。
一人は黄緑の長髪にぱっつん前髪。白く澄んだ瞳が聖女のような静謐を纏う。
もう一人は金髪ショートで、褐色の肌。露出の多い衣装が彼女の強気な雰囲気を際立たせていた。
二人とも、絵里洲たちと同年代か、少し年上といった印象だった。
「この人たちも……タタリ族の人?」
思わず漏れた絵里洲の問いに、黄緑の髪の少女がオドオドと消え入りそうな声で答えた。
「わ、わ、わ、私は……シュリ……メ、メギド族の巫女………です」
それに続き、もう一人の少女が人懐っこく笑って名乗る。
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