乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-15 強欲な覇王共の見苦しい争い
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一方黒い霧のようなものがあたり一帯に立ち込めたエトナ火山近辺では……
「何だこれは!まさか毒ガスか!?」
「違う!この匂いは……」
メティムは気がついた。
この強烈な臭いは巨人族の血を呼び覚ます巨竜王の血の匂いだと。
次の瞬間!!
エトナ火山近辺の住人達の足元に巨大な光の柱が上がった!!
その光の中から出現したのは、紛れもなくあの忌まわしい化け物たちであった。
そう、巨人族である!!
しかも彼らは皆、これまで見てきた巨人族より明らかに巨大ではないか!!
だが、それだけでは終わらなかった。
ドォン……ドォン……!
地の底から、重低音のような振動が鳴り響く。地鳴りとともに、次々と地面を突き破って“何か”が這い出してくる。
巨体。異形。圧倒的な威容。
その姿を目にした者たちは皆、言葉を失った。
まるでギリシャ神話の書に描かれる神々の敵、“タイタン”たちが、現実に蘇ったかのようだった。
一体目――蒼い肌を持ち、鬼のような湾曲した角を生やし、右手には棍棒、左手には巨大な黒盾。
その体高は五十メートルをゆうに超え、揺るがぬ大地の化身のごとき威容を誇っていた。
そして、それは“始まり”に過ぎなかった。
二体、三体――無数の巨人たちが地中から這い出し、火山の裾野を覆い尽くしていく。
彼らは皆、まるでゾンビのように鈍重な動きで、だが確実にこちらへと迫ってきた。死の行軍のごとく……。
巨人達はまるでゾンビのようにゆっくりと、しかし確実に迫って来る!
マルスとギルトンは思わず叫んだ。
「く、くそおおおおおおおおおおお!!!」
「こいつらが100年前のラグナロクで封印されたギガス・オブ・ガイアだべか!?」
二人は驚きを隠せなかった。
100年前に起きた神々同士の戦争『ラグナロク』において、神々と人類連合は敵側の巨人達と壮絶な戦いを繰り広げたのだが、その戦いで敵の総大将アザトースの6盟友の一人である新邪神エクリプスによって変質進化させられた恐ろしい怪物達がいたのだ。
それがギガス・オブ・ガイアと呼ばれる巨人なのだ!!
ユミル・ガイアの手勢であった巨人たちを新邪神エクリプスの力で洗脳及び強化進化させ、巨竜王ケイオステュポーンの臣下にあてがった並の巨人を遥かに越える超戦闘力を誇る特別な巨人達
100年前わずか7日で地球人口の9割を滅ぼした地獄の軍勢である。
(ちなみにオリジナルのファウストとメフィストもギガス・オブ・ガイアの生き残りである)
その数は全部で53万体以上!!
それらが一斉に進撃を開始したのだ!!
「こ、こんなの相手にできるわけないじゃない……」
メティムは絶望に打ちひしがれ膝を落とした。
「ヴルァ〜ハッハッハッハ! ついに我が軍勢が復活したぞ!! 残念だったな〜デウスカエサル〜?」
その様子を見たアング・アルテマレーザーは勝利を確信したかのように笑い声をあげた。
そんな彼を嘲笑うかのような声が辺りに響いた!
嗤うのはデウスカエサルである。
「フハハハハハハ!! 愚かなりアング・アルテマレーザー!!この俺のために、わざわざギガス・オブ・ガイアの軍勢を蘇らせてくれるとはなあ!……」
「?……なにぃ??」
デウスカエサルは懐から《エキドナハート》を取り出した。
禍々しくも妖しく光を放つ宝玉――その中心で脈動するのは、まるで狂った心臓のような、妖黄の輝きだった。
「見せてやろう……新たなる支配の力を!」
そう呟いた彼は、宝玉を天へと掲げた。
次の瞬間――
天空を貫くように無数の稲妻が走り、地響きを伴い空が裂けた。
雷光は一点に収束し、やがて巨大な光球となって轟音とともに地上へと降臨する!
その光が着地した場所――それこそ、ギガス・オブ・ガイアの大軍勢の中心。
眩い閃光が爆ぜ、衝撃波が周囲に広がる中……そのすべての巨人たちの体内へと、黄の光が吸い込まれていった。
そして――
ピタリ。
突如、すべての巨人の動きが止まった。
沈黙。そして次の瞬間、巨体たちは一斉にその場で跪き始めたのだ。
まるで、新たな王の命に服従するように――。
「なっ!?なんだこれはああ!!?? 何故だ!? 何故ギガスどもは王であるこの私よりエキドナハートの命令権を優先する? 命令優先権は私の方が上のはずだぞ!?」
驚くアング・アルテマレーザーに向かってデウスカエサルはニヤリと笑って言った。
「フフ、……このエキドナハートはな、あの覇星ゴームによってとんでもない改良が施されていたんだよ。ゴームの喰わせ者め……奴はユミル・ガイアのあらゆる研究データを解析し、宝玉でお前を上回る命令権を発動できるという、とんでもないチューンアップをほどこしておったぞ! それを知ったときは肝を冷やしたわ! 危うく世界を滅ぼした力がまんまとゴーム王の手に渡ってしまうところだったんだからな! お陰でなりふりかまわずエキドナハートを簒奪する羽目になってしまったわ!!」
「な、なんだとおおおおおお!!!!???」
それを聞いたアング・アルテマレーザーの顔は真っ青になった。
自分の命令権を上回る力をエキドナハートが持っていると言う事は、自分の本体であるケイオステュポーンをも操れると言う事で有ること……。
つまり、このままでは自分は本来の体に戻ることができないということである。
「お、おのれえええ!!ゴ、ゴームの野朗〜〜! この私を謀るとはあああ!!」
怒り狂うアング・アルテマレーザーを尻目にデウスカエサルはこう続けた。
「これでお前の計画は終わりだ。お前はもう何も出来ないただのデクに過ぎん。このままただの人間として朽ち果てるがいいさ! さて、これからどうしたものかな〜」
デウスカエサルは顎に手を当てて考え込んだ。
「よし、ギガス・オブ・ガイアの軍勢を完全掌握したあかつきには貴様が治めるタイラント族の領土を残らず踏み潰しててくれよう!!」
「な、なにいい〜〜っ!?」
アング・アルテマレーザーは驚愕のあまり目を見開きながら絶叫した。
しかし、もはや彼に打つ手は無い……何故なら彼の最大の弱点は既にデウスカエサルに握られてしまっていたのだから……。
デウスカエサルは勝ち誇ったように笑いながら、こう言った。
「ハハハハッ!! もうお前には何もできない!!さあどうする? 大人しく負けを認め這いつくばって俺に命乞いでもしてみるか?」
「……ぐっ!」
デウスカエサルの言葉にアング・アルテマレーザーは悔しそうに歯ぎしりした。
「……ち、畜生………ちくしょおおおおおおおおおお!」
2人は睨み合ったまま微動だにしなかった……。
そして数秒後、デウスカエサルの方から口を開いた。
「……フハハハハハハハハハハ!! いや愉快愉快!実に愉快な余興であったぞ!」
突然笑い出したデウスカエサルを見て、アング・アルテマレーザーは一瞬ポカンとしたがすぐに我を取り戻した。
「こ、この野郎……!何が可笑しいんだ!? ふざけやがって……!!」
激怒するアング・アルテマレーザーをよそに、彼はなおも上機嫌だった。
「クッハハハハハッ!!いやぁ〜こんなに笑ったのは久しぶりだ〜!」
ひとしきり笑うデウスカエサルを見て、アングは覚悟を決めてように急に真顔になったかと思うと今度は鋭い眼光で睨みつけてきたのだ!
その凄まじさに思わず息を呑む雷帝であったが、それでも怯まず言い返した。
「……フッ、なんだ? まだなにか惨めったらしく悪あがきでも考えているのか?」
アングを警戒してかデウスカエサルの表情が険しいものへと変わった。
「本当に残念でならない……! 此度は我が本体の復活を諦めるしかない……自爆する! デウスカエサル! 我が本体を犠牲にして貴様を10年程封印してくれる!!」
「なんだと……? そんな事が出来るものか!」
自信満々にそう言い放つデウスカエサルに対して、アングは不敵に微笑んだ。
「出来るとも!」
アング・アルテマレーザーの声が、空気を裂いた。
「巨竜王ケイオステュポーンの肉体と、巨人王の証――
それは陰と陽。表裏一体の存在……!」
彼の口から語られたのは、凍てついた神話すら凍結させる一手。
「今ここに霜の巨人の因子を活性化させる!
爆発的な魔力で空間を歪め、時の流れを狂わせ、すべてを“氷の檻”に閉じ込める!
――貴様もろとも、な!!」
「それで貴様を10年は足止めできるだろう!! その10年の内に我が本体とギガス・オブ・ガイアを取り戻す策をこうじる!!」
「な、なんだとおお!? き、貴様
〜〜〜!!?」
それを聞いてデウスカエサルは驚愕した。
無理もない、まさかこのような切り札を用意しているとは夢にも思わなかったのだから……。
自爆を決意したアングはすぐさま側近のメフィストに司令を送る。
「メフィスト!聞いていたな!今すぐ確保している俺の本体から離れ撤退しろ! 俺はデウスカエサルを道連れにする!!急げ!!!」
「了解しました」
(ちっ、まずい! このままでは俺も一緒に凍結してしまう!)
デウスカエサルはエキドナハートを投げ捨て慌てて飛び立とうとしたが既に遅かったのである。
「逃がすかあああ!!! 10年間眠り続けろおおおお!!!!」
アング・アルテマレーザーは元来の自分の体ケイオステュポーンに対し自爆を命じた。
その瞬間凄まじい閃光と爆氷が巻き起こり、凍結の霜が辺り一帯を覆い尽くしたのだった……。
デウスカエサルはアングに向かい呪いの言葉を吐く。
「ぐおおおおおお……!! おのれえええ!! あと少しでギガス・オブ・ガイアの軍勢が我が手に入ったものを〜〜! アング〜〜〜! この恨み忘れんぞおおお!!!」
対するアングも憎々しげに雷帝に呪いの言葉を吐く。
「何がこの恨み忘れんぞだあ! 恨みたいのはこっちの方だ! あああ、俺の本体が、本体があああ! 畜生…ちくしょおおおおおおおおおお!」
罵り合う二人の王を見てスパルタクスは思った。
(2人とも、なんとあさましい……これが天下布武をうたう王者の姿なのか?)
巨竜王ケイオステュポーンの肉体が、自爆の余波で音もなく崩れ落ちていく。
氷嵐は世界を覆い尽くし、時の流れすら凍てつかせるその中で――
それでもなお、二人の王は口を止めることなく罵り合っていた。
「人でなしのド外道がァァァ!! てめぇの血は何色だッ!!」
「貴様こそだッ!! どの口が抜かすんだ、このド悪党ォォオオ!!」
氷と怒号がぶつかりあい、世界は完全に凍結しているというのに、当人たちの魂は一ミリも冷えていない。
いや、むしろ熱量は増していた。
その様子を、戦場の端で見ていたスパルタクスは、深々とため息をつく。
(……見苦しい。天下布武を名乗る資格など、この二人にあるものか……)
(やはり、この乱世を正しく導けるのは――我が盟友、サタンしかおるまい)
そして、その隣で様子を見ていた暗黒天馬ジャムガは、もう堪えきれなかった。
「ぶふっ……ブハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
戦場のど真ん中で、氷と怒声と哄笑が交錯する――
もはや地獄絵図なのか、悪夢の茶番なのか、判断がつかないほどの混沌である。
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