乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-9 オリンポス最強闘神イクシローテリ・ヘラクレス
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自らの制御を離れ、かってに動き出す巨竜王にメティムは慌てて叫んだ。
「ちょっと!そっちじゃないよ!!こっちだってばぁ!!」
しかし巨大竜はまるで聞く耳を持たず、真っ直ぐにエトナ火山麓の町に向かって行った。
このままではまずいと判断したギルトンは、慌ててメティムに言った。
「仕方ねぇ……オラが行くしかなさそうだ……」
ギルトンはそう言って立ち上がると、剣を抜いて構えた。
そんな彼を見たマルスが言った。
「待てギルトン!いくら貴様でもアレは手に余る!まずはデウスカエサルからエキドナハートを取り戻すのが先決だ!エキドナハートの宝玉があればメティムはケイオステュポーンをコントロールできるようになるはずだ!」
「分かっただ……!よし行くぞぉおお!!」そう言って走り出したギルトンだったが、すぐに足を止めると振り返って言った。
「……ってどうやって取り戻すんだ!?方法が分からねーぞ!?」
思わずずっこけるメティムとマルス
そんなギルトンに対してデウスカエサルが口を開いた。
「馬鹿め!隙だらけだぞ!!」
そう言うや否や、彼は手にしていた雷霆を振り下ろしてきた。
咄嗟に反応したギルトンは素早く身を躱すと距離を取った。
すると今度は背後から声が聞こえてきた。
「何言ってるのよギルトン君!デウスカエサルを倒して懐にしまってあるエキドナハートを奪いとればいいのよ!」
振り向くとそこにはメティムの姿があった。
どうやらコントロールはままならぬが、ケイオステュポーンの動きを封じる事くらいはできるらしい。
安堵する間もなく、続いて別の声が響いてきた。
「……マルス……ギルトン……」
振り返るとそこにいたのは無表情の巨漢の男だった。
彼はオリンポスの最高幹部の一人で、デウスカエサルに匹敵する最強神イクシローテリ・ヘラクレスだった。
ヘラクレスは不気味な無表情で近づいて来てこう言った。
「諦めろ……親父の……邪魔させない……これは……オリンポスの決定だあ……」
そう言うと同時に何も持っていない、ただ気を込めた手を弓を引くように構え狙いを定め始めた。
(マズい……!!)そう思った時には既に遅かった。
次の瞬間、巨大な気功の矢が撃ち出されたのだ。
避ける暇すら与えられなかったギルトンはそのまま直撃を受けてしまった。
全身に走る激痛に耐えながらなんとか立ち上がろうとするが上手くいかないようだった。
そこへ追い討ちをかけるように今度はデウスカエサルから更なる追撃を受ける羽目になった。
「神聖天空拳奥義 雷刃嵐!!」
なんとデウスカエサルが地面に手を着くと同時に、地面を突き破って現れた無数の刃のようなものが伸びギルトンとアレスに襲いかかった。
ギルトンはそれを間一髪で直撃は回避したが、その際に足を刃の一本に貫かれ転倒してしまった。
倒れ込んだ先に拳を構えた巨漢のヘラクレスが迫ってきた。
咄嗟にマルスがギルトンを抱えヘラクレスと距離を取る。
それを見たメティムが叫んだ。
「もう!!援軍はまだ来ないの!?ゼロ・カリオンもスパルタクスさんも何やってるのよ!このままじゃ全滅するわ!!」
その言葉を聞き、デウスカエサルがピタリと動きを止めた。
「小娘……今なんと言った?スパルタクスの名を言ったか?もう一度言ってみろ……!」
それを聞いたメティムの表情が一瞬で青ざめていくのが分かった。
デウスカエサルは再びこちらを向くと怒りに満ちた声で言った。
「あの男がここに来ているのか……?ふざけるなぁあああああ!!!!」
その瞬間、凄まじいまでの殺気が放たれた。
そのあまりの迫力に全員が気圧され動けなくなる中、いち早く動いたのはやはりマルスであった。
彼はすかさず剣を鞘に収めると、両手を合わせて祈りを捧げるようなポーズをとった。
するとその手に光が宿り始める。
やがてそれが徐々に大きくなっていき、巨大な光の玉ようなものへと変わっていった。
「創世爆撃!」
マルスはそれを大きく振りかぶってデウスカエサルに向け投げつけたのである。
(これはまさか、気功弾なのか!?しかしこんな強力な力は見たことが無いぞ!?)
驚愕する神の目の前で光の塊はものすごい速度で飛んで行きデウスカエサルに命中するかと思われた瞬間、隣にいたヘラクレスが信じられない行動に出たのだった。
なんと腰に巻いていたライオンの毛皮を腕に巻きつけ、光の玉を真正面から受けたのである。
そのまま吹き飛ばされそうになるが踏みとどまったヘラクレスはニヤリと笑い雄叫びを上げた。
「グォオオオ!!!」
それと同時に光の玉の威力が増していきヘラクレスを襲うが、ヘラクレスも負けじと力を込める。
ついには完全に相殺され光の玉は消えてしまったのである。
「……無駄だあ……ネメアーの獅子の毛皮……あらゆる攻撃を無効化する……」
そんなヘラクレスを見てマルスは悔しそうに唇を嚙んだ。
(くそっ……ヘラクレスめ!あれ程の力を持っていながら何故あのクソ親父の言いなりになってやがる!?)
だがすぐに気持ちを切り替えると再び祈りの姿勢をとり次の一撃を放つ準備を始めたのだった。
その様子を見たデウスカエサルは舌打ちをするとヘラクレスに命令した。
「おい!ヘラクレスよ!!さっさとそいつらを片付けてしまわんか!」
ギルトンは立ち上がると剣を抜いたままゆっくりと構えを取る。
そしてデウスカエサルとヘラクレスの前に立つとこう呟いた。
「悪いな……あんたらとはまともにやり合って勝てる気がしねえだ、ズリィけどこういう手段を取らせて貰うだ」そう言うと一気に駆け出し距離を詰めて行く。
その様子を見たヘラクレスは思わず身構えたが次の瞬間、目の前に居たはずのギルトンの姿が消えたかと思うと背後に気配を感じた。
慌てて振り返るとそこには拳を振り下ろそうとするギルトンの姿があった。
とっさに腕を交差させ防御姿勢を取ったものの、勢いまでは殺しきれず後ろに飛ばされてしまう。
なんとか着地に成功したヘラクレスであったがその表情には動揺の色が浮かんでいた。
なぜなら自分が今まで戦った敵の中でここまで素早く動く者は居なかったからである。
イヤ、素早く動いたと言うよりは、瞬間移動能力を発動させたかのようだった。
それ故に完全に隙だらけになってしまったところを狙われてしまった形になり、体勢を立て直しネメアーの毛皮を構える前に次々と攻撃を受けてしまっていたのだ。
しかもただの打撃ではなく衝撃波を伴うものであり、ガードの上からでもダメージを負ってしまう程の威力を持っていた。
更にそれだけにとどまらずギルトンの猛攻は続き、次第に防戦一方になっていくヘラクレス。
そこへ今度はデウスカエサルが乱入してきた。
「こざかしいぞ小僧!!」
そう叫ぶや否やギルトンに向かって回し蹴りを叩き込む。
しかしギルトンはこれを難なく躱すと足を掴み、ジャイアントスイングの要領で振り回し始めたではないか!
これにはさすがのデウスカエサルも驚きの表情を見せたが、それでも空中で態勢を整えギルトンの腕に蹴りを入れ、足をつかむギルトンから逃れることに成功した。
地面に降り立ったデウスカエサルはすぐにギルトンに攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも先にヘラクレスが割って入りギルトンに殴りかかった。
それを見たデウスカエサルは慌ててその場から飛び退くと距離を取って様子を見ることにした。
オリンポス最強神たるヘラクレスの必殺奥義が放たれれば地球は消滅する。
地球を消滅させない為、破壊の中和をおこなう必要があるからだ。
デウスカエサルは美しい地球をいずれ自分の支配下の一つに治めたいと野心を燃やしていた。
ギルトンを攻撃しようとしたヘラクレスだったが動きが止まる。
瞬時にマルスがサポートに入り2対1の形成になったからだ。
ヘラクレスはギルトンを睨みつけながら拳を構えた状態でじっと動かないでいたが、やがてギルトンが口を開いたことで戦局が動き始めた。
「なあ……教えてくれねえだか?」
突然の質問にヘラクレスは一瞬戸惑ったがすぐに気を取り直し返事をすることにしたらしい。
「なんだ……?」
それを聞いたギルトンは少し悲しそうな表情をした後、質問を続けた。
「どうしてあんたは親父に従ってるんだ? あんたほどの実力者ならいくらでも反抗できたはずだろ!?」
その問いにヘラクレスは何も答えなかったが代わりにデウスカエサルが答えた。
「ふんっ!!決まっているだろう!!我らオリンポスの一族にとって長年の宿敵たる巨人族はいかなる誹りを受けようと絶対滅ぼさねばならぬ!!オリンポスの将たるヘラクレスは個人的感情を封じ、巨人族殲滅の重要性を認識しておるのだ。それ以外に理由はないわ!!」
そう言って高笑いをするデウスカエサルを見てギルトンは小さくため息をつくと言った。
「やっぱりそうなんだな。あんたは極端に自分達だけが絶対正義だと信じきっている独裁者だ……安心しただよ。それなら遠慮なく阿門が立てたずるい戦い方で戦えるだ」
「なにぃ?どういう意味だ?」
ギルトンの態度に激昂するデウスカエサルを尻目に、ヘラクレスは冷静に状況を見極めていた。
(……さっきメティムはスパルタクスとゼロ・カリオンの名前を呼んでいた……もしや………)
デウスカエサルがギルトンに襲いかかり、同時にヘラクレスもギルトン目掛けて突進していったのだが、ギルトンは余裕のある表情で身構えると、なんとその場でジャンプしたのだ。
そしてそのままデウスカエサルの頭を踏みつけ、ヘラクレスの腕をかわして背後に回ると胴を掴んで持ち上げてから地面に叩きつけた。
バックドロップだ。
「おのれぇ……!オリンポスの帝王に対しなんと無礼な!」
怒りの形相で吠えるデウスカエサルに対して、ギルトンは舌を出して言い放った。
「あっかんべー!」
だが、その目には確かな計算が宿っていた。
“正面からじゃ勝てねぇ。だから今は……引き際だ。”
瞬時の判断で全速力の撤退に移ったギルトン。その背中は、戦闘民族の本能で歴戦を渡り歩いた本能の策士のそれだった。
全速力で走り去って行くギルトンの姿を呆然と見送る2人であったが、ハッと我に返ったデウスカエサルはすぐに追いかけようとするも、ヘラクレスに制止されてしまうのだった。
「………親父……罠だ……あれは奴の狙い通りの行動だったに違いない……!」
「なんだと!?どういうことだ?」
ヘラクレスの言葉を聞いて怪訝な表情を浮かべるデウスカエサルであったが、その時突如として足元が大きく揺れ出した。
どうやら地震のようだ。
しかもただの地震ではないらしく、どんどん激しくなっていく一方であった。
「うおっ!?」
2人がバランスを崩した瞬間を見計らっていたかのように地面を突き破り、巨大な腕が飛び出してきたかと思うと、それはデウスカエサルの足を掴むと一気に引きずり込んでしまったのだ。
その手は巨竜王ケイオステュポーンの手だった。
ケイオステュポーンのコントロールに苦戦していたメティムだったが少しづつコツを掴みはじめたみたいだ。
彼女はケイオステュポーンを操り地面に潜り込ませ、下からデウスカエサルを掴み上げ浮遊要塞の下の階層に引きずり下ろした。
「ぬわーーっっ!!」
悲鳴をあげるデウスカエサルの姿は、瞬く間に地中へと消えていった。
……そして後には、信じがたいほどの静寂だけが残された。
だがその沈黙の裏側で、何かが――確かに、蠢いていた。
地の底にて、王たちの最終決戦は、すでに始まりつつあった。
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