乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-8 オリンポス絶対主神 雷帝デウスカエサル
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ーーーオリンポス、玉座の間。
「ぐあああああっ!!」
「ぬわああーっ!!」
天蓋に稲妻が奔り、玉座の間に地鳴りのような衝撃が響いた。
神殿を支える黒大理石の柱が軋み、金の装飾が音を立てて崩れ落ちる。
その中心――二人の勇者が蒼の勇者マルスと赤の勇者ギルトンが巨神の拳に吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられていた。
柱が砕け、金の装飾が崩れ、粉塵が巻き上がった。
だが――瓦礫の山を突き破り、マルスが立ち上がる。
その双眸には、燃えさかる怒りが宿っていた。
(クソッ……!! てめぇだけは、絶対に許さねえぇぇえええっっ!!)
此度の戦争でデウスカエサルに囮で見殺にされ、戦友とも言える部下や仲間たちを使い潰されたマルスの瞳には父への憎悪の色が満ちていた。
ゴーム王の娘メティムと恋仲になったマルスは、和平の使者としてタタリ族・メギド族の陣に駐屯していた。
ゴーム王も二人の結婚を認め、和平の機運が高まっていた――だが、それこそがデウスカエサルの罠だった。
和平の隙を突き、タタリ族の秘宝を強奪。味方であるはずのマルスの部隊までも巻き添えにしたのだ。
謀士と名高いゴーム王でさえ、この“正統王子を囮に使う”という狂気の策は読み切れなかった。
(ふざけやがってぇっ!!ぶっ殺してやるぅううううう!!!!)
マルスは全身から蒼い魔力を放出し殺意を剥き出しにする。
だが立ち塞がるはオリンポスの支配者にして絶対神たる雷帝デウスカエサル
「フン、この愚息が!くだらん情に惑わされ父に歯向かうか?身の程知らずめ!」
怒り狂う息子に父親としての愛情など微塵も感じさせず、ただただ軽蔑しきっているかのような視線で見下ろすデウスカエサル。
するとそこに……
「マルス〜!」
1人の女が駆け寄ってきた。
金髪碧眼の女の名は『メティム』
アテナの母であった。
「……っ!?」
メティムの姿を見た瞬間、激情に支配されていたマルスが一瞬正気を取り戻す。
「……メティムッ!お前までこんなところに来ていたのか!?」
「助けに来たよ〜♪ もう大丈夫だから安心して♪」
そう言いつつ、マルスに抱きつくメティム。
その仕草からは愛する人に対するような親愛の情を感じることができる。
2人は紛れもなく夫婦なのだ。
「…………すまない…………メティム……俺はクソ親父の陰謀を止められなかった……」
申し訳なさそうにうなだれるマルスであったが、そんな様子を一切気にすることなくメティスは笑顔で言った。
「いいっていいって♪気にしないでいいよ!」
そんなやり取りを黙って見ていたデウスカエサルだったが、やがて口を開くと吐き捨てるようにこう言った。
「……失せろ、下賤の牝。貴様のような穢れた血が、我が神威の血脈に触れるなど……嘔吐すら惜しいわ」
「はあ!?誰がアンタみたいな腐れ外道の言うことなんか聞くもんですか!!私はマルスが好きなのよ!!」
その言葉に激昂するメティスに対して、デウスカエサルは嘲笑うように返す。
「ハッ、笑わせるな。たかが下賤の女が――…貴様ら人間どもはすぐに絆だの愛だのと抜かす。
だがな、真に上に立つ者とは――全てを切り捨てられる者のことを言うのだ。
この世に、愛などというものが存在する限り……支配は完成せん!!身の程を知れ、廃王の落とし種め」
「なんですってー!!!言わせておけばぁー!!!!」
メティムは顔を真っ赤にして怒るが、デウスカエサルはまったく意に介さず言葉を続ける。
「まあいい……とにかく貴様らはもう用済みだ。おとなしくエキドナハートを諦め消えろ」
その言葉が放たれた刹那、空間がねじれた。
重圧の奔流――ただそこに“いる”というだけで、空間すら悲鳴をあげる。
大気は裂けるように震え、足元から背骨を駆け上がるような悪寒が走る。
マルスたちは反射的に身体を強張らせ、立っているのがやっとだった。
「くっ……!」
(これが……!これがオリンポスの帝王――雷帝デウスカエサルの、圧……!)
その場に居合わせた者すべての本能が、黙って逃げ出せと警鐘を鳴らしていた。
冷や汗を流しながら戦慄するマルスたちを尻目に、さらに追い討ちをかけるかのように恐ろしい言葉を口にするデウスカエサル。
「それともなにか?揃って仲良く消し炭になりたいというのか?」
そう言うとデウスカエサルは手のひらにバチバチと放電現象を起こし始めた。
黄金の光がどんどん大きくなっていくにつれ辺りに突風が吹き荒れ始める。
「ひいっ!?」
それを見たメティムは思わず悲鳴をあげてしまった。
(冗談じゃないわよ!あんなのくらったら一瞬で黒焦げになっちゃうじゃない!!)
恐怖のあまりガタガタ震えるメティムを見てニヤリと笑うと、デウスカエサルは言った。
「どうした?来ないのか?」
余裕たっぷりの態度である。完全に舐められているようだ。
「……っ!」
ギリッと歯ぎしりをするマルス。
しかしどうすることもできない。
今の状態ではとても勝てる見込みがないからだ。
それでも諦めるわけにはいかないと必死に自分を奮い立たせるマルス。
そんな彼の様子を見たメティムは慌てて声をかける。
「だ、大丈夫よマルス!私がついてるから!!」
そう言って励ます彼女であったが、その声は震えていた。
無理もないだろう。
目の前にいる相手はあまりにも強大すぎるのだから……。
しかし、だからといってこのまま大人しく従うわけにもいかない。
「く……」
マルスは悔しさのあまり唇を噛み締めたが、ここで自分が倒れればみんなの命はない。
そう判断したマルスは再び剣を構え直した。
その様子を見たデウスカエサルは満足そうに頷くと雷撃を放つべく右手を前にかざし、そして叫んだ。
「さあ、消えるがいい!!」
その瞬間、稲妻のような閃光が走ったかと思うと轟音と共に辺り一帯を吹き飛ばした。
あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになる一同。
幸いにもマルスが咄嗟に結界を張ったおかげで被害は最小限にとどまったが、それでもかなりのダメージを受けてしまい満身創痍といった状態だ。
(くそったれめ!なんて威力だ……まともに喰らっていたら確実に死んでいたぞ!?)
マルスの額からは滝のように汗が流れ落ちている。
もう立ち上がることすらままならない状態であったが、それでも歯を食い縛りなんとか立ち上がった。
そんな彼らに向かって再び電撃を浴びせようとするデウスカエサルだったが、そこに立ち塞がったのは意外な人物だった……。
「これ以上好き放題させてたまるもんですか!!」
なんと、それはメティムだったのだ。
彼女の身体から眩い光が溢れ出すのを見てマルス達は驚愕する。
「まさかお前……!」
「……マルス。今度は私が、あなたを守る番よ」
メティムは妖艶な笑みを浮かべると両手を広げて高らかに叫んだ。
「我が魂に眠りし力よ!今こそ目覚めん!!出でよ『ケイオステュポーン』!!!!」
やがて輝きが収まると、そこに現れたのは全長60メートル超の異形の竜だった。
西洋のドラゴンに似た輪郭を持ち、緑銀色の鱗が全身を覆う。
大地を揺らし天を裂き、雷鳴とともに現れた異形の竜。
緑銀の鱗が雷光に煌めき、六本の腕が宙を薙ぎ払うたび空間が悲鳴を上げる。
金色の双眸は理性を持たず、神をも焼き尽くす本能だけがそこにあった。
背に広がる大きな翼が風を巻き起こし、鋭利な尾の棘が空気を裂く。
額の角と長い髭をたたえた龍頭。その姿はまさに、神と竜の混成――“巨竜王ケイオステュポーン”。
これにはさすがのデウスカエサルも驚きを隠せなかったようだ。
「な、なんだと!?魂無き巨竜王の本体を召喚しただと!そんな真似が出来るのは七罪の魔女エキドナだけのはず!……小娘、貴様まさか!!」
慌てる様子の彼に対して不敵な笑みを浮かべたメティムはこう答えた。
「……ええそうよ。私の父は女神国最後の王ゴーム・ソウル、そして母は七罪の魔女エキドナ・ガイア! 貴方達オリンポスが私を秘宝エキドナハートごと誘拐した時、……牢屋の中で私は、自らの血に刻まれていた魔力に気づいたの。
そこで“母の魂”と交信し、対話を重ねることで――私は目覚めた。真なる“七罪の継承者”として。」
そう言って笑う彼女の顔はとても美しく見えたが同時に恐ろしくもあった。
その証拠に彼女から放たれるプレッシャーが凄まじかったからだ。
並の人間ならこれだけで気を失ってしまうだろう。
いや、それどころかショック死してしまうかもしれない程の強烈な殺気を放っていた。
だがそれを見たデウスカエサルは鼻で笑い飛ばすとこう言った。
「ふん、そのようなものでこの俺を倒せると思っているのか? 確かにそのケイオステュポーンはかつてこのデウスカエサルと同格に戦った怪物……だがそれはその体本来の主である巨竜王の魂が宿ってたからこそ。小娘、貴様如きが使役するケイオステュポーンに脅威はない。言っておいてやろう。その怪物は貴様の手には余る。お前では使役しようとしてもたちまち取り込まれてしまうだろう」
「あら、余裕ね。でもいつまでその威勢が続くかしら?」そう言うとメティムはニヤリと笑った。
「いくわよ!『ケイオステュポーン』!」
彼女が叫ぶと同時に、巨大竜は咆哮を上げたかと思うと口から灼熱の炎を吐き出した。
凄まじい火力である。たちまち周囲は火の海と化した。
その様子を見ていたギルトンとマルスは慌てふためいた様子で叫び声を上げた。
「うわぁああ!?」
「お、おいいいっ!」
しかしメティムは全く動じていない様子だった。
むしろ楽しそうですらある。
彼女は笑いながら言った。
「あははっ♪どう?凄いでしょ?これが私の相棒、ケイオステュポーンよ」
そう言いながら得意げに胸を張るメティムを見て、ギルトンとマルスは言った。
「よせメティム!そのでっけーやつの様子がおかしい! そいつ……理性がねぇ目をしてるだぞ!!」
「そうだ!このままだと――おまがが喰われる!!」
そう、――竜の目は、誰の命令にも従う意志を感じさせなかった。
金色の瞳に宿るのは、ただ純然たる破壊と殺戮。
一歩進むたびに、床が灼け、空気が泣き声のように軋む。
――それはまさに、“神殺しの化身”だった。
時すでに遅しであった。
メティムの命令を受けたはずの巨大竜はゆっくりと動き出したのだ。
そしてそのまま前進を始めたのである。
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