乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-3 Dr.ファウストの息子キラグンター
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「あ、ああ……」
久方ぶりの再会。だが、カオスクトゥルー――かつてのDr.ファウストは、言葉を選ぶことさえできず、ただ間延びした返答を漏らすしかなかった。
キラグンターの隣には、けばけばしいオレンジ髪の少女が立っていた。眼鏡をずらし、ニヤついた笑顔で口を開く。
「お父さあ〜ん、地球壊すのはマジで勘弁してよ〜? あたしら、ハクアプロジェクトで優勝狙ってんの。地球ぶっ壊れたら、全部パァなんだわ〜☆」
軽口を叩きながら笑う少女――その名は、スフィンクス・アルテマレーザー。
彼女は、巨竜王アングこと《ケイオステュポーン》の実の娘だった。
その様子にパピリオが眉をひそめ、声を絞るように吐き捨てた。
「……この世界破壊者どもめ。ハクアプロジェクトに参加して、今度は何を企んでいる……?」
返したのは中指と毒舌だった。
「はぁ? 誰かと思えばオカマ蝶じゃ〜ん! アタイらのルールも知らないくせに、エラそうに口出してんじゃねーよ、ド外道☆ アンタのその服、昭和〜って感じでマジウケるんだけどぉ? 平成どころか大正レベル! もしかして化石かなんかっスか〜?」
毒気とケバさが混ざったその挑発に、パピリオの金切り声が空にこだまする。
「んまあッ! このクチの悪い成金ギャルめェェェッ!! どこの三流原宿で育ったのよこのメスガキィィィ!!」
わめきながらも、ファウストはその光景が信じられなかった。
(な、なんてことだ……なぜだ……キラグンターが、なぜあのメフィストギルドに……!?)
気がつけば、彼の姿は魔獣ではなく、人間の姿へと戻っていた。
そのファウストに向かって、キラグンターがゆっくりと歩み寄る。
「父さん……大丈夫ですか?」
優しく、けれどどこか哀しみを帯びた声音だった。
「ああ……」
ファウストは反射的に頷いた。しかしその実、内心では足がすくむほど怯えていた。
(……来るな)
戦闘力ではない。違う。これは“父”としての恐怖だ。背中に汗がにじむ。直視できない。
彼は、息子の存在を恐れていた。自分が過去に犯した罪――背負うべき後悔の重さが、彼の言葉を奪っていたのだ。
「……ギガス・オブ・ガイア」
その名を、ぽつりとファウストが呟いた。
それは、神々に抗うべく造られた生物兵器の総称。
ファウストとメフィストは、もともと邪神討伐のために創造された《ギガス・オブ・ガイア》だった。だが神々との戦いに敗北し、人間社会に潜伏。科学者として擬態しながら、再戦の機を窺っていた。
やがて、彼らは一人の科学者と出会う。運命の女――《グレートヒェン》。
ジュエルウィッチ計画の中核を担っていた彼女は、ファウストと恋に落ち、家族を築いた。
その成果の一つが、“娘”として育てられた人工魔法少女であり――
そして実の息子が、キラグンターだった。
そのキラグンターが、今、まっすぐに頭を下げる。
「本当に……ご無沙汰しておりました」
「……」
「お久しぶりです、父さん」
「……お、おう……そ、そうだな」
気まずい空気が流れる。しかし、キラグンターは臆さなかった。
「……父さん。僕が……姉さんを死なせてしまったこと、怒ってますよね?」
ファウストは言葉を失った。
敵に対する憎しみではない。
息子に対して向けられるそれは、ただの“悲しみ”だった。
どう言葉にすればいいかも分からなかった。
「でも安心して、お父さん……。今度のハクアプロジェクトで、姉さんを……生き返らせる作戦があるんだ!」
「な、何を言ってるんだキラ……!? 死者を……蘇らせるだと?」
「うん。父さんも知ってるはずだよ。魂の核をボディに埋め込めば、ジュエルウィッチは蘇る……あのイサカ・アルビナスのようにね!」
「……!」
「僕の手元には、クリームヒルト姉さんの魂が宿る《シュブニア宝玉》がある。その宝玉を適合ボディに埋め込めば……姉さんは、必ず蘇る!」
「やめろ、キラ……それは違う……! 確かに宝玉は記憶や魔力の断片を保つ。だが、人格までは再構築できないんだ……! “あの子”そのものは……戻ってこない……!」
――魂の核は器に宿っても、記憶の模倣にすぎない。そこに“意志”や“心”があるとは限らないのだ。
「でも、僕は信じてる。あの笑顔を、もう一度……あの時間を、また取り戻せるって……」
「……!」
「姉さんのボディ適合者、今のところはブリュンヒルデと峰場アテナが候補なんだ。やっぱりブリュンヒルデが本命かな……?」
「やめろキラグンター! それは……それだけは……!」
「それでも僕は、彼女に戻ってきて欲しい。姉さんを生き返らせて、もう一度、あの輝かしい時間を取り戻すんだ……!」
「……姉を失ったお前の悲しみは分かる。だが、失われたものは……戻らない。これは……仕方のないことなんだ……!」
「……父さん。どうしてそんなひどいことを言うの? 出来損ないの僕は……やっぱりいらない子なの?」
自分の計画を止めようとする父に、キラグンターは悲しい顔で問いかける。
「ち、違う! キラグンター! お願いだ! 父さんの話を聞いてくれ!」
叫びながらも、ファウストには、どんな言葉で説得すればよいのか分からなかった。
――そもそも、キラグンターが狂気に染まった原因は、父である自分にあるのだから。
だからこそ、ファウストは心から願っていた。
どうか――この子の瞳に、あの頃のまっすぐな光が戻りますように。かつて、父と呼ばれた自分を信じていたあの瞳に。
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