乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-2 巨竜王アング・アルテマレーザー
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山奥の“水の結界”――
そこに現れたのは、神でも魔でもない、二柱の“怪物”だった。
ファウストとメフィスト。
人の姿を脱ぎ捨てた彼らは、全長六十メートルの巨体へと変貌を遂げ、異形の神性を纏っていた。
「グオオオオオオオオオオ……!!」
空気を裂く咆哮が山々を砕き、結界の内側に異界の風が吹き荒れる。
言葉は不要。
視線が交差した瞬間、戦いはすでに始まっていた――!
「アルティミット・シールド!!」
怪獣メフィストが咆哮と共に、全身に二重の魔力障壁を展開。
そのまま轟音と共に突進し、タックルを――ファウスト、否、《カオスクトゥルー》に叩き込む!
だが――
ドガンッ!!
信じられぬ光景。
カオスクトゥルーはその突進をたやすく受け止め、わずか一撃で弾き返していた。
「ぐ、ぬぅぅぅぅッ!?」
吹き飛ばされ、転がりながらメフィストは大地を滑走する。
「……な、なんだ……これは……!?」
その目に映るのは、見たこともない“力の波動”。
触れた瞬間、彼は本能的に理解した。
――これは、《合気》。
「まさか……巨体で合気だと……!? 馬鹿な……!」
六十メートルの巨体にして、古来より伝わる武道技。
達人が扱う気の流れ――それをこの異形が、完璧に使いこなしているなど……!
「喰らえェッ!!」
膝を沈め、腰を落とし――
クラウチングスタートの如き姿勢から、カオスクトゥルーが一気に突進する。
「アルティミット・シールド、四重展開!!」
メフィストが魔力障壁を次々と張り巡らせるが――
ドガガガガガッ!!
破壊の連撃がすべてを粉砕する。
最終防御すらぶち抜き、メフィストの巨体を押し倒す!
「GUUUUUNNNNNN!!」
カオスクトゥルーがマウントポジションを取り、拳を振り上げる。
メフィストは慌ててテレポート魔法を詠唱――だが。
「逃がさぬッ!!」
一喝と共に空間がねじれた。
「テ、テレポートが……できない!? 異次元空間!? 貴様、空間そのものを書き換えたのかッ!?」
「しかり」
低く、冷酷な声が響く。
「お前がこのまま逃げれば、次に挑むのは子供たちだ。……だが、あの子たちは貴様には勝てん」
拳に力が籠もる。
「だから、私が殺す。苦しませずに終わらせてやる。……頼む、メフィスト。死んでくれ。旧友よ、どうか……死んでくれッ!!」
「ふざけるなああああッ!!」
咆哮するメフィスト。
「殺せるもんなら、殺してみろォッ!!」
「人の命なんざ、所詮は運命のサイコロだろッ!? それに立ち向かう気もなく、ひたすら悲劇に酔ってるお前がッ!! いつだって損ばっかしてんだよ、ファウストォッ!!」
「いやだ。僕は死なない! 巨人族の使命を果たすまで死んでたまるか! 死んでたまるものかああああ!!」
しかし次の瞬間――
カオスクトゥルーの腕に籠められた怪力がメフィストの首を絞め上げ、その顔面が紫から青、青から黒へと変色していく。
口元から血と泡が零れ、意識が薄れゆく中――
かつての戦友は、何も言わず、ただ“殺す”ために拳を振り上げていた。
メフィストの窮地に気づき、空間の奥から雷のような咆哮が轟いた。
「……チィッ!!」
その声とともに姿を現したのは――無形雷刃、ゴドー・ハーケン。
両腕を鋭利な剣に変え、稲妻の如き勢いで、カオスクトゥルーへと突進する。
だが――その行く手を、ひらりと舞う影が遮った。
「どけ、胡蝶蜂剣!!」
「ふふふ、どかないって、わかってるくせにぃ~♡」
蝶のように舞い、蜂のように突く。
女剣士《胡蝶蜂剣パピリオ》が、悪戯めいた笑みと共に、剣戟を交わす。
ゴドーは力任せに斬り伏せようとするが、パピリオはひらり、ひらり――まるで風そのもののように舞い、反撃の剣を突き出す。
「小賢しい……ッ!」
ゴドーは怒りの声と共に両腕を四本に増やす。
雷光を纏った剣が唸りを上げ、胡蝶のような剣舞に襲いかかる!
カン、カン、ガァンッ!!
交錯する刃と刃。雷と蝶が夜空を裂き、爆ぜる音が空間を揺るがす。
「……流石は無形雷刃、やるじゃない?」
「…………」
沈黙のまま、しかしその瞳には明確な殺意が宿っていた。
ゴドーは一閃。
雷を纏った巨大な戦斧を顕現させ――
「邪剣・雷刃斧ッ!!」
対するパピリオも、紅蓮の炎を身に纏い、空中から火の蝶を舞わせる。
「炎魔蝶飛翔斬!!」
雷と炎が激突し、空間が閃光に包まれた――
が、それは“見せかけ”に過ぎなかった。
ヒュンッ!!
紅い閃光が、ゴドーの胴体を斬り裂いた!
だが、ゴドーも只者ではない。
硬質化させた装甲が致命傷を防ぎ、すでに反撃の構えを取っていた。
「……ッ!」
パピリオの首筋に、うっすらと紅い線が走る。
「……これは……!」
視線の先、ゴドーの右肩から――
目を凝らさねば見えぬ、“第五の剣腕”が突き出されていた。
「さすが殺し屋ゴドー。三本の剣と斧――その裏に隠していた一撃必殺の妖腕、見事ね」
「頸動脈を掻き切るつもりだったのだがな。よくぞ見抜いた、胡蝶蜂剣」
「ふふっ……騙し討ちが取り柄の暗殺剣ごとき、私に傷一つつけられると思って?」
「戦場では……“正道”より、血に染まり洗練された暗殺剣こそが上だと証明してやるぞ…!」
「ふふふふふ……いいわ、来なさい! 殺し屋ゴドー!!」
無形雷刃が咆哮する――!
「いえあああああああッ!!」
ドンッ!!
地を割るような音とともに、ゴドーが獣のように駆ける。
その速度――
音すら追いつかぬ、超音速を超えた光速戦闘。
パピリオもまた、妖艶な笑みを浮かべて迎撃の構えを取る。
「……来なさい、殺し屋!!」
ズバァアアアン!!
光と光が衝突し、空間が紅と蒼に染まる。
その瞬間――
“戦場の均衡”が崩れた。
ゴドーは、もはや《ボスであるメフィスト》の援護すら忘れ、戦いに没頭していた。
否、彼は――
“この戦い”に心を奪われていたのだ。
「ふふ……ふふふはは……はーーっはっはっはっはッ!! ……俺にとっては、戦いこそが!!」
「……ならば、私も応えねばなるまいね」
紅と雷、二つの刃が交錯する。
胡蝶蜂剣と無形雷刃の死闘が激化するその最中――
カオスクトゥルーはなおも、メフィストの首を締め上げていた。
「や……やめ……た、助けて……ファウスト……」
その声は濁りきり、顔面は紫から黒へと変色。
泡混じりの血が口から零れ落ち、意識は既に朦朧としている。
だが、カオスクトゥルーは――冷たく告げた。
「……すまない、メフィスト。子供たちのために死んでくれ」
力がこもる。指が食い込む。骨が軋む。
そのとき――
「おおっと、待ちな〜ッ!!」
突如、空間を裂くような轟音と共に閃光が走った。
視界が真白に染まり、大地が揺れる。
そこに現れたのは――軍服の巨漢。
身長195センチを超え、鋼鉄の筋肉が鎧のように隆起した異形の男。
両手を広げ、稲妻のような雄叫びを放つ。
「ヴるあアアアアアアアアああああああッ!!」
バゴォン!!!
旋風のごときタックルが、カオスクトゥルーの顔面を直撃!
あまりの衝撃に、六十メートルの巨体が宙を舞い、地を割って吹き飛ばされる。
「な、なに……!?」
信じ難い光景に、ファウストは目を見開いた。
その間にも、男の追撃が炸裂する。
「アルティミット・クラッシャアアアアアタアアアアック!!」
錐揉み状に回転しながら、アッパータックル!
さらに――左右、上下、斜め、縦横無尽に肉弾が叩き込まれる!
まさに暴風のごとき肉体攻撃の連打。
かつて“無敵”と謳われたファウストの巨体が、容赦なく破壊されていく。
「……なんだ貴様は!? 何者だ、何者だぁああああああああ!!?」
怒号とともにカオスクトゥルーの身体が破裂し、中から“本体”が現れた。
――それは、二メートル超の壮年の男。
人間態のファウストだ。
その双眸には、理性ではなく“本能”が宿っていた。
「ブるあアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ごるぐがぁアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
互いに吠え、拳を交える!
音速を超えた打撃が雨のように炸裂し――
ズガンッ! バガァッ! ガギィンッ!!
天地を割るほどの殴り合い。
その凄まじさに、胡蝶蜂剣も、無形雷刃も動きを止めた。
「な、なによアイツは……!? ファウスト博士と、互角に殴り合ってる……!? そんなバケモノ、乂阿烈以外に……!」
「……我らの“真の頭目”が……出張るとは……」
「……まさか……まさか、あの男は……!?」
パピリオが絶句した、その刹那。
空が、紅蓮に染まる。
「アルティミット・ギガメテオヴォオオオオル!!!」
叫びと共に、男が天から“太陽”を落とした。
燃え盛る火球が次々と地上に降り注ぎ、空と大地を焼き尽くす。
対するファウストも応じる。
「図に乗るなァァァァァッ!!」
右手が変形し、牙を備えた巨大な“餓鬼玉”が顕現する。
――火炎隕石 vs 餓鬼玉
刹那、空間が砕ける。
ドォオオオオオオンッ!!!
空と大地を呑み込む大爆発。
火球も餓鬼玉も、相殺されて消滅していた。
……静寂。
煙が晴れ、巨漢の男が咆哮する。
「ふぬふははははッ!! なるほど、なるほどぉ! 貴様がカオスクトゥルーか。乂阿烈の小僧と互角だったという噂も、今なら納得だ!」
「貴様は……何者だ?」
牙を剥いたファウストの問いに、メフィストが割って入った。
「待てッ!! やめるのだファウスト!」
彼は既に怪獣の姿を解き、人の姿へと戻っていた。
「そのお方は……太古神話に封印された終末の王。《世界を滅ぼした六つの災厄》のひとつにして、巨人族の最終王――ケイオステュポーン様にあらせられるッ!!」
「なにィィィィィィィィッ!!?」
その名に、全員が凍りついた。
ファウストですら表情を失い、戦意を削がれる。
「ケイオステュポーン……!? 神話に記された“最終災厄”……だと?」
「そのとおりだ。人の姿では《アング・アルテマレーザー》と名乗っているがな」
その男はあくまで軽妙に嗤う。
「Dr.ファウスト。主に向かってその態度はないだろう? 平伏すのが礼儀ではないか?」
だが――
「くだらん……」
野獣の如き唸り声。その瞳が、感情も理性も捨てた“純粋なる破壊衝動”に染まっていく。
もはやそれは、知性ある人間などではなかった。
ただ“殺す”ために存在する――“戦闘生命体ファウスト”だった。
「我はファウストにして、ファウストにあらず。戦うために造られた、ただの戦闘生物に過ぎん。従う義理も、縛られる血もない。むしろ……貴様を喰らって力とする!!」
ズズズズズッ……!!
禍々しい気が迸り、ファウストの肉体が魔獣へと変貌してゆく。
「よくぞ言ったな……ならば死をくれてやろう」
ケイオステュポーンの両目が、金色に輝いた――その瞬間。
「や、やめてくださいッ!!」
間に割って入る、メフィストの絶叫。
「なりませぬ、巨竜王様! あなた様が全力で戦えば、この地球が滅んでしまいまする! それでは我らの計画が……!」
「…………」
ケイオステュポーンは、肩を竦めた。
「……フン。忘れるところだった。今日は気分が良い。退こう」
あまりにもあっさりと、彼は背を向ける。
だが。
「この愚か者共が……我から逃げられると思っているのか……?」
カオスクトゥルーの殺意は止まらない。
魔獣へと姿を変え、再び襲いかからんとした、その時だった。
――“声”が響く。
「……待ってよ、父さん」
それは、怒号でも咆哮でもなかった。
ただ、静謐な――
透明で、真っすぐな“音”。
振り向いたファウストの目に映ったのは、
黄緑の長髪をなびかせ、神像のように美しい青年。
その澄んだ瞳が、真っ直ぐにファウストを見つめていた。
「キ……キラ……グンター……?」
かつて、愛し、失ったはずの息子の名。
「……久しぶりだね、父さん」
声は、涙が混じっていた。
「あのとき、何も言えなかったけど……」
少年ではない。だが、大人とも呼べない。
「僕は――あなたに、もう一度会いたかったんだ」
それは、呪いでもなく、怒りでもなく。ただ、祈りのような言葉だった。
青年は、穏やかな笑みで微笑んだ。
彼の名は――
キラグンター・ドラゴニア。
ファウストの、実の息子。
そして、運命が再び動き出す。
物語は、次の章へ――
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