乂阿戦記3 第三章 黄衣の戦女神 峰場アテナの歌-1 メフィストギルド総帥と世界最強の殺し屋
(^^) ブックマークをお願いいたします!
読みやすくなりますよ❤︎
夜風よ、風の翼を縫うことなく。
胸に響くサックスの旋律は、遠い銀河の記憶――だが、胡蝶蜂剣パピリオは忘れたことなど一度もない。
死線をくぐり抜け、星々を斬り裂いた剣士たちの歴史。その中で、どうしても忘れられない名がある。
「シグルド・スカーレット……」
自分の手で鍛え上げた、最も優れた弟子。
師とは似ても似つかぬほど真っ直ぐで、銀河連邦警察の宇宙刑事として正義の剣を振るい続けた男。
――悪名高きメフィストギルドに挑み、裏切りの果てに命を落とした、悲劇の英雄。
やがて開催される《ハクア・プロジェクト》。
その戦歌姫を選ぶ祭典の裏で、あの弟子を殺した仇どもが姿を現すという。
戯れに弟子たちと参加しただけの催しが、まさか復讐の交差点となるとは……。
「……さて、どうする?」
考え込む彼の前に広がっているのは、ただ静かな家の門だけ。
重く沈む足音は、自分自身への咎のようだ。不甲斐なさが地を踏むたびに響く。
――自分には、もう何かを名乗る資格などないのではないか。
そんな思考に囚われた瞬間。冷たい空気が頬を撫でた。
風が一陣、森を裂くように吹き抜けた。
「ここが今の君の住まいかい? 都会に職場を置きながら、住まいは山奥の一軒家……それも、手作りの木の家とはね」
風に乗って届いた声。それは聞き慣れた、しかし決して許せぬ声音。
「お久しぶり。剣の鬼神、《胡蝶蜂剣》──」
パピリオが振り返るより早く、音が変わった。
水のざわめき。雨ではない。目に映るのは、空間そのものが水膜に包まれていく奇妙な光景。
「……結界か」
風が再び荒れ狂い、次第に嵐へと変わる。
大気が震え、空から落ちた火花が門の形を象った。
炎が舞い、残されたのは石造りの異界の門。
ゆっくりと、それが開く。
そこから現れたのは、取り巻きを従えた異様な一団――
「貴様……ドクター・メフィスト!」
パピリオの目が血走る。
「おやおやぁ? まるで仇でも見るような目つきだねぇ、パピリオちゃ~ん♪」
飄々とした声音。軽薄な笑み。
だが、パピリオの怒りを煽るには、それだけで十分だった。
「……人の愛弟子を殺しておいて、よくもそんな口が利けるわね」
「落ち着きなって。俺たち、知らない間柄でもないだろう?」
メフィストが肩を竦める。
「それにシグルドの件は、事前に君に伝えたじゃないか。“組織が彼を殺す前に、師匠である君が止めてくれ”ってさ」
「黙りなさい!」
パピリオは次元の歪みに手を伸ばす。
そこから現れたのは、禍々しい波動を帯びた双剣――狂王刀と、鬼神剣。
「話は終わり。殺しに来たのよ」
「まあまあ、そう怒らないでくれよ? ほら、俺だって気を使ってるんだ。ファウストや君を怒らせないよう、シグルドの子供たちには“まだ”手を出していないだろう?」
「……“まだ”と言ったわね?」
「君の選択次第さ。こっちだって、必死なんだよ」
殺気が交差した瞬間、空が泣いた。
ただの雨ではない。
降り注いだのは、鋭い氷の粒。
快晴だった夜空は灰色に覆われ、凍てついた空気が大地を這う。
メフィストの氷魔法――
火炎系の気功を得意とするパピリオを封じるための、万全の布陣。
「来るわよ……《炎魔蝶飛翔斬》!」
空を切り裂いたのは、二筋の紅蓮。
蝶の羽ばたきの如く舞い上がる、炎の刃。
「ぬうぅ……!」
メフィストはすぐさま氷の魔法陣を展開。
凍てつく壁が、空中で蝶を閉じ込める。
爆ぜる熱。弾ける氷。
しかし――
「……遅い!」
炎の蝶の爆炎が収まると同時に、パピリオは天上から急降下していた。
両手に握られた双剣は、斬撃の舞。
「《無限連撃斬舞》!!」
「ぬっ……!?」
メフィストの周囲に四方から展開された赤の防壁。
だが、次の瞬間にはその全てが粉砕されていた。
「さすがは“女神国最強”の剣士……落ちぶれたオカマバーの店長とは思えないよ」
「誰が落ちぶれたですって!? 誰が!!」
斬撃は止まらない。
音が風を裂き、目に見えぬ魔法トラップすら次々と破壊されていく。
一拍の沈黙のあと、パピリオが問いかける。
「今ので、あなたが仕込んだ罠は全部壊れたかしら?」
返事はない。
だがメフィストはうっすらと冷や汗を流していた。
「ふぅ……」
その一言が、答えだった。
パピリオは構え直す。呼吸が深くなる。
「……パピリオちゃん、次の一撃でトドメかい?」
「ええ。ここであなたを斬れば、あの子たちの手を汚さずに済むから」
「なら……命乞いでもしてみようか。何でも一つ、願いを叶えてあげるよ?」
「ごめんなさい。あなたは、殺すと決めてるの」
その瞬間――
ガアアアアン!!
刃と刃がぶつかる凄まじい金属音が響いた。
パピリオの鬼神剣が、異形の剣に阻まれたのだ。
現れたのは、腕そのものが剣と化した男。
「ゴドー……ッ!《無形雷刃》ゴドー・ハーケン!!」
「残念だが、メフィストを殺させるわけにはいかん」
そう言いながらゴドーはメフィストを抱え、虚空に剣を振るった。
「受けろ!」
剣が雷と化す。
雷鳴を伴いながら、巨大な太刀筋がパピリオを襲う。
だが!
「……残念だったな」
紅蓮の二刀が雷を迎え撃つ。
雷光と炎熱が衝突し、爆音と共に光が弾ける。
「この《胡蝶蜂剣》の剣を、なめるなぁぁあああっ!!」
再び刃が交差する。
斬り裂かれた空気に、残るのは熱と焦臭。
パピリオが放った《炎蝶》が、雷の斬撃と正面衝突。
両者のエネルギーが激突し、戦場が真っ白に染まる。
そして次の瞬間、二人の剣士が再び踏み込み、鍔迫り合いに突入した。
その隙――
メフィストは、静かに戦場の外へと身を引き始めた。
が。
その前に、もう一人の影が立ちはだかる。
「……やあ、久しぶりだね。我が元同僚。Dr.ファウスト・ドラゴニア」
「………メフィスト」
仏頂面のまま、ファウストは言った。
「貴様らの愚行で娘は死に、子供たちは絶望した。それが全てだ」
「だからって……殺すのかい?」
「元同僚として、せめてもの情けだ。優しく、一瞬で殺してやる」
「断る!! そんなの、誰が受け入れるかっての!」
「やむを得ん……死んでもらうしかない。それがお前の、唯一の救いだ」
「君の娘を殺したのは、ある意味君の息子・キラグンターじゃないか! 子育て失敗したツケを、なんで俺たちが払うんだよ! 僕らは“人間”じゃないだろ? 巨人族だ。……思い出せよ、巨人族の使命を!」
「違う。我はファウストにあらず。我は“戦闘生物”だ。使命などに縛られるいわれはない」
「いや、君はファウストだよ。記憶を持ち、怒り、愛し、悲しんだ時点で――君はもう、ただの生物じゃない。人間でもない。君は、“ファウスト”だよ」
「……クドイ」
その眼に宿るのは、怒りでも、憎しみでもない。
――獣の本能。
「我は縄張りを荒らされ、我が子を殺された獣……それ以上でも以下でもない!」
「なら……俺も、“仮面”を脱ぐとするか」
巨人の力が、解き放たれる。
二つの存在が、いま激突する――。
https://www.facebook.com/reel/1477578183111947/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール