乂阿戦記3 第二章 オレンジ髪の金獅子姫スフィンクス・アルテマレーザー-2 トライアングラー
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「……テイルさんのことを説明するには、やっぱり避けて通れないよな。俺たちとタイラント族との因縁、そして――あの忌まわしい“蜂起事変”のことをさ」
雷音は語り始めた。苦笑を浮かべながら、遠い記憶を辿るように。
――三年前。
父・乂舜烈が急逝したことで、乂族の均衡は音を立てて崩れた。
その混乱に乗じて名乗りを上げたのが、舜烈の義弟にして、覇道を標榜するタイラント族の狂える獣——アング・アルテマレーザーだった。
「乂族の正当な後継はこの俺だ!」
そう高らかに宣言し、乂族の長老たちを買収、あるいは威圧し、雷音たち乂一家に“出て行け”と迫った。
「……いやまあ、正確には、追い出されたっつーより、兄貴がぶちギレて派手に暴れたせいで、乂族の連中が全員ビビって勝手に逃げてったってのが真相だけどな……」
雷音は溜息混じりに肩をすくめた。
それもそのはずだ。
乂阿烈――雷音の兄にして、乂族最強の戦士。
アングの一派が幕営に乗り込んできたその日、彼は数人の幹部を“拳一つ”で叩き潰した。いや、潰すどころではない。
――最初の一撃で相手は塵一つ残さず蒸発。
背後数百メートルにあった岩山は風圧だけで貫通し、巨大なトンネルがぽっかりと開いた。
まさに“核のパンチ”。
それを目の当たりにした乂族の民は、阿鼻叫喚の末に我先にと逃げ惑い、乂族の本拠地は一夜にして廃墟と化した。
「……そりゃ逃げるわな、うん。あの兄貴がマジになるって、もう天災と変わらんもん……」
そんな騒動のあと、タイラント族が乂族の残党を吸収し、名実ともに“統一”を果たした。
だがそれは“統一”という名の圧政の始まりだった。
かつての乂族の誇りは踏みにじられ、民は奴隷のように扱われ、口を開けば「あの頃は良かった……」と舜烈の時代を懐かしむ声が広がった。
だがそれ以上に酷かったのが、アングの暴政ぶりだった。
彼はタイラント族の内部からも忌み嫌われ、やがて訪れる“報い”の火種を着実に育てていた。
──そして起きたのが、“蜂起事変”。
アングに牙を剥いたのは、タイラント族内部における在乂族、在ジャガ族、さらには支配下の亜人族や魔族、果ては妖精たちまでもが結集した、史上最大の多民族混成軍だった。
それを率いたのが――
ゼロ・カリオン。
通称《白阿魔王》。
大武神流楚家拳の三本柱にして、最悪の魔女エクリプスと伝説の名将・楚項烈の血を継ぐ、恐るべき“サラブレッド魔王”。
「……そしてその副官が、あの“悪鬼絶殺”アン・テイルさんだったわけだ」
神羅がぽつりと呟いたその名は、今やこの時代を動かすキーパーソンの一人である。
雷音は頷いた。
「ちなみに、ゼロ・カリオンと兄貴は妙にウマが合ってたらしくてな。前のクトゥルフ戦争の時には、タイラント軍の情報をこっそり横流ししてくれてたらしい。もちろん、表向きは中立を装ってたけどな」
「……あの二人、そういう意味じゃ戦場じゃ敵に回したくないタチだよね……」
神羅が思わず背筋を震わせる。
――だが、この蜂起と政権交代は終わりではなかった。
新タイラントは、今や二つに分裂している。
一つは、ゼロ・カリオンを中心とした在外部族の集合体。
もう一つは、タイラント族の保守派を率いるカルマストラ二世――すなわち“真狂王ジ・エンド”の派閥。
「……そして、テイルさんはカリオン派に所属してる。ってわけだ」
この世界の裏で、再び火種が蠢き始めている。
そう確信せずにはいられない空気が、場に広がっていた。
「……とにかく、今は皆さんお忙しそうですし。これ以上ここにいると、邪魔になってしまいますから。そろそろ失礼しますね」
軽く頭を下げ、ブリュンヒルデとテイルは部屋を後にしようとする。
その時、ふとレッドと視線が交差した。
「……レッド君」
立ち止まり、ブリュンヒルデが振り返る。その声はどこか震えていたが、意志は固い。
「どうした、ブリュンヒルデ?」
レッドが首を傾げると、彼女はゆっくりと言葉を継いだ。
「……もし、あなたがまだ“仇”を追い続けるつもりなら。ハクア・プロジェクトへの参加を、続けてほしいの」
「……? どういう意味だ?」
「ハクア・プロジェクト……あれは、Dr.メフィストをおびき出すための“罠”なのよ」
その言葉に、場の空気が凍りついた。
「なっ……」
「地球にある“ハクア・プロジェクトホールディングス”は、私たちのボス——ゼロ・カリオン様が経営している企業の一つ。メフィストは、ジュエルウィッチの力を利用して、また何か良からぬことを企んでる。でも、ボスはその力を正しく守るために、私たちをアイドルとして表に出し、保護してるの」
レッドの眼差しが鋭くなる。
「つまり、あのプロジェクトそのものが“戦場”だと?」
「ええ。メフィストは、きっと罠だと気づいていても動いてくる。だから、今回はその“逆”を突く。私たちが罠になる代わりに、奴を狩るのよ」
そして、彼女は静かに言った。
「……お願い。あなたたち一家にも、力を貸してほしい」
「……なるほどな。仇の気配がそこにあるなら、動かない理由はない。行こう」
レッドはそう言って、無意識に手を差し出した。ブリュンヒルデも自然と手を伸ばし——
「ストーップ!!」
その瞬間、真っ赤な顔をしたフレアが間に割って入った!
「テメー、ブリュンヒルデ!! なんでアニキと握手しようとしてんだよ!! アニキもアニキだ、調子乗ってんじゃねーぞこのやろー!!」
「えぇ……手ぐらい、好きな人と握りたいじゃん……」
「誰が誰を好きだってぇ!?」
「……(しゅん)」
「うわあああ泣くなよぉぉおお!!!」
もはや修羅場である。
「あーもう! 二人とも落ち着いて〜!」
間に割って入ったのは、いつもどこかとぼけた口調のロキだった。
「これから一緒に戦う仲間なんだから、喧嘩してたら駄目だよ〜。ね? 手ぇ握るくらい、平和の証!」
「くっ……アタシはこいつが気に食わねぇだけだ!」
「……私も……フレアちゃん、な〜んか嫌い……」
「お前は親父とお袋の仇じゃねえけど、とにかく何かの敵だ!!」
──その様子を、じっと観察していたのは絵里洲だった。
彼女はピクンと眉を上げ、神羅にヒソヒソと囁く。
「ユッキー……ねぇ、フレアちゃんってさ、ブリュンヒルデさんにヤキモチ妬いてない?」
「え、いやいやまさか! だってフレアちゃんとレッドさんは兄妹だし……あ、でも血は繋がってないし、レッドさんイケメンだし……って何考えてんの私!」
「うふふ、レッドさんのあの感じ……ワタシの恋愛アンテナが言ってる。あれは“好き”の兆候!」
「……(察し)つまりこれは、ラブコメってやつですか?」
「よっしゃ、現状不利なフレアちゃんを応援するため、恋愛補佐チーム始動です!」
「我ら、“恋の共鳴応援隊”! レッドとフレアをくっつけてみせましょう!」
「「やめい!!」」
雷音とアキンドが、ズビシッと二人の頭を張り飛ばした。
「いたっ!? な、なにすんのよ!」
「うるせーっ! 今は恋バナより、対メフィストの作戦会議が優先だろうが!」
「「うぐぐ……ごめんなさい……」」
その喧騒の裏で、ブリュンヒルデはもう一度レッドに目を向け、静かに話し始めた。
「……これは、ただの勘かもしれない。でも、あの子の瞳には、神々ですら触れてはならぬ“運命の座標”が映ってる気がするの……」
その言葉に、神羅と雷音も静かに耳を傾けた。
「アテナちゃんの“力”…… きっとそれは、世界の均衡を揺るがすほどのもの。だからこそ、私が頼みたいのは——」
ブリュンヒルデは名を告げた。
「タタリ族の魔王、オーム君に会って。彼の姉メティムこそが、アテナちゃんの“本当のお母さん”なの。彼らは今、幽閉された彼女を救うため動いている。きっと、力になってくれるはずだよ」
その言葉を残し、テイルとブリュンヒルデは去っていった。
残された神羅たちは、互いに顔を見合わせ、そして静かに頷き合った。
「明日、オームに話してみよう」
そう決めたその夜が、また一つの運命を動かす夜になることを、この時まだ誰も知らなかった。
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↑イメージしたリール動画