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乂阿戦記3  第二章 オレンジ髪の金獅子姫スフィンクス・アルテマレーザー-1 四人の仇達

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読みやすくなりますよ❤︎

宇宙の果て――


蒼白き星の遥か上空。

大気圏を超えた静寂の宙に、神殿めいた構造体が浮かんでいた。


それは『スペースピラミッド』。


エジプト文明を模した外見のその巨大な宇宙要塞は、犯罪組織〈メフィストギルド〉の本拠地にして、地球各国の政府すら知らぬ影の帝国の牙城であった。


その中枢――黄金と漆黒の石壁に囲まれた会議室に、ギルド幹部たちが集っていた。


「……やはり再考すべきかと。羅刹――かつての“灰の魔女ラスヴェード”の転生体を敵に回すのは、あまりに危険です」


静かな声が空気を裂く。


銀髪の参謀が忠告を述べた瞬間、椅子を豪快に蹴り上げて立ち上がったのは、炎のようなオレンジ色の髪を靡かせた女だった。


「ふん、笑わせるなよ。最強の女だった時代? もうとっくに終わってんだよ!」

挿絵(By みてみん)


彼女の名は――

金獅子姫スフィンクス・アルテマレーザー


紅蓮のドレスと獣じみた威圧感を纏い、ギルド最強の戦闘幹部にして、かつて世界を半壊させた張本人のひとり。


「今この時代で“世界最強の女”は誰かって? 決まってんだろ! このアタシだよ!」


満面の笑み。獣のような好戦性を孕んだ笑みだった。


「目的を果たすためなら、あの羅刹って女もまとめてぶっ潰すまでだよ! 世界に証明してやる……最強の女は、金獅子姫アルテマレーザーだってな!」


場が緊張に包まれる中、穏やかに笑いながら声を挟んだのは、白髭を蓄えた奇妙な老人だった。


紫の燕尾服に身を包んだその男――Dr.メフィストは、朗らかに手を叩く。


「ふむふむ、いいねえ、姫様。やる気があるのはとても喜ばしいことだよ〜ん。……でもさぁ、ポクちん達の“本当の目的”を見失っちゃいけないよ〜ん?」


その声音には、柔らかさと裏腹な深い底知れなさがあった。


「目的はわかってるよDr.メフィスト。でもさ、スラッグラーとテンタクルルー……あのバカ共が羅刹に捕まってるってのが気にくわないのさ。あの女、尋問する時は容赦ないって噂だし、奴らもうすぐ我らの情報を吐くぜ?」


「うんうん、それも確かにあるかもだけど、まあまだ慌てる必要はないんじゃないかな〜ん?」


「はあ!? 何言ってやがる!」


ドンッと机を叩き、スフィンクスが吼える。


「もしこのスペースピラミッドの座標が羅刹に割れたらどうする!? 乂族が総攻撃してきたらオシマイなんだぞ!? 悠長なこと言ってると、マジで全滅するぞ!」


「うんうん、でも安心していいよ〜ん。もう手は打ってあるからさあ」


にこりと笑うDr.メフィストは、懐から赤黒い火の玉を取り出すと、それを空中に放つ。


――パチンッ!


火の玉は空中で弾け、瞬時に無数の赤い火球に分裂。

そして四方へと散らばり、一定のパターンで回転し始める。


それは“座標転移陣”――ギルドが誇る瞬間転移術式だった。


「インビジブルオーガの部隊を送り込んだよん。ステルス特化の暗殺部隊さ。きっと上手くやってくれるよ〜ん♪」


「……相変わらず、デタラメに腹黒いねぇ」


アルテマレーザーは呆れ半分、感心半分で肩をすくめた。


「ま、いいさ。あの羅刹を倒すのはこのアタシだ。オーガ達と合流して、派手にやってやる!」


「はいはい〜ん。ポクちんも地球に降りて、少し様子を見るとしようかな〜」


赤い火球が回転を終え、数字のパターンが揃う。


──座標特定完了:目標、地球・乂家近辺。


「GO、GO! 地球にレッツ転移〜ん!」


光が弾け、Dr.メフィストとスフィンクスは数名の部下と共に転移陣の中心へと消えていった。


地球への“悪意”が、今、静かに降り立つ――。



地球。亜神の血が息づく〈乂家〉の邸宅。


その庭園には、今日も幼き命が咲き誇っていた。


「ほらほらシルフィス、待ってなの〜っ!」


「紅阿〜、いっしょにブランコするですぅ〜!」


子供たちの笑い声が、まるで戦争の記憶など嘘だったかのように響いている。


その風景を、少し離れた場所から見守るひときわ異彩を放つ青年の姿があった。


――紅烈人レッドキクロプス


元・九闘竜のNo.5にして、現在は〈乂家〉との非公式な交流を持つ超戦士。

彼はその猛々しさに反し、今日は珍しく妹たちの子守に付き添っていた。


「……油断はできん。乂家は聖域だが、狙う者は後を絶たん」


そう呟いたその刹那――


空気が変わった。


風のない庭に、一陣の冷たい気配。


その瞬間、レッドは察知した。“悪意”の気配を。


「来たな……」


身構える間もなく、闖入者は現れた。


――悪魔の仮面を被った者たち。


“悪魔軍団”を操る悪魔兵、スラッグラーとテンタクルルーである。


しかし。


「……アンタら、なめすぎじゃない?」


木陰から現れたのは、乂家の長女、羅刹らせつ


かつて〈灰の魔女ラスヴェード〉と恐れられた伝説の戦乙女にして、現在は”乂阿戦記”の最終兵器。


その後ろに、漆黒のコートと冷徹な殺気を纏った影がもう一つ――


悪鬼絶殺デモン・エクスキューターアン・テイル。


瞬間。


血の飛沫すら舞わせぬまま、悪魔たちは沈んでいた。


レッドが動く必要すらなかった。

敵は、瞬殺されていたのだ。


「……やれやれ、出番すらなかったか」


レッドは肩をすくめ、もう一つの意味で驚きを覚えていた。


テイルの隣に――


「……!? ブ、ブリュンヒルデ……?」


そこにいたのは、彼が六年探し続けていた少女。


伝説級のネットアイドル、しかしリアルでは一切足取りを掴めなかった幻の存在。


ブリュンヒルデ。


まさか彼女がここにいるなど、想像もしていなかった。


「え……レッド君……? あ、その……お久しぶり……」


ブリュンヒルデは笑顔を作ったが、その笑顔はどこかひきつっていた。


彼女は、怯えていた。


レッドが“復讐に燃える男”であると、今でも思っていたのだ。


その刹那。


「おい、お前……!」


赤い怒気が爆ぜる。


レッドの隣から現れたのは、紅の髪を揺らす少女――


フレア・スカーレット。


「……てめえ、何でここにいやがる? 乂家の子供たちや、その友達を狙って何を企んでる?」


その目には、明確な“敵意”が宿っていた。


「……えっと、私は……今、この世界を守るために戦ってるの……」


「はあ!?」


フレアもレッドも、耳を疑った。


「ちょっと待て。お前、メフィストギルドの構成員だったよな? なら何故、スラッグラーやテンタクルルーと敵対している? そして……なんでアン・テイルと行動しているんだ?」


「私はもう、ギルドには戻らない。私が帰る場所は……ブリューナクだから」


「…………おい、待て」


レッドの顔色が変わる。


「じゃあ、お前はもう……ギルドの一味じゃないってのか……?」


ブリュンヒルデは、静かに目を伏せた。


「安心して。私、自分の罪が消えたなんて思ってない。……私は、あなた達の両親を殺した仇の一味だった。そのことは、自覚してる」


そして――その目でレッドをまっすぐに見据えた。


「だから……」


「あなたの気が晴れるなら――私を殺して」


――静寂。


その場の空気が凍りついた。


けれど。


「…………馬鹿か、お前は」


予想に反し、レッドは呆れたように笑った。


「え?」


「俺たちはもう、あの頃の子供じゃない。ロキと組んでギルドの内情も調べた。師シグルド夫妻がなぜ狙われたのか、誰が真の黒幕なのか……6年かけて全部、調べつくした」


レッドに続いて飛び出してきた義妹フレアは、ブリュンヒルデを睨みつけて叫んだ。


「ガキの頃はあんたが仇だって信じてた! けど、あんたはあたしらを助けてくれたじゃねえか! あんたまで敵扱いするほど、あたしはバカじゃねーよ!!」


レッドが続ける。


「師を殺した五人のうち、マクンブドゥバは斃した。残るは――」


フレアが叫ぶ。


「狂歌学者Dr.メフィスト、金獅子姫スフィンクス・アルテマレーザー、殺し屋ゴドー・ハーケン……それと、あたし達の叔父で裏切り者のキラグンター・ドラゴニア!!」


そしてレッドが、静かに問うた。


「――奴らの居場所、教えてくれ。ブリュンヒルデ」


少女は数秒、沈黙したのち……小さく、頷いた。


「わかったわ。教えてあげる。あいつらは……すぐここに来る。スラッグラーを奪還しにね」


「……けどさ、武仙級の戦士に育ったレッド君ならまだしもフレアちゃん、今のあなたじゃ、あの外道共にはとても敵わないわよ。はっきりと言う。あなた死ぬわよ」

「くっ…………!仇の手がかりをつかんだのにこのままいくわけにはいかないだろうが!」

「戦士には自分の実力を正確に把握し、その上で行動することも必要よ。あなたの仇たる4人、その4人はいずれ劣らぬ異能殺戮戦闘能力者! レッド君級の武の格を会得しない内はまずかなわないわ!」

その言葉は氷のように冷たく、同時に愛情すら感じさせるものだった。


「くっ……!」


拳を握りしめ、フレアは唇を噛む。

今ようやく仇の情報に辿り着いたのに、ここで手を出せないというのか。


「なめるな……!」


怒りの炎が爆ぜる。


「私はあいつらに両親を殺された! 憎しみを忘れてたまるかよ! たとえ今の私じゃ敵わなくても――立ち止まるつもりなんか、ねえ!」


だが、その肩にふっと手が置かれた。


「まぁまぁ、落ち着いてフレアちゃん」


妙に間延びした優しい声。


振り向くと、そこには見覚えのある男がいた。


――紫の仮面に、黒い燕尾服。


ロキ。かつてクトゥルフ戦争の裏で糸を引いていた、“真の黒幕”にして、雷音たちの“天敵”。


「なんでお前がここにいる!!?」


雷音の声が裏返る。


「ナイン族の和睦の使者として、正式に訪問中だよ♪ 羅漢くんと会談も済ませてきたし、今は乂家で居候中なんだ」


「非公式ってレベルじゃねぇだろ!!おま、なに知らないうちに俺んちの居候になってんの!?」


「まぁまぁ、そうカリカリしないで」


ロキはにこにこと紅茶を啜りながら、話を続けた。


「でもさあ……戦争ってほんと面倒だよね? だから僕が和平使者になってるのさ。ネオ・エクリプスも滅んだし、このままいくと、また乂阿烈とカオスクトゥルーが地球で暴れかねない。そっちの方がヤバいでしょ?」


「ヤバいどころじゃねえよ!!」


阿烈とクトゥルーの激突――


あの悪夢を思い出し、雷音、神羅、絵里洲、フレア、アキンドの全員が震え上がった。


「「「戦争、いや、あの二人の激突だけは止めてくれ!! マジで地球滅ぶ!!」」」

全員が一斉に叫んだ。


ロキは満足そうに頷きながら、話題を変える。


「さて、本題。君たちがアイドル活動に夢中になってる間、僕もちょっと動いてたんだよね〜」


「動いてたって、何を……?」


「メフィストギルドの潜入調査さ」


「――えっ!?」


「ナイアを使って、こっそり中枢部に潜らせた。Dr.メフィストの動き……どうもおかしいんだよね〜」


「それって……メフィストの狙いは?」


「それがまだ確証はないけどさ」


ここで、別の人物が静かに口を挟んだ。


鋭い目をした暗殺者、アン・テイルである。


「……奴らの目的は、エトナ火山に封印された二柱の災厄の復活よ」


雷音たちは一瞬、聞き返すように目を丸くした。


「二柱……?」


テイルは頷き、静かに説明を始めた。


「一柱は雷帝デウスカエサル。もう一柱は、巨竜王ケイオステュポーン


「……どちらも聞き覚えがないな」


「神々の戦争時代に生まれた破滅の象徴よ。ケイオステュポーンは、創造神アザトースの盟友だった巨竜の王。数多の怪物を孕んだ“戦争兵器”であり、カオスクトゥルーのプロトタイプでもある」


テイルの言葉に、一同の表情が引き締まる。


「それを封じたのが雷帝デウスカエサル。だが最終的には両者が相討ちになり、W封印されたのがエトナ火山の地下というわけだ」


「じゃあ……メフィストギルドはその二柱を蘇らせようとしてるってわけか!?」


「そう。ヘラとDr.メフィストは、利害が一致してるの」


そう語るのはブリュンヒルデだった。


「ヘラは、夫である雷帝を復活させることで、オリンポス内の権力闘争に勝とうとしている。

一方、メフィストギルドは――**究極戦争生物兵器ケイオステュポーン**を掌握することで、地球そのものを支配しようとしている」


彼女の瞳が静かに揺れる。


「そして……」


「アテナちゃんが、その封印解除の“鍵”なのよ」


「……なんでアテナちゃんが?」


神羅が尋ね、ブリュンヒルデが答える。


「彼女も私と同じ、ジュエルウィッチ・シリーズの1人。

十二の宝玉のうち、**黄色の宝玉エキドナハート**を継ぐ者よ。

エキドナハートは、ケイオステュポーンを生み出した魔女エキドナの魔力核……だから、アテナは再起動のキーなの」


一同が息を飲んだ。


だが、ロキはふと横目でテイルを見やりながら、にやりと笑う。


「でもさぁ、君たち、もう気づいてるでしょ?」


「……え?」


「この件に関しては、僕ら以外にも動いてる組織があるってことさ」


テイルが軽く頷いた。


「私たち、タイラント族の一部勢力も、アテナちゃんを守るために動いている。

あの子がメフィストギルドに攫われる前に――確保するために」


「えっ!? タイラント族って……!?」


雷音、アキンド、絵里洲の全員が一斉に叫んだ。


「えっ、じゃあテイルさん、真狂王ジ・エンドの……」


「違う違う!」


雷音があわてて手を振る。


「タイラント族にもいろいろあってな! テイル先生はその“良心派”だ! 鵺たちジャガ族にも近いし、むしろこちら側の人!」


「どっちだよ……!」


絵里洲が頭を抱える横で、テイルが苦笑した。


「まあ、事情が複雑なのは否定しないわ。けど、私は“あの子”を守る。それが私の選んだ生き方だから」


その言葉には、一点の曇りもなかった。


https://www.facebook.com/reel/464836729214004/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0


↑イメージしたリール動画

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