乂阿戦記3 第一章- 赤き復讐の牙レッド-8 羅刹壊れる
羅刹からの説明が終わり、場面は雷音たちが帰宅したシーンへと移る。
雷音は目を見開き、興奮を隠せなかった。
「信じられない……あの“悪鬼絶殺”が……テイル先生だったなんて!!」
「知ってるのか、雷音!?」
「悪鬼絶殺……私も新聞で読んだ記憶があるわ」
絵里洲が頷く。
「そんな有名人なのか?」
「ああ。世界中の戦場を渡り歩き、妖怪や悪党を討伐する孤高の戦士。改獣マルコキアスを使役しながら、どの勢力にも加担せず、ただ弱者のために戦い続ける――そんな、ほとんど御伽話みたいな、現代の伝説よ」
「おお……マジでカッコいいな……」
アキンドが感心しきりに呟く。
「しかもね、テイル先生は西洋医学でも回復魔法でもなく、“気功”や“ツボ”を使う武術医なの。本人いわくNPO戦場医師として活動していた時、患者を守ってたらいつの間にか“ダークヒーロー”扱いされちゃったらしいわ」
神羅が解説を加える。
「……えーっ!? なんかもう、かっこよすぎてヤバいんだけど!!」
「そう。先生はカッコいいんだ。だから……」
雷音はそこで姉・羅刹の方を見る。
彼女はすでに軍服を脱ぎ、別の服に着替えていた――
フリルだらけの、少女趣味全開なピンクのワンピース。
羅刹は美人だし、年齢もまだ14歳。確かに似合ってはいる……だが。
――その凶悪な本性をよく知るアキンドと絵里洲からすれば、あまりのギャップに眩暈がするレベルだった。
「センセ〜♡ ごめんなさ〜い♡ お仕事中だったから制服だったの〜♡ だ☆か☆ら☆普段着に着替えてきたの〜♡ んも〜♪ 先生ってわかってたら、もっと早く着替えてたのにぃ〜♡」
羅刹は満面の笑みで“ブリっ子モード”を全開にし、テイルへ露骨に色目を使っていた。
「「ッッ!!??」」
あまりの豹変にアキンドと絵里洲は衝撃で石化。声も出せず、ただ震える。
一瞬茫然とした雷音は、顔を引きつらせながら歯噛みした。
「はぁ……姉ちゃんマジでやめて。寒気がするからやめて! もう女として色々アウトなんだから! 前のクトゥルフ戦争でその凶悪さ、世間様にバレてるから!!」
雷音が懇願した――その瞬間だった。
──パンッ!!
乾いた銃声が響いた。
羅刹は微笑を崩さぬまま懐から拳銃を抜き、ほぼ反射で雷音のこめかみギリギリを撃ち抜いていた。
雷音、即・昏倒。
「「ぎゃああああああ!? 雷音ーーーーッ!!」」
アキンドと絵里洲の絶叫が室内にこだまする。
それはまさに“超絶狙撃”――
……しかし本当に恐ろしいのは、その容赦のなさであった。
「……姉って……何?」
「……弟って……何?」
もはや“家族愛”などという概念は通用しない。
神羅がやれやれと肩をすくめて言う。
「バカね〜雷音。お姉ちゃんに逆らえるとでも思ったの? 弟の人権なんて、姉の前では存在しないのよ。あ、阿乱くんは別だけど☆」
「メチャクチャ酷ぇ……!」
アキンドがぼそりと呟いた。
「ま、まあ雷音は普段から神羅のパンツを盗もうとするスケベ小僧だし、自業自得よね……哀れ」
絵里洲も同情を込めた溜息を漏らす。
「それより……あの悪魔たち、間違いなく“オリンポスの女王神ヘラ”の使いよ」
神羅が鋭く睨みながら告げた。
「ついに……女神ヘラ様が、アテナちゃんを“取り戻し”に動いたってこと……?」
絵里洲が不安げに呟く。
「ビビんなよ絵里洲! 今回アテナちゃんを守れたじゃん! これからも守りゃいいだろ!」
アキンドが絵里洲の肩を叩いて励ますが――
「いやいやアキンド。今回アテナちゃん守ったの、完全にテイルさんでしょ? なんで自分が助けたみたいな顔してんのよ?」
絵里洲の的確なツッコミに、アキンドは冷や汗をダラダラ垂らして苦笑い。
「ふん……次は“嫉妬の女神”との一戦か……」
ようやく脳震盪から回復した雷音が頭を抱えながら起き上がる。
そして、姉・羅刹の方へ目を向けると――
「うえ〜〜ん! テイルせんせぇ〜〜! 羅刹、悪魔たちに襲われそうになってえ〜、と〜っても怖かったの〜〜! しくしく〜、だから〜ぎゅ〜〜ってしてぇ〜♡」
羅刹は満面の笑みでブリブリの嘘をこき、堂々とテイルに色目を使っていた。
……羅刹は、極度の面食いである。
しかも、「強い男」以外は恋愛対象にならない超・選り好み体質。
彼女の夢――
「自分より強くてイケメンな男子のお嫁さんになること」。
それは人類の99.9%が即脱落する、超難関の理想だった。
唯一の例外は、義兄・乂羅漢くらいだろう。
とはいえ、いくらなんでも羅漢には色目は使えない。義兄だから。
――でも、テイルは別だ。
彼は、狙うべき“獲物”。
絶対に、逃がさない。
この雄は、ワタシのモンだ!!!
絶対にモノにして、ツガイになる!!!!!
雷音はゾクリと身を震わせた。
いま、自分にとって最も厄介なのは――
女神ヘラではなく、姉・羅刹だと、確信していた。
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↑イメージしたリール動画