乂阿戦記3 第一章- 赤き復讐の牙レッド-7 悪党の命乞いは聞こえんな。死ね
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黒い雲が空を覆ったかと思うと、天から黒き炎のつららが降り注ぐ。
「魔を滅する炎……黒き氷柱よ、敵を穿て――ファイエル!」
轟音と共に黒い稲妻が降る。だが、二体の悪魔はその灼熱を紙一重で避け、すかさず地を蹴る。
「バカがッ!そんなもん当たるかよ!」
猛然と迫る悪魔たち。狙いは、テイル……ではなく、その隣に立つ戦乙女――ブリュンヒルデ。
「人質にでもするつもりか……下衆が」
黒衣の男テイルが囁くように言ったその瞬間、世界は赤に染まった。
「……は?」
肌が、灼ける。肉が、焼け落ちる。痛覚が、悲鳴をあげる。
「ぐわあああっ!」
スラッグラーの生皮を、テイルが素手で剥いだのだ。
血が飛び、視界が真紅に染まる。
「て、テメェェェ!!」
副隊長テンタクルルーが叫び、触手をテイルの全身に絡め動きを封じる。
「よし、いいぞ!そのまま押さえろ!俺の粘液でドロドロに溶かしてやる!」
スラッグラーが両手を広げ、強酸の粘液を纏った巨体で突進する――が。
「アオオオオオオオオ!」
狼のような咆哮と共に、テイルの筋肉が隆起。テンタクルルーの触手がブチブチと千切られる。
「ひぎゃあああ!? し、触手がぁぁああ!!」
スラッグラーが肉薄する。もはや避けられない。
――否。
「ほうおおおおぉっ! チャチャチャチャチャチャチャチャチャチャァッ!!」
黒い嵐のような拳撃がスラッグラーに襲いかかる。想像を絶する速度のラッシュ。
「ぐぎゃああああ!!」
なんとか腕でガードしきるが、テイルの口元に冷笑が浮かぶ。
「貴様は、もう終わっている」
「な、なんだと――?」
その言葉と同時に、スラッグラーの傷口から黒い影が滲み出す。
闇が侵食し、焼き尽くす。悲鳴を上げる間もなく、その肉体は闇色の炎に包まれ――一瞬で燃え尽きた。
「ぐおおっ! な、何をしやがったッ!?」
テンタクルルーも同様だった。傷口から侵入した黒い影が、怨念の火として燃え上がる。
「その業火は、貴様らが殺してきた者たちの怨嗟。裁きを受けろ」
「ふ、ふざけんなああああああ!!」
抵抗も空しく、2体の上級悪魔は地に叩きつけられる。そこへ――
天から、漆黒の光が降り注ぐ。
辺りを包む闇。無数の黒き人影が悪魔たちを取り囲んでいた。
そして――地の底より湧き上がるように、現れたのは一人の女。
「……グギャギャギャギャ。これは傑作だわぁ!何か騒がしいと思って様子を見てみりゃ〜なんとも面白い見せ物が見れたぜ〜〜」
その女は乂羅刹
乂族族長・乂阿烈の妹にして、乂軍最強の副官。
手を掲げると、無数の魔法陣が出現。焼け焦げた黒骨の手が、悪魔たちを絡め取り、拘束する。
さらに、黒き骸骨兵が銃を構え、悪魔たちに一斉掃射――
「ぐあああああああああっ!!」
地獄絵図。そう呼ぶのも生温い惨状。
スラッグラーとテンタクルルーが逃げようとするも、再び骨手に捕らわれ、口から黒蛇のような根が侵入し、全身を侵食していく。
「これで貴様らは、私の玩具だ……後悔と苦痛の果てで死ね」
羅刹が笑う。狂気と冷酷の中間にある、戦女神の微笑みで。
すると、横からひょっこりと現れる小男がいた。
「いや〜、さすが羅刹姐さん! ホンマお見事でっせ!」
現れたのは、小柄な男――セトアザス。
自称・護衛、実態・ただの雑魚である。
媚びた笑みを浮かべながら、羅刹の横にぺたっと貼りつく。
「アッシも拷問のお手伝いさせていただきまっせ〜♪
こらこらクソ悪魔ども、楽に死にたきゃさっさとゲロしなァ!
……お、ナメクジが二匹。ほれ、こうすりゃ溶けるやろがァ!!」
台所から取り出した塩をスラッグラーにパラパラとかけ、ニタニタと笑うセトアザス。
羅刹はその様子に思わず眉をしかめた。
「……だれだ、お前」
「え、やだなぁ羅刹姐さん! ワイですよ、九闘竜のセトアザス!
今日は護衛でシルフィスお嬢とニカちゃまの付き添いで――」
「……護衛? お前みたいなクソザコが?って言うか、私すら一目置くあの九闘竜のメンバーになんでお前が入ってるの?」
羅刹の冷たい声が突き刺さる。
実際、セトアザスの戦闘力は皆無。
九闘竜というのも、いたずらの神・ロキの悪ふざけで与えられた“ネタ枠”だった。
「いや〜、そんなに褒めんといてくださいよォ〜」
「褒めてねぇよ」
羅刹のツッコミなど意に介さず、セトアザスは調子に乗って小便を構え――
「これがワイの“聖水”や! このスライム野郎、ありがたく拝めやァァ!!」
――ボゴォッ!!
「てめぇ、他人の庭で小便すんなやァッ!!」
羅刹の飛び膝蹴りが炸裂。セトアザスは天高く吹き飛ばされた。
「ふん……セトアザスのことなどより、問題は貴様だ」
羅刹の声に、空気が張り詰める。
次の瞬間、彼女の目が別の“侵入者”を捉えた。
――黒衣の男。沈黙の剣、アン・テイル。
「さて……見せてもらおうか。
“敵の敵は味方”などという、甘ったれた幻想を持ち合わせていないのでな」
爆ぜる殺気。ブリュンヒルデが思わず悲鳴をあげ、後退る。
だが。
「久しぶりだね……セッちゃん。
君は、昔よりずっと綺麗になった」
「……ッ!?」
羅刹の瞳が見開かれる。
瞬間、忘れかけていた記憶の刃が心を掠める。
「貴様……まさか……」
その名を、声にすることすら恐れ多い。
だが確信はある。この気配、この呼び方――
「《悪鬼絶殺》……大武神流・楚家拳。三本柱のひとり……
《アン・テイル》!!」
テイルはただ、穏やかに微笑んでいた。
「……よかった。覚えていてくれて」
静かに、彼は一礼した。
その仕草はまるで、過去への手向けのように、優しかった。
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