乂阿戦記3 第一章- 赤き復讐の牙レッド-2 ハクア・ホールデン・コンテスト
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──忌まわしきクトゥルフ戦争が終結し、世界はようやく静寂を取り戻した。
しかし、それは“ただの日常”ではない。
この地球には――神々と魔法少女と勇者が、しれっと混ざり込んでいる。
今日も放課後。
制服姿の神羅、絵里洲、獅鳳、そしてセレスティアは、のんびりと通学路を歩いていた。
「ねぇ神羅、聞いた? “ハクア・ホールデン・プロジェクト”が再始動するって!」
セレスティアが目を輝かせながら話しかける。
「えっ、あの……幻のアイドルオーディション?」
「そう! 去年、流行病で中止になったヤツ! でも今度、マジでやるんだって!」
神羅が小首を傾げる。
「でも、どうして今になって?」
「そりゃあ……“歌の力で世界を救った”からよ♪ SNSでも超話題なんだから!」
「──ちょっと待って。それ、本当に拡散されてたの!?」
「顔バレ対策はバッチリよ。……アタラさん“以外”は、だけどね♡」
「ふふっ。編集したの、アポロさんでしょ? 妹バカにも程があるわ」
セレスティアが無邪気に笑った。
だがその笑顔の奥には、ほんの僅かに影が差していた。
「……納得いかないっ! なんでアタラ伯母様だけテレビに映ってんのよぉ! わたしも“キャーキャー”されたいのにぃっ!!」
「ははっ、全員出てきたら逆にカオスだよ」
と、獅鳳が肩をすくめて笑う。
「まったく、あのバカ兄貴のせいで、当分まともに町を歩けんのじゃ……」
──その時だった。
「ア、アタラさん……!?」
背後からの声に、一同が息を呑む。
振り返ると、帽子とサングラスで顔を隠した女神アタラが、堂々とそこに立っていた。
「久しいのう、神羅。……頼みがある。この子を、少しの間、匿ってくれぬか?」
アタラの傍らには――
長い金髪に無垢な眼差しをたたえた、見知らぬ少女が一人、静かに立っていた。
「彼女の名は――峰場アテナ。
我と同じ“オリンポス十二神”の一柱にして、魔法天使の継承者じゃ」
その瞬間、通学路の日常が――
大きく軋み、音を立てて、非日常へと転じていった。
「で、なんでまたこんなところにいるんです?」
「ああ、それが実はだな……」
絵里洲の問いにアタラが答えようとした時だった。
「見つけたぞ!探していたワン!」
声のほうを振り向くと、そこには明らかに人とは違う異形の悪魔達がいた。
「なに?」
「うーむ、何か来たらしい」
気づけば下校中の景色が変わっていた。
悪魔たちの結界の魔法なのか、神羅達は地球とは違う不思議な空間に閉じ込められていた。
「ワワワワワン! 見つけたぜアテナ……さあ、おとなしく我等"悪魔結社ぐれーとでいもんず"の下に来るのだワン!」
犬みたいな姿の悪魔がハッハッと涎まみれの舌を垂らしながら金髪の少女アテナを捕まえようと手を伸ばした。
アテナは慌てて後ずさる。
すかさず獅鳳が犬型悪魔の前に立ち塞がった。
「オイそこのワンちゃんイキナリ何のつもりだ? とりあえず落ちつけよ?」
「ンだとッ!? この大悪魔グラシャラボラス様の邪魔をするだかワン!」
「まったく。何の目的があってうちの子を攫おうとしてるのかしらあ?」
オリンポス12神が1人セレスティア・ヴィーナスもアテナを守るように立ちふさがる。
「うーむ、俺様はただその子に用事があるだけだワン。邪魔をするなら容赦はしないワン!」
「へえ? 容赦しないってどう容赦しないのかしらあ?」
セレスティアがからかう様につぶやくと、犬によく似た悪魔は「なんだとぉ?」と怒りで顔をしかめる。
すると悪魔達の後ろから聞き覚えのある声が響き渡る。
「おい!ちょっと待てよ! ウチのクラスメイトになに因縁ふっかけてるんだ?この犬っころ悪魔ども!」
神羅たちが見やると、そこには見覚えのある2人の少年がいた。
土煙を蹴って飛び込んできたのは、2人の少年。
一人は赤の魔剣を携えた神羅の義弟、雷音。
もう一人は、なぜかいつも事件に巻き込まれている商人肌のトラブルメーカー、アキンドだった。
アキンドが前に出て、堂々と腕を組む。
「おいコラ。痛い目見たくなきゃ、さっさとずらかれや!」
……が、効果なし。三匹は後ずさるどころか、じりじりと距離を詰めてきた。
「おーい、アキンド。言っとくが俺は、お前のケンカに首突っ込む気はないからな?」
「えぇっ!? 何その冷たい態度!? 一緒に行動してる友達でしょ、手伝えよ雷音!」
「やだね。見るからに子供相手じゃん。な?」
神羅も首を横に振る。
「こっちもパス。あれ、どう見てもランドセル背負ってるし」
そう、三匹の小悪魔――犬、牛、馬――どれも明らかに小学生サイズ。
しかもランドセルまでしょっている始末。
「子供じゃないワン! 僕は偉大なるコボルト族の大悪魔・グラシャラボラス様だワン!」
垂れ耳を揺らしてキャンキャン吠える子犬は、どう見てもコッカー・スパニエルの仔犬。
「そーだモー! ミノタウロス族の大悪魔モロ君様をバカにするなモー! パチンとやっつけちゃうんだからなモー!」
白黒ホルスタイン模様の子牛が鼻息荒く踏ん張る。
「んあ〜……」
アムちゃんはひたすら無言でニンジンチップをもぐもぐ。そこはかとない“マイペース”が滲み出ていた。
「アムちゃん、ちょっと静かにしてくれないかモー」
「んあ〜」
「ま、ニンジンチップ美味しいからね……」
「うんうん、わかる〜! 私もよく食べる!ヘルシーだし!」
神羅まで妙に共感し始めてしまった。
「ええっと……神羅さん? 君ら、なんでそんなに余裕あるの……?」
アキンドが困惑する中、神羅がふと声を上げた。
「いや、だって悪魔っつっても子供でしょ。こっちにしてみりゃ微笑ましいし……あっ、そうそうアキンド、気をつけて――」
その瞬間。
後ろに回り込んでいたグラシャラボラスが“膝カックン”をかます。
「ぶぶおッ!?」
倒れたアキンドの顔に、モロ君が拾った犬のフンを容赦なく――ベチャッ。
「うわぁあああああッ!?!?」
「く、くさッ!」
「アキンド、顔!顔が……うわっ!」
絵里洲が思わず鼻をつまむ。
グラとモロの小悪魔コンビは、アッカンベーしながら猛ダッシュで逃走。
「「バーカバーカ!くっせーのー!」」
「このクソガキどもぉぉぉ!!」
怒り狂って追おうとするアキンドだったが、すでにその姿は見えず。
と、次の瞬間――異世界のような結界がふっと消え、周囲はいつもの通学路に戻っていた。
「んあ〜……」
その場に一人残されたのは、仔馬悪魔・アムちゃん。
呑気にポリポリとニンジンチップを食べ続けている。
「……あの、アムちゃんだっけ? 逃げなくていいの?」
「んあ?」
首をかしげるアムちゃん。どうやら何が起きていたのか、あまり理解していない様子。
「まったく、あの悪ガキども……次会ったら悶絶電気あんまの刑じゃ!」
アキンドがぷりぷりと怒りながら言い放つ。
雷音が鼻をつまんで苦笑した。
「おいアキンド。お前、うちの風呂入ってけ。ウンコ臭すぎて公害レベルだ」
「……ありがたくお言葉に甘えさせてもらうわ!」
こうしてアキンドは雷音宅でシャワーを借り、濡れた頭を拭きながら帰っていった。
一方その頃、神羅はアムちゃんの前にしゃがみ込んで目線を合わせた。
「ねぇ、君たち……アテナちゃんに何か用事があったんじゃない?」
「んあ〜」
アムちゃんはポケットからチラシと応募用紙を取り出し、神羅に差し出す。
──《ハクア・ホールデン・プロジェクト》。
応募用紙には、グラシャラボラス(ギター)、モロク(ドラム)、アムドゥシアス(ベース)の名前。そして、ボーカル欄は空白だった。
「なるほど。アムちゃんたちはアテナちゃんをボーカルに誘いたかったんだ?」
セレスティアが言うと、アムちゃんはこくりとうなずいた。
「う〜ん……アテナちゃん、どうする?」
セレスティアの問いに、アテナはもじもじとアタラの背後に隠れ、首を小さく横に振る。
「すまぬな、アムちゃん。うちのアテナは少し奥手でな、人前で歌うのはちと苦手なんじゃ」
アタラが申し訳なさそうに言うと、アムちゃんは目に見えてしょんぼり。
――トボトボと帰路につこうとする。
「ほらほら、元気出して! そうだ、お姉さんがそこのコンビニでお菓子買ってあげるから!」
セレスティアが手を差し伸べ、アムちゃんを元気づけるべく、仲良くコンビニへと連れていった――。
神羅と絵里洲は、アムちゃんが差し出した一枚のチラシに目を通していた。
「ええっと……なになに?『次代の邪神を倒す歌姫、来たれ!』」
絵里洲が声に出して読み上げる。
「『ハクア・ホールデン・コンテスト開催間近! 優勝者には――なんとアイドルデビュー保証! 賞金一千万円! 伝説の戦艦アルゴー号で世界一周旅行もついてくる! さらに審査員には今をときめく超人気スーパーアイドル――ブリュンヒルデ・ヴァルキュリアが参加!!』……って、なにこれ、めちゃくちゃすごいじゃない!」
「え、えぇぇぇっ!? ホントに!? 神羅、それホントなのっ!?」
絵里洲が目をキラッキラに輝かせて、神羅に詰め寄る。
「う、うん……嘘じゃないけど。えりすちゃん、それがどうし……」
「出ましょう!!」
神羅の言葉を待たずして、絵里洲はぐいっと手を握りしめ、力強く宣言した。
「一千万円あれば、FXで溶けたお小遣いが取り戻せる!!」
「……え、絵里洲ちゃん? 今ちょっと聞き捨てならないことをさらっと言わなかった……?」
後ろで聞いていた獅鳳が、ツッコミ半分でギョッとした顔を向ける。
だが――二人の女子トークは止まらない。
「うーん……でも優勝って、そんな簡単なものじゃないと思うんだよね。才能とか運とか、審査員の好みとか……」
「大丈夫よ、神羅! だって私たち、あの邪神クトゥルフを倒した歌姫よ? 勇魔共鳴のパイオニアよ? 女神がついてるのよ?」
「……いや、ついてるのは私たち自身なんだけどさ……」
「さあ、申し込んで! 夢と希望のステージが私たちを待ってるわ!」
そんな熱気に押される形で、神羅もついに観念した。
「……うん、まあ、面白そうだし。ブリュンヒルデに会えるチャンスもあるし。……とりあえず行くだけ行ってみるか」
心のどこかで、優勝はできなくても別にいい――そう思っていた。けれど、挑戦してみたいという気持ちが、静かに心を温めていた。
とはいえ、それはまだ少し先の話。
まず優先すべきは、客人の歓待だった。
神羅、絵里洲、獅鳳は、女神アタラの願いを受け入れ、新たなクラスメイト――峰場アテナを、正式に狗鬼家へ迎え入れることとなった。
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