乂阿戦記2 エピローグ 変身ヒーローの勇者様と歌って戦う魔法少女は魔法学園で青春を謳歌する
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エピローグ
クトゥルフ戦争が終結し、世界にようやく静けさが戻ったある朝――。
雷音、獅鳳、神羅、雷華は公園での武術修練を終え、登校のために歩いていた。
朝の陽射しは穏やかで、戦火の記憶さえ遠い夢のようだった。
その時だった。
前方から、一匹の巨大な白い犬を連れた少女が現れた。鎖の首輪をつけたその犬は、まるで狼のような風貌だ。
少女はフレア・スカーレット。傍らには妹のシルフィスとニカの姿もあった。ニカは、件の白い犬の背に楽しげに跨っている。
「おう! フレアじゃないか。久しぶりだな。いつ学校に復学するんだ?」
雷音が手を振りながら声をかけると、神羅も続いた。
「アクアがフレアのこと、めっちゃ気にしてたよ。メールの一つくらい、入れてやんなって」
「え、やっば、すっかり忘れてた。うちも色々あってさ……わかった、後で送るよ」
フレアは苦笑しながら応じた。
「イサカさんは元気ですか?」
獅鳳の問いには、フレアではなくシルフィスが誇らしげに答える。
「はい! イサカママ、もうすっかり元気です! 鳳天先生とノーデンス先生が、いっぱい頑張ってくれたです! 今度の日曜日、一緒に遊園地に行くんですー!」
その無邪気な声に、獅鳳は安堵の息をついた。
一方その頃、雷華はニカが乗っている白い犬から目が離せなかった。
もふもふの毛並みに顔をうずめたくて仕方ないらしい。
「か、かわいい……触りたい……」
「ん? どうしたの?」
不思議そうに問う獅鳳に、雷華は慌てて首を横に振る。
「い、いや、なんでもない……」
そんなやり取りを見ながら、雷音がふと疑問を口にした。
「ん? いや、待て。そいつ……犬にしちゃデカすぎじゃね? てか、犬じゃなくて狼だろ。しかも、なんか……見覚えあるぞ?」
神羅も眉をひそめる。
「うん……この子、前に……どこかで見たような……」
獅鳳の顔がみるみる青ざめていった。そして、震える指先でその白い狼を指差した。
「フェ……フェンリル……そうだ、あのルルイエで封獣機を圧倒した真フェンリル……!」
「え? フェンリル? まさか……」
「「「「エエエエエエエエエエッ!?」」」」
三人は地面に尻餅をついた。記憶の底から湧き上がるトラウマに思わず絶叫。
「シシシ、驚いたか? しかもまだあるぞ。ニカの髪飾り、よーく見てみ?」
フレアがニヤリと笑って指さす。
「えっ、ニカの髪飾りって……って動いてる!? にょ、にょろ〜ん!?」
「シシシ、よく見たな。それ、ヨルムンガンドだよ。世界蛇の――ね」
「「「「はぁぁぁぁああああっっっ!!?」」」」
もはや笑うしかない。伝説級の“あの”二柱が、なぜ今、子供のお守りをしているのか――。
「ちょ、ちょっと待てフレア!? こんな超大物ボスキャラたち連れて散歩って、どういう了見だよ!」
雷音がたまらず叫ぶ。
「シシシ、大丈夫だって。ロキに頼まれて一時預かりしてんだけど、意外といい子なんだよこいつら」
「フレアお姉ちゃん、ふぇんりるが早くフリスビーで遊びたいって〜!」
「バウバウ!」
フェンリルは尻尾をぶんぶん振りながら跳ね回る。ただの大型犬のようなはしゃぎっぷりだ。
「おいフェンリル、お前……伝説の魔獣だろ? 誇りとか自覚とか、ないのかよ……?」
雷音が呆れて問いかけるが、フェンリルは首を傾げて「わう?」と返すだけ。
さらにシルフィスが「お手! お座り! 絶天狼抜刀牙!」と芸を命じれば、満面の笑みで技を披露。完全に飼い犬だった。
「うぐぐ……あの時は地獄のようにボコられたのに……」
獅鳳は複雑な顔で呻いた。
「ま、まあ……今はもう敵じゃないしな……」
神羅が少し間を置いて尋ねた。
「そういえばさ、このフェンリルの“本当の”飼い主のロキは今どこに?」
「ロキの奴か? あいつは今――」
フレアが語り始める。
――
場所は変わって、異世界スラルのナイン族の国・ニブルヘル。
その大病院の一室で、ロキは療養していた。
ベッドの脇ではナイアがせっせと林檎を剥いている。そこへ、パピリオとレッドが見舞いにやってきた。
ロキのいる病室にパピリオとレッドがお見舞いにやってきた。
「はーい。ロキちゃん具合はどう?」
厚化粧のパピリオがドアを開け挨拶する。
「よう、パピリオにレッド、見ての通り心身ともにボロボロだよ」
と、ロキは軽口を叩いて2人を出迎えた。
「フン、その割にはずいぶん晴れ晴れとした顔してるじゃないか?」
レッドがロキに皮肉をいう。
「まあ、ロキちゃん的にはイサカちゃんを助けられたから、半分の目的は達成できたとも言えるからね」
と、不意にパピリオがにやりと笑いながら言った。
「フン、ナイン族の族長として、また"9つ世界"の王子の1人としては大失態だよ。戦争で勝利できなかったんだからね。まあファウスト博士のおかげで、エクリプスを奪われると言う最悪の事態だけは回避できた」
「アナタの父メルコール・ヴォータンは戦争勝利を逃した責任をゴズモグ将軍に押し付けたみたいね」
「彼も馬鹿だね。何も自分から敗北の責任は全部自分にあるとか申し出なくてもいいのに。」
ロキが呆れた風に肩を竦める。
「ゴズモグ将軍の任は召喚士にして王将たるお前を守り抜く事だった。まんまと速射爆拳の揺動にひっかかり、お前を守り通すことができなかったのは確かに大きなミスではある」
「どうでもいいさ。今回の失態でボカァ"9つ世界"の王位後継者レースから脱線しただろうし、今回みたいに戦争に出る事はもうないだろうさ。ま、王様になる気なんかさらさらないけどね」
「ぷふふふ、ロキってばひっどーい、君〜やっぱりイサカ1人を生き返らせるために今回の計画を練ったんでしょ〜?今回の戦争で大勢死んじゃったんだよー? 皆さん、ご愁傷様〜☆」
ナイアがケラケラ笑う。
「えっえ〜?違いますう。僕はお国の栄光のためにエクリプスを手に入れようと頑張ったんですう。ああ、大勢の犠牲者諸君には胸が痛んでしょうがないよ……ナンマイダーち〜ん♪」
ロキがケラケラ笑いナイアに答える。
(ああ、やっぱり彼は最高だ!)
ナイアが見たロキの笑顔は、まさにイタズラ悪魔の如きだ。
パピリオとレッドは揃って嘆息する。
「そうね〜、でもあなた本当にお国のために頑張った勇者として軍部で物凄く評価が上がってるわよ?」
「…………は?」
パピリオの意外な発言にロキの顔が呆けた。
「だってあなた、あの化け物みたいに強い銀仮面"羅漢"、最強魔女"羅刹"、No.1ヒーロー"フェニックスヘブン"相手に一歩も引かず立ち向かったじゃない? ゴズモグ将軍もスマウグ将軍もバルログ龍騎兵団も、それはもう感動しちゃって……あなたに是非とも次の王様になって欲しがっちゃってるのよ! 将兵達の強い推しを受けてメルコール・ヴォータンも後継者として貴方に強い期待を抱いてるわ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとタンマ!なにそれ?なにそれ?ボカァもう戦場でしゃばる気ないよ?イサカちゃんも生き返ったし、あんなキャラ違いなこと二度とやんないよ!!…ってか今回みたいな戦い二度とゴメンこうむるから!!」
レッドがロキの肩を叩く。
「残念だがロキ、お前今ナイン族の中で羅漢、羅刹、鳳天に対抗する勇者として非常に高く持ち上げられている。もし次大きな戦争があったとき、お前はあの恐ろしい達人達の対抗馬として戦場にかり出されるだろう。」
「じょ、冗談じゃねー!?ボカァ先陣切って戦うタイプじゃない!後でニヤニヤ謀略巡らすタイプなの!!あんなチート共の相手とかもう二度と無理だから!!」
「さあ、どうでしょうね」
パピリオは首を傾げる。
「ロキちゃんて自分でも気づいてないけど、案外熱血なところあるからまた同じことするかもしれないわよ? 貴方のお父さんメルコール・ヴォータンもそれを心配していらっしゃるわ。…というわけでえ!」
「ロキお前俺達と一緒に修行するぞ!」
レッドとパピリオがニヤリと笑いロキの顔を覗き込む。
「へ?」
「今こそ、お前の宿敵鳳天を倒すための修行だ。あの怪物に勝利した時、お前は正式に"9つ世界"の新たな王となる。さぁ、俺と共に一緒にいざ修行だ!」
「え? ちょ、レッド?」
「ウフフ、レッドってば阿烈とファウスト博士の戦いを見てから世界最強を目指そうと絶賛燃え盛っている最中なの! ロキちゃんも一緒に修行して最強目指しましょうね?」
「目指さねえよ!ボカァそういうキャラじゃねーから!」
ロキは否定するが、パピリオ達はロキの話に耳をかさず盛り上がっているようだった。
「こ、この脳味噌筋肉共!ねえナイア、こいつらちょっと説得してよ!」
だがナイアはなぜかスマホでロキの困った顔を録画している。
そして、にっかり笑いながら言い放つ。
「いいじゃなーい☆男なら、誰もが憧れる世界最強の称号!ロキも目指しちゃえ、目指しちゃえ!」
「ちょっと何言ってんのナイア!?」
「ごめんね。ロキ〜、君の困ってる顔がとっても新鮮で、とってもキュートで、ボク……ボク、もう見てるだけで理性が飛んじゃいそう〜♡」
ナイアはスマホを構えながらハアハアと肩で息をしている。
ロキは青ざめて叫んだ。
「な、何言ってるんだナイア〜〜!?」
「……うわぁ、また始まったよ」
「こいつ本当に重症だな……」
レッドとパピリオが揃って額に手を当てた。
ベッドにいるロキの肩をレッドとパピリオが掴み強引に引きずり出す。
「さあ、今日から早速修行を始めるわよー。ロキちゃん本当は怪我なんてとっくに治ってるんでしょう?」
「亜父ファウストも修行に付き合ってくださるそうだ。ともに強さの頂を目指そうぞ!燃えてくるよなぁロキ!!」
「うわあああ!ナイア、ナイア!こいつらを止めてよナイアアアアアアア!!」
ロキが絶叫を上げながら連れ去られて行く。
「ああ、いい! 今の君のその表情ものすごくいい!」
大好きなロキが連れ去られていくのを見て、ナイアはふるふると顔を真っ赤に染めながら性的絶頂に達していた。
ロキの叫びが病室の廊下にこだまする。
ナイアは満面の笑みで録画ボタンを押し、鼻血を垂らしながらつぶやいた。
「最高すぎて……もう、たまんない……♡」
――かくして、“次なる戦い”を前に、また一人の勇者が修行の道へ引きずられていった。
と、以上フレアからロキの顛末を聞いた雷音達はケラケラと笑い、笑い転げた。
そして、しばらく笑い転げたあと気を引き締め直した。
「なんだかんだロキのやつ強くなってまた俺たちの前に姿を現しそうだな」
雷音が気を引き締めて言う。
「ナイア並の悪党だが、なんか悪者とは思えない。むしろ私としては、彼のあのある種の強さを見習いたい」
と雷華
「そうだな。俺もそれには同意だよ。よし、俺もがんばって修行して、次こそは彼に勝ってみせるぞ!」
と獅鳳
「私は出来たら彼とも話し合いで解決できたらなぁとちょっと思うかな?」
と神羅が言うと、みなも「そうだなあ」と大きく頷いた。
「火種は、まだ世界中に残ってる。だけど……」
雷音は空を仰ぎ、まっすぐな声で言った。
「拳じゃなくて、言葉で止める道を――俺たちで、見つけようぜ」
その言葉に、皆が頷く。
「争わないための強さ。尊先生なら、それを知ってるのかもしれない」
「どうすれば、守れるのか……学ぼう。みんなで」
少年たちの瞳に、未来への光が宿る。
神羅がそう言うと、皆の顔に決意が灯った。
答えはまだ見えない。でも、探しに行く――それが、今の彼らの道だった。
さもなければ、あの兄――乂阿烈と、究極戦闘生物カオスクトゥルーが再び暴れ出し、今度こそ世界は終焉を迎えるだろう。
極身近に世界を破滅させ得る脅威があるせいで子供たちは待ったなしの必死の思いだ。
そんなことを考えながら子供たちは良い方法を探しに、または学びに、または方法を見つけ出す知恵を得るために、まずは学校に向かうことにした。
魔法学園には、大勢の友達がいるから相談してみよう。
そう、いろんな国のいろんな力を持った、かけがえのない友達たちがいる…
そう、彼らはまだ、世界を救ったばかりの勇者であり――
同時に、どこにでもいる少年少女だった。
今日も魔法学園の校門をくぐり、
仲間と笑い、悩み、また一歩、未来へと進んでいく。
「きっとこの世界は、もっと優しくできる」
そんな願いを胸に――。
そして、今日も変身ヒーローの勇者様と歌って戦う魔法少女は魔法学園で青春を謳歌する。
ー完ー
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