乂阿戦記2 EXバトル あまりに酷い戦争の結末-4 消え去る野望
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ところかわり地球
魔法学園近くにある公園広場に二体の厄災が降り立った。
"武の頂"乂阿烈と"究極戦闘生物"カオスクトゥルーである。
「があああゴラアアアあ!!」
「グオオオオオオオオオっ!!」
それぞれ巨大なクレーターの中で対峙していた。
公園にいた人達が悲鳴を上げ逃げ出して行く。
「キャー!!」
「きゃあああ!!化物だあ!?」
「逃げろーッ!殺されるぞ!」
その声と同時に、赤の長い髪をなびかせながら、一人の女性がやってきた。
それはなんと乂阿烈の母、乂鳳月であった。
「あら?いきなり誰かと思ったら阿烈ちゃんじゃない?」
「は、母者!?」
「あら〜珍しいわね。今日はどうしたの?」
阿烈の闘争の狂喜に満ちていた顔が、おびただしい油汗をかいた危機感いっぱいの顔になった。
「あ、大ニィニだあ!」
一番下の妹、今年六歳の紅阿がトテトテと阿烈に抱きついてくる。
父親がいない紅阿は阿烈を父親同然に慕い甘えてくる愛娘同然の末妹だ。
「あらアナタ、帰ってたの?」
そこに愛娘羅雨を抱っこした妻のプリズナ・ヴァルキリードがやって来て、夫に気づいて声をかけてくる。
「ぱーぱ!ぱーぱ!」
妻の腕の中で2歳の愛娘羅雨が自分に抱っこをせがんでいる。
「あれ?阿烈兄さん今日はお仕事じゃなかったんですか?」
さらに8歳の弟、頭が賢くお気に入りの末弟阿乱までいるではないか!
どうやら子供達は学校の帰りに母親同伴で公園で遊んでいたようだ。
「が……ご……が……!」
この化物にも戦いに巻き込ませたくない家族というものがある。
(ま、マズイ!!)
今戦っているのが雑魚ならまだしも、カオスクトゥルーは自分と同格の戦闘力を誇る屈指の超強敵である。
阿烈の弱点とも言える家族たちがいるこの状況は、非常にまずい事態であった。
思わず阿烈がカオスクトゥルーの方を振り向くと、何故かカオスクトゥルーも油汗をかいて固まっていた。
(!?)
「わあー、珍しいです〜。じいじが迎えに来てくれたです〜♩」
カオスクトゥルー(ファウスト)の養女シルフィスがうれしそうに養父に抱きつく。
「にゃにゃにゃ!にゃにゃにゃ〜!」
下の子ニカも嬉しそうにファウストに抱きついていた。
「あっれ〜ファウスト博士〜? 今日は仕事でルルイエ行ってたんとちゃいますのん?」
どうでもいいが、子守を任されているセトアザスもこの場にいた。
「う……ぐ……ご……!」
阿烈はカオスクトゥルーの呻く表情から、奴も今自分と同じ状況なのだということが即座にわかった。
双方はお互いまぶたをピクピクと痙攣させながら相手の様子を観察する。
「あれ〜?にぃに達お怪我してるの〜?血まみれなの〜」
「大丈夫!シルフィ達が学校で覚えた魔法で治して上げるですぅ!シルフィ達は賢いから怪我だけじゃなく服も一緒に直せるですぅ」
「「………………」」
子供たちに回復魔法をかけてもらいながら、阿烈とカオスクトゥルーは戦いの続きは子供たちが去ってからにすると暗黙の了解を取り合っていた。
そこに一台の小型バスがやって来る。
「おーチビちゃん達〜、いい子にして待ってたか〜?」
運転手は元ドアダ七将軍ヨクラートルこと永遠田与徳だった。
「おや?阿烈さんじゃないっすか?そっちはシルフィスちゃんのおじいちゃんのファウストさんかな? どうも初めまして。永遠田与徳ともうします。シルフィちゃんの付き添いは瀬戸さんだけじゃなかったんですね。実は今からみんなで食事に行くんですけど、阿烈さんもファウストさんもご一緒にどうですか?」
と、事情を知らぬ与徳は気軽に阿烈達を食事に誘った。
与徳の隣の席には彼の妻、狗鬼ユノが乗っていた。
ユノは止まったバスから降りると子供たちに声をかけた。
「はーい、みんなお待たせ〜、さあ今からバスに乗って一緒に御馳走を食べに行くわよ〜♩レッツぱーりぃ♩」
「「「「「レッツぱーりぃ♩」」」」」
子供達が合唱する。
((よし、しめた!))
阿烈とカオスクトゥルーにとって都合のいいタイミングだった。
両者ともに子供たちが去ったら、今度こそ目の前の猪口才な敵を叩き潰してくれると息巻いていた。
ところがどっこい!
「ねーね、大にーに!大にーにも一緒にお食事行こう! 紅阿大にぃにと一緒にお食事したいなの〜♩」
と、阿烈の袖を掴んだのだった。
そしてファウストは……
「じいじ、じいじ!じいじも一緒にお食事行くです〜。シルフィはじいじも一緒がいいですぅ」とシルフィスに袖を掴まれたのだった。
さらに2歳の羅雨がいつの間にか阿烈の体をよじ登って胸にしがみつき離れなくなった。
今お父さんの抱っこを所望したい気分のようだ。
ちなみにファウストの背中にはニカがしがみついている。
二歳児達は力いっぱい嬉しそうに男親にしがみつき離れなかった。
「「う、うぐ!うぐぐぐぐ!!……」」
阿烈とファウストは、結局娘達にせがまれ、ズルズルとバスに同乗することになる。
2人はその厳つい顔に反比例して、娘達に頼まれたら何でも言うことを聞いてしまう典型的なダメ親であった。
どどのつまり親バカならぬ馬鹿親だった。
結局二人は愛娘達の要求に逆らうことができず、互いに最大限警戒しながらも外食行きのバスに同乗する事になった。
((ぬうう!な、なんという愛らしさだ!!……さ、逆らえぬ……娘達が可愛い過ぎて逆らえぬ!!と、闘争を続けることができぬ!!))
と、ラスボス2人は冗談のような理由で大真面目に苦悩していた。
そしてついに最後の事件が起きた。
「あっ、そうだ!今日はせっかくだから、到着するまでみんなでバスの中でお歌を歌うですう!」
と、突然シルフィスが提案した。
「そうね、じゃあみんなで学校で習った女神様の唄を歌おうか?」
と、母ホエルが同意する。
(…………………ん?)
そして阿烈は気づく。
今自分が懐に持っているのは、むき出しのエクリプス・コア
魔女の体内に入っている時ならばまだしも、女神の資質もつ魔法少女、もしくは女神が"女神の唄"を歌えばたちどころに浄化されてしまう危うい状態の絶望魔法の塊。
母ホエル、妻プリズナ、狗鬼ユノは前大戦でエクリプスを浄化した先代女神。
そして紅阿、シルフィス、羅雨、ニカは次代の女神ユキルになり得る天才的な才能を持った魔法少女ならぬ魔法天使たちだった。
そのメンバーが女神の唄を歌うということは………
「い、いかん〜〜〜!!」
と、思わず叫び声を上げる。
「アナタどうしたの?」
「あ、いや……その……なんじゃ……」
しかし、説明しようにもどう答えてよいか分からず、しどろもどろになってしまう。
それはそうだ。
エクリプスを怨敵として戦い抜いた母と妻の前で、自分は今剥き出しのエクリプスをもってて、エクリプスを使って宇宙征服するから、女神の歌を歌わないでくれなどと口が裂けても言えなかった。
誰もしらないが実は彼は本質的に母と妻に頭が上がらない。
しかも子供たちが歌を止められて悲しそうな顔でこちらを見ているではないか。
「わ、わあ〜、ワシは早くみんなのお歌を聞きたいのぉ〜………」
阿烈は引き攣った笑顔でそう誤魔化す。
「わあ♡じゃあ歌うなの〜♪」
と、紅阿は前にも増して嬉しそうに言う。
そして……
先代女神と魔法天使達の歌声でエクリプス・コアはドンドン浄化されていった。
阿烈は表面の表情は平静を保ちつつ、心の中で絶叫していた。
(グルァアアアアアアアア!! エ、エクリプスがあああ、ワシのエクリプス・コアがアアアアアアアア!! この覇王阿烈に絶頂の栄光を与える禁断の最終兵器があああああ!! バ、バカな!! そんなバカなあああああ!! )
エクリプス・コアが消滅したとき、阿烈は泡を吹いて卒倒した。
「パーパ、羅雨上手にお歌を歌えた?」
羅雨が白目を剥く阿烈をモジモジと照れ臭そうに見つめてる。
それに気づいた阿烈はギチャ〜とホラー映画めいた恐ろしい笑顔で羅雨を高く抱き上げ「ん〜〜羅雨たぁん! とぉ〜うってもお上手でちたよ〜〜!」と馬鹿親丸出しに頬ズリした。
ちなみそのスグ隣でDr.ファウストがニカを同じように頬ズリしている。
「ん〜〜ニカやぁ〜! とぉ〜うってもお上手であったぞ〜〜!」
エクリプスが消えたことにより両者が戦う必然性はなくなり、娘達がいる手前もあって、彼らは戦闘続行は断念し、とりあえず娘達と食事することに決めた。
いつの日か機会がおとずれたらこの忌々しい強敵と必ずや決着をつけてくれると心の奥底で誓いながら……
かくして最終兵器エクリプスは消滅し、ここに灰燼の覇王乂阿烈の野望は間一髪のところでくいとめられた。
クトゥルフ戦争
夥しい死者を生み、裏では最終兵器エクリプスを甦らせようとしていたクトゥルー教団が起こした戦争……
スラルの各族長のみならず、その他勢力の長達が暗躍し、最終兵器をめぐって様々な陰謀を画策し蠢きあい、苛烈に争いあった忌まわしい大戦争
終わってみれば――誰も勝てず、誰も報われず。
ただ、覇王と怪物が娘たちに敗北したという、滑稽で優しい戦争の終わりだった。
↓イメージリール動画
https://www.facebook.com/reel/335652342348738