乂阿戦記2 EXバトル あまりに酷い戦争の結末-3 アルマゲドン
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狗鬼絵里洲は戦艦の中で喧しく悲鳴をあげていた。
「いひやああああ!!死ぬ死ぬ!死んじゃう死んじゃう!このままじゃぁ戦いに巻き込まれて死んじゃうううう!!先生〜! はやく発進してえええ!」
アキンドも騒がしく悲鳴をあげている。
「嫌じゃああああ!童貞のまま死ぬのだけは嫌なんじゃあああ!! 先生、助けてえええ!!」
「絵里洲、アキンド、うるさい!それに先生ではなく艦長と呼べ!」
そう怒鳴ってから、タット教授はまた正面に向き直った。
戦艦アルゴーの艦橋にいて、タットの隣に控えている臨時副艦長リリスが口を開いた。
「タット艦長!!オーム総司令より通信です!!」
「うむ、繋げろ」
「先生、師匠達の闘いの余波でもうじき狭間の世界が消滅します。衝撃が来るので備えてください。コンピューターの演算によると、狭間の世界が消滅したら、この船は邪神達の世界である黄緑宇宙シュブニグラス・コスモに転移します。」
「よし、総員衝撃に備えろ!」
その言葉と同時に戦艦全体が揺らぎ始め、あちこちで爆発や崩壊音が鳴り始めた。
更に邪神達の黄緑宇宙への転移が始まった様である。
その衝撃で船内は激しく揺さぶられてしまった!!
あちこで聞こえてくる悲鳴が響き渡る中、ついに狭間世界は終わりの時を迎える消滅する事になったのだった!!
そして、シュブニグラス・コスモにて……
「船のダメージはいかほどだ?報告はまだか?リリス!」
「は、はいっ!!破損エリアより通信が入っています!黄緑宇宙の邪神の一団がこ、こちらに向かっているとのことです。機関部!もっと速く飛ばしなさい!もう、すぐそこに来るわよ!」
「無理ッスよ先生!これ以上スピード上げたら船が壊れちまうッショ!!」
イポスが泣き言を言っている。
タットがモニターを覗くとそこには全長100メートルにも及ぶ巨大な邪神とその後ろには100万ほどの配下らしきものが並んでいるのが見える。
その数は最早数える事さえ困難であったのだ。
(ちっ……流石にこの数じゃ、いくらアルゴー号でも分が悪いか)
・・・その時である・・・・
阿烈との闘いで苦戦するカオスクトゥルーがアルゴー号の近くに現れ、アルゴー号周辺の邪神軍団を瞬く間に全て喰い尽くしたのである。
「ごるぐがああああ! 力が戻ったぞ……喰らい尽くしてやる、すべてをなあああ!! 邪神の糞以下レベルの人間ぶぜいがあ! このカオスクトゥルーを手こずらせおってええええ! 貴様も邪神どものように肉片一片残さずエサとして喰らい尽くしてくれるうううううう!!」
対抗する阿烈は宇宙空間で舌を鳴らす。
「ちいいい! せこい奴め! 食事を取って体力回復とパワーアップをはかりおったわ! だがさっきワシも邪神の血肉を喰らって食事を済ましたところだ!! 狩りの獲物の畜生動物ぶぜいがこの偉大なる覇王様に対し上等な口を聞きくさりおってえええ! あの野朗ブッ殺してくれるわアアアアアアアア!!」
一旦のインターバルを挟み、阿烈とカオスクトゥルーはまた再び激しくぶつかり合った。
激闘のさなか両雄の品性は邪神と一緒に胃の中に納められたようだ。
音が伝わらないはずの宇宙空間に二大ラスボスの大怒号がこだましていた。
恐れをなしたか、それ以降邪神の群れがこの空間に現れることは一切無くなった。
宇宙空間にて阿烈が猛然と進み出ると、その対面に、肉の塊のような異形――カオスクトゥルーが立ちはだかった。
「……人間如きがあ、まさか生身でここまで我と渡り合うとはな。だが貴様など、我が血肉の宴にすぎん!……」
「黙れい化け物!……我こそが最強だ! それを証明してくれるぞ!」
雷鳴のような声音が戦場に響き渡る。
阿烈の気迫に、カオスクトゥルーの背後の肉壁が一斉に蠢いた。
次の瞬間、地面のように阿烈の足下の宇宙空間が爆ぜる。
カオスクトゥルーが無数の触手を解き放ち、阿烈を包囲する!
だが――阿烈は動じない。
「千の腕だろうが、万の肉だろうが……拳で黙らせるだけだッ!」
阿烈の拳が閃く。
殴った。いや、“叩き潰した”というべきだ。
触手が百本単位で爆ぜ、空間が血霧に変わる。
「ごぼぁああああああああ!!?」
カオスクトゥルーが人間のように悲鳴を上げた。
阿烈の拳が肉塊を貫くたび、カオスクトゥルーの体は形を変え、崩れ、そして再生する。
だがその一方で――
「貴様の肉体……確かに常識を超えている。だが、超えているのは我も同じよッ!」
カオスクトゥルーの再構成された肉の巨腕が、砲弾のごとき勢いで阿烈を叩き潰す。
瞬間、阿烈の巨躯が宙を舞った――だが。
「むうっ!?」
阿烈は空中で態勢を立て直し、蹴りの体勢のまま逆落としのように落下していた。
「効いた分は、返す。それが“拳の理”よッ!!」
凶悪回転の阿烈の踵落としが、カオスクトゥルーの胸腔を陥没させる。
内部から瘴気が噴き出した。
だが、異形の邪神はすぐさま再構成される。
「やはり……いい。貴様ほどの肉体、噛み応えがある!」
「ワシは喰われぬ。喰らうのはこの拳よ」
再び拳と肉が衝突する。
爆炎が舞い上がり、惑星が割れ、空間が揺れる。
「ちい……!我が再生力が阻害される!コレが理外の武仙技の凄みか!!」
「怪物よ!最強の名を背負う大武神流の奥義を味わえいい!!」
阿烈が拳を構える。カオスクトゥルーが肉を束ねる。
――次が本当の、一撃。
互いに一歩、踏み込む。
無風の宇宙空間の戦場に、暴風が吹き荒ぶる。
そして艦内
アキンドは雷音に兄阿烈について突っ込んでいた。
「えーっと、雷音君、君のお兄さんほんとに人間? 人間て宇宙空間で生身であんな風に活動したり出来たっけ?」
雷音が疲れた様な顔で返事を返す。
「えーとアキンド君、うちの兄ちゃんまだかろうじて一応ギリギリ人間かもなぁっていうことにしといて……俺、一番上の兄ちゃんの事はあまり深く考えないことにしてるんだ……」
「……そっかあ、うん、なんかごめんね……」
アキンドも疲れてるのか今回は突っ込みは放棄してる。
雷音の隣で神羅の声が艦内に響いた。
「わあ、見て見て! 宇宙の星々がビリヤードの球みたいにワチャワチャ激しく動きまわっているよ……ウフフ、綺麗……」
それは星屑のように煌めく無数の光の粒達が無重力空間の中で自由にダンスしているような幻想的な光景であった。
続いて絵里洲の声が響く。
「わああ! なんかここから見えるお星様の数がどんどん減っていってる……でも星が消える時ね、パッて大きく瞬いてそれがとっても綺麗なの……ウフフ」
どこか現実逃避してる様な顔で神羅と絵里洲がおしゃべりしていた。
鵺が近くに来てその現象について説明してくれた。
「ああ、アレはちょっと前、阿烈さんがウチのジャムガと酒に酔って暴れたときと同じ現象ね。最強同士のケンカに巻き込まれた恒星が吹っ飛んだり、投げ飛ばされたり、爆発したりしてるのよ……。それにしても今回の阿烈さんの暴れっぷりは酷いわね……今までで一番かも……」
そう言ってため息をつく。
鵺の後ろから白水晶がひょこっと顔を出し鵺に尋ねる。
「不可解……恒星は何万光年も離れてる……つまり私達が見てる星の光は何万年前の過去の光……対して乂阿烈とカオスクトゥルーの闘いは現在進行形のもの……現在の闘いが過去に影響を?」
「そうよ、現在の闘いが過去に影響を及ぼしてるの。両者の速度はすでに光速をはるかに突破してて、物理法則とか時間法則とか超越した状態なの……ラグナロクの時、破壊神と創造神の闘いでも同じことがあった……らしいわよ……」
「あはは……お兄ちゃん達の喧嘩で宇宙が崩壊してる……ああ、また星が……消えた……」
神羅は死んだ魚のような目で、かすかに口元だけを動かしていた。笑いにもならない、魂の抜けた現実逃避の“残響”だった。
鵺が優しく神羅の肩に手を置いた。
「えーとユキル……この邪神宇宙にはヒト種は存在しないからそこは安心してね……」
「か、帰りたい……もうおうちに帰りたい……」
アキンドが半泣きで膝を突く。
「俺も帰りたい。早くおうちのお布団に入ってねんねしたい……。」
雷音も半泣きで膝を突く。
邪神クトゥルフを倒した勇者達のメンタルは今ボロボロだ。
「よし、では今からワタシが雷音の添い寝をしてやるのだ!」
ひょこっと現れたミリルが雷音の手を引いて自分の寝室に連れて行こうとする。
「……ねえミリル……ボクね……ねんねするときね……オテテ握ってて欲しいの……」
いつもなら恥ずかしがって抵抗する雷音だが、彼は今幼児退行を起こしていた。
「うおお、マジか?」
軽く驚くミリル
雷音は長兄阿烈が最終兵器エクリプスを強奪し宇宙征服に乗り出すと宣言するわ、狭間の世界を消滅させるわ、さらには黄緑宇宙まで消滅させそうな勢いで、暴れ回るわで、頭がパンクしてアホ雷音になっていた。
「は、は、は、早く! い、い、い、一緒のベッドに行くのだああああ!!」
ミリルは興奮して、このチャンスを逃がすまいと雷音の手を引いていく。
その光景をニヤニヤしながらリリスやセレスティアがスマホ録画していた。
「ウフフ、お二人とも、ほどほどにしなさいよ〜。まだ未成年なんだから〜☆」
そんな時艦橋にレイミから嬉しい報告が入った。
「皆さんもうすぐ地球に帰れますよ!」
「え、本当ですか!」
「ええ。あと五分ほどで地球へ帰ることができます。」
「やった、ついに!でもあの宇宙空間の兄様達の戦いはどうするの?」
と雷華が尋ねるが、神羅はこう答える。
「……それは気になっても気にしない。大丈夫、見なかったことにしましょう!」
確かにあんなのは放っておくしかないので、みんな神羅に同意することにした。
レイミがモニターを指差して皆に説明する。
「アソコの宇宙空間に黒い大きな穴が空いてるでしょう? あの穴は今、地球の私達の魔法学園のすぐそばに繋がってるんです。あの穴を通ればすぐ地球に到着します!」
穴を見て獅鳳が疑問符を浮かべる。
「あれ?あんな穴あったっけ?いつの間に?」
エドナが来て皆に説明してくれた。
「あー、あれは九闘竜No.3パピリオが狂王刀で作った次元の穴や。さっきパピリオのおっちゃんが連合軍総司令官のウチの弟に司法取引持ちかけてきてな、今船に居るレッドさんとフレアちゃんをさっさとナイン族に返すなら、うちらが地球に早く帰られるよう協力したるって持ちかけて来たんや。この状況シャレならへんからオームはさっさと司法取引を済ませたんよ!」
それを聞いて正気に戻った雷音が握り拳を握って叫んだ!
「うおお!オームナイス!まじでナイス!お前が連合軍の総司令官でマジでよかった!!」
雷音のみならず艦内の皆が喜びの声を上げた。
「よっしゃ、やったー! これでやっと家に帰れるんだ!」
「うおおおお! あの地獄のような戦場からようやく解放される!」
「おお、あの黒い穴は次元の裂け目だったのか!」
しかし、そんな喜びも束の間、雷音がふと気づいた。
「あれ?……あっるぇ〜? なんかあの穴に兄貴とカオスクトゥルーが闘いながら近づいていってね?……ってか次元の穴を通り抜けて行ってね?……ってか通り抜けてすぐって地球だよね?」
神羅が青ざめた顔でギギギと時空の穴を見る。
「グルルア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
「ごるぐがぁあああああああああ!!」
次元の穴からブッ壊れ性能のラスボス共の大咆哮が聞こえて来た。
「地球オワタ……」
アルゴー号の誰かがそんなセリフを言った。
神羅は絶望的な表情を浮かべながら、その場に崩れ落ちるかのようにへたり込んだ。
その姿を見て、アルゴー号の誰もが呆然とする中、鵺はそっと神羅の肩に手を置いた。
「………」
鵺の目が泳いでる。
かける言葉が見つからないようだ。
艦内の一同は声を揃えて叫んだ。
「「「「「誰かあの二人を止めてエエエエエエエエエエエ〜ッ!!!」」」」」
アルゴー号の艦内は――阿鼻叫喚、混沌の様相を呈していた。
……そのとき、地球の空の向こうで、何も知らぬ平和な学園が、ただ陽光に照らされていた。
↓イメージリール動画
https://www.facebook.com/reel/3628830970722300