乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-22 ラスボスvs裏ボス
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阿烈が戦場に現れたその瞬間、アーレスタロスとロート・ジークフリードは静かに武を収めた。
「王には王を。――この闘い、託すが戦場の作法!」
真の覇を決するに相応しい者が来た。その場にいた誰もが、そう悟っていた。
空気が変わった。息を呑む音すら凍りつくように、戦場全体が阿烈という存在を“迎え入れた”のだ。
カルマストラ二世は機神イット・ジ・エンドに乗り込んだまま、邪神ガタノソアに騎乗している。
対して阿烈は生身の体ひとつ、しかも徒手空拳!
それでも余裕綽々に真狂王との距離を縮めていった。
「ゆくぞ!」
そう叫んだ阿烈の拳が唸りをあげる。
その一撃を躱す事なく腕を振りかぶる巨大なガタノソア。だが……
「ごえああああああああ!!」
邪神が悲鳴をあげる。
阿烈の拳を喰らったガタノソアの腕は、肩の根元から吹き飛んでいた。
巨体の肉と骨をいとも容易く砕き、空に残るのは焦げた残骸と、拳の風圧だけだった。
「なんと重い拳だ、これではまるで反物質波動砲ではないか!」
「グルァーッア”ッア”ッア”ッア”ッ!」
「我等の命運もこれ迄か……無念也!」
「ふはははははっ!! これが本物の王たる者の力よ!!」
「ぬうう、だがワシにも王としての意地がある!!」
カルマストラ二世は戦闘不能のガタノソアから降り、機神イット・ジ・エンドの巨体を器用に動かし、阿烈の放つその攻撃を躱しながら攻めていく。
(ほう、流石は破壊神ウィーデル・ソウルが末子!楽しませてくれおる!)
そう考えた時だった。
「隙あり!」
いつの間にか背後に回っていた真狂王が不意打ちを仕掛ける!
だが間一髪でそれを避ける阿烈。
「クフフフフハハハハハハハッ!!」
覇王は突然笑い出すと構えをとった。
「真狂王ジ・エンドよ。次の一撃でトドメを刺してやろう!!」
「それはこっちのセリフだ、乂阿烈よ!!」
カルマストラ二世が機神イット・ジ・エンドの操縦桿を前に倒す。
すると阿烈に向かって巨大な死神の鎌が振りかざされた。
そこに渾身の力を込めて振り下ろされた一撃!
凄まじい轟音が響き渡り、辺りに砂埃が巻き起こる……だが……
次の瞬間、その砂煙の中から飛び出して来たのは右手の拳を握る乂阿烈!
「ドゥリャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
と雄叫びをあげて阿烈の放った右の拳がカルマストラ二世を直撃する!
まず右の拳はイット・ジ・エンドの武器である死神の矛にぶち当たる。
人の素たる「トネリコの木」で柄が造られ、どんな武器でも破壊することはできない死神の矛を、乂阿烈はただの拳で粉微塵に粉砕してのけた。
そして、そのまま胸の装甲をブチ破り操縦席に突入!
拳は操縦席のカルマストラ二世の顔面を捉えると、より勢いを増し推進!
イット・ジ・エンドの背面から阿烈に顔面を殴りつけられてたカルマストラ二世が飛び出した。
「おごああああああああああ!!」
カルマストラは殴りつけられた衝撃で少し意識が飛んでいたが、気を取り戻すと同時に、殴りつけている阿烈の右手首を掴み関節技に移行しようとする。
「ふん!無駄だ、そうたやすく間接技を許すこの阿烈ではない!」
と冷徹な瞳で睨みつける阿烈。
「な……なんという剛力……! これが、“武”の究極か……!
動かぬ……いや……動かせぬ。力ではなく、“格”が違うのか……」
阿烈の単純な剛力の前に真狂王の間接技攻撃は不発に終わる。
(……これが……世界最強の漢の拳!……武の頂とはこれほどの高みであったか!)
そんな悲痛そうな目で見つめるカルマストラ二世に、更に追い打ちをかけるように言い放つ。
「大恩あるチョドゥル・カルマストラ殿とセドゲンス殿には申し訳ないが、これも戦国に覇を唱えんとする者の宿業! 我が剛拳に沈め! 真狂王ジ・エンド!!」
阿烈は、組み付かれたまま、まるで呼吸の一環のように、カルマストラ二世の右頬へ拳を突き出した。
ゼロ距離であろうと、体勢が崩れていようと、“技”となった彼の拳は、逃さず本懐を遂げる。
「グハッ……!!」
ゼロ距離からの打撃を受け、血反吐を吐きながらさらに空に吹っ飛ぶカルマストラ二世。
(強い……やはり……ワシが望んだ以上の漢よ!)
そんな思いにふけりながらも意識を手放そうとするカルマストラ二世だが……
(まだまだ!!この程度の痛みで逝くわけにはゆかんのだ!)
意識が飛びそうになりつつも、最後の意地を見せるべく、吹っ飛ぶ空中で体勢を立て直すと、再度阿烈に挑みかかろうと技を放った。
「しええええええええええいっ!!」
真狂王が空中に吹っ飛んでいるイット・ジ・エンドの破片という破片を足場にして、目一杯の反動をつけ八双飛びを繰り返し加速していく。
理外の神技による機動速度の倍加加速だ。
「ぬぅ来るか!!」
驚愕とも畏怖ともつかぬ声を上げる阿烈に、カルマストラ二世は、機動速度が光速を突破したタイミングを見計らい、起死回生の飛び蹴りを見舞おうとした。
今カルマストラ二世は半ば以上意識を失っている。
これは武の道を歩んだ武仙の本能が、体を突き動かし放つ武究の技だ。
「こしゃくな!」
狂喜の笑みを浮かべ阿烈はその巨体に似合わぬ俊敏さで、その蹴りに対しカウンターの光速飛び蹴りを放とうとする。が……!
(何!?)
その時、足底から衝撃音が発せられた。(足場が……砕けた!?)
突然の衝撃でカウンターのタイミングを逸する。
その斬撃波が戦場を裂いた瞬間、誰もが一度はその名を忘れていた。
胡蝶蜂剣――真狂王に最も忠実で、最も愛された女神国最強の剣の鬼神。
「武の頂よ、一騎打ちに水を差す不粋をお詫びする。……けどアタシはこのままエン君が死ぬのを見過ごせないの!」
それは“戦の理”を破ってでも、ただ一人の“王”を救いたいという、忠義の叫びだった。
飛び出した胡蝶蜂剣は、阿烈がトドメの技を放つ前に真狂王に組み付くと、虚空に向かい狂王刀を振りかざした。
胡蝶蜂剣自体は魔法を使えぬが、真狂王が彼に授けた狂王刀には様々な魔法効果がある。
例えば次元の抜け道を切り拓き別の世界に移動する効果等……
つまり胡蝶蜂剣は阿烈の隙をつき、まんまと真狂王を抱え、別世界に逃げ切ったのである。
「ぬうう、おのれ胡蝶蜂剣! よもや、よもやこの乂阿烈の隙を突いてみせるとは!! よくも、よくもワシの獲物を掻っ攫ってくれたな!!! グルオアァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
真狂王が姿を消した戦場に、世界最強の拳が、今なお叩き込まれぬ怒りのまま、空を裂いて轟いた。
それは敗者への怒号ではない。己が誇りを奪われた覇王の、誓いの咆哮だった。
↓イメージリール動画
https://www.facebook.com/reel/349170321456583