乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-17 12人の女神の歌
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それは戦場にはおよそ似つかわしくない煌びやかな光景だった。
神樹リトル・ユグドラシルの上に出来た円形魔法陣のステージに12人の歌姫が立っていた。
赤衣装の乂雷華、青衣装の狗鬼絵里洲、橙色衣装のアタラ・アルテミス、白衣装の白水晶、黄色衣装のエドナ・ソウル、緑衣装のミリル・アシュレイ、黄緑衣装のセレスティア・ヴィーナス、水色衣装のイブ・バーストエラー、銀色衣装のネロ・バーストエラー、紫衣装のリリス・ツェペシュ、黒衣装の今宵鵺、そして最後に桜色衣装の乂神羅!
「ぬ、ぬうう〜、お、おのれタットの小僧め〜、まさかこの歳になってまた歌姫をやらられるとは思っていなかったぞ!」
ステージではオレンジの魔法少女衣装を着たアタラが顔を赤らめ、少し恥ずかしそうにしている。
「クックック、いやいや、なになに、まだまだ似合うではないか妹よ。バッチリと最高画質の録画で撮って他の十二神達やオリンポスの兵士達に晒してくれるから頑張って歌うがいい!!」
モニター越しにセオスアポロがニヤニヤと笑っていた。
「〜〜〜〜っ!」
アタラは悔しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にして歯噛みしている。
「こ、これは……う、上手く乗らされているのか?で、でも今更やめるわけにもいかないし……」
ネロ・バーストエラーはアタラと同じように歯噛みしながら呟く。
「何と言うか……こんな大胆なことを思いつくなんてねえ……、ウチの担任ってマニュアル重視の常識人に見えて、ときどき想像だにしない作戦出してくるから侮れないわあ……」とセレスティア。
そんな三人の様子を見ながらエドナは満足そうに言う。
「あ〜っはっはっは〜!ウチもとうとうアイドルデビューや!」
そんな中リリスが浮かない顔で呟いた。
「……この作戦って、本当にうまくいくの?」
そんな不安を絵里洲がフォローする。
「あー、多分大丈夫よ。実は2ヶ月前ドアダ秘密基地で似たような事経験したことがあるの」
「そうなのだ!ナイアに邪神に変えられたオード・ジ・アシュラを私達は歌の力で浄化したのだ!」とミリル
「母様達も十五年前の大戦で歌の力でエクリプスの呪いを浄化した事があるって言ってた……」と雷華
「ええ、その通りデスヨ。と言うか当機とアタラはその時の当時者デス。まあ、当時の当機は水色の魔法少女ではなく勇者でしたケド……けどまさか今になって相棒だったプリズナ姫の代わりをする羽目になるとは思いもしませんでシタ……」イブがため息をつく。
「無問題……イブ姉様、アタラ様、2人ともアイドルとしてビジュアル、カリスマ、スタイル、歌唱力、ダンス力、女子力、全てに問題ありません」
白水晶の意見にCICにいる雷音、イポス、アキンドの三馬鹿がウンウンと同意していた。
「やっぱ歌姫はボンキュッボンの綺麗なお姉さんじゃないとなあ…」
「ぶっちゃけあの二人に比べたらウチの女子達まだまだガキだよなあ…」
「タット先生マジでグッジョブ!一生ついて行きます!」
そんな三馬鹿の話を聞いた女子達は「よし、あいつ等あとでリンチだ!」と固く誓っていた。
「……ユキル、準備はいい?」
鵺が神羅に尋ねた。
「いつでもOKよ、鵺ちゃん。」
神羅はニコリと笑うと魔法少女の衣装のまま、手を広げて高らかに宣言した。
「ねえ、きっと……ほんの少しでも、奇跡は起こせる。
私たちは魔法少女。夢を届けて、絶望を照らして、たったひとつの心を救うために、この唄を歌うの。
だから大丈夫――きっと大丈夫。だって奇跡は、信じる力から生まれるものだから!」
その宣言にその場の全員が一瞬ポカンとしてしまう。
だがすぐにアタラが笑い出した。
そしてアタラは神羅の頭をガシガシなでた。
「そうじゃな!ほんのちょっとでも奇跡があるかもしれないよな!ああ!ヌシは転生してもやはりユキルのままじゃ!」
「十五年前のユキルと同じセリフデス……」
イブは少し涙ぐんでいる。
「まあ、ぶっちゃけるとウチも実はそれ期待しとったんやけどな!けどまさかホンマに魔法少女になって御伽話の女神の唄を歌うことになるとは思わへんかったわ!!」
そうこうしているうちにライブの準備は進んで行く。
そんな中、イブから通信が入った。
『各員配置についたデスカ?』
(うん、バッチリよ、イブさん!)
「問題ない、こっちは準備OKだ。」
(ウチもオッケ〜やで〜ん!)
『オーケーデス、作戦開始までのカウントダウンを開始するのデ、そのまま待機していてクダサイネ。』
(了解したわ。あたしが合図したらすぐに始めるわよ!!)
『あと3分デス……2分……1分……』
(……いよいよ本当に始めるのね?ちょっと緊張かしら……!)
「……うん……」
(うーむ、上手く行くのかなあ……?不安だあ……?)
そして絶望の戦場に美しい歌声が轟いた。
その歌は勇気の歌。
絶望を打ち砕く希望の力。
それはまさしく勝利を導く力ある調べであった。
その歌声はどこまでも力強く、それでいて美しく響いた。
それは、ただ、強くあるための歌声。
その祈りはどこまでも力強く、それでいて優しく響いた。
だからこそ、彼女達の歌声に合わせて踊るように戦上が光り輝くのだ。
そして光はやがて収束し、一つの大きな光柱に姿を変えると天へと立ち上り光の奔流となったのだった。
『な、なんだ!?何が起こっている?こ、この歌声は一体!?』
大いなるクトゥルフが女神達の歌声に動揺する。
それは神代から続く、幾重もの宇宙の歴史を揺り動かして来た奇跡の歌。
だが、彼の者もまた――全知全能にして、無形無限の混沌の化身。
一瞬の動揺など、ただの泡沫。
クトゥルフは歌に惑わされぬとばかりに、その巨躯をゆっくりと、だが確実に発生源へと向け始めた。
(クトゥルフが動揺している……?この歌声……なるほどユキル達か……!)
「どうやらうまくいったようだ……」とアーレスタロスが言う。
エクリプスの呪いで化け物に変えられた人達の動きが止まった。
その場の皆の視線は歌声が聞こえる戦艦アルゴー号の方に向いている。
そこは隕石魔法で大きな穴が空いていた。
穴からは月がみえる。
地球ではみられない、非常に大きく美しい満月だ。
月をバックに巨大な戦艦アルゴー号が浮かんでいた。
邪神クトゥルフと真狂王ジ・エンドは、歌の聞こえる方を見る。
そこに見えたのは、美しい歌声を奏でる12人の魔法女神達だった。
如何なる原理か、天空の月にアルゴー号の中で歌うユキル達の姿がTV中継のスクリーンの如く映っていたのである。
そして彼女達は歌い続けるのだった。
その歌声はまるで天上から差し込むような心地の良いものだった……。
それは不思議な力で混沌に還られてしまったヒトだった犠牲者達の心を動かすのだった。
何体かの邪神がヒトのカタチを取り戻し生きて呪いから解放されたことを喜ぶ。
何体かの邪神がモトのカタチを取り戻し安らかな死顔で元の死体に戻る。
何体かの邪神が本来のカタチを取り戻し無害な光や影、ただの音や空気、地面にに戻りただ消える。
それはまさしく、歌が運んだ奇跡だった。
混沌に堕ちかけた魂が、もう一度だけ、光を見上げる――
祈りが届いたのだ。女神たちの歌が、この世界に、ほんの少しの希望を灯したのだ。
誰もが忘れていた「信じることの力」が、確かにそこにあった。
↓イメージリール動画
https://www.facebook.com/reel/713716650838678