乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-16 戦艦アルゴー号を起動せよ!
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真狂王が二人のHEROを引きつけてる間、邪神クトゥルフはネオ・エクリプス完成の最後の儀式を行おうとしていた。
最後の儀式と言っても実のところネオ・エクリプスはほとんど完成している。
改獣を通し錬成した高純度の"絶望の魔法"はあますことなくイサカの体に流れ込んだ。
後はかの妖魔皇帝が自分の娘エクスを操ったように、自分がイサカを操るだけであった。
彼はイサカがまた自分に反抗しないよう、彼女の記憶を全て消し、代わりに自分の思い通りに動く操り人形にする必要があった。
以前のイブの肉体に魂を封じただけの状態ではなく、生ける屍であり傀儡として動かしていく絶望魔法発生装置として自分の体の中に取り込むべく、その魔手を伸ばす。
アクアとフレアは武器を構えて巨大なクトゥルフの前に立ちはだかる。
駆けつけた殺悪隊員プラズマ・ゼット、シャコ・ハマダ、クラブ・キャンサー、月海キロネの四人も身構えている。
フレアはクトゥルフに質問する。
「どうして、こんなことをするんだ!?イサカさんはお前の姪御なんだろ!?何故そこまでイサカさんからなにもかも奪い尽くす真似が出来るんだ!?」
だがクトゥルフは意に介さず、ただ無言でイサカを取り込もうと近づいて来るだけだった。
フレアは覚悟を決め、構える。
「お前を倒す!!これ以上イサカさんを犠牲にはさせない!」
クトゥルフはその様子をじっと見つめていた。
やがて口を開くとこう言った。
『……時は来たれり……我が眷属よ、混沌に還れ!』
「なに!?」
『思いだせ、我らの目的は世界の崩壊、そして再生』
「な、何を言っている!?」
『お前たちは、悲嘆の器。絶望の触媒。今、地上に溢れる死と苦悶は我が力となる』
『ヒトの理を捨てよ。――ヒトよ、嘆け。ヒトよ、跪け。我が名はクトゥルフ。
永劫を喰らいし深き者、万象の彼岸にて夢見る破滅の王なり。
神の夢を奪いし女神ユキルよ――貴様の世界は我が手で、今ここに塗り潰される。』
「ふざけんな!!私達人間にお前たちみたいな化け物になれっていうのか!?絶対になるものか!!」
『…我が名は大いなるクトゥルフ!!我が眷属よ!!混沌に還るのだ!!』
すると次の瞬間、ルルイエ迷宮全体が揺れ始めた!
まるで地震のように大地が揺れる!
虚空が、断末魔のような悲鳴と共に裂けた。
その裂け目から、這い出してきたのは――無数の“黒き手”。
指のようで指ではなく、筋肉のようで軟体。
それらは触れただけで皮膚を侵し、骨を捻じ曲げ、魂そのものを汚染する“呪詛の触手”だった。
触れられた兵士は、最初こそ叫んだ。
次いで泡を噛み、目を潰し、自らを掻きむしり――
最後には、自我を捨てて笑った。
肌は膨れ、血管が網のように浮かび上がり、眼窩は溶け落ち、骨と肉は裏返るように捻じれていく。
意識の奥で悲鳴を上げながらも、肉体は抗えぬ変異に飲まれ、触手と鱗を纏った“絶叫する偶像”へと変貌を遂げる。
口が塞がっても、喉が潰れても、呻き続ける。
その祈りの相手は――神ではない。混沌だ。
彼らはもはや人ではなかった。
――“ネオ・エクリプス”の生贄。
理性を失い、ただ呻き、ただ従う。
かつての友軍を食いちぎり、仲間を引き裂き、崩れた笑みのまま、踊る。
あちこちで阿鼻叫喚が響きわたり、地球連合軍は壊滅寸前。
正気を保っているのは、狂王配下のタイラント族と、乂族の精鋭部隊、殺悪隊の戦士たち――
それ以外は、悉くこの“絶望”に呑み込まれていた。
アクアやフレア達はなんとかエクリプスの呪いを回避出来たが、膝をつき荒い息をしていた。
皆、ほとんどの兵が化け物に成り果てたので意気消沈していた。
生き残った兵たちは皆絶望に打ちひしがれていた。
クトゥルフの触手が、まるで生きているかのように伸びてきてイサカに襲いかかる!
「やめろ……もうこれ以上、イサカさんから奪うな!!」
クトゥルフがエクリプスの力を発動するたびイサカの顔色がどんどん悪くなっていく。
フレアは怒りに身を震わせながらボロボロになった身体で槍を構える。
しかしクトゥルフはそんなフレアを無視するかのように、ゆっくりとイサカの元へと近づいて行く。
『さあ我が眷属よ……我と共に混沌へ帰還しようぞ……』
「うああああああ!!!」
その時!!?巨大な雷の一撃によってクトゥルフは吹き飛ばされた。
その場にいた全員は何事かと辺りを見渡す。
「クトゥルフ、これ以上の好き勝手はさせねー!ここで終わりだ!!」
スピーカーからキースの威勢のいい声が聞こえてきた。
『なんだと!?バカな!?』
雷の一撃は地球防衛軍の戦艦アルゴー号から放たれたものだった。
突然イサカと彼女を護衛する殺悪隊四人の姿が消えた。
戦艦アルゴーにいるアキンドがタットの指示でアポートを使い彼女らを艦内に避難させたのだ。
「消えた!?」
「大丈夫!さっきアキンドから通信が来た!イサカさんは戦艦アルゴーで匿うって!フレア、あんたもアルゴー号に!」
アクアの誘いにフレアは首を横に振る。
「ごめん、私にはまだやることがある……。あの人の痛みを、絶対に無駄にしたくないの」
フレアの瞳が強く光を宿し、血に濡れた槍を握る手が微かに震えていた。
言ってフレアはキッとクトゥルフと真狂王がいる方角を睨め付ける。
アクアはため息をついて肩をすくめる。
「はあ、絶対そう言うと思ったわ……いいよ、けど私も付き合うからね!」
そう言ってアクアは握り拳を強く握って見せた。
戦艦の船長が指令を出し指示を出す部屋は、戦闘指揮所(CIC)と呼ばれる。
今そのCICには、レーダー、ソナー、通信機器などの戦闘情報システムが集約されており、船長はこれらのシステムを駆使して戦闘を指揮している。
本来なら軍人が担うはずの重責を、今は魔法学園の生徒たちが背負っていた。
タット教授――雷牙尊が艦長を務め、
航海長には乂雷音、砲術長は浪花明人、雷撃長は伊藤修一、通信長は神楽坂レイミ。
機関長は龍獅鳳、兵器長は蛮童熹助。
そして副長には、かの聖騎士ルシル・エンジェルが名を連ねる。
地球連合軍狭間世界強襲部隊の特例措置として、奇跡の布陣が整えられていた。
このいきなりの人事は地球連合軍狭間世界強襲部隊最高司令官オーム・ソウルからの特例許可が下りているので後々の問題にはならない。
この強襲戦艦アルゴーは、全長330メートルに及ぶ巨大な戦艦である。
また、切り札の反物質波動砲とは別に、主砲としてプラズマ荷電粒子砲を搭載しているが、これは機関部に負担が大きく連射は不可能。
なので実質的には主武器ではないとされている。
先程放った雷の一撃はその主砲プラズマ荷電粒子砲である。
砲術長のアキンドがキースに突っ込む。
「おいキース、威勢のいいのはいいがさっきの主砲は連発できないんだぞ?」
「ムガ!?そうなのか?」
「ああ、さっきの武器は機関部に負担が大きく連射は出来ないんだ!」
機関長の龍獅鳳が説明する。
「撃てるのは3分に一回か二回、後は福砲その他に頼らざるを得ない!砲身の冷却が間に合わないとオーバーヒートするから、ここぞというときの切り札に使うべきだ」
「分かった、じゃあ俺が副砲で足止めを……」
アキンドそう言いかけたときに艦橋内に警報が鳴る。
『敵増援確認!!大型邪神と思われる数体が現れます!』
艦長タットは歯ぎしりをした。
(くそっ! このままじゃ防衛線が持たない……。せめてあと数分、いや、三十秒でも稼げれば……ステージが動き出せば流れが変わる……だが、それまで誰が前線を支える?)
そんなことを考えていると通信が入る。
『こちらリトル・ユグドラシルのステージ室です!』
……それは通信長のレイミだった。
『リーン・アシュレイさんがステージの準備を1分で整えてくれました。まるで奇跡の御業です!』
「な、なに!?」
予想外の報告にタットが絶句した。
「リーン・アシュレイ……か、彼は一体何者だ?……いや、それよりこれは千載一遇のチャンスだ!レイミ君、ミュージックスタートだ!ここから先の戦況は通信長である君の肩にかかっている!プレッシャーをかけてすまないが頼んだぞ神楽坂レイミ君!」とタット。
『は、はい!』と通信長のレイミも動揺しながらも力強く答えた。
そんな様子を見ながらリーン・アシュレイは心の中で呟く。
(さて、今回私がヒト側の陣営に肩入れするのはここまでかな? ルキユとの取引の義理はこれで果たした。君らがここで敗れるようのなら、私はミリルを連れ撤退する。雷音君、君が我が妹の婿に相応しいかこの目で確かめさせてもらおう……そしてユキル……輪廻転生を果たした君が変わらずユキルなのか私はそれが知りたい……)
↓イメージリール動画
https://www.facebook.com/reel/768122945382104