乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-13 婆娑羅者
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暗黒の天を裂いて黒雲が退く。
天地の理がひしゃげ、大地が息を潜める。
その中心に、ただ一人。王にして災厄――いや、それすらも通り越した“異形”。
絶対の威風を湛え、神をも嘲るかのように、咆哮とともにその狂笑を響かせた。
その名は――カルマストラ二世。
その正体は、亡国の主にしてかつての賢王――エンザ・ソウル。
狂王。暴君。歴史に刻まれた“最悪”の名。
だが、その語は彼の真実を語るには、あまりに矮小すぎた。
彼の手には《ネクロノミコン》。
肉体を蝕み、魂を侵す呪詛の書。
だが同時に、それは彼の意志そのものを燃やし尽くす“真理の薪”だった。
「……進化とは、いつの世も痛みと引き換えのものよな」
魔神の装甲を脱ぎ捨てた彼は、虚空を見上げて静かに呟く。
その瞳に宿るのは、狂気と理性――相反する二つの火。
彼は、かつて“賢王”と讃えられた。
女神国の歴代で最も智を誇る王。
《破壊神》ウィーデル・ソウルの嫡子。
その即位当初、彼は国を救い、民を救った。
学問と秩序を重んじ、貧民に手を差し伸べ、侵略を退け、『婆娑羅宝鑑』を編纂した。
だが、革命は常に敵を生む。
腐敗した貴族たちの憎悪が陰謀を生み、偽王を擁立する。
命を狙われた彼は、忠臣チョドゥル・カルマストラの手引きで亡命し、裏切りと放浪の果てに――狂王となった。
それでも、彼は笑った。
「フン……面白い。次なる試練。越えてみせようぞ。
苦難を越えずして、何が道か。試練と向き合わずして、何が婆娑羅か!」
国を失い、名を奪われ、息子を殺し、義父を殺され、兄と殺し合っても。
彼は一度も、自らを“不幸”だとは思わなかった。
なぜなら――彼は“婆娑羅者”であったからだ。
豪奢な衣。極彩の化粧。異国の酒。奇抜な剣術。奔放なる思想。
己の欲に忠実であり、己の信念に殉じる者こそ“婆娑羅”。
それが、彼の誇り。
「思うままに振舞いて生きようぞ! 欲の一念、貫き通してくれようぞッ!!」
それは虚勢でも狂気でもない。
“人生”を己で定義する、破天荒なる英雄の矜持。
「我が名はカルマストラ二世。
史上最も破天荒なる英雄にして、狂人よ!!」
その高笑いは、天地に轟いた。
彼の行動原理は復讐でも、野望でもない。
ただ一つ、己の“婆娑羅”としての道を全うするため――神々すら踏み越える。
そして今、その命に応じて咆哮するは闇の巨神。
最強にして最悪のクトゥルフ。
その巨体が地鳴りを起こし、世界を睥睨する。
「まずは……奴らの主力を潰すぞ。特に“銀仮面”と“最強魔女”が乗るあの機体……ケルビムべロスは厄介極まりない」
カルマストラが唇を吊り上げる。
周囲の空気が軋み、呪詛のような声が戦場を覆う。
「イサカに命じ、《メタモルフォーゼ・キャンセラー》を起動させよ。封獣どもを――“裸”にしてやれ」
空間が唸りをあげ、重力がねじれる。
マクンブドゥバの巨躯が大気を圧縮し、空中に紋様が浮かび上がる。
その中心、白銀の封獣機。
「……くるぞ、羅漢!」
「わかっている、羅刹!」
だが、対処の暇など与えられなかった。
白光が炸裂し、耳を裂くような轟音が走る。
ケルビムべロスの霊性が一瞬にして“焼かれ”、断末魔のような吠え声をあげる。
装甲が剥がれ、輝きが褪せる。
聖性に満ちた霊獣の姿は――ただの鋼鉄と化した。
「ぐああああッ!!」
「ちっ……“封印”ではない……“断絶”か……!」
羅漢が苦悶と驚愕の混じった声を吐く。
搭乗者と霊獣を結ぶ魂の回路、“霊獣コード”。
それを断ち切られた封獣機は――“命”を失う。
たとえどれほどの神聖性を持とうと、それが“魂なき殻”と化した瞬間、ただの鉄塊だ。
「ぬぅ……我ら兄妹ふたりが揃っても、力を封じられるとはな……!」
羅漢と羅刹が跳躍。
次の瞬間、量産機と化したケルビムべロスは、マクンブドゥバの巨腕に握り潰され、爆散した。
「くく……さすが乂族最強。だが、逃げ足まで最強とはな」
マクンブドゥバが嘲笑を漏らした、その刹那――
「――おらぁぁぁああっ!!」
雷音の《クトゥグァ》機が、灼熱の大剣を振りかざして空より降下!
だがマクンブドゥバはその剣を受け止め、巨躯で地を抉る!
「……この程度でワシを殺す気か? 図々しい奴め」
だが、雷音は笑う。
「へっ、俺は囮だよ!」
その言葉と同時に、獅鳳の《モビーディックラーケン》、白の《ナインテイル》、戦神が続く。
「いけえぇぇぇぇぇっ!!」
怒涛の連携。
だが――
「……くだらん」
マクンブドゥバの額が閃光を放つ。
それは再び《メタモルフォーゼ・キャンセラー》。
咆哮も鳴き声も消え、3機の封獣は――動きを止めた。
機体が崩れ、霊光が霧散する。
獣の魂は死に、機械だけが残った。
空に投げ出される獅鳳、絵里洲、漢児。
雷音は竜と化し雷華を背に乗せて滑空。
ネロと白水晶が羽を広げて空を制御し、イブが獅鳳を抱き寄せ、漢児は絵里洲を抱えて八双飛びで地上へと戻る。
だが――空間が悲鳴を上げた。
バシュゥウッ!
黒い重力のような渦が現れ、光と音を吸い込み、真空が戦場を覆う。
「うわっ!? な、なんだこの穴ッ!?」
それは――強制アポート・転送ゲート。
雷音たちは次々に吸い込まれ、次の瞬間――
そこは、無機質な光と金属の壁に囲まれた部屋、戦艦アルゴー号――特別制御室だった。
「うおっ!? なんだここは!?」
「やれやれ……間に合ったか」
眼鏡の奥の目が鋭く光る。そこに立っていたのは――科学顧問タット。
彼の登場が、静寂と秩序を場に呼び戻した。
落ち着いた声が響く。
顔を上げた雷音たちの前に立っていたのは、科学顧問・タット教授だった。
ルームのモニターで雷音達の様子を見ていたタット教授は、皆が空中に投げ出された時、アキンドに指示を出して封獣機に乗っていた全員をアポートでこの場所に集めたのである。
「教授……どういうことだ!?」
獅鳳が困惑の表情で尋ねる。
タット教授は、緊迫した表情のまま、端末に目をやる。
「今から、対――いや、対用の“儀式”を発動する。
そのためには、君たち全員の力が必要になるのだ」
部屋に静寂が満ちる。
だが、戦いはすでに次のステージへと進もうとしていた。
だがタット教授は落ち着いてみんなに説明を始めた。
「今から対クトゥルフ……いや、対エクリプス用の秘密兵器を起動する。それには一人でも多くの魔法少女達の力が必要になる。」
と言うと、タット教授はモニターに向かって呼びかける。
「こちらアルゴー号よりアポロパルテノンに通信。セオスアポロ様、応答願います!」
「フン、誰かと思えば貴様か小僧。この我を呼びつけるとは、貴様も偉くなったな小僧……」
すると、モニターに新たな人物達が映し出される。
それはオリンポス現最高司令官セオスアポロだった。
さらにタット教授は続ける。
「今ここに神羅殿と彼女のクラスメイトたちが集まっております。彼女等はこれから行われる『儀式』を行う為にここに来て貰いました。女神ユキルのキセキの歌を再現するためにも、音楽の神でもあるあなたの協力をお願いしたいのです」タット教授はそう言うとモニターのセオスアポロに恭しく頭を垂れた。
セオスアポロは尊大にふん反りかえり応える。
「下界の者が……我に願うとはな。分を弁えよ、小僧」
その声は雷鳴のように響き、室内を一瞬で凍らせる。
セオスアポロは指を組み、嘲るように続けた。
「楚項烈の秘蔵っ子であろうと、オリンポスの神は“道理”では動かぬ。ましてや下賎の願いなど、笑止千万だ」
セオスアポロがそう言うと、モニター越しにシレっと言うタット教授の声が返ってきた。
「それは重々承知していますよセオスアポロ様、ですがこれは戦争勝利のための作戦提案なのです。」
一瞬、セオスアポロは沈黙する。
その神威に満ちた瞳が、タットを見つめ――やがて、ふっと口元を吊り上げた。
「フン……ものは言いよう、か。よかろう、我が力を貸してやろう。だが、もし儀式に失敗した時は……その命、貰い受ける」
「感謝いたします。セオスアポロ様」
タットが頭を下げると、セオスアポロは指を鳴らした。
次の瞬間、扉が開き、兵士を従えた一人の女性が入ってくる。
「おや……?」
「あの耳……尻尾……!」
絵里洲が息を呑み、獅鳳が目を見開いた。
その姿は紛れもなく、狗鬼ユノの姉にして伝説の魔法少女――《アタラ・アルテミス》。
白い肌に赤い瞳。長い栗色の髪。
そして頭には犬のような耳、腰からはしなやかな尻尾。
「お久しぶりじゃな、漢児、獅鳳、絵里洲。妾のこと、覚えておるか?」
「アタラ姐さん……!」
「アルテミスさん、そっちでも現役だったんですねぇ☆」
懐かしげに駆け寄るイブと、再会の笑顔を交わすアタラ。
そのやりとりを見届けたタットは、静かに端末へと手を伸ばす。
タットは、光る端末に指を走らせながら詠うように言った。
タットは、静かに端末に手を置いた。
「雷を纏う者、紅蓮の焔・雷華。
水面に映す鏡、清き蒼・絵里洲。
大地を司る巫女、橙の祈り・アタラ。
白銀の結晶に祝福された天の使い・白水晶。
光を放つ賢者・エドナ。風に舞う緑の精霊・ミリル。
命の芽吹きを司る愛の女神セレスティア。
凍てつく水面を駆ける氷の精・イブ。
闇の縁に立つ灰の眼差し・ネロ。夜の帳に咲く紫の花・リリス。
闇そのものを纏う黒の夜叉・今宵鵺。
――そして、すべてを束ねる“核”。
奇跡の歌姫・神羅。かつての名は、女神ユキル」
彼の手元の端末が光を放ち、部屋の中央に立体映像が浮かび上がる。
そこに現れたのは、かつて世界を救った奇跡の歌姫――女神。
「……!?」
映し出された女性の姿を見て、雷音が声を漏らす。
「……神羅……? いや、似てるけど……違う……」
雷音は息を呑んだ。
髪の長さ、表情、佇まい――その全てが“神聖”すぎた。
まるで彼女自身が、奇跡そのものとして現世に顕れたかのように。
目の前の女性は、まるで伝説の聖女――否、神話の残像のように美しく、凛としていた。
――が、その空気をぶち壊すように雷音はバッサリ結論づける。
「……うん、間違い無く別人だ!」
「あーはははは! 面白い事ぬかすな愚弟! よし折檻だ!」
神羅の両鉄拳(指グリグリ)が炸裂し、雷音のこめかみに突き刺さった。
「ぐあああああ!?」
呆気にとられる仲間たちを前に、タット教授は微笑みながら告げる。
「あれが、十五年前……人類を救った“奇跡の歌姫”、女神ユキル。神羅君、君の、かつての姿だ」
一同の顔が、驚愕に染まる。
あの優雅で神聖な存在が、自分と同一人物……?
だが、それが真実であるという確証を、タットは次の言葉で突きつける。
「15年前、ユキルは“歌”の力でエクリプスの呪いを破り、世界に奇跡をもたらした。
今再び、その“奇跡”を再現する――君たち魔法少女の歌と祈りによって!」
↓イメージリール動画
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