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乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-12後編 キースvsアルカーム

世界樹ユグドラシル、起動――


神羅たちは、神域の心臓部で“神の歌”を歌い始める。

だが、その儀式を阻むようにアルカームが襲来。

不死の軍勢、旧支配者の顕現、そして――“絶対に戦ってはならない存在”リーン・アシュレイの出現。


生と死、神と魔、希望と絶望が交差する戦場で、

今、少女たちの歌が世界の運命を決する――!


バトル重視+クトゥルフ風神秘+熱血展開を詰め込んだ“クライマックス前哨戦”!


(※今回の章では「反物質波動砲」「黄衣の王ハスター召喚」など超展開があります!)


→ ブックマーク&評価、大歓迎です!


挿絵(By みてみん)


桜花の舞い散る天と地の狭間――そこは世界の“核”にして、滅びと再生の交差点だった。

神羅たちは、神域ユグドラシルの心臓部に立っていた。

神羅たちは思わず息を呑む。


「これが……ユグドラシルの“核”……?」


「歌を止めるな! 君たちの歌が、ユグドラシルを活性化させる! この世界を守る力だ!」


タットの声が、ステージ上の6人に届く。


だが、その神聖な儀式を妨害せんと、魔の風が舞った。


「馬鹿どもがァァァァ!! この俺様の目の前で、好き勝手やってくれるじゃねぇかァァ!!」


風を纏い、空間を切り裂いてアルカームが神羅たちに迫る。


「行かせるかよッ!」


再び立ち上がったキースが突進し、拳を叩きつけようとする。


しかし――


「遅えよ、ノロマ」


アルカームの姿は、霧のように消えていた。


次の瞬間――神羅たちの目の前に再出現。


(こいつ……ほとんど瞬間移動じゃねーか!?)


「アホーが!  テメェらの小細工なんざ見透かしてんだよッ!」


だがその刹那、アキンドの異能が発動。


「よっと! テメェをアポートしてやるぜッ!」


アルカームの体が瞬時に引き寄せられ、間合いを失う。


「ち!ザコ野郎ォォがああ!!」


空間が裂けた。――否、アルカームが“空間そのもの”を喰い破って現れた。

その瞳に映るのは、虫けらを見る眼。あらゆる倫理が通じぬ、災厄そのものだった。


「うがっ!!」


蹴りで吹き飛ぶアキンド。


「てめぇ!!」


激怒したキースが拳を振り上げ、応戦する――

だが、すべての打撃は空を切る。


「馬鹿があ!テメーとは強さのステージが違ぇんだよ、強さのステージがよお!!」


鋭い爪が唸り、キースに迫る。


(速えぇ……!)


ついにアルカームがトドメを刺そうと爪を振り上げた、その瞬間――


「真空斬ッ!!」


空気すら裂く刃が、アルカームを襲った。


「うおっ!? チッ……!」


攻撃をかわしながら、彼が見た先に――いた。


金髪、碧眼の少女。

炎のような怒気と、氷のような冷静を湛えた剣士――


ルシル・エンジェル、登場。


「ふぅ……間に合いました」


「おいおい、マジかよ……ラ・ピュセルじゃねぇか……!」


アルカームが舌なめずりするように嗤う。


「なるほどなァ。HEROランキング2位の聖女様がお出ましか。

いいぜ、俺様とタイマン張れるのは、どうせお前ぐらいだ……!」


言葉と同時に、魔の加速。

アルカームが疾走し、ルシルに襲いかかる!


凛とした声が空気を裂く。


「……来なさい、魔の徒。聖剣は――“汝”を裁く」


凛とした声が、空気を裂いた。

神域に降り立つ金髪碧眼の少女――

HEROランク2位、光の聖女ルシル・エンジェル


その瞬間、空気の密度が変わった。

神意が宿るかのようなその剣は、斬撃と共に聖なる波動を放つ。


「チィッ! 聖痕斬だと……!?」


アルカームの身体を掠めた瞬間、皮膚が焼かれるように腐蝕する。

ルシルの一撃は、単なる斬撃ではなかった――“神聖”そのものだった。



ルシルとアルカーム――

聖剣と爪がぶつかり合い、火花を散らす。

衝突の瞬間、空間が震え、雷光のような火花が走った。

一撃ごとに部屋全体が軋み、周囲の空間に圧力が走る。


(くっ……強い……! エンザ共より遥かに厄介!)


「ち!流石銀河連邦HEROランキング二位だ!」


アルカームが吐き捨てるように呻く。

だが、ルシルも表情を歪めていた。

剣撃の威力で押され、必死に耐えるようにその足を踏みしめている。


「ゾンビどもォ!! 樹の上の小娘共を早く潰せッ!!」


アルカームの怒号と同時に、再びゾンビ軍団が蠢き出す。


だがその道は、簡単には開かれない。


「今は、誰も通さない……!」


神樹の枝の上、少女たちの詠唱を守るのは――イポス・アキンド・キースの三人。


摩擦ゼロの草を張り巡らせたイポスが、登ってくるゾンビたちを滑らせて落とす。

空中から迫るゾンビは、アキンドが「アポート」でキースの前に引き寄せ――

キースが、拳一閃で迎え撃つ!


「全員まとめて、ぶっ潰してやるッ!!!」


怒声と共にアルカームが口を大きく開いた。


吐き出されたのは、氷でも冷気でもない、

“白い霧”のような死の息吹だった。


「それ……凍らせる気かッ!?」


キースが叫ぶ。


霧はゾンビすら凍らせながら迫る。


「みんな気をつけてください! 一瞬で凍ります!!」


ルシルが警告する。

だが、空間全体を覆う霧に、逃げ場などなかった。


(くそ……避けられねぇ……だったら――)



凍りかけた肉体が音を立ててひび割れる。

血が噴き出し、激痛が走る。

それでも、拳を振るう。


それが彼の“戦い方”だった。


拳が届く寸前、アルカームの体が霧のように消えた。


「ぐっ……くそっ……!」


次の瞬間、キースの体は白い霜に包まれた。

冷気が一気に体を侵し、凍結が進行する。


(……立て。お前は”漢”だろ……!)

肉体が悲鳴を上げる中で、心だけが叫んでいた。


「終わりだよ、坊やぁ……」


アルカームがささやく。


「テメェみてぇな凡骨が、俺様の前に立つなど――」


氷の粒が刃となり、キースの全身を切り裂いた。


「キ、キースーーーッ!!」


仲間たちが絶叫する。


(もう、立てねぇ……体が……冷たい……)


だがキースは――立った。


「これが……俺の戦い方だァッ!!!」


振り下ろされた拳は、決して速くない。

だが、それは“諦めなかった者”だけが放てる一撃――


「うおぉぉおおおおおおおおおッ!!!!」


ひび割れた体、噴き出す血、それでも前を向き、拳を握り締める。


「……気合いと……根性ォォォオオオッ!!!」



振るわれた拳が――アルカームの顔面を直撃する!


直撃。

アルカームの顔面が崩れ、血が舞う。


「ぐはッ!!」


血反吐を吐き、仮面の男が吹き飛んだ。


だがアルカームは立ち上がる。倒れはしない。


「こ、この、くそガキがああああああああああああ!!!最大の敬意を込めて殺してやるぞコラアアアアアアアア!!!」


キースは地面に崩れ落ち、もう動けなかった。


(……まだだ……でも、体が動かねぇ……俺は、ここまでかよ……)


そのとき、誰かが傍に駆け寄る気配があった。


「無茶しすぎやで、キース君!」


「遅れてすまない。今度は、俺たちが前に出る番だ」


現れたのは――オームとエドナ。


「次から次へと……雑魚が湧いてくんじゃねぇよ……!」


アルカームが苛立った声を漏らす。


だが彼の表情が一瞬にして引き締まる。


――戦う二人の気配が、尋常ではなかったのだ。


ルシルとエドナ、二人の女戦士が同時に突進する。

剣と槍。

アルカームの爪と刃がぶつかり、空気が裂ける。


だがその間に――

ひとり、術式を編み続ける者がいた。


「いあ……いあ……はすたあ……ぶるぐとむ……あい……」


オームの口から発せられるのは、黄衣の神を呼ぶ異言。

黄衣の詠唱が最終節に到達した瞬間――


「吹き荒れよ、黄衣の炎風はすたあ・テンペスト!!!」


次の瞬間、黄色い嵐が戦場を覆った。


ゾンビたちの肉体が、次々と溶け、蒸発し、燃え尽きていく――

無尽蔵と思われた死の軍勢が、1体残らず灰に変わった。


それは“準備された一撃”だった。

この戦場に来る前から、オームはその詠唱を練り続けていたのだ。


「ちぃ……やってくれたな、“覇星の後継”ッ……!」


アルカームが憎しみの眼差しでオームを睨みつける。


格闘では届かなくとも――魔術では圧倒されている。

しかも、冷静かつ戦略的。


(魔王オーム……やはり一番厄介だ……!)


だが、アルカームの目はその先を捉えていた。


視線の先――

そこにいたのは、装置を操作するタット教授。


「貴様ァァァァ!! どさくさに紛れて、反物質波動砲の準備進めてんじゃねぇぞッ!!!」


怒声と同時に、アルカームの体が異形に変じていく。


皮膚が青黒く染まり、骨格が膨張し――

爆発するように膨れ上がった体が、怪異の姿へと変貌を遂げる。


それは、旧支配者イタクァの顕現。


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


叫びと共に、世界樹を薙ぎ払うように巨大な腕を振りかぶる――


そのとき、シークレットルームの扉が開いた。


現れたのは、二つの影。


ひとりは黒衣の少女、

もうひとりは、白き装束の若者。


――鵺。そして、リーン・アシュレイ。


「また増えやがった……!」


アルカームが苛立ちを隠さず吐き捨てる――が、


次の瞬間、その顔が青ざめた。


(な……なんだ……!?)


イタクァの中で“何か”が警鐘を鳴らしている。

いや、それだけではない。


アルカーム自身の本能も、叫んでいる。


(やめろ……戦うな……こいつとは……絶対に戦ってはならない……!!)


白の若者――リーンを見た瞬間、彼の脳裏に警告が響き渡る。


(あれは……“ヒトの皮を被った何か”だ……!)

(あれは全にして究極――唯一の絶対――!!)

(あれは――『      』!!!)


(あれは……“ヒトの形をしたもの”じゃない……)


見てはならぬ。知ってはならぬ。理解してはならぬ。


アルカームの意識は、悲鳴を上げながら崩壊し始めていた。


思考が凍る。脳が拒絶する。

彼の本能は、ただひとつの結論を導き出す。


(逃げろ――! 今すぐ、全てを捨てて逃げろ……ッ!!)



「ひあああああああああああああああああああああああ!!!」


アルカームは、獣のような悲鳴を上げ―― 巨大な両腕を振り回しながらタット教授のほうに向かって行った。

「まずい、タット教授!」

オームが叫ぶ。

だがタット教授は微動だにせず、じっと旧支配者と化しているアルカームを見つめているだけだった。

いや、彼だけではない。鵺やリーンも動く様子がない。

アルカームは反物質装置を叩き壊すと、風になって逃げ去った。


その背中には、戦場において“絶対に勝てぬもの”を知ってしまった者だけが持つ、

本能的な恐怖が刻まれていた。


「フム、いい判断だ。彼の任務は反物質波動砲の起動を防ぐことだったのだろう。しっかりと仕事をこなし戦況を正確に把握し撤退している。真狂王はなかなか優秀な駒を持っているようだ……」


リーンはアルカームの行動を冷静に分析していた。

「タット教授、ご無事ですか?」

リーンは真剣な顔でタットに尋ねた。

「問題ありません。ご助力感謝します。アシュレイ族の神子殿」

「しかし、この神代機器の起動はいったい……」

リーンはそう尋ねながらアルカームが破壊した装置の残骸を見やる。


「それに答える前に、貴方に確認しておきたいことがあります」タットは真剣な表情で続ける。

「貴方がは、どこまで知っているのですか?」

タットの問いに鵺は一瞬戸惑ったような表情を見せたがすぐに覚悟を決めたようにタットを正面から見据えた。

タット教授はこのスペシャルシークレットルームの本当の機能について、全部知っているのだ……つまり自分たちが今何をしようとしているのかを知ってるのだ。

彼が自分たちに協力してくれるのであると、はっきりわかった。

鵺は告げる。


「先生、戦場に……ユキルの歌を届けたいんです。

あの歌だけが、反物質波動砲を“起動”させられるから――!」


タットは深く頷き、重い口を開いた。


「……それでは、神代の旋律を――この世界に響かせましょう」


ユキルの歌が、いま始まろうとしていた。


だが――その歌が導くのは、救済か、破滅か。

誰にも、まだわからなかった。


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