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乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-12前編 殺し屋イタクァ・アルカーム

―これは、神と邪神の“戦場”に咲いた、一本の桜の物語。


命を奪い、操り、弄ぶ者に抗うため。

神羅たちは、不死者の軍勢に立ち向かう。

開かれし扉の先に咲いたのは、“世界樹の仔”――反物質を生む神桜。

その存在が、戦場の運命を変えていく。


今、真なる歌が響く。

神すら知らぬ戦場《神代の階》が、その口を開く――。


ブックマーク大歓迎です。

戦艦アルゴー号。


この空間でも、確かに戦況の変化は起こっていた。

だが、それは決して“勝敗を左右する”類のものではない。


戦場に飛び交う命令は、ただ一言。


「――敵を殺せ」


冷酷無比なその指令に、感情はない。

そして今、それを実行するのが――“生きている者”から“死んだ者”へと、変わっただけだった。


ズン――。


戦艦の腹を打つような重低音が鳴り響き、床が軋み、艦内全体が不気味に揺れる。


地震――かに思われたそれは違った。

ただの地殻変動ではない。

“何か異様な存在”が、その巨躯をもって宇宙空間そのものを揺さぶったかのような衝撃だった。


(な、なに……!? 何が起こってるの……!?)


外の様子を確認しようとした、その刹那。


アルカームの率いるロキの召喚獣たちが、まるで幻のように一斉に掻き消えた。

入れ替わるように、戦場に横たわっていた無数の死骸が――一人、また一人と起き上がってきたのだ。


「うそ……でしょ……!?!?」


神羅たちは絶句した。


腐り落ちた肉、血の抜けた瞳、口角に笑みすら浮かべる者もいた。

そしてその異様な光景に思考が追いつく暇もなく、死者たちは這いずり寄ってくる。


「こいつらは……死者!? ならば、浄化するしかないッ!!」


神羅の瞳には迷いがなかった。


「セント・フレイム・アローッ!!」


燃え上がる聖炎の矢が放たれ、ゾンビの肉体を焼き裂いた。

だが――次の瞬間、裂けた肉は即座に再生し、無表情のままこちらへ歩みを進めてくる。


(くっ……再生した!?)


アクアが水の魔力球を、リリスが風刃波を放ち、セレスティアも支援に加わる。


だがゾンビたちは焼き裂いても、砕いても、肉はすぐに元通りに再生する。

しかも――その顔には、理性なき笑み。まるで“死”そのものがこちらを嘲笑っているようだった。


(なんて……なんてしぶとさなの……!?)


まるで悪夢が現実になったようだった。

そして、その悪夢に名を与える声が、背後から静かに響いた。


「……まずいな。これは“本物”だ。奴ら、不死身だぞ」


タット教授だった。

彼は既に、この異常事態の構造を看破していた。


「不死者って……どういうことですか!?」

リリスが叫ぶ。


「説明する。これはただのアンデッドじゃない。“邪神のバックアップ”を受けている。

再生力は無限――殺しても、殺しても、意味がないんだ」


「召喚獣……なのか?」とセレスティア。


「違う。半数は人間の死体、残りは魔獣の死骸から生成された“自律型アンデッド”だ。

敵味方を問わず、死んだものすべてが、“生きている者”を狩る兵器へと変貌している」


その言葉に、神羅は怒りを押し殺しながら叫ぶ。


「アルカーム! ……これ、あんたの仕業でしょ!? 答えなさい!!」


だが、返ってきたのは、皮肉な笑い声だった。


仮面の下で、唇が軽薄に歪む。


挿絵(By みてみん)


「戦場ってのはな、小娘……“死者”を道具にできる側が勝つんだよ。命を道具にできる奴が勝つ。それが戦場ってもんだ。お前はまだ、命に甘い」


「このっ……!」


「だったら、あんたの“化け物共”――不死身だろうと、あたしがぶっ倒してみせるッ!!」


怒声と共に飛び出したのは神羅ではなかった。

一歩前に出たのは、あの少年――イポスだった。


「魔力摩擦変換ッ! 滑り草!! 二次関数の美学、見せてやるよ!」


両手から放たれた魔力が波紋のように床を走り、魔力でできた“草”が一面に広がる。

だが、これはただの草ではない。あらゆる摩擦をゼロにする異能であった。


ゾンビたちは立ち上がるたびに滑り、転倒し、無様に地面でもがき続ける。

知能を持たぬ彼らは、起き上がる方法すら理解できない。


「ナイスだ、イポス!」


その隙を逃さず、タット教授が叫ぶ。


「今だ神羅君! 扉のカメラを覗き込むんだ! この部屋は君の網膜認証でしか開かない!」


「え!? わ、わかりました!」


神羅は言われるままにカメラへと目を向け――

ピピッ、と短い電子音が鳴った。


次の瞬間、扉がゆっくりと開く。


その奥に広がる光景を見て、神羅の思考は凍りついた。


「な、なに……これ……!?」


それは記憶ではなかった。ただ、“懐かしさ”だけが胸を満たしていく。


――まるで、自分の奥底に“誰かの記憶”が宿っているかのようだった。


扉の向こうに、桜が咲いていた。

だが、それは“ただの桜”ではない。


「……出やがった……マジかよ……」


アルカームが明らかに動揺した声を漏らす。


(バカな……情報では、あの扉は“女神ユキル本人の網膜”でなければ開かないはず……。まさか、この小娘……!?)


その“可能性”が、戦場の空気を重くする。


「みんな……あれを見なさい」


タット教授の指差す先。

そこには、全長二十メートルを超える神桜が立っていた。


淡い桜色の光粒を放ちながら、空間そのものを捻じ曲げ、ただ静かに“存在している”。

その姿には、“穢れ”と“神性”が矛盾なく同居していた。


「……世界樹ユグドラシルの“仔”……?」


レイミの声が震える。すかさずアキンドが食いついた。


「なにそれ!? すげーのか!?」


「はい……この木は、伝承で“世界樹の仔”と呼ばれています。

“あらゆるエネルギーを生む存在”とされ、その中には――“反物質”すら含まれると……」


「反物質? って、何に使えるんだ……?」


キースの問いに、タット教授は重々しく答える。


「反物質――それは、万物の理を塗り潰す、“神の消去装置”だ。

物質と触れ合えば、互いを打ち消し、形も質量も、時間すらも残らない。

その力は、核兵器の百万倍。宇宙を燃やす、“真の神火”なんだ」


全員が息を呑んだ。


「そして今、我々はそれを“撃てる”場所にいる。

これは――邪神クトゥルフすら葬るための、“神の兵器”だ!」


「ちっ……なるほどな……!」


アルカームが忌々しげにフードを跳ね上げ、舌打ちを一つ。


「ボスの言ってた通りだよ……“反物質波動砲”を起動して、クトゥルフを消し飛ばす気か……!

だったらよォ……俺が黙ってるわけねぇだろがッ!!」


水色の魔力が集束し、咆哮のような光弾が放たれた。

狙いは神桜――その“核”だ!


「させるかああッ!!」


立ちはだかったのはキースだった。

全身で砲撃を受け止め、肉が焼け、煙が立ち昇る。


「ぐ……っ!」


膝をつきながらも、キースは振り返り、叫ぶ。


「全員下がってろ!! ここからは、俺の“仕事”だッ!!」


その声に呼応して、タット教授が次の指示を飛ばす。


「みんな! 世界樹の波動砲を起動するには――“神代の歌”が必要だ! 覚えてるな!?」


「お、俺、音痴なんだけど……!」

アキンドが焦るも、タットは即答する。


「男子は黙ってろ! 今回歌うのは――女子だけだ! この神代の歌は、天地創造の最初の“響き”を再現する儀式だ。神に届く唯一の言語……それが音楽なんだ!」


タットはすぐさまタブレットを操作し、目を見開いた少女たちに合図を送る。


「神羅、アクア、リリス、セレスティア、ミリル、レイミ!

中央の神域ステージへッ!!」


六人の少女が駆け出す。

世界樹が応えるように光を放ち、機械装置が静かに展開を始める。

やがて光は形を成し、六人の少女を飲み込んでいった――

神すら知らぬ、歌と力の戦場《神代の階》へと。

↓イメージリール動画


https://www.facebook.com/reel/779937140668561

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